連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第33回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第33回は、1990年製作のフランス映画『ニキータ』。
パリを舞台に、暗殺者に抜擢された女性の愛と葛藤をスタイリッシュなガンアクションを交えて贈る、リュック・ベッソン監督作です。
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映画『ニキータ』の作品情報
【公開】
1990年(フランス映画)
【原題】
Nikita
【監督・脚本】
リュック・ベッソン
【製作】
パトリス・ルドゥー
【製作総指揮】
クロード・ベッソン、ジェローム・シャロー
【撮影】
ティエリー・アルボガスト
【音楽】
エリック・セラ
【キャスト】
アンヌ・パリロー、ジャン=ユーグ・アングラード、チェッキー・カリョ、ジャンヌ・モロー、ジャン・レノ
【作品概要】
パリを舞台に、政府の秘密工作員となった女性ニキータの愛と葛藤を描いた1990年製作のロマンティック・アクション。
監督・脚本は、『グラン・ブルー』(1988)、『レオン』(1995)のリュック・ベッソン。ニキータ役を、製作当時に彼の妻だったアンヌ・パリローが演じました。
共演は『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1987)のジャン・ユーグ・アングラード、『死刑台のエレベーター』(1958)のジャンヌ・モロー、『グラン・ブルー』のジャン・レノ。
音楽を、ベッソンとは何度もタッグを組んできたエリック・セラが担当しています。
映画『ニキータ』のあらすじとネタバレ
フランス・パリのある日の深夜に、麻薬中毒の少年少女たちが薬局に忍び込みます。
駆け付けた警察隊との激しい銃撃戦の末、少女を一人残し全員が死亡。彼女は保護しようとした警官を射殺してしまいます。
警察に連行されるも素性を明かさず、男性名の「ニキータ」と名乗った少女は終身刑を言い渡されます。しかし、護送先でボブと名乗る政府の秘密機関に属する男から、工作員になるよう強要されました。
ボブから、これまでの自分の記録を抹消して工作員として生きるか、もしくは死ぬかの選択を迫られたニキータ。一度は逃げようとするも失敗し、観念して訓練を受けることにします。
反発しながらも、教育係のアマンドから女性としての立ち振る舞いを学びつつ、マーシャルアーツやガンシューティングの腕を磨いていくニキータ。
訓練から3年経った23歳の誕生日、初めて外出を許可されたニキータは、レストランでボブからプレゼントを貰います。プレゼントの中身は拳銃デザートイーグルで、彼女に最初の暗殺命令が下ります。
レストランにいたターゲットを撃ち殺し、襲い掛かるその手下を次々仕留めたニキータに、ボブは看護師を勤めるマリー・クレマンという偽名を与え、一人暮らしをさせることに。
そんなある日、ニキータはスーパーで会計係をしていた男性マルコと知り合い、やがて恋仲となります。
同居を始めたニキータとマルコは、ボブからのプレゼントでヴェネチアに旅行に出かけます。バカンスを楽しんでいたニキータでしたが、そこで新たな任務が下ります。
2人の泊まる部屋にはライフルが用意されており、部屋内からの暗殺を命じられたニキータは、マルコにバレそうになりながらも、なんとか任務を遂行。
マルコから帰宅が毎回夜遅くなることを心配されるも、ニキータは看護師のシフトが夜勤続きになっているからと嘘をつき通します。
強くて闘う女に惹かれる監督
エルトン・ジョン『ニキータ』PV
リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロン、ポール・ヴァーホーベン…彼ら男性映画監督に共通するのは、“強くて闘う女性”がテーマの作品を集中して撮ることにあります。
たとえ主人公ではなくとも、歴史劇だろうと現代劇だろうとSFだろうとジャンルを問わず、必ず1人は男に負けないタフな女性が登場するのが、彼らの作風です。
リュック・ベッソンも間違いなくその中に含まれる監督で、本作『ニキータ』は、ベッソンの理想とする女性像を決定づけた作品です。
当時の妻で女優のアンヌ・パリローから「秘密と神秘の匂いを感じ取った」というベッソンは、飛行機に乗った際にウォークマンで聴いたエルトン・ジョンの『ニキータ』から本作を着想。
「男と女を比べたら女の方が強いと思う。(中略)主人公が男だったら、僕は監督を引き受けなかった。僕は女のあいまいな部分に惹かれたんだから。映画を撮りながら、もっと女を理解したいと思って」(「キネマ旬報」1991年3月下旬号)
日本公開時のインタビューでベッソンがこう語ったように、泣きながらも非情に暗殺任務を遂行し、一方で愛を求めるニキータは、まさに曖昧さが魅力的な女性となっています。
「泣き虫の暗殺者」と宣伝キャッチコピーにあったように、パリローが実に泣き顔が映える女優だったのも大きくプラスになっていると思います。
スタイリッシュなガンアクションに注目
本作の見どころと言えるガンアクションも、ニキータが初めて任務を行うレストランでの銃撃戦は、トータルにして1分弱のシーンにもかかわらず、9日間かけて撮影。
ニキータが撃ったデザートイーグルの弾が壁を突き破って敵を仕留めるショットなどは、ベッソンらしいマニアックな構図といえます。
ベッソンとは気心の知れたエリック・セラによる劇伴も、脆くも力強いニキータをイメージさせる効果を生んでいると思います。
本作のスタイリッシュさと比べると、ハリウッドリメイク版『アサシン 暗・殺・者』(1993)が銃撃や爆破シーンが増しましになっているのは、ある意味でやむを得ないといったところでしょうか。
エリック・セラ『The Dark Side Of Time』PV(『ニキータ』主題曲)
日夜闘っているのは女性
テレビドラマシリーズ「NIKITA/ニキータ」
リメイク版の『アサシン』に、97年と2010年にはテレビドラマシリーズも製作されるなど、年代を越えてもさまざまなバリエーションを生んだ『ニキータ』。
ただ生みの親であるベッソンも、『ジャンヌ・ダルク』(1999)、『アデル/ファラオと復活の秘薬』(2010)、『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2011)、『LUCY/ルーシー』(2014)と、ひたすら“強くて闘う女性”にこだわり続けます。
製作と脚本を担当した『コロンビアーナ』(2011)も、『レオン』に登場した少女マチルダが成長して暗殺者になるというプロットが元でした(マチルダ役のナタリー・ポートマンに主演を断られ、宙に浮いていた脚本を変更)し、現時点の監督最新作『ANNA/アナ』(2020)も、明らかに『ニキータ』の焼き直し的な内容でした。
「女の方が日夜闘っていて鍛えられていると僕は思うよ」(「キネマ旬報」1991年3月下旬号)
「女性を理解できる」まで、リュック・ベッソンは映画を撮り続けることでしょう。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)