連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第86回
韓国映画『ひかり探して』が、2022年1月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開されます。
本作は、『10人の泥棒たち』のキム・ヘスと『パラサイト 半地下の家族』のイ・ジョンウンが初共演したヒューマンドラマです。
遺書を残して絶壁から消えた少女の捜査をする一人の女性刑事。孤独な少女の境遇を知るにつれ、感情移入する刑事でしたが……。
韓国を代表する実力派俳優のキム・ヘスを主役に迎え、女性中心の叙事と彼女たちの特別連帯をじっくりと描き出します。
映画『ひかり探して』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【原題】
The Day I Died: Unclosed Case
【脚本・監督】
パク・チワン
【撮影】
チョ・ヨンギュ
【編集】
キム・サンボム
【キャスト】
キム・ヘス、イ・ジョンウン、ノ・ジョンイ、キム・ソニョン、イ・サンヨプ、ムン・ジョンヒ
【作品概要】
映画『ひかり探して』は、行方不明の少女を自殺として事務処理をする捜査をはじめた刑事が、少女の過去を捜査する姿を描いています。
監督・脚本は本作が長編デビュー作となるパク・チワン。『10人の泥棒たち』(2012)のキム・ヘスと『パラサイト 半地下の家族』(2019)のイ・ジョンウンが初共演。
第57回百想芸術大賞で映画部門の最優秀脚本賞受賞し、第42回青龍映画賞では、新人監督賞を受賞しました。
映画『ひかり探して』のあらすじ
韓国の小島にて。台風が吹き荒れるある日の夜、高校生のセジンが遺書を残して離島の絶壁から身を投げました。
休職を経て復帰した女性刑事ヒョンスは、セジンの失踪を自殺として事務処理するため島に向かいます。
セジンの両親は幼い頃に離婚しており、実母とは音信不通。実兄は罪を犯して服役中で、父親がある犯罪に加担したため、セジンは重要参考人となっていました。
父親が再婚した継母とは仲良くしていましたが、父親の犯罪が発覚してからは、彼女とも連絡が取れない状況になりました。
まだ高校生のセジンは、親族の依頼のもと、島で監視下におかれた生活をすることになったのです。
ヒョンスは、連絡が途絶えたセジンの家族をはじめ、セジンの保護を担当した元刑事、セジンを最後に目撃した言葉を話せない女性らを通じて、セジンがとある犯罪事件の重要参考人だった事実を知りました。
ヒョンスは、たった一人孤独で苦悩していたセジンの在りし日に胸を痛めます。
捜査を進めていくにつれ、自身の境遇と似ているセジンの人生に感情移入するようになり、上司の制止を振り切って、ヒョンスは次第に捜査に深入りして行きます……。
映画『ひかり探して』の感想と評価
刑事と目撃者と重要参考人
映画『ひかり探して』には、重要な役割をする3人の女性が登場します。まずは、あることから休職していた刑事のヒョンス。
事件の重要参考人として保護観察下に置かれていた少女セジンの失踪を自殺として事務処理するために、捜査を始めます。
ですが、たった一人で島で生活する孤独なセジンの心の内が分かるにつれ、ヒョンスは自分のことのように考えてしまいます。
台風の日に絶壁から海に飛び込んだと思われるセジン。遺書も見つかり、波にさらわれて死体は上がらないから自殺と処理されます。
でも本当にそうなのでしょうか。監視カメラに映る、カメラに向かって敵対心を露わにしたセジンの様子からヒョンスは何かを感じ取ります。
ヒョンスが目を付けたのは、セジンの住む家の家主の女性です。彼女は農薬で喉がつぶれて言葉が話せませんが、独りぼっちのセジンを可哀想に思っていました。
生前のセジンの最後の目撃者として、ヒョンスは何度も彼女と会って情報を得ようとしました。
そしてストーリーの渦中の人、少女・セジン。彼女こそ、何の罪もないのに家族を引き裂かれ、家も財産も全て失って、保護観察下で孤独な暮らしをしている、不幸な少女です。
物語は女性3人の生き様をそれぞれの立場からの視線で描き出します。
制作スタッフの想い
監督・脚本を担当したのは、新人のパク・チワン。
オリジナル脚本に心を動かされたキム・ヘスやイ・ジョンウンらの賛同を得て、シナリオ初稿から8年を経て作品を完成させたそうです。
事件を捜査する刑事ヒョンス役には、韓国のトップ女優キム・ヘス。信じていた人生が壊れてしまった役どころのため、撮影はノーメイクで挑み、渾身の演技を見せました。
また『パラサイト 半地下の家族』で裕福な家の家政婦役を演じたイ・ジョンウンが、言葉を話せない家主の女性役としてヘスと初共演。
実力派の俳優同士が、一人の少女のことを考えて対峙する場面は、筆談や表情だけの演技でそれぞれの胸の内を明かしますので、お見逃しのないように……。
渦中の人物・セジンは、子役時代から高い演技力が評価されていたノ・ジョンイが務めます。
行き場のない悲しみや苛立ちを無理に抑え込んだりいきなり爆発させたりと、感情の起伏の激しい役どころを、自然体で演じているから驚きます。
女性3人の主要キャストのリアルな演技が光る本作。
「人と人との関わりが生きる希望となる物語を描きたかった」と語っているパク・チワン監督ですが、その願いはしっかりと叶えられたと言える作品です。
まとめ
『パラサイト 半地下の家族』の米アカデミー賞受賞以来、世界的に関心が集まる韓国映画界。
原作小説と共に日本でも圧倒的な支持を得た『82年生まれ、キム・ジヨン』(2020)や、数々の映画祭で絶賛された『はちどり』(2020)が挙げられます。
そしてネットフリックスで依然として高い人気を博しているドラマ『愛の不時着』(2019)や『椿の花咲く頃』(2019)など、女性が中心の物語と女性同士の特別な連帯を描いた作品も好評です。
女性監督や女性映画人たちの台頭が高い注目を集める中に、本作『ひかり探して』も加わることでしょう。
韓国映画『ひかり探して』は、2022年1月15日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開!
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。