連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第106回
1990年、ソマリアのモガディシュで内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちによる脱出劇を映画化した『モガディシュ 脱出までの14日間』。
敵対する両国の大使館員たちの生死をかけた脱出を、ジャンルの枠にとらわれない新鮮な発想と社会を貫く視線で、観客を常に魅了し続けるリュ・スンワン監督が描き出しました。
「国か命か──」と語ることを許されなかった14日間の真実の人間ドラマが展開。緊迫した状況下におかれる主人公たちを、キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソンといった名優たちが演じています。
映画『モガディシュ 脱出までの14日間』は2022年7月1日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショーです。
CONTENTS
映画『モガディシュ 脱出までの14日間』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【原題】
모가디슈 ESCAPE FROM MOGADISHU
【監督】
リュ・スンワン
【出演】
キム・ユンソク、ホ・ジュノ、チョ・インソン、ク・ギョファン、キム・ソジン、チョン・マンシク
【作品概要】
『ベルリンファイル』(2013)『生き残るための3つの取引』(2010)のリュ・スンワン監督が、韓国民主化から3年、ソウル五輪からわずか2年後の1990年のソマリアで、内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちによる脱出劇を映画化した作品。
ハン大使役に『1987、ある闘いの真実』(2017)のキム・ユンソク、リム大使役に『国家が破産する日』(2018)のホ・ジュノ。名優キム・ユンソクと人気俳優チョ・インソンが初共演しているのも注目です。
第42回青龍映画賞で作品賞や監督賞ほか5部門受賞し、「ポルト国際映画祭」オリエント部門の最高作品賞(Best Film Award)受賞。
映画『モガディシュ 脱出までの14日間』のあらすじ
1990年、ソウル五輪を成功させた韓国は国連への加盟を目指し、多数の投票権を持つアフリカ諸国にロビー活動をしていました。
ソマリアの首都、モガディシュの韓国大使ハン(キム・ユンソク)は、なんとかソマリア政府上層部の支持を取り付けようと奔走しています。
一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮も国連加盟を目指しており、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていきました。
そんな中、政府に不満を持つ反乱軍によってソマリア内戦が勃発。国はたちまち大混乱に陥りました。
各国の大使館は略奪や焼き討ちにあい、外国人の命の危険が差し迫っていました。
反乱軍に襲われ北朝鮮大使館にいられなくなったリム大使(ホ・ジュノ)は、職員とその家族たちを連れて、絶対に相容れない韓国大使館へ助けを求める決心をします。
北朝鮮大使館員たちを受け入れるべきかどうか悩むハン。
ハンの決断に韓国大使館員たちは揺らぎます。
映画『モガディシュ 脱出までの14日間』の感想と評価
敵対する大使館員たち
『モガディシュ 脱出までの14日間』は、ソマリアの内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の大使館員たちによる脱出劇を描いていますが、これが実話というから驚きます。
ポスタービジュアルからも内戦の混乱がわかり、巻き込まれたとしか言いようのない外国大使館員たちの戸惑いと恐怖が伝わってきます。
ソマリアから早く脱出したいと模索する韓国大使館員たちの所へ、敵対する北朝鮮の大使館員たちが助けを求めてやって来ました。
ここで彼らと手を組んで脱出計画を練るのか。それとも自分たちだけで脱出をするのかと、究極の選択をハン大使は迫られました。
逃げてきた北朝鮮の大使館員と韓国大使館員たちが一緒に食事をするシーンでは、楽しい食事風景どころか、お互いの腹を探りあう様子がありありと伝わってきます。
テーブルに並べられた料理をにらむだけで手を付けない北朝鮮側を目にして、ハンは自ら食べ物を食べ、毒など入っていないということを示しました。次の瞬間、北朝鮮側の人々は料理にむさぼりつきました。
韓国と北朝鮮。2つの国の間の関係がどんなものか、とてもよくわかるシーンです。
助けを求めている相手が、敵ともいえる国の人……。一緒に逃げようとすると裏切られてしまうかもしれません。
単なる内戦国から逃げ出すだけではない、敵同士が一緒になっての脱出計画に疑心暗鬼にもなる人間心理が手に取るように映し出されます。
手づくり武装のカーアクション
また本作で注目したいのは、武装集団が潜む町を他の外国大使館まで車で走るシーン。防弾のためのありとあらゆる工夫をした車が、乗員の命をかけて爆走します。
内乱の地だからこそ浮かんだアイデアでしょうが、窮地に追い込まれた人の知恵と勇気にあふれた迫力満点のカーアクションは、見応えたっぷりです。
本作を手がけたのは、『ベテラン』(2015)『ベルリンファイル』(2013)『生き残るための3つの取引』(2010)のリュ・スンワン監督。彼の作品のリアルなアクションとスリリングな展開をするストーリーは、常に観客を魅了しています。
そこにあるのは、製作するにあたって、‟後悔するにはあまりにも頑張って撮ったため、常に惜しむ気持ちはあるが、後悔はない”という監督の思い。
『モガディシュ 脱出までの14日間』でも、ソマリア内乱当時のアメリカ海軍の記録に始まり、国内外交協会の記事、ソマリア国営テレビの資料など、徹底した事前調査を行ってから、西アフリカモロッコでのオールロケを実施したといいます。
その成果は十分に発揮され、ソマリア内戦当時の状況が克明に再現された作品となっています。
まとめ
内乱が続くソマリア・モガディシュから脱出しようとする韓国の大使館員たちの実話を基にした、映画『モガディシュ 脱出までの14日間』。
同行を望むのは、韓国にとっては宿敵の北朝鮮の大使館員たちです。緊迫した状況下で、果たして無事に脱出できるのでしょうか。
ただでさえ張り詰めた緊張感のある脱出劇に、韓国と北朝鮮間の複雑な政治事情のきな臭さが漂い、本作を一層スリルあるものにしています。
映画『モガディシュ 脱出までの14日間』は2022年7月1日(金)新宿ピカデリー、グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国ロードショーです。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。