ふたりの少女が出会い、ひと夏の思い出が永久のものになる……。
ジョーン・G・ロビンソンの児童文学作品を原作に、『借りぐらしのアリエッティ』(2010)の米林宏昌が監督を務めたアニメーション作品。
それが、映画『思い出のマーニー』です。
北海道の美しい湿地帯を舞台に心を閉ざした主人公・杏奈と謎めいた金髪の少女・マーニーとの不思議なひと夏の出来事を描きます。
本記事では、映画『思い出のマーニー』の魅力をネタバレあらすじ有りでご紹介いたします。
映画『思い出のマーニー』の作品情報
【公開】
2014年(日本映画)
【英題】
When Marnie Was There
【原作】
ジョーン・G・ロビンソン
【監督】
米林宏昌
【脚本】
丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌
【声のキャスト】
高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣、黒木瞳、白石晴香、杉咲花、石井マーク、頼経明子、石山蓮華、甲斐田裕子、森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真、吉行和子、森山良子
【作品概要】
イギリスのジョーン・G・ロビンソンの児童文学作品を「スタジオジブリ」がアニメ映画化。本作が『借りぐらしのアリエッティ』(2010)以来の4年ぶりの監督作となった手がけた米林宏昌が監督を務め、第88回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされました。
ジブリ作品としては「宮崎駿」の名前がクレジットされていない初の映画となり、『かぐや姫の物語』(2013)を世に送り出した西村義明がプロデューサーを務めた本作。後にスタジオジブリは制作部門の休止が発表され、米林監督は彼と「スタジオポノック」を立ち上げています。
心を閉ざした主人公・杏奈役には声優初挑戦となる高月彩良が大抜擢され、謎めいた少女・マーニー役を『るろうに剣心 最終章 The Biginning』(2021)や『花束みたいな恋をした』(2021)などで知られる有村架純が演じます。
杏奈の養母である頼子役を松嶋菜々子が、彩香役を杉咲花が演じた他、寺島進、吉行和子、黒木瞳など豪華な俳優群が声のキャストで集結。また映画の主題歌には、シンガーソングライターのプリシラ・アーンが歌う「Fine On The Outside」が採用されました。
映画『思い出のマーニー』のあらすじとネタバレ
12歳の杏奈は、両親を幼少期に失い、里親である頼子に育てられました。感情を表に出さず、学校でも周囲になじめずにいました。
ある日、写生の授業で一人でスケッチをしていた杏奈は「この世には目に見えない魔法の輪がある」「輪には内側と外側があって、私は外側の人間」「でもそんなのはどうでもいいの。私は、私が嫌い」と心の中で呟きます。
一人の先生が杏奈のスケッチを見に歩み寄りますが、近くにいた子どもが泣き始めたことで、その場から立ち去ってしまいます。
やがて杏奈は持病である喘息の発作を起こし、そのまま早退し主治医の山下医師に診てもらいます。そこへ、学校の同級生たちが鞄を届けに来ます。
頼子は彼女たちの態度から、杏奈が学校で孤立していることを察しました。また医師からは「喘息の発作はストレスの影響もある」と言われ、環境のいいところでしばらく療養させることを提案させられました。
夏休みの間だけ、頼子の親戚の大岩清正・セツ夫婦のところで過ごすことになった杏奈は、札幌から特急列車で海辺の田舎町に向かいました。
大岩夫婦の家に向かう車中、小高い丘に立つサイロに目が留まりました。
家に着いてから、杏奈は頼子宛てに書いた葉書を郵便ポストへ出しに行きますが、人目を避けて逃げた先の入り江で水面に続く洋館を見つけます。
人々から「湿地っ地(しめっち)屋敷」と呼ばれる洋館。それになぜだか懐かしさを覚えた杏奈は、靴を脱いで入り江に面した屋敷まで渡りました。
もう誰も住んでいない廃墟となっていた洋館で、いつの間にか眠り込んでしまった杏奈。はっと目を覚ますと、洋館の目の前の水かさが増していました。ちょうど、ボートを漕いでいた十一という老人が通りかかり、杏奈は無事帰ることができました。
その晩、夢の中で杏奈は、湿地っ地屋敷の窓から淡い金髪の少女を見ます。それから杏奈は、入り江で湿地っ地屋敷のスケッチをしに出かけるようになり、夢の中でも何度も屋敷を訪れ、金髪の少女を目撃しました。
近所の七夕まつりに行きたくもないのに、同世代の女子・信子と一緒に行くことになった杏奈は、短冊の願い事に「毎日、普通に過ごせますように」と書きました。
信子は杏奈の短冊を勝手に見ると、執拗に「“普通”って何?」と聞いてきます。腹が立った杏奈は、信子に向かって「うるさい!太っちょブタ!」と言い放ちその場を走り去ってしまいます。
杏奈は走りながら幼少の頃のことを思い出し、「私は私が嫌い」と自己嫌悪に陥ります。そして逃げるように入り江へと着くと、置いてあったボートに乗ります。
何とかボートを漕いで屋敷の前まで来ますが、止まることができず、ぶつかる寸前で夢に出てきた子にそっくりの少女に助けられます。少女はボートを「あなたのためにわざと置いてきたの」といたずらに笑いながら、屋敷に住んでいると言います。
廃墟だった屋敷を見たのが嘘のように、目の前には、夜の暗がりに美しい洋館の光りが灯っていました。
映画『思い出のマーニー』の感想と評価
心に傷を抱えている内気な少女・杏奈は、周りをはねのけ、自分の殻に閉じこもっています。
冒頭では、杏奈の「この世には目に見えない魔法の輪がある。輪には内側と外側があって、私は外側の人間」というモノローグで心情を垣間見せています。
杏奈が表す「魔法の輪の内側」とは、例えるならば「赤子が母親の胸の中にいる時のような安堵感と無条件の愛に包まれている側」ともいえるでしょう。それは同時に、「対する省かれた外側は、安堵する場がなく、疎外されている身なのだ」という訴えでもあります。
大概の人は、身近な大人(親)に悩みを打ち明けたり、相談できる環境にいますが、杏奈はそれができなくなっているのです。それ故に他人に甘えることも頼ることもできずに苦しみが肥大し、劣等感だけが強くなったのでしょう。
杏奈は血縁関係ではない義母の頼子を「おばちゃん」と呼ぶようになり、自分への愛情に疑心を抱きます。また療養先の大岩夫婦の家でも、親切心を「おせっかい」と突き返すような意地の悪さが描かれています。
自分の心に素直になれない上に自分自身が嫌いでたまらない。だからこそ、他人に心を開くことが怖いのです。
杏奈の意地の悪さと対比して浮かび上がらせたのは、心の中で叫び声をあげている苦しい葛藤でした。また、行き過ぎた自己防衛は傍から見ると意地の悪い少女となり、疎まれる対象にならざるを得ないことをも映画で示しているかのようです。
まとめ
杏奈が一目見て心を奪われたマーニーという存在は、閉ざされたモノクロの世界で「色」を見つけたようなものだったのでしょう。マーニーに惹かれたのは「夢に出てきたから」「なぜか懐かしさを覚えるから」という理由だけでなく、美しいものへの純粋な憧れだったのではないでしょうか。
顔を赤らめ、近い距離にいるとドキッとする仕草は、恋愛感情にも似たものを感じます。それはカテゴライズされていない、純粋な「愛」という感情とも言えるでしょう。
杏奈はマーニーと過ごす時間で「愛」を知りました。その愛とは、「他者を想う心」そのものでした。
頑なに閉ざされていた心の壁がいつしか取り外され、杏奈は自身の心の内を他者(マーニー)に見せていきます。それは同時に、忘れていた愛を思い出していく時間でもありました。
時空を超えた出来事は、タイムスリップなどのSF的な設定ではなく、マーニーの記憶を追体験するための意図として描かれています。
孫娘(杏奈)に愛情を注ぎながらも、絵美里との修繕できなかった関係、そして若くして命を落としたことへの悲しみを抱えていた年老いたマーニー。疎外感を抱え、仕舞には憎悪さえも持つようになっていた杏奈。
そんなふたりが、同世代の少女として時空を超えて結ばれるとき、お互いの悲しみと苦しみを認め合い、許し合うといった“まるごとの愛”を知ることとなったのです。