Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

LGBTQ映画

Entry 2021/07/10
Update

映画『シャイニーシュリンプス』ネタバレ感想と結末あらすじの解説。実在するゲイの水球チームを題材にした感動ヒューマンコメディ

  • Writer :
  • 松平光冬

ゲイの弱小水球チームが“LBGTQ+版五輪”に挑戦!?

映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』が、2021年7月9日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開

フランスに実在するゲイの水球チームをモデルに、ユーモアで困難を乗り越えようとするメンバーが繰り広げる愉快なスポーツコメディを、ネタバレ有りでレビューします。

映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』の作品情報

(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

【日本公開】
2021年(フランス映画)

【原題】
Les crevettes pailletees

【監督・脚本】
セドリック・ル・ギャロ、マキシム・ゴヴァール

【編集】
サミュエル・ダネシ

【音楽】
トマ・クジニエ

【キャスト】
ニコラ・ゴブ、アルバン・ルノワール、ミカエル・アビブル、デビット・バイオット、ロマン・ランクリー、ローランド・メノウ、ジェフリー・クエット、ロマン・ブロー、フェリックス・マルティネス

【作品概要】
ゲイのアマチュア水球チームの奮闘を、実在するチーム「シャイニー・シュリンプス」をモデルに描いたフランス製スポーツコメディ。

本国では2019年5月に公開され、フランス語映画(続編を除く、2019年5月8日~5月12日/BOX OFFICE MOJO調べ)で初週動員数No.1を記録するヒットとなり、すでに続編の製作も決定ずみ。

主要キャストは『美女と野獣』(2014)のニコラ・ゴブ、『15ミニッツ・ウォー』(2019)のアルバン・ルノワール、『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)のローランド・メノウ。

実際にシュリンプスのメンバーでもあるセドリック・ル・ギャロと、コメディ映画の監督経験を持つマキシム・ゴヴァールが、共同で監督・脚本を手がけました。

映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』のあらすじとネタバレ

(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

50メートル自由形の銀メダリスト・マチアスは、来たる世界水泳大会への出場に向けて調整していました。

ところが、思うようにタイムが伸びないことについて質問したインタビュアーに苛立ち、ゲイを揶揄する発言をしてしまいます。

さらに、そのインタビュアーが実際にゲイだったことが状況を悪化させ、世界水泳への出場資格を失うことに。

マチアスは知人で水泳協会員のアンリから、再び資格を得るには、ゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」の臨時コーチとなり、彼らを3ヶ月後にクロアチアで開催されるLGBTQ+のスポーツ祭典「ゲイゲームズ」に出場させるのが条件と告げられます。

シャイニー・シュリンプスは最弱と評判で、メンバーも、「勝敗よりも楽しくプレイできればいい」という考えを持つ面々が揃っていました。

チームリーダーのジャンから、ゲイゲームズに出場が決まるまでの期間だけコーチしてくれればいいと言われたマチアスですが、差別発言のこともありメンバーは心を開いてくれません。

その一方で、父マチアスのコーチングに帯同した娘ヴィクトワールは、なぜかメンバーとウマが合います。

やがてレズビアンで構成される強豪チーム「ガチムチガールズ」との練習試合に臨んだシュリンプスは、完全に見下された上に、全く歯が立たず前半に大きくリードを許すことに。

あまりの不甲斐なさに、「バカにされたままで悔しくないのか」とマチアスに檄を飛ばされ奮起したメンバーたちは、的確なアドバイスもあって得点を重ね、勝利します。

この勝利を機にコーチングに時間を割くようになったマチアスでしたが、ジャンが密かに鎮痛剤を服用している姿を見てしまいます。

病を患っていることを元恋人のアレックスを含むメンバー全員に伏せているジャンに、マチアスは棄権を促すも、「化学療法か、残された時間を楽しむかの二択だ」として拒否されます。

マチアス自身の水泳タイムも徐々に縮まっていくとともに、シュリンプスの調子も上がっていき、ついにゲイゲームズの予選に進むことに。

条件を満たして、晴れて世界水泳の推薦枠を貰えると思っていたマチアスの元をアンリが訪ね、処分の一環として、ゲイゲームズの大会にも同行するよう命じられます。

3週間後にマルセイユで開かれる選考会で結果を出せばいいとアンリに説得され、マチアスはコーチを渋々続けることに。

(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

シュリンプスメンバーのダミアンがチャーターしてきた二階建てバスで、一同はクロアチアへ。

ところがその道中に立ち寄ったパーキングエリアで、新人メンバーのヴァンサンがドイツ人に絡まれ、ゲイを中傷されたことがきっかけで、チーム内でいざこざが発生。

一旦は多数決でクロアチア行きを止めるも、最年長メンバーのジョエルが独断でバスを運転し、無理やり合宿地へと向かいます。

合宿地に着いた早々、マチアスはアンリからマルセイユのレースが選考会から外れたため、世界水泳への出場の目途が無くなったとの連絡を受けます。

その夜、バーでシュリンプスメンバーがボニー・タイラーの「Holding Out for a Hero」を歌ってはしゃぐ傍ら、ひとり落ち込むマチアス。

そんな彼にジャンは、「シュリンプスのコーチとして成果を出し、世間の目を変えさせて推薦枠を得るしかない」と励ますのでした。

ジャンの言葉で気持ちを切り替えたマチアスは、試合への集中力を高めるため、カヌーに乗ってボールをパスするといった特訓を開始。

やがてゲイゲームズが開幕となり、特訓の甲斐あってシュリンプスは初戦のアメリカチームに快勝。

しかしその夜、勝利に上機嫌になったメンバーたちは、大会中はハメを外さないというルールを破って各国のLGBTQ+の選手たちが集うナイトプールに参加、酒とドラッグで浮かれまくります。

ジャンもアレックスとよりを戻しますが、病状の悪化を自覚するのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

開けて翌日、快楽に溺れまくったメンバーたちは試合に身が入らず、次戦のデンマークチームに惨敗。

「勝利のためには何かしらの犠牲を伴う」が信念のマチアスは、ルールを破った彼らに激怒してコーチを降りようとします。

ジャンはそんな彼を引き止め、「僕は1人で勝つより仲間と一緒に負けたい」と告げます。

準々決勝進出をかけ、次のクロアチアチーム戦に臨もうとした直前、チーム唯一の同性婚者のセドリックが、パートナーとの時間を大切にしたいとして突如帰国してしまいます。

選手が足りなくなり、絶体絶命のピンチとなったシュリンプスでしたが、マチアスは無言で水着に着替えます。

クロアチア戦は一進一退の攻防となり、同点のまま進みます。

延長戦に入る前、シュリンプスはジャンが遠投するボールをマチアスが敵ゴール前で受け取り、そのままシュートする策に。

ジャンは心臓の動悸が激しくなって息苦しさを覚えるも、必死でボールを投げます。

見事にマチアスがシュートを決め、シュリンプスは勝利しますが、意識を無くしたジャンはそのままプールの底へと沈んでいくのでした…。

数日後、ジャンの葬儀にマチアスやヴィクトワール、ジャンの両親、アンリ、そしてシュリンプスのメンバーが参列。

葬儀の最中、マチアスはアンリから世界水泳への推薦枠が与えられたと告げられます。

悲しみの弔辞を述べたアレックスは、ジャンへの追悼として『Holding Out for a Hero』を流し、メンバーらと共にダンスを踊ります。

マチアスやヴィクトワール、ジャンの両親らがその光景を見守りますが、一方でダンスを不快に感じ退席する者も。

アンリも「恥知らずな奴らだ」と口走りますが、マチアスは「黙れ」と一喝、「推薦枠はいらない」と告げてメンバーたちの勇姿を笑顔で見続けるのでした――。

映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』の感想と評価


(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

本作『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』は、世界最大のLGBTQ+のスポーツ祭典「ゲイゲームズ」への出場を目指す、ゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」の奮闘をコメディタッチで描きます。

ゲイを差別する発言をしてしまったオリンピック選手のマチアスは、コーチとなってシュリンプスのメンバーとぶつかり合いながらも、大会を通して自分らしさを表現しようとする彼らに少しずつ心を開いていく。

一方のシュリンプスのメンバーも、差別に遭いつつも、ポジティブに人生を謳歌する姿を見せつけることで共感を広げていきます。

監督であり、実在のシュリンプスのメンバーでもあるセドリック・ル・ギャロの「たとえ現実が厳しくとも、ユーモアが勝利する」という言葉が示すように、多幸感に満ちた内容となっています。


(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

「戦後も同性愛者は処罰の対象となっていて、1994年まで慰霊碑がなかった」――劇中でシュリンプスの最年長メンバーのジョエルが語るように、LGBTQ+の人々は常に差別や迫害の歴史に晒されてきました。

現在では、本作の舞台となるフランスを含む同性婚が認められた国も増え、LGBTQ+への理解は高まっています。

それでも、偏見や差別、誤解が完全に無くなったわけではありません。

それが顕著なのは、ラストでのジャンの葬儀で、メンバーが「Holding Out for a Hero」に乗ってダンスを踊るシーンでしょう。

「逆境と闘うヒーローが必要だ」という歌詞に合わせてパフォーマンスをするメンバーに、参列者は笑顔や手拍子をしますが、中にはそれに不快感を示す者もいます。

実はこのラストは、同じくフランスが舞台の、男性であることを隠してミスコンテストに参加する青年を描いたコメディ『MISS ミス・フランスになりたい!』(2021)と相通じるものがあります。

ネタバレになりますが、この作品では「美しさには性別も関係ない。自分の価値を他人に決めさせない」という信念に気づいた青年が、ラストで自分の正体を明かします。

その行為に拍手を贈る客もいる一方で、「非常識だ」と激怒して退席する客も少なくないという描写を、しっかりと映しているのです。

この2作品は、LGBTQ+への理解はあるが、かといって万人が彼らの主義主張すべてを受け入れたわけではないという現実を、オブラートに包むことなく描いている点に注目したいところです。

『MISS ミス・フランスになりたい!』(2021)

まとめ


(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS

本国フランスでは2019年5月に公開された本作は、続編を除くフランス語映画で初週動員数1位を記録するヒットとなり、続編の製作も決定しています。

監督を続投するセドリック・ル・ギャロによると、次の舞台は日本を想定しており、東京で開かれるゲイゲームに向かうシュリンプスの面々が、再び騒動を起こすというストーリーになるとか。

早ければ今秋にも日本ロケが開始予定とのことなので、愉快な彼らのファンになった方は、首を長くして待ちましょう。

映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』は、2021年7月9日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開



関連記事

LGBTQ映画

ネタバレ『エゴイスト』ラスト結末の感想評価とあらすじ。LGBTQ映画としてでなく“人生を共に生きるパートナー”としての家族

愛する人のために…。 愛は身勝手なもの…。 2020年、50歳の若さで亡くなられたエッセイスト・高山真の自伝的小説『エゴイスト』が映画化となりました。 ファッション誌の編集者として華やかな業界で働くゲ …

LGBTQ映画

映画『ユンヒへ』ネタバレ結末感想とラストの評価解説。韓国から小樽へ“手紙”がふたりの愛と人生を紐解く

韓国から小樽へ。心の奥にしまっていた恋の記憶を描き出すラブストーリー 韓国に住むシングルマザーのユンヒが受け取った一通の手紙。 手紙の差出人はかつてのユンヒの旧友であったジュン。20年以来の手紙には、 …

LGBTQ映画

映画『キンキーブーツ』ネタバレ感想と結末あらすじの解説。ドラァグクイーンと優柔不断な若社長が出会うハートフルコメディ

優柔不断な若社長×ド派手なドラァグクイーンのハートフルコメディ『キンキーブーツ』。 イギリスの田舎町の小さい靴工場の実話を基にジェフ・ディーンとティム・ファースが共同脚本。 『ロイヤル・ナイト 英国王 …

LGBTQ映画

映画『マイビューティフルランドレット』フル動画を無料視聴!あらすじと見どころ

1985年のLGBTをテーマに扱った青春映画『マイ・ビューティフル・ランドレット』。 演出はスティーヴン・フリアーズ監督が務め、初めはイギリスのテレビ局チャンネル4のために制作したテレビ映画だったが、 …

LGBTQ映画

映画『片袖の魚』感想評価とレビュー解説。水槽とクマノミに思いを馳せる自分を不完全だと思い込む“ある女性”の姿を描く

映画『片袖の魚』は2021年7月10日(土)より新宿 K’s cinemaで公開予定! 日本で初めてとなるトランスジェンダー女性の俳優オーディションを開催し、主役に選ばれたのはファッション …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学