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Entry 2022/09/19
Update

『川っぺりムコリッタ』ネタバレ結末あらすじと感想評価の解説。映画タイトルの意味に隠された仏教用語は“ささやかな幸せ”

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

北陸の小さな街を舞台に、青年が掴む再生のキッカケ

孤独な青年が、新たな生活を始める事になった、名も無き北陸の小さな街。

さまざまな過去を持つ人々が「ささやかな幸せ」をテーマに繰り広げる、人間ドラマを描いた『川っぺりムコリッタ』

仏教の時間の単位を表す仏語「牟呼栗多」が、タイトルの元になっている本作は「生と死」をテーマにした作品でもあります。

重いテーマを扱いながらも、優しい時間の流れる世界観が、独特の作風に仕上がっている、本作の魅力をご紹介します。

映画『川っぺりムコリッタ』の作品情報


(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

【公開】
2022年公開(日本映画)

【原作・監督・脚本】
荻上直子

【キャスト】
松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、江口のりこ、黒田大輔、知久寿焼、田根楽子、山野海、北村光授、松島羽那、田中美佐子、柄本佑、薬師丸ひろ子、笹野高史、緒形直人、吉岡秀隆、早咲、矢野浩之、南條早紀、小西広一、谷井美夫、松島雄二、竹内笑愛、中川清明、蒲原弓子、舛田亮太、石黒史隆

【作品概要】
刑務所から出所し、名も無き北陸の小さな街で、新たな生活を始めることになった、孤独な青年の山田。

山田が住むことになった「ハイツムコリッタ」の住人達との交流を通して「ささやかな幸せとは?」を問いかける人間ドラマ。

『かもめ食堂』(2006)の荻上直子が、自身の原作小説を、自ら監督と脚本を手掛け映像化。

主役の山田を『デスノート』(2006)のL役でブレイクし、さまざまな映像作品で活躍する、実力派俳優の松山ケンイチが演じます。

山田の隣人島田を、幅広い演技に定評がある、個性派俳優のムロツヨシが演じる他、共演の満島ひかり、吉岡秀隆、緒形直人が、小さな街の住人を演じています。

映画『川っぺりムコリッタ』のあらすじとネタバレ


(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

刑務所から出所後、北陸の小さな街で新たな生活を送ることになった山田。

小さな塩辛工場の社長、沢田に迎えられ、工場で働くことになった山田ですが、沢田の熱血な性格が合わず、少し距離を置きます。

山田は沢田の紹介で、築50年の安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始めます。

大家の南詩織は、明るく山田を迎え入れてくれますが、出来る限り人と関わりたくない山田は、南とも距離を置きます。

そこへ、隣の住人島田が突然「給湯器が壊れたから、風呂を貸してほしい」と訪ねて来ますが、山田は強引に追い出します。

仕事を始めたばかりで、生活費に余裕の無い山田は、家で寝転がって過ごしていました。

ある日、山田の部屋のポストに封筒が届き、封筒の中身を見た山田は驚愕します。

それは、山田が4歳の時に生き別れた、父親の死亡を告げる通知書でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『川っぺりムコリッタ』ネタバレ・結末の記載がございます。『川っぺりムコリッタ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

父親の死亡を知って以降も、山田は工場で働く以外は、部屋で寝転がって過ごしていました。

その様子を知った島田は、アパートの庭で育てている野菜を、山田におすそ分けします。

山田は、その野菜を凄い勢いで食べ始めます。

島田は新たな野菜を山田に渡し、そのまま勝手に山田の部屋の風呂を使い始めます。

当初は島田の図々しさに戸惑っていた山田でしたが、島田の「食事ってさ、1人で食べるより、誰かと食べた方が美味しいよ」の言葉を受け入れ、食事を共にするようになります。

島田との食事中、山田は父親への複雑な想いを語ります。

4歳の時に生き別れて以降、山田は父親に連絡もしておらず、急に死亡の通知を受けた状況でした。

役所で保管している、父親の遺品や遺骨も、山田はそのままにしようとしますが、島田から「どんな理由であれ、いなかったことにしては駄目だ」と諭され、父親の遺品と遺骨を受け取りに行きます。

役所で山田は、引き取り手の無い、多くの遺骨を目にします。

部屋に父親の遺骨を置いた山田ですが、父親の骨壺が毎晩光るような感覚に陥り、不気味に感じます。

また、大家の南がシングルマザーであることが気になった山田は、島田に南の過去を聞きますが、島田からは「南さんは辞めときな、今も亡くなった旦那さん一筋だから」と聞かされます。

山田は同じアパートに、紫の花を育てている老婆がいることに気付きますが、島田は「その人は亡くなって何年も経つ」と答えます。

ある夜、父親の遺骨が不気味に感じ、我慢できなくなった山田は、遺骨を川に流そうとしますが、そこを寺の住職をしている、島田の幼馴染に見られ踏み止まります。

次の日、島田から「川に遺骨を流したら犯罪だよ」と聞かされた山田、その後に島田が「粉々にしたら大丈夫だけどさ」と言ったことが気になりますが、島田が「美味しそうな臭い」を追いかけて、どこかに行ってしまいます。

島田を追いかけた山田は、同じアパートで墓石の営業をしている親子、溝口の部屋に辿り着きます。

常に喪服を着て、不気味な笑顔を浮かべている溝口は、なかなか墓石が売れず少しおかしくなっていましたが、久しぶりに大きな契約が結べた為、奮発してすき焼きを食べていました。

そこに乗り込んだ島田は「僕、お金無いでーす」と宣言し、溝口のすき焼きを食べ始めます。

最初は躊躇していた山田も「僕、お金無いでーす」と宣言し、すき焼きを食べ始めます。美味しそうな臭いに反応した南も、娘を連れて溝口の部屋に入って来ます。

皆ですき焼きを囲む中、島田は「アパートに現れる亡くなった老婆」の話をします。老婆は岡本という名で、南や溝口が子供の頃から近所にいました。

南は「死んでてもいいから、岡本さんに会いたい」と望みます。

山田は、次第に島田の家庭菜園を手伝うようになります。

島田と親しくなる内に、島田から「昔、自分にも子供がいたけど、今はもういない」など、過去に関わる話を聞きますが、島田は全てを話そうとしません。

ある時、食事時になると必ず部屋に入って来る島田が、姿を見せないことに山田は疑問を感じます。

次の日、山田は島田に会いますが「刑務所入ってたんでしょ?何をしたの?」と聞かれ、山田は「人を騙してお金を稼いでいた」と答えます。

その時から、島田に距離を置かれるようになった山田は「自分の過去を知れば、皆が態度を変えるのではないか?」と疑心暗鬼になります。

ですが、山田は沢田から「そんなことは無い」と励まされます。

「ハイツムコリッタ」の近くにある川辺。

ここには、ブルーシートで作られた住居が並んでおり、洪水が起きる度、中に住んでいたホームレスが行方不明になっていました。

そして川辺には、洪水で流されたと思われる、電話などのゴミが山積みになっています。

南の娘は、ここで紐を振り回して、宇宙人との交流を図っていました。偶然、その場を見た山田と溝口は、少し呆れた様子を見せますが、次の瞬間に、川辺の上空に巨大なイカが現れます。

山田と溝口が驚いていると、そこへ走って来た島田が、巨大イカに「俺も連れて行ってくれー!」と泣き叫びます。

父親の遺品である携帯電話から、父親が何度か「いのちの電話」に連絡していることを知った山田。山田は、再び役所を訪ね、父親の火葬に立ち会った職員から話を聞きます。

職員は「おそらく自殺だと思う」と話し「父親は最後に、牛乳を飲もうとしていたようだ」と語ります。

山田も、風呂上りは必ず牛乳を飲む習慣があることから、山田は「間違いなく、自分の父親です」と言います。

部屋に戻り、山田が風呂に入っていると、島田が山田の部屋に入って来ます。島田は「自分も過去に騙されたことがあったから、少し怖かった」と語り、山田に謝罪をします。

その夜、強力な台風が上陸し、河川が氾濫します。

山田の部屋で怯えている島田に、山田は「掛け算の7の段を逆に言えば、怖くなくなる」と、伝えますが、7の段が逆から言えない島田に、山田は笑顔を見せます。

台風が過ぎ去り、青空が戻った川辺で、山田は父親の骨を粉々にします。

その様子を見に来た南に、山田は「自分は前科者、小さな幸せを感じて良いのか分からない」と涙ながらに語ります。

南は「小さな幸せを感じていいよ」と、山田を励まし、父親の葬式を全員でやることを提案します。

葬式の当日、溝口から喪服を借りた山田は、溝口から「刹那だ刹那、ろうばくペコリッタ」という言葉を聞かされます。

生前、岡本さんが言っていた言葉で、溝口は「小さな幸せ」と解釈していました。夕日が沈む川辺で、山田達は、父親の遺骨を撒きながら、葬儀を行います。

山田達の葬儀の列は、川辺の道を進んで行きます。

映画『川っぺりムコリッタ』感想と評価


(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

小さな古いアパート「ハイツムコリッタ」に住む、孤独な青年山田と、住人達の人間ドラマを描いた『川っぺりムコリッタ』

「ハイツムコリッタ」には、美人のシングルマザー南、墓石の営業をしている、少し不気味な雰囲気を持つ溝口、おそろしく図々しい男の島田と、個性的な住人が住んでいます。

北陸の小さな街を舞台にした本作は、美しい景色と、作中に流れるゆっくりとした時間に心地よさを感じ、個性的な住人のユーモラスなやりとりが楽しい作品です。

ですが、本作は「生と死」という、人間が逃れることの出来ない「運命」とも呼べるテーマに向き合っています

タイトルにある「ムコリッタ」は聞き慣れない言葉ですが、仏教用語の「牟呼栗多」が由来になっており、仏典に記載された時間の単位で、1/30日、約48分を意味しています

そして本作では、人生における48分の重要性を問いかけており、生きるということを「食事」を通じて表現しています。

冒頭、刑務所から出所し「ハイツムコリッタ」に住み始めた山田は、人目を避けるように部屋に閉じこもり、インスタント食品だけを食べています

出所したばかりで、まだ所持金が少ない山田は、まともな食事をすることも出来ません。

その山田を救うのが、隣人の島田です。

自称「ミニマリスト」の島田は、結局は無職なのですが、自家菜園で育てた野菜を食べて生き延びています。

島田は、半ば強引に山田に育てた野菜を渡すのですが、ここで山田は凄い勢いで野菜を食べ始めます。

作品を通して、初めて山田から「生命力」を感じる場面となっています。

その後、山田のプライベートに土足で上がり込むような、図々しい島田と、山田は食事を共にするようになり、自身の境遇などを語り始めるようになります。

「ハイツムコリッタ」に入居したばかりの時、山田は人間関係を閉ざし、まともな食事をしておらず、死んだも同然の状況でした。

ですが、山田にとって「望まざる客」だった、島田の図々しさが、死んだ状態だった山田を再生に導きます

特に、山田が大きく変わるのが、溝口の部屋に、島田と共に乗り込む場面

人を避けていた山田が、人の輪に入って行く、大きな変化を感じる場面ですが、ここでも重要な役割を果たすのが「食事」です

溝口の部屋へ勝手に上がり込み、すき焼きをご馳走になる島田の図々しさに、当初は呆れていた山田ですが、すき焼きの魅力に勝てず、茶碗と箸を持参して上がり込みます

その後、南親子も参加し、大勢の人達と食卓を囲む山田から、何となくですが幸せな雰囲気を感じます

『川っぺりムコリッタ』は、山田が父親の死と向き合い、受け入れるまでの物語でもありますが、「ハイツムコリッタ」の住人達も、大切な誰かを失った人達です。

山田以外の住人達の物語は、詳しくは明かされませんが、何気ない場面や言葉で、それぞれの過去は語られます

特に、普段はマイペースで淡々とした雰囲気の島田が、酔った時だけ塞ぎ込むようになり「ごめんなさい」と繰り返す場面が印象的です。

これだけでも、島田に辛い過去があったのだと分かり、島田の言う「小さな、ささやかな幸せを集めることが大切」という言葉が、その考えにすがらないと生きていけない、島田の辛い心情を現しています

タイトルの「ムコリッタ」は、約48分を現す仏語ですが『川っぺりムコリッタ』は、辛い48分を重ねた人達が、新たな再生の48分を始める物語です。

作中のセリフ「刹那だ刹那、ろうばくペコリッタ」は、全て仏教用語で時間を現す言葉です。

一瞬の幸せを感じ集めることで、それが長い幸せに繋がっていく、ささやかな幸せを見つけることの大切さを現した、本作の重要なメッセージが込められたセリフです。

生命力を「食事」で、残された者の悲しさを、山田と島田のとぼけたやりとりで表現した本作は、生きることのユーモラスな部分と辛い部分、そして48分の積み重ねの重要性を感じる、いろいろと考えさせられる作品でした。

まとめ


(C)2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会
「生と死」がテーマになっている『川っぺりムコリッタ』

「ハイツムコリッタ」は川沿いにあるのですが、この川の存在が「あの世」と「現世」を隔てている象徴となっています

川沿いには、豪雨の際に流れてきた廃品が、山積みのようになっており、この山積みになった廃品が、アート作品の様に芸術的に見えますが、どこか悲しさと不気味さを感じます

この廃品の中に、壊れた電話があるのですが、この電話が「あの世」と「現世」を繋げるような役割を持っており、本作にファンタジーの要素を加えています

本作のラストで、山田は粉にした父親の遺骨を、川沿いの道を歩きながら撒いていきますが、悩みに悩んだ末の決断で、この地で父親と生きていく山田の覚悟を感じます。

『川っぺりムコリッタ』は、死人同然だった山田の再生、大切な人に旅立たれた残された者の物語、死者との向き合い方など、さまざまな角度から「生と死」を描いた作品です。

時間が止まったかのような世界観で、必死に生きていく人達の姿を、ユーモアを交えて描いた『川っぺりムコリッタ』は、荻上直子監督の手腕が光る作品だと感じました。




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