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Entry 2022/06/20
Update

【檀れいインタビュー】『太陽とボレロ』映画スタッフ・キャストみなが心地良い現場×現在の“良い結果”とつながる全ての出来事

  • Writer :
  • 河合のび

映画『太陽とボレロ』は2022年6月3日(金)より全国ロードショー!

とある地方都市で長年活動を続けてきたものの、解散が決まってしまったアマチュア交響楽団のラストコンサートまでの道のりを描いた映画『太陽とボレロ』

主人公・理子役を務めたのは檀れい。脚本・出演としても参加した水谷豊監督からオファーを受け、本作が映画初主演作となりました。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、檀れいさんにインタビュー

ご自身が演じられた主人公・理子に対する想い、「全ての出来事が『良い結果』につながっている」というご自身のこれまでの人生に対する想いなど、貴重なお話を伺いました。

「終わり」が生んだ「はじまり」という原動力


(C)2022「太陽とボレロ」製作委員会

──「夢を諦めた自身の想いが強くこもっていた、アマチュア交響楽団の解散」という“終わり”と向き合う本作の主人公・花村理子。彼女を演じられた檀さんご自身はどんな人物だと捉えられていたのでしょうか。

檀れい(以下、):ストーリーの序盤から「弥生交響楽団の存続が厳しい」という状況があり、それでも市役所にかけ合ったり、亡き父の代からの知人に頼み込んだりというだけでなく、自分に好意を持ってくれている畑中さん(演:山中崇史)にも何とか楽団に援助してもらえないかと思いながら食事をともにしたりなど、理子は「楽団の存続」という一心で奔走します。

そうして手を尽くし続けるものの、恩師である藤堂先生(演:水谷豊)が倒れてしまい、理子の心にはついに「解散」という言葉が浮かんでしまった。そして、彼女がそんな自身の想いを鶴間さん(演:石丸幹二)に告げた瞬間が、18年間続いてきた楽団に本当の意味でのピリオドが打たれた瞬間でもあったと感じています。

「自分自身が一番『解散します』と言いたくない」「できることなら、ずっと続けていきたい」という想いがある一方で、「けれど、続けることはできない」「それを楽団の皆に伝えなきゃいけない」という状況は、理子にとって一番つらい時だったのではと思っています。

ただその“終わり”は、「終わることは避けらない」「では、その最後にふさわしいものを作っていかなくてはいけない」という“はじまり”が理子の内で生まれた瞬間でもあり、“はじまり”という新たな原動力によって彼女は前に進もうとします。

自分の中にある楽団への、音楽への感情と向き合いながらも、理子は「皆のために何ができるんだろうか」という想いのもと、自分が持てる力を今まで以上に尽くしていったのだと思います。

笑顔の絶えない、けれど良い緊張感がある現場


(C)2022「太陽とボレロ」製作委員会

──檀さんの眼から見た、水谷豊監督の魅力をお教えいただけますでしょうか。

:これまでも俳優同士として、何度かお仕事をご一緒させていただいたことがありますが、水谷さんがいらっしゃる現場は朗らかで、和やかで、楽しい現場だといつも感じています。

俳優として・監督としてというだけでなく、水谷豊さんという人そのものが元々朗らかで和やかな方なので、本作の現場でもベテランから若手まで、キャストからスタッフまで、どの方も心地よい雰囲気の中で撮影に参加されていたのを覚えています。

また今回、「監督と俳優」という関係性の中で水谷さんと作品制作のお仕事をご一緒させていただいて、「水谷さんの頭の中は、どういう風になっているのかな」と思えるほど、水谷さんのユーモアとアイディアに満ちた素敵な演出には驚かされました。

だからこそ『太陽とボレロ』の撮影は、笑顔の絶えない、同時に撮影に臨むためには欠かせない、良い緊張感がしっかりと保たれている現場でもありました。

全ての出来事が「良い結果」につながっている


(C)2022「太陽とボレロ」製作委員会

──本作でも描かれた「より良い方向へ歩もうと選択を続けた先の、人生における“小さな奇跡”」を、檀さんはご自身のこれまでのお仕事、あるいは人生の中で実感されたことはありますか。

:私が今のお仕事を続けてこられたのは、「より良い方向へ歩もうと選択し続けた結果」というよりは、「今やらなくてはいけないことを、とにかく必死にやってきた結果」なのだと自分自身では感じています。

何が良い方向へ向かう選択で、何が悪い方向へ向かう選択なのかは後になってみないとわからないという例は、誰もが経験したことがあるはずです。

良い方向へ向かう選択をしたからこそ、良い結果が待っているのは確かかもしれませんが、最後の最後が訪れるまで、その選択を「正解」と断言できる人はどこにもいません。ですから私の場合は、「自分の身に起こった出来事全てが、今現在の良い結果につながっていたのでは」と考えるようにしています。

人生の道中では悲しいことも、つらいことも、嫌なこともたくさんあります。ですがもしかしたら、それらも見方によっては自分にとってプラスになる出来事かもしれないし、自分の考え方を変える新たな発見になる何かかもしれません。

今自分の目の前で起こっていることや、自分が与えられたことに対して、前向きに、真正面から取り組んできたからこそ、今の自分があると感じています。

「希望」を持ち帰ってほしい


photo by 田中舘裕介

──最後に、完成した映画をご覧になられた際のご感想を改めてお教えいただけますでしょうか。

:花村理子という女性は、亡き父の家業であるファッションプラザを継ぎ、ひとり残されてしまった母の面倒を見る日々を送っていますが、彼女は楽団を存続させようとした際にもそうだったように、何でも自分ひとりで抱え込んだ上でがんばろうしてしまうんです。

そう振る舞ってしまうのは、彼女を取り巻く状況の中ではしょうがないことなのかもしれません。実際、理子が「皆のために何ができるんだろうか」「皆のために何とかしたい」と考えた結果ラストコンサートを提案したのも、「自分が皆をどうにかしなきゃいけない」という想いの裏返しといえます。

ただ理由はどうあれ、理子が皆のためにがんばったことは、紛れもなく本当のことです。彼女ががんばって、がんばって、がんばったからこそ、“小さな奇跡”が訪れた。映画を観直す中で、そのことを改めて実感できました。

だからこそ、映画をご覧になられる方には「人生って嫌なこともたくさんあるけれど、がんばった先にこんなことが起こるのもまた人生なんだ」「人生って、捨てたもんじゃないな」と思っていただけたら……“希望”を、映画を観終えた後に持ち帰っていただけたらと感じられました。

何がどうつながるのかは、後になってみないとわからない。だからこそ、今の自分が未来の自分のために、あるいは未来の世界のためにがんばることには価値があるんだと思います。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

檀れいプロフィール

宝塚歌劇団の月組、星組トップ娘役として活躍。

退団後の2006年、山田洋次監督作品『武士の一分』のヒロイン・三村加世役で鮮烈なスクリーンデビューを果たし、第30回日本アカデミー賞優秀主演女優賞及び新人俳優賞・第44回ゴールデンアロー賞ほか、数々の賞を受賞。

近年の出演作に『累』(2018)、『劇場版 奥様は、取り扱い注意』(2021)などがあり、本作が映画初主演となる。

映画『太陽とボレロ』の作品情報

【公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本】
水谷豊

【キャスト】
檀れい、石丸幹二、町田啓太、森マリア、田口浩正、永岡佑、梅舟惟永、木越明、高瀬哲朗、藤吉久美子、田中要次、六平直政、山中崇史、河相我聞、原田龍二、檀ふみ、水谷豊

【作品概要】
とある地方都市で長年活動を続けてきたものの、解散が決まってしまったアマチュア交響楽団のラストコンサートまでの道のりを描く。監督は脚本・出演も務めた水谷豊。

水谷監督直々のオファーを受けて主人公・理子を演じたのは、本作が満を持しての映画初主演となった檀れい。

そのほか、歌手・ミュージカル俳優としての活躍も目覚ましい石丸幹二、水谷監督が熱視線を送る若手注目株の町田啓太、新人ながらヴァイオリンの腕を見込まれ大抜擢された森マリアをはじめ、田口浩正、藤吉久美子、田中要次、六平直政、河相我聞、原田龍二、檀ふみ、山中崇史、松金よね子、小市慢太郎ら幅広いキャストが出演している。

映画『太陽とボレロ』のあらすじ


(C)2022「太陽とボレロ」製作委員会

花村理子(檀れい)は、奔走していた。アマチュアではあるが18年の歴史を誇る、弥生交響楽団存続のために。

急逝した父親の家業を継ぎ、ひとり残された母親(檀ふみ)の面倒を見るため、ピアニストになることを諦めて故郷に帰った理子にとって、弥生交響楽団は厳しい現実を支える大切な夢だった。

3年前から、大学時代の恩師・藤堂(水谷豊)を指揮者に迎えたものの、客足は年々遠のき苦しい運営が続いていた。創立当時から楽団を支援してきた鶴間(石丸幹二)とともに、役所や金融機関にかけ合うも、なかなか協力は得られない。

そんな折、コンサートの最中に藤堂が倒れてしまう。個性豊かな楽団員たちの心をひとつにまとめていた、大きな存在を失くした弥生交響楽団に、不協和音が響き出す……。

ついに理子は解散を決意するが、楽団のメンバーたちにラストコンサートを提案する。若き楽団員の圭介(町田啓太)やあかり(森マリア)も、音楽を愛する仲間の心を今一度合わせようと奮闘するが、バラバラになっていくメンバーの足並みはなかなか揃わない。

もはや修復不可能な状況に皆がコンサートを諦めかけた時、入院中の藤堂からビデオレターが届く。そして、小さな奇跡が起きた。

燃え立つような太陽が西の空に消えて、マジックアワーを迎える時。「ボレロ」の力強いリズムにのせて、弥生交響楽団の最後の、そして最高のコンサートが始まる!

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介



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