小説『余命10年』は2022年3月4日(金)に実写映画公開!
SNSを中心に反響を呼んだ小坂流加の恋愛小説『余命10年』が映画化されて、2022年3月4日(金)に公開決定。
主演は、小松菜奈と坂口健太郎。『新聞記者』(2019)の藤井道人監督がまとめあげました。
10年以上生きた人はいないと言われる不治の病に侵され、余命10年を宣告された20歳の茉莉。
恋などしないで過ごそうと決めていた茉莉ですが、故郷の同窓会で再会した和人と出会って、どんどん魅かれていきます。
余命10年の彼女の生き方に涙なしでは読めない原作小説を、映画公開前にネタバレ有でご紹介します。
小説『余命10年』の主な登場人物
【高林茉莉】
難病に侵され、余命10年の宣告をうけた女性。映画では、小松菜奈が演じます。
【真部和人】
同窓会で再会し、茉莉の病気を知らないままに茉莉に惹かれていきます。映画では、坂口健太郎が演じます。
小説『余命10年』のあらすじとネタバレ
高林茉莉(まつり)は20歳のときに、難病にかかり余命を告げられました。
急な入院から1カ月後、「余命は人によってそれぞれです。高林さんの状態からして、すぐにどうなるというこはありません」気まずそうにカルテに目を落とす医師。
「知っているよ。余命は10年。それ以上生きた人はいないんでしょ」
さらりと言ってのけ、同席した家族の凍り付くような雰囲気のなか、茉莉は微笑みました。
「別にいいよ。オバサンになるのなんて嫌だし。丁度いいじゃん。私は大丈夫。あと10年で十分だよ。人生なんて」
ハタチの彼女に怖いものはありません。
この病気は遺伝性もあり、茉莉の祖母がこの病気で亡くなったことは親戚中の知るところでした。
大勢の親戚がいるなかで、なぜ、茉莉だけが祖母の血を引いてしまったのでしょう。
一つの疑問を噛みしめている茉莉は、やがて、初めての発作に襲われました。意識不明や大きな手術。発作がおこると止まらない咳に苦しみなどがおそいかかり、集中治療室と病棟を往復する日々が始まりました。
ようやく自宅療養が許されたとき、茉莉は22歳になっていました。
茉莉は短大も中退して働くことも叶わず、一日家の中で過ごしていました。楽しみは中学校からの友達・沙苗との交流です。
沙苗は筋金入りのアニメオタク。体調が少し良くなってきた茉莉は沙苗に誘われて秋葉原に出かけました。
最初こそ敬遠気味でしたが、元々アニメや漫画を描いたりすることが大好きだった茉莉は、DVDレコーダーや服を作り、漫画を描き、コスプレと同人誌を売るイベントにどっぷりとはまっていきました。
茉莉は誕生日を迎えて25歳になりました。余命宣告10年の折り返し地点です。
友人の間で“結婚”とかいう言葉が出始めた頃、姉の桔梗(ききょう)も恋人の鈴丘聡と結婚することになりました。
部屋を片付けていて、茉莉は入院中に書いていた日記を見つけました。そこには同じ病気で亡くなった礼子さんのことが書いてありました。
「ありがとうと、ごめんねと、好きですを、言えずにいた人たちに伝えたい」と礼子さんは言い、それが最後の会話となりました。
茉莉の「ありがとう、ごめんね、好きです」は誰に伝えればいいのでしょう。
礼子さんのように病室で後悔したくないと考えていると、小学校の同級生“新谷美幸”を思い出しました。
群馬で過ごした小学生時代、美幸は茉莉の親友でしたが、ふとしたことで、美幸はいじめのターゲットになってしまいました。
自分も同じようにみんなに無視されるのが怖くて、茉莉は美幸に近づくのをやめ、そのまま小学校を卒業し、群馬から東京へ引っ越してしまいました。
結婚した桔梗が群馬の元地元に住んでいたので、桔梗の家に泊まりに行ったときに、茉莉は思い切って美幸を訪ねてみました。
結婚したという美幸の住所を実家で教えてもらって行ってみると、美幸はお母さんになっていました。
茉莉が「ごめんね」と言うと、美幸は「茉莉のこと好きだったよ」と言います。
美幸に誘われて、茉莉は小学校時代の同窓会に参加してみることにしました。そこには茉莉の「好きです」が伝えられなかったタケルがいました。
タケルには同棲している彼女がいることがわかり、茉莉の「好きです」は行き場をなくしてしまいましたが、病気のことを知らない人たちと過ごす時間はとても楽しいものでした。
帰りは同級生の真部和人が送ってくれて、翌日も会う約束をしました。
和人は茉莉を昔通った懐かしい小学校に連れて行きました。
図画工作室の奥の棚の一番下の段に茉莉が彫った「マツリ」の文字が今でも残っていました。そして、その横には「和人」の文字が彫られていて、相合傘まで描かれていました。
和人は「俺の初恋。俺は茉莉ちゃんが好きだったんだよ」と教えてくれました。
優しい和人と会うのは楽しかったし、彼は子犬のような笑顔で茉莉の心に忍び込んできたのですが……、もう誰かを好きになったりしないと心に決めていた茉莉は、和人とは二度と会わないことを決意しました。
小説『余命10年』の感想と評価
作者は小説の中の主人公・茉莉と同じ病気を患っていました。書き綴った小説文庫版の編集が終わった直後に病状が悪化し、発売3カ月前に逝去されました。
本作の衝撃的なタイトルも内容も、とてもリアリティで切実に訴えかけてくるものがあるのは、作者の実体験と自身の願いが込められているからです。
物語の中では病名は明かされていませんが、現在「肺動脈性肺高血圧症」と言われている難病だそうです。
原因も治療法も確立されておらず、物語の中で「10年以上生きた例はない」と茉莉が語っている通り、死と向き合う覚悟のいる怖ろしい病気なのです。
余命を10年と宣告されたら・・・果たして自分ならその10年という年月をどう生きるでしょう。
10年を長いと感じるか短いと感じるかは、それぞれ違うでしょうが、与えられた天命を主人公の茉莉は、悔いのないように生きて行こうと決心しました。
でも恋はしない。恋をしたら相手も苦しめるし、自分ももっとツラくなる。そんな健気な決意も、無邪気に茉莉に声をかけてくる和人の前に崩れ去ってしまいます。
好きにはならない、でもツラい。病気を発症した自分の運命を呪いながらも茉莉は精一杯残り、10年の限られた人生を全うしました。
最初から最後まで、茉莉と作者の現状がオーバーラップする物語『余命10年』。
ノンフィクションとして書かれているわけではありませんが、そのリアリティ感に涙があふれ出ます。
限りある人生をどう生きればいいのか。作品は鋭く問いかけています。
映画『余命10年』の見どころ
小説の映画化にあたり取りまとめたのは、第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』の藤井監督。
余命を知り、生きることに執着しないよう、決して恋だけはしないと心に決めていた20歳の茉莉と、生きることから逃げ続けている和人が出会ってお互いの存在がそれぞれの人生を変えていくさまを描き出します。
主役の茉莉を演じたのは、『溺れるナイフ』(2016)『坂道のアポロン』(2018)『糸』(2020)など、人気作に多数に出演する小松菜奈。
本作のために減量をしながら、約1年かけて季節を追いながらの撮影に臨んだと言います。
余命宣告を受けた茉莉をどう演じればいいのかと悩みながら、“その人が生きている過程をどう生きてあげるか。生きている証をどう刻むのか”と思い、自分が彼女の人生を生きようと覚悟したそうで、まさに、茉莉になり切った1年間だったと言えます。
原作者自身の病魔に対するやり場のない怒りや運命を受け入れる諦めに似た胸中も察せられ、茉莉になりきる小松菜奈ならではの演技を期待します。
また、そんな茉莉に恋をする青年和人は、『今夜、ロマンス劇場で』(2018)の坂口健太郎が演じます。
彼は、茉莉と出会ってから徐々に声や顔、目つきまでも変化させ、和人という難しい役柄を演じ切ったと言います。この変貌ぶりもお見逃しなく。
茉莉亡き後、彼女の分まで生きようとする和人。和人が前向きの人生を送ってくれることこそが、茉莉の生きた証と言えるでしょう。
願わくば、短すぎる恋人同士の2人の輝いている瞬間をしっかりと瞼に焼き付けてほしいものです。
映画『余命10年』の作品情報
【公開】
2022年公開(日本映画)
【原作】
小坂流加:『余命10年』(文芸社文車NEO)
【監督】
藤井道人
【脚本】
岡田惠和、渡邉真子
【音楽・主題歌】
RADWIMPS
【キャスト】
小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理、黒木華、田中哲司、原日出子、リリー・フランキー、松重豊
まとめ
「涙より切ない」と言われる恋愛小説『余命10年』をネタバレ有りでご紹介しました。
主人公・茉莉は難病に侵されて余命宣告されます。自分の残された時間を大切にしているつもりなのに、平凡でないことに涙が流れる日々……。
覚悟を決めて生きる茉莉の姿が痛々しく、命の重さ、病気の無常さ、生きることの意味が問われます。
同じ病を患っていた作者の「本当の想い」が伝わる作品でもある、映画『余命10年』は2022年3月4日(金)に全国公開!