第79回ヴェネチア国際映画祭、労働・環境人材育成財団賞受賞作! 10月20日から全国順次公開
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』は、フランス総合原子力企業アレバ社の技術力そして、従業員の雇用を守るため、秘密裏に進行していた、中国とのハイリスクな技術移転契約を内部告発した、フランス民主労働組合連盟代表のモーリーン・カーニーが受けた冤罪の実話を描いた、社会派サスペンスドラマです。
イザベル・ユペールが主演を務め、共演は『デリシュ!』のグレゴリー・ガドゥボワ、『ヒトラー 最期の12日間』のアレクサンドラ・マリア・ララ。
監督を担当したのは『ルーヴルの怪人』などで知られるジャン=ポール・サロメ。自ら脚本にも参加し、実話を基に如何に描いたのかに注目です。
CONTENTS
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』の作品情報
【日本公開】
2023年(フランス映画)
【原題】
La Syndicaliste
【監督】
ジャン=ポール・サロメ
【脚本】
ジャン=ポール・サロメ、ファデット・ドゥルアール
【キャスト】
イザベル・ユペール、グレゴリー・ガドゥボワ、フランソワ=グザビエ・ドゥメゾン、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドラ・マリア・ララ、ジル・コーエン、マリナ・フォイス、イバン・アタル
【作品概要】
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』の監督を務めたジャン=ポール・サロメは、フランス国内を中心に監督や脚本家として活動しています。
サロメ監督はモーリーンを無実に導いた、フランス雑誌「L’Obs」の記者、カロリーヌ・ミシェル=アギーレの著書『LA SYNDICALISTE』と出会い、本作の企画を立ち上げました。
モーリーン・カーニーを演じたのは、『ピアニスト』(2002)、『エル ELLE』(2017)などで、国際映画祭の最優秀女優賞を受賞しているイザベル・ユペールです。
モーリーンの夫役には『デリシュ!』(2022)のグレゴリー・ガドゥボワ、フランス原子力会社アレバの後任社長ウルセル役に『ふたりのマエストロ』(2023)のイバン・アタルが務め、他に『ヒトラー 最期の12日間』(2005)のアレクサンドラ・マリア・ララ、『ヴィーガンズ・ハム』(2022)のマリナ・フォイスなどが共演しています。
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』のあらすじ
2012年12月17日、パリ近郊ランブイエのモーリーン・カーニーの自宅で、家政婦が衝撃的な現場を目撃し事件が発覚します。
遡ること数カ月前、原子力企業アレバの労働組合代表を務めるモーリーンは、同社の傘下にあるハンガリーのパクシュ原子力発電所で、不遇な条件で働く女性組合員たちの要望を聴取するために訪れていました。
モーリーンがパリ本社に戻ると、盟友であり現社長のアンヌから、大統領命令で解任されると告げられます。
しかし、彼女の後任には能力のない、会社役員ウルセルが就任するという噂がありました。それと同時にモーリーンは6期目の組合代表に再選されます。ウルセルにとってモーリーンは煙たい存在でした。
ある日、モーリーンにフランス電力公社(EDF)で働く、テレジアスという男から電話が入り、内部告発とも取れる書類を渡されます。
そこにはアルバ社とEDFが中国と手を組み、低コストの原発を建設する契約が、水面下で進んでいることを示していました。
モーリーンはフランスの原子力技術が中国に渡り、フランス人労働者が失業することになると、懸念し告発内容の調査と信憑性に迫ります。
ところが政府の閣僚や企業のトップに捨て身で立ち向かうという、モーリーンの行動力が、自宅で襲撃され身体的、精神的暴力へと繋がる事件に発展してしまいました。
襲撃事件は捜査されますが結果は、彼女の自作自演の虚偽だと断定され、権力により自白を強要され有罪となります。しかし、彼女は権力による精神的暴力に屈せず、後に6年間闘い続けることになります……。
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』の感想と評価
“寝首を掻かれた”彼女の孤独な闘い
モーリーン・カーニーは労働組合主義の家庭で育ち、ネルソン・マンデラ大統領の釈放を求める運動に参加していた母親の影響もあり、高校生ではフェミニスト活動家となっています。
映画の冒頭でモーリーンが女性組合員の不当な解雇に対し、猛然と抗議している姿が彼女の資質です。
本作には社会で活躍する女性の社長や女性判事、女性憲兵なども登場しますが、特権階級や男社会の中にあっては、彼女の強い味方にはなり得ませんでした。
また、5万人の従業員の雇用を守ろうとしたモーリーンに対し、権力者の圧力は立場の弱い労働者を弱腰にさせ、彼らも彼女の真の味方にはなりませんでした。
つまり、モーリーン・カーニーは守ろうとした人たちからも、“寝首を搔かれる”ようなこととなり、最終的には自尊心が彼女を支え、6年にも及ぶ闘いになる結果となりますが、それを象徴する彼女の言葉がラストシーンにあります。
「モーリーン・カーニー事件」とは
誰が国民の生活を守るのか・・・?1人の女性が5万人の雇用を守ろうとしたことが黙殺され、その女性の人生そのものが全否定された「モーリーン・カーニー事件」とはなんだったのか?そのことを深く考えさせられます。
男性優位の社会、特権階級のフランスは1人の闘う女性を虐げました。それが今や国際レベルで、あらゆる権威をはく奪されているように見えてしまいます。
作中、モーリーン・カーニーが告発したEDFと中国との共同開発の件は、粛々と進み2012年に契約が締結されます。そして2020年には原子力発電量が原発大国のフランスを抜き、中国が世界2位になります。
モーリーン・カーニーを演じたイザベル・ユペールは演じるにあたり「モーリーンの事件について、一連のドキュメンタリーに信ぴょう性があるとすれば、いまだに人々の関心を惹きつけていること」に興味があると語ります。
現在のEDFの経営は危うい状況だと言われており、その原因が原子力関連の問題と不利益な政策とも言われる中、2022年に現大統領が国有化する政策を打ち立てているので、国民の関心が高まっているからではないでしょうか。
しかし、モーリーンにとっては、アレバ社や5万人の雇用者を守るという大義ではじまったことが、最終的には自分の中の真実と権力の闘いであったと推測します。
権力との闘いで彼女を支えたモチベーションは、モーリーン・カーニーは自身の経験から、“女性に対する暴力と闘う団体”の中で、暴力を受けた経験を持つ女性へのアドバイス「友情を諦めないで」、という言葉の中に見ることができます。
さらに(友人の)愛情や優しさは“真実”にアクセスさせ、壊れたプライドを復活させることを可能にするとインタビューで語り、何があっても見捨てなかった家族や同僚達の存在が、勝利へ導く原動力になったのだとわかります。
まとめ
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』で描かれた、社会や組織における女性の立場の弱さを政治と経済の権力構造、労働組合、裁判、原子力発電、中国との問題、夫婦関係など様々な面から訴えていました。
そして、フランス国家を大きく揺るがした、この社会的スキャンダルは経済と雇用の不安定さの要因として、影響を色濃く残しています。
映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』は、2023年10月20日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて、順次全国公開予定です。