彗星の衝突により人類の滅亡が数ヶ月後に迫った世界を舞台にばらばらだった三姉妹が次第に一つになっていく……
2004年に上演された舞台をもとに、『カメラを止めるな!』(2018)のしゅはまはるみや、『イソップの思うツボ』(2019)の藤田健彦らで結成した自主映画制作ユニット「ルネシネマ」の企画で映画化しました。
監督を務めたのは、『押し入れの女の幸福』(2014)でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編部門最優秀作品賞の受賞した大橋隆行。
ロケーションにこだわり、美しい瀬戸内海の景色と終末の世界観を美しい映像を作り上げました。
原作の舞台では双子の役であったが、髙石あかりと出会ったことにより三姉妹の話で映画化をすることを決めたとい言います。
髙石あかり、吹越ともみ、田中美晴、それぞれの女優の個性が投影されたかのような三姉妹の姿が印象的です。
映画『とおいらいめい』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
とおいらいめい(2004年上演舞台)
【監督】
大橋隆行
【出演】
髙石あかり、吹越ともみ、田中美晴、ミネオショウ、大須みづほ、藤田健彦、しゅはまはるみ
【作品概要】
2004年の同名舞台をもとに、『押し入れの女の幸福』(2014)でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編部門最優秀作品賞の受賞した大橋隆行監督が映画化。
三女・音役を演じたのは舞台『鬼滅の刃』(2020-2021)で竈門禰豆子役を務め、注目を浴び、『ベイビーわるきゅーれ』(2021)で主演を務めた髙石あかり。
次女・花音役に『フタリノセカイ』(2022)の田中美晴、長女・絢音役にドラマ『半沢直樹イヤー記念・エピソードゼロ~狙われた半沢直樹のパスワード~』(2020)の吹越ともみが務めました。
映画『とおいらいめい』のあらすじとネタバレ
彗星の衝突により人類の滅亡が数ヶ月後に迫った2020年。
父の死により瀬戸内海の実家に久しぶりに帰宅した絢音(吹越ともみ)と花音(田中美晴)。
そして絢音の提案により絢音と花音、そして父と暮らしていた腹違いの妹・音(髙石あかり)は三姉妹で暮らすことになりました。
幼い頃に姉2人は出ていき、一緒に暮らした頃の記憶がない音は、なかなかうまく2人と打ち解けることができずにいます。
絢音は彗星の衝突の前にシェルターに避難する人々のためにシェルターを作る仕事をしています。
秘密裏に工事をしていてもどこからか情報が漏れ、シェルターの工事現場には差別だと書かれた看板が置かれ、時には襲撃され命を落とす職員もいる危険な職場で働く絢音は1人で何もかも抱え次第に思い詰めていきます。
そんな絢音の様子を心配する花音は時折何かあったら言ってねと絢音に伝えますが、絢音は1人で抱え込むばかりで話してくれません。
花音は、世界の終末を前に戸惑う妻子持ちの同級生・良平(ミネオショウ)と再会し、お互いが拠り所のようになっていきます。
映画『とおいらいめい』の感想と評価
彗星の衝突により人類の滅亡が数ヶ月後に迫った2020年。
本作は、終末世界というSF要素がありながらも、離れ離れになっていた三姉妹が一緒に暮らし始め、家族になろうとする姿を描いています。
舞台から映画化するにあたって方向性に悩んでたという大橋隆行監督は、別の映画の試写会で髙石あかりに出会い、舞台では双子であった登場人物を三姉妹で描くことに決めたと言います。
更に、三姉妹それぞれ、演じる女優の個性を活かしながら役に取り入れたたそうです。
姉と共に過ごした記憶のない音は突然の共同生活に戸惑い、自分の気持ちを素直に表すことが出来ません。そして、世界が終わることに対する恐怖との向き合い方もわからないでいます。
そんななか絢音は3人で住むことで最後は家族と共にいたいと思い、自分が妹たちを守らなくてはという気持ちも強いように感じます。
しかし、その気持ちがうまく妹たちには伝わらず、3人の生活はどことなくギクシャクしています。
花音はマイペースそうに見えながらも音と何気ない時間を過ごすようにし、音に化粧をしたり、お酒を飲んでこっそり帰ってきた音を怒ることもせず、今度は私も連れて行ってと言います。
音を気に掛ける一方で、1人で抱え込む絢音に対しても花音は気にかけています。しかし、絢音の思いも花音の思いもうまく伝わらず、花音は絢音は家族ごっこしているだけでうまくいっていないと責め、2人は衝突ばかりしてしまいます。
その姿を困って見ているだけの音。撮影当時17歳であったという髙石あかりは、2人が気にかけてくれていることに対して嬉しいと思う気持ちも、喧嘩する2人を前にして困惑している気持ちもうまく伝えられない繊細な役柄を見事に演じています。
普段うまく伝えられない音だからこそ、終盤で感情が溢れ出し泣き出し、「怖い」と初めて口に出す場面が印象的に映るのです。
そしてポスターにもなっている最後の浜辺のシーンでは、3人がそれぞれ様々な“音”を交代で言い合います。
その中には“いびきの音”や“音がこっそり歌っている音”など、共に暮らしているからこそ感じられる音がいくつも出てきます。
様々な音を言い合いながら笑う3人の姿はやっと家族になったと思える場面であり、同時に刻一刻と世界の終わりが近づいている残酷な場面とも言えます。
絶望と温かさが入り混じった幻想的で美しいラストシーンはいつまでも目に焼き付き、余韻が残ります。
まとめ
2020年に撮影し、その年に上映する予定であった本作ですが、公開が延期され2022年に公開する運びとなりました。
1999年のノストラダムスで世界が終わると信じていた絢音と花音。
約10年の歳月を経て本当に滅亡しようとしている世界でどう受け入れたら良いのか、誰もが恐怖の受け入れ方がわからず、様々な場面で世界が混乱に陥っている様子が窺えます。
そんななか、3姉妹が過ごす時間はあえてその話題を避けているかのような妙なぎこちなさがあります。
一方で、当たり前のように生活し、当たり前のように喧嘩をし、“普通”であろうとしているとも言えます。
終末世界というSF要素がありながらも普遍的な家族の形を描こうとする本作は、パンデミック禍にある現代社会の人々にとって改めて家族や自分の大切なものや、非日常化での過ごし方について考えさせられ、まさにこの時期に公開すべくして公開した映画でしょう。