水上勉の『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』を原案とする
映画『土を喰らう十二ヵ月』が2022年11月11日(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開!
昭和36年(1961)に『雁の寺』で直木賞を受賞した作家水上勉の『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』(新潮文庫刊)。
この作品は、昭和57年(1982)発行されたものですが、今でも多くのファンに愛されています。
少年の頃、京都の禅寺で精進料理の作り方を教えられたという水上勉。本書は著者自身が包丁を持ち、1年にわたって精進料理を基本とするさまざまな料理を作ります。
畑で育てた野菜と山で取れる山菜から生まれるレシピは、自然の恵みに感謝しつつ根っこ一つ残さず大切に食する料理です。
貴重なクッキング・ブックともいえる本書を、『盆唄』(2019)の中江裕司が監督・脚本を手掛けて劇映画に仕立てました。
主役の作家・ツトムには、映画単独初主演となる沢田研二を迎え、松たか子、火野正平、奈良岡朋子らベテラン勢が集結しました。
映画公開に先駆けて、原作の随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』をネタバレありでご紹介します。
CONTENTS
随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』の主な登場人物
【水上勉】
直木賞作家。『ミセス』の女性編集者のすすめで、約1年間にわたり軽井沢の山荘にこもる。そこで、畑を作り、子どもの頃に禅寺で身につけた料理を作って食べるというその生活を執筆する。
随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』のあらすじとネタバレ
小説家水上勉は、9歳のころから禅宗寺院の庫裡で暮らしました。そこでしっかりと覚えさせられたのが、精進料理!
水上は16歳から18歳まで、同じ寺院で東福寺官長であった尾関本孝老師の隠侍をしていました。隠侍は老師さまの女房役のような仕事を受け持ちます。
まだ中学生だった水上は学校から帰るといそいで、老師さまの住まいの隠寮へ行って、老師の食事、洗濯、掃除など身の回りのことをやっていました。
水上はこの時の食事を作ったことが、今日精進料理などを自分でやれてそれが老師ふうの味を好む人には、喜ばれることになっているのだろうと思っています。
昭和57年。水上は軽井沢の山荘に籠りながら、四季折々、十二ヵ月の自然の恵みからなる手料理の数々とそれに纏わるエピソードを執筆続けます。
随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』の感想と評価
『雁の寺』で直木賞を受賞した故水上勉の精進料理を基にした「喰らうこと」についての随筆でした。
京都の寺に預けられていた経験を持つ水上は、命ある野菜たちをありがたく頂くことの大切さを修行の中で教え込まれます。
土の畑で野菜を育て自然の恵みの幸を頂く食事を、水上は「土を喰らう」と表現したのです。
これこそが、水上の精進料理に対するコンセプトと言えます。
十二ヵ月を通して水上が紹介した料理は、「煮る」「焼く」「する」「漬ける」といったシンプルな料理ですが、素材のうま味を充分に出せる工夫のされたものばかりでした。
質素とも思える男料理でありながら、野菜の葉っぱや根っこまでも捨てずに大切に料理して喰らうという丁寧さに心底驚きます。
現代の日本人が忘れているだろう食することの意義を深く見つめ直したくなる作品であり、水上が伝授した料理を食べてみたくなりました。
映画『土を喰らう十二ヵ月』の見どころ
原作は、1年を通して作家水上勉が禅寺で教わった精進料理を披露するレシピ本のようです。この原作にオリジナルストーリーが加えられ、映画『土を喰らう十二ヵ月』が完成しました。
主役である作家・ツトムは、歌手であり、最近では『キネマの神様』(2021)の好演でも知られる沢田研二が演じます。
人里離れた長野の山荘でひとりで山の実やきのこを採り、畑で育てた野菜を自ら料理し、季節の移ろいを感じながら原稿をしたためるツトムと彼を囲む人々の物語。
‟ジュリー”の愛称で呼ばれ一世を風靡した往年の大スター沢田研二が、地味な作家のツトムに扮し、ひっそりとした山暮らしで手料理を振る舞います。料理に取り組む沢田研二の新しい魅力を発見できることは間違いないでしょう。
また、主人公のツトムが作るのは、畑の野菜やその地の旬のものを生かした日本の生活に根付いた献立です。
これらの献立は、映画の料理は初めてという料理研究家の土井善晴が担当しました。
脚本の中で描かれた料理の作り方や盛り付けに関して、中江監督と打ち合わせを繰り返し、ツトムの料理を具現化しています。
京都の精進料理といえば頭に浮かぶのは、小皿に見映えよく盛り付けられた小奇麗な野菜料理。本作のように、おもてなしの心をこめつつ作る素朴な味わいの家庭版精進料理を、限られた素材でどう演出するのか興味津々です。
土井善晴は、調理そのものだけでなく、沢田研二への指導、器選びなど、詳細な演出にも注意を払っていたといいます。
料理のプロである土井善晴の食べることへの感性にも注目です。
映画『土を喰らう十二ヵ月』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原案】
水上勉:『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月—』(新潮文庫)
【監督・脚本】
中江裕司
【料理】
土井善晴
【キャスト】
沢田研二、松たか子、西田尚美、尾美としのり、瀧川鯉八、壇ふみ、火野正平、奈良岡朋子
まとめ
直木賞作家水上勉のクッキング・ブックとも言える随筆『土を喰らう日々-わが精進十二ヵ月-』をご紹介しました。
『盆唄』(2019)の中江裕司監督が、本作にオリジナルストーリーを加え、歌手の沢田研二を主役にして、映画『土を喰らう十二ヵ月』としてまとめました。
原作通りの土の香りがする料理が出てくるだろうと期待も大きいです。ツトム流の精進料理を作りたく、あるいは食べたくなることは間違いないでしょう。
映画『土を喰らう十二ヵ月』は、2022年11月11日(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開