美人四姉妹を豪華キャストが描く『海街diary』
映画『海街diary』は、吉田秋生の人気コミックの映画化作品です。
鎌倉で暮らす3姉妹の元に、15年前に出て行った父親の訃報が届き、葬儀に参加していた異母妹を家に引きとったことによって巻き起こる家族のドラマを描いたヒューマンドラマです。
監督は、『そして父になる』(2013)や『万引き家族』(2019)『真実』(2019)などの是枝裕和。
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという日本を代表する女優が4姉妹を演じています。
映画『海街diary』の作品情報
【公開】
2015年(日本映画)
【監督】
是枝裕和
【キャスト】
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、加瀬亮、鈴木亮平、池田貴史、坂口健太郎、前田旺志郎、キムラ緑子、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、大竹しのぶ、中村優子、清水一彰、平田薫、
【作品概要】
第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞やマンガ大賞2013を受賞した吉田秋生の人気コミックの映画化作品。
第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本アカデミー賞では最優秀作品賞、監督賞、撮影賞、照明賞の4冠受賞しています。
撮影賞を受賞した瀧本幹也は、是枝作品の『そして父になる』(2013)で初めて映画の撮影を務めて日本アカデミー賞撮影賞を受賞しました。写真家として活動したのち広告ポスターやTVCMなどの映像作品も手がけています。
映画『海街diary』あらすじ
幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)は鎌倉で3人で暮らしていました。
15年前に出て行って再婚した父親の訃報を受けた3人は、山形で行われる葬儀に参列することになりました。電車に乗って最寄り駅に到着した佳乃と千佳を迎えに、異母妹のすずがやってきました。
すずは、父親の1度目の再婚相手で、現在は2度目の再婚相手の義母と共に暮らしていました。幸も後から式に駆けつけて現在の妻らと挨拶を交わしました。
葬儀からの帰り道、幸らを追いかけてすずが父親らとの写真を手渡しに来ました。幸らが子どものころに家族で行った花火大会や江の島に行ったときの写真でした。
立ち去ろうとするすずに、幸は町で一番好きな場所に案内してと頼みます。
海を見渡せる丘の上に連れてきたすずは、父親とよく来たのだと話しました。そして、父の晩年の介護をしてくれたのだろうすずに、幸らはお礼を伝えました。
そして、帰りの電車が出発する寸前に、幸はすずに私たちと一緒に鎌倉で暮らそうと提案し、すずは驚きながらも「行きます」と返事をしました。
すずが鎌倉の家へと引っ越してきて新生活が始まります。すずはサッカー部だったことを聞いて、千佳の彼氏らしき、職場の店長浜田にサッカーチームに入ることを勧められました。千佳と浜田はチームのサポーターをしています。
サッカーの試合の後、海猫食堂で体育教師やサッカーチームのメンバーらと昼食をとります。千佳らが小さなころからお世話になっている食堂のおばさんの二ノ宮さんと挨拶を交わしました。
すずは、にぎやかな幸らとの暮らしに少しずつ馴染んでいきました。
幸は職場の病院の小児科医である椎名(堤真一)と不倫関係にありました。彼の家に行って夕飯を作って一緒に食べた幸。
次のデートの約束が、妻の母親の様態が悪いためキャンセルになってしまい、幸は複雑な表情で帰宅します。
家に入ると、サッカーの試合のお祝いで千佳と少しお酒を飲んだすずが酔いつぶれていました。義母や父への不満を口にするすずを3人で介抱し、夏になったら庭の梅をとってお酒抜きの梅酒を作る約束をました。
海に遊びに行った4人。帰りに海猫食堂に食事に行きました。
銀行の受付から融資課に異動した佳乃は、上司の坂下(加瀬亮)と外回りに行った帰りに海猫食堂に寄り、二ノ宮さんが遺産相続の件で弟から店を受け渡すよう言われ、困っているという件について相談を受けました。
仲の良い二ノ宮とパートナーの福田(リリーフランキー)は、今度花見に一緒に出かける約束をしていました。
すずはサッカーチームの風太(前田旺太郎)と仲良くなり、周りの同級生らと一緒に福田が経営する山猫亭にしらすトーストを食べに行きました。
父親とふたりの頃、よく作ってくれたことや病院でお花見をした思い出を話します。
幸らには話しづらい父親の話を風太は聞いてくれて、すずを桜のトンネルに連れていきました。自転車にふたりで乗って、走り抜けました。
夏のある日、梅の木から梅の実を収穫しました。お母さんが生きていた時に、おじいちゃんが植えたその木は、樹齢55年でした。
そこに突然電話がかかってきました。それは、祖母の7回忌に幸らの母親が札幌から14年ぶりにやってくる知らせでした。
1周忌も3周忌にも来なかった母親が今になって来ることに対して懐疑的な幸は愚痴を漏らします。
翌日の法要にて、参加することをすずは恐縮しながら当日参加しました。実母(大竹しのぶ)と大叔母(樹木希林)らと挨拶を交わしました。
式の後、母親が幸らが住んでいる家を売ることを提案しだしたので、幸は溜まっていた母への愚痴があふれだし、口論になりました。
母が幸らを置いて出て行ったことに関して悪かったと思っているものの、浮気して出て行ったせいだ。と思わずはき捨てました。
叔母が仲裁したので、その場はおさまりましたが、その場にすずも居たのでわだかまりが残ったのでした。
その日の夜、幸はすずを呼んで一緒に夕飯の支度をしながら話をします。すずは、うちのお母さんのせいでごめんなさい、と伝えます。
「奥さんが居る人のことを好きになるなんて良くないよね」と言うすずに、幸は複雑な表情をうかべました。
翌日、家にお土産を持ってきた母と一緒に祖母の墓参りに出かけた幸。梅雨空のなか、梅酒づくりの思い出を2人で話します。
急いで家に梅酒をとりに戻った幸。今年の梅酒と祖母が漬けた最後の梅酒を母に渡し、たまには戻ってきたら、と伝えて札幌へと帰る母を見送りました。
千佳は祖母の味であるちくわカレーをすずと食べながら、自分はあまり父親との思い出がないからいつか話して聞かせてねと言いました。
すずは父親が釣りが好きだったという話を聞かせました。釣りをする千佳はとても嬉しそうにしていました。
仕事のあと、椎名の家に行った幸。海外転勤する椎名から妻とは別れるから着いてきてほしいと頼まれました。
帰宅して椎名とのことを打ち明けた幸は、佳乃から不倫を責められ喧嘩になってしまいます。部屋の外で聞いていたすずは千佳と佳乃と3人で幸のことを話したいと提案します。
映画『海街diary』の感想と評価
ドキュメンタリー作品でキャリアを積んだ是枝監督による漫画の映像化ということで、これまでの是枝作品とは趣向の違う作品となっています。
3人姉妹と、母親違いの妹がひとつ屋根の下で暮らすという非現実的な設定は漫画原作ならでは、です。しかも日本を代表する人気女優、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずの豪華共演によって誰もが認めるだろう美人姉妹の誕生。
現実離れしたその設定からは、是枝作品特有の身近にある物語という特色が薄れて感じられます。
しかし、母親役に大竹しのぶや、食堂のおばちゃん役に風吹ジュン。さらに、堤真一、加瀬亮、リリー・フランキーら錚々たる俳優陣や、是枝監督作品の常連である樹木希林の存在感が、作品を格上げしています。
移り変わる四季の美しさと叙述的な表現
本作の魅力のひとつは、移り変わる四季の美しさと登場人物たちを叙述的に映し出した映像の巧みさだといえます。
撮影を担当した瀧本氏は日本アカデミー賞で撮影賞を受賞しており、技術、センスの高さを本作を通して十分に感じることができます。
やわらかな陽の光や雨の音、潮の香りが漂ってきそうな空気を捉えた映像からは、鎌倉の四季折々の魅力を感じることができます。その景色の変化が登場人物の心境と重なり合うような、印象に残るシーンをふたつ紹介します。
ひとつ目は、幸役の綾瀬はるかが駅で母を見送った後に橋で空を見上げるシーン。紺色の半袖シャツと橋の欄干の赤がコントラストになっています。
幸の透き通るような白い肌が美しく映え、幸が母親とのわだかまりを少し解消した心境が表れたすがすがしい空気を感じられる場面となっています。
ふたつ目は、海辺で幸が不倫関係だった椎名と別れ、坂道を上るシーン。
青々とした力強い木々に囲まれた幸の表情は穏やかでした。一度振り返ったあと、ふっとかすかに笑顔を見せて歩きはじめます。
まるで、坂道と緑の力強さが、幸の人生を後押ししているかのようです。
それは、長年の恋人との関係を解消し、新たな仕事に挑戦することを決めた彼女の決意の表れを感じることができる場面でした。
食事で描く家族の絆
本作には、数々の食事シーンが登場します。すずを家に迎えてから、てんぷらそばを縁側で食べたり、鎌倉らしいしらす丼や、しらすトースト、庭で採った梅から作った梅酒などなど。
食卓は家族の象徴であり、そこには思い出がつきものです。鎌倉の一軒家で暮らす3人姉妹のそばには両親はいません。
しかし、過去の記憶とともにあるさまざまな食事メニューや食材が登場します。
その食事を作ったり食べたりすることで、過去を振り返り、出て行った父や音信不通だった母へのわだかまりから介抱される様子が描かれています。
中でも、夏帆演じる千佳がちくわカレーを作って、広瀬すず演じるすずと食べるシーンは印象的でした。
3人姉妹の末っ子だった千佳はあまり父親との記憶がないから、すずに父親との思い出話を聞かせてねと話します。
すずは、姉らの前で父親の話をすることを躊躇していました。自分の母親のせいで、父は姉たちを捨てて家を出て行ったので申し訳なさがあったのでしょう。
しかし、千佳からかけられた言葉によって肩の荷がおりたすずは、父がしらすトーストをよく作ってくれたエピソードを話すのです。
食事を通して描かれた家族の絆は、観る人にとって共感を呼びやすいものだと言えるかもしれません。
まとめ
日本を代表する人気女優4人の共演というだけでも見る価値はありますが、脇を固める豪華俳優陣の存在感と演技が本作には欠かせないものだといえます。
特に、海猫食堂のおばちゃんを演じた風吹ジュンは、4姉妹にとって重要なキャラクターです。また、あまり出演時間は多くないものの、大叔母を演じた樹木希林の演技はさすがのひとことです。
彼女が話しはじめるとそこに生活が見え、家族の空気が自然と生まれるように感じます。その存在感に注目して観てみるのもおすすめです。