連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第28回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは、お笑い芸人・つぶやきシローの小説『私はいったい、何と闘っているのか』です。この度、安田顕を主演に迎え映画化となりました。2021年12月17日(金)、全国公開予定です。
井澤春男、45歳。スーパー勤務25年にして万年主任。愛する家族のために日々奮闘しています。
春男の脳内は忙しく、常に空気を読み気を遣いまくった挙句、良かれと思ってしたことは裏目裏目に出てしまう。そんな空回り人生を送る春男に、店長昇進のチャンスがやってくる。
主演・安田顕、監督・李闘士男、脚本・坪田文と、映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』の製作チームが再び集結しました。
中年男の哀愁ただよう日々をコミカルに描いた作品『私はいったい、何と闘っているのか』。映画公開に先駆け、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
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CONTENTS
映画『私はいったい、何と闘っているのか』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
つぶやきシロー
【監督】
李闘士男
【キャスト】
安田顕、小池栄子、岡田結実、ファーストサマーウイカ、SWAY、金子大地、菊池日菜子、小山春朋、田村健太郎、佐藤真弓、鯉沼トキ、竹井亮介、久ヶ沢徹、伊藤ふみお、伊集院光、白川和子
『私はいったい、何と闘っているのか』のあらすじとネタバレ
井澤春男、45歳。好きなみそ汁の具は、なめこ。妻の律子、長女の小梅、次女の香菜子、小学生の長男・亮太の5人家族です。
地元に愛されるスーパー「ウメヤ」に勤務して25年。万年フロア主任の春男でしたが、上田店長からの信頼は熱く、「春男はこのスーパーの司令塔だな」とかけられた言葉を励みに日々精進していました。
スーパー「ウメヤ」には他にも、春男の可愛がっている品出しリーダーの金子君、真面目で理性的な女性社員の高井さん、パートの賑やかなおばちゃん達が毎日忙しく働いています。
上田店長の突然の訃報が届いたのは、棚卸の数字が合わず万引きGメンを配置した矢先でした。
結局犯人は見つからず、店長なき職場は寂しいものとなりました。従業員の間では「次の店長は伊澤さんだね」という空気が流れる中、本社から店長としてやってきたのは西口という自分よりも年下の社員でした。
春男は日頃から「自分は店長の器じゃないよ」と周りに出世欲がないことをアピールしてきただけに、表では平常心を保っていましたが、内心は悶絶寸前です。
夜中の12時までやっている近所の行きつけの定食屋「おかわり」で、カツカレーを涙ながらに頬張るのでした。「それだけ食えれば大丈夫だ」。定食屋のおばちゃんが怖い顔でつぶやきます。
春男が「副店長」と微妙な役職に就いた頃、長女の小梅が「会って欲しい人がいるの」と言い出します。春男の脳内は大パニックです。
小梅の彼、梅垣聡はダンサーだという。「父親としての威厳を見せねば」。男なら誰でも飲みたくなる憧れのブランデー、ヘネシーをさり気なく見える所に飾ることにしました。
一緒に飲みかわせば「お父さんみたいな大人になりたいです」ときっと彼は尊敬のまなざしで自分を見ることだろう。春男の妄想は止まりません。
やって来た梅垣ことガッキーは、シュッとしたイケメンで伊澤家の女性陣には大人気。しかも高収入ときた。テネシーには目もくれず、あっさり結婚の承諾を得て帰っていきました。
春男は密かにとある計画を進めていました。それは、息子の亮太をプロのスポーツ選手へ育て上げることです。
しかし、亮太は親に似て鈍足でした。そこで春男は策を講じます。大谷翔平さながらの二刀流です。ただし、野球のキャッチャーと、サッカーのゴールキーパーという花形には遠いポジション狙いです。
将来、プロとなった亮太の父親として子育てのコツを聞かれた時、どう答えるかもシュミレーション済みです。
父親として、補欠で苦しむ亮太にやってあげられることはないだろうか。監督へのアピールが足りないと感じた春男。流しそうめんの差入れを思いつきます。
練習の後はさっぱりとしたそうめんが一番。しかも、流れてくるそうめんを皆で食べたら楽しい思い出になるだろう。「亮太くんのお父さんって楽しい人ですね」。脳内では賞賛の声が鳴り止みません。
大量のそうめんを茹で、流し水と竹を車に積み込み、いざ練習場へ。そうめん台の組み立てに手間取っているうちに、ボールが飛んできて破損、ついに雨も降り出しました。「帰ろう」。亮太は笑って手を引いてくれました。
映画『私はいったい、何と闘っているのか』ここに注目!
お笑い芸人・つぶやきシローの小説2作目『私はいったい、何と闘っているのか』。ムカついたこと、愚痴をつぶやく芸風でお馴染みのつぶやきシローが、中年男の脳内妄想を描き出します。
主人公の伊澤春男は一見物静かな男ですが、その脳内は忙しく戦場のように荒れまくっています。
常日頃、周りの目を気にして、仕事仲間には気を遣いまくり、家庭では妻や子供たちに好かれようと必死です。良かれと思ってしたことは裏目に出るばかりです。
理想と現実とのギャップに疲れ果て、「いったい自分は何と闘っているのか」と嘆かずにはいられません。
春男の空回りっぷりに、可哀そうだけど笑ってしまいます。そして、「分かるー」と春男に共感、いつしか「ガンバレ春男」と応援の気持ちが湧いてきます。
映画化では主人公・春男を演じるのは、シリアス演技からコミカル演技まで技が光る安田顕。原作のイメージにぴったりな配役に期待が高まります。その他にも映画化で注目する点を紹介します。
伊澤春男、店長への道
仕事は真面目で人のサポートが上手く皆に優しい、でもなかなか昇進できない。そんな哀愁漂うお父さん、周りにはいませんか。
出世欲を表に出さなくても、家族のためにスーパーの店長を密かに夢見る春男は、湧いて出た店長候補の話に一喜一憂。はやる気持ちを隠せません。
スーパー「ウメヤ」の司令塔として、自分より年下の新店長のために裏工作をしたり、パートの不正を更生させようと策をめぐらせたり、人一倍忙しく動き回ります。
しかし、そう上手くいかないのが春男の人生。信頼していた後輩には先を越され、従業員の鬱憤の受け皿になり、とんでもない誤解までされてしまいます。
果たして春男はスーパー「ウメヤ」の店長になることが出来るのでしょうか。春男の激化していく脳内妄想に注目です。
伊澤家の事情
物語の途中で春男と妻の律子との馴れ初めが入ります。これもまた春男の妄想かと勘違いしてしまいそうな程、ツッコミ所満載です。
愛ゆえなのか、ただのお人好しなのか、律子と2人の子供を丸ごと面倒を見る決意をした春男。過度な愛情は時に煙たがられるものです。
娘の彼氏に父親の威厳を見せようと張り切ったすえ、人気も年収も負けてしまう春男。息子の将来を考え奇想天外の二刀流を試みるも、スポーツ少年団では浮いたお父さんになってしまったり。
そんな良い所を見せられない春男に、家族は呆れもせず付き合ってくれます。色々やり過ぎてしまう春男のことを、家族はちゃんと理解し最後には励ましてくれます。
物語の雰囲気がただ単に悲惨な男の人生にならないのは、温かい家族の対応で優しい気持ちになるからです。
映画化では妻の律子を小池栄子が演じます。妄想の中に引きこもりがちな春男を叱咤激励し、現実に引き戻してくれる妻と伊澤家の面々に注目です。
まとめ
つぶやきシローの小説『私はいったい、何と闘っているのか』を紹介しました。空回り人生の主人公・春男に笑って怒って共感し、人生は辛いこともあるけど嬉しいこともある、人生って悪くないなと思える作品です。
人に気を使っていたようで、実は気を使ってもらっていたのは自分だったのかもしれません。見方を変えれば、自分は人から優しさを受けているとも言えます。
想像した通りにならなくても、ポジティブに受け止め現実を受け入れて行く春男の姿勢に、見習うべきところがあるように思います。
安田顕を主演に迎えての映画化は、2021年12月17日(金)全国公開予定です。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は、伊吹有喜の小説『今はちょっと、ついてないだけ』です。玉山鉄二主演で映画化、2022年春公開予定です。
かつてフォトグラファーとして活躍した立花は、バブル崩壊後人生は下降、すべてを諦め生きていました。
40代になり再びカメラを構え、人生をやり直そうと状況した立花。シェアハウスで出会った人たちは、立花と同じ人生に敗れた者たちでした。
映画公開の前に、原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。