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Entry 2024/04/16
Update

Maelstrom マエルストロム|感想/評価/解説。タイトルの意味‟大混乱”が示すのは“事故によって砕かれた自身の魂”その再生記録!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『Maelstrom マエルストロム』は2024年5月10日(金)よりアップリンク吉祥寺にて上映!

2002年にNYの美術大学を卒業した直後、交通事故で脊髄損傷という大怪我を負った映画作家・アーティストの山岡瑞子。

彼女が大混乱(マエルストロム)の中で自身を見つめ、再生していく姿を綴ったドキュメンタリー『Maelstrom マエルストロム』が2024年5月10日(金)よりアップリンク吉祥寺にて上映されます。

山岡監督が自らと向き合い5年半の歳月をかけて制作した本作は、キネマ旬報ベストテン・文化映画部門で5位に選出されました。

事故によって、以前の自分とまったく違う世界を生きていくこととなった山岡監督が、苦悩を乗り越えながらも新たな生に向き合う自身の姿を赤裸々に映し出します。

映画『Maelstrom マエルストロム』の作品情報


(C)Mizuko Yamaoka

【日本公開】
2024年(日本映画)

【監督・撮影・編集・ナレーション】
山岡瑞子

【撮影】
本田広大、平野浩一、高橋朋子

【音楽】
オシダアヤ

【作品概要】
映画作家・アーティストの山岡瑞子が自分と対峙して制作したドキュメンタリー。

作品の切実で繊細な表現が多くの観客の心を揺り動かし、ピッツバーグ大学Japan Documentary Film Award 2022、東京ドキュメンタリー映画祭2022、ニッポンコネクション2023などに選出され、2023年12月の横浜での映画上映とアート作品のエキシビジョンも好評を博しました。

キネマ旬報ベストテンでは文化映画部門で5位に選出されています。

映画『Maelstrom マエルストロム』のあらすじ


(C)Mizuko Yamaoka

200年6月のはじめ、NYの美術大学を卒業した山岡瑞子はあと1年間滞在する予定でしたが、自転車で銀行に向かう途中、交通事故に遭います。

事故により脊髄損傷の大怪我を負い、のちに帰国。それまでの時間が存在しない場に戻った時、何がその人らしさをつなぎ止めるのか……。

山岡は大混乱(マエルストロム)の中、変わってしまった日常の記録を始めます。

事故前の自分とつながり直し、探している場所に辿り着けることを祈りながら……。

映画『Maelstrom マエルストロム』の感想と評価


(C)Mizuko Yamaoka

それまで送ってきた日々を突然失ってしまったアーティスト・山岡瑞子の魂の軌跡をたどるドキュメンタリーです。

本編のナレーションを山岡監督自らが担当し、つらい出来事や心の中を淡々と語っています。

逃げ場のない閉塞感を強く感じる日々の中で、それらから飛び出したい思いで世界を旅するようになった山岡でしたが、心配した両親からNYの大学への留学をすすめられ承諾します。

美術大学を卒業した彼女は、卒業後に生活するアパートの賃貸契約のために銀行へ自転車で向かう途中で事故に遭い、脊髄損傷の大怪我を負いました。

突然何もかもを失ってしまったことに呆然とし「自分の人生は終わってしまったのだ」という絶望感を抱いたことを、赤裸々に語り続ける山岡その声は穏やかでありながら、悲鳴であるかのようにも聞こえ、観る者の心をえぐります

その中でも、山岡はどこかで冷静な目で周囲を観察し、入院中にさまざまな人種のスタッフに助けてもらったことや、自分を見守る母の姿を克明に描写し続けます。

事故以前の自分との乖離に苦しみながらも、彼女が常に抱き続ける自立への強い意志に圧倒されることでしょう。

どこに流されていくのかわからない不安は、私達の誰しもが持っているものです。苦しみの場所から自らを解き放つために、新たな生き方を模索し続ける山岡の姿から、多くのことを教えられるに違いありません。

まとめ


(C)Mizuko Yamaoka

事故によってそれまで送ってきた日々から突然切り離されてしまった山岡瑞子監督が、自らに真正面から向き合い生み出した魂のドキュメンタリー『Maelstrom マエルストロム』

事故以前と事故以降の自分のあまりの違いと、失ったものの大きさに翻弄されながらも、手探りで生き方を模索する姿が淡々と映し出されます。

誰もがいつまったく異なる人生を生きざるを得なくなるかわからないという現実とともに、今ある自分がいかに奇跡的な存在なのかを痛感させられる作品です。

映画『Maelstrom マエルストロム』は2024年5月10日(金)よりアップリンク吉祥寺にて上映されます。



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