小説『こちらあみ子』が井浦新と尾野真千子が両親役で実写化に!
小説『こちらあみ子』は、『むらさきのスカートの女』で第161回芥川賞を受賞した今村夏子のデビュー作。第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞をダブル受賞した作品です。
この小説が、主人公の「あみ子」の両親役に井浦新と尾野真千子を迎えて、実写映画化が決定しました。
風変わりなあみ子をはじめ、奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありさまを生き生きと描く物語『こちらあみ子』。
映画『こちらあみ子』は、2022年7月8日(金)新宿武蔵野館他全国順次公開。映画でも、あみ子への温かな励ましと応援エールが盛り込まれていることでしょう。
映画公開の前に一足早く、原作小説『こちらあみ子』をネタバレありでご紹介します。
小説『こちらあみ子』の主な登場人物
あみ子
田中家の長女。風変わりで、周囲から距離を置かれています。
のり君
あみ子が思いを寄せる少年。あみ子の母が開いている書道教室に通っています。
孝太(兄)
あみ子の2つ上の兄。幼い頃はあみ子の面倒をよく見ていたのですが、中学生になると不良になりました。
父
あみ子の父親。よくあみ子の面倒をみてくれる。
母
あみ子の母親(実は義母)。家で書道教室を開いています。
小説『こちらあみ子』のあらすじとネタバレ
あみ子は、自分を慕ってよく遊びに来る小学生のさきちゃんが遠くにいるのを見つけました。さきちゃんは、いつも竹馬に乗ってゆっくりやって来るのです。
あみ子はさきちゃんと遊ぶのが好きです。さきちゃんが笑えばあみ子も笑います。あみ子には前歯がありませんので、口を開けて笑うと、前に大きな穴があいたようになりました。
そのスカスカ感があみ子は気に入っているのです。
「歯、どうしたの?」とさきちゃんに聞かれたとき、あみ子は「のり君に殴られて折れちゃった」と言いました。
現在祖母と二人暮らしのあみ子ですが、15歳のときに祖母の家に引っ越すまで、田中家の長女として育てられました。
家では母が書道教室を開いていて、兄はそこに参加しています。しかし、あみ子は参加できず、教室をのぞくことも許されませんでした。
あみ子は、書道教室に通う同い年ののり君という少年に惹かれていました。あみ子はのり君と仲良くなろうと話しかけますが、のり君は全く相手にしてくれません。
10歳の誕生日、あみ子は父からトランシーバーをもらいました。あみ子は、今お母さんのおなかにいて近いうちに生まれてくる弟とスパイごっこをすると言って張り切ります。
12月になって、入院していた母が病院から帰って来ました。あみ子は「赤ちゃんは」と兄に聞きますが、兄は「……おらん」とだけ言います。あみ子の弟は死んでしまったのでした。
あみ子はそんな母を元気づけようと、弟の墓を作ることにしました。あみ子は、母の教室に通っていて字がうまいのり君に、立て札に字を書いてもらおうとします。
しかし、あみ子が手さげから出した土だらけの立て札は、人の畑に立ててあったものでした。
のり君はよその家のものじゃないかと怒りますが、あみ子は「弟のおはかって書いて」と言って聞きません。それから、あみ子はのり君に書いてもらった立て札を持って家に帰りました。
立て札を見た母はきっと喜ぶだろうとあみ子は思っていましたが、母はそれを見て泣き崩れてしまいました。あみ子には、母が泣いている理由が分かりませんでした。
そのころから、母はやる気をなくして書道教室をやめてしまいました。兄は家に帰らなくなり、家にはタバコの匂いが立ち込めるようになります。
小説『こちらあみ子』の感想と評価
主人公「田中あみ子」とは、何と奇妙な少女でしょう。見たまま、感じたままに遠慮も考えもなく、ぽんぽん言葉を吐き出すあみ子は、周囲から面倒に思われており、まともに相手をしてもらえません。
あみ子は人の気持ちになって物事を考えたり、場の空気を読んだりすることが苦手です。小学校にもあまり行かなかったせいもあり、とても世間知らずです。
しかも、一生懸命に話しかけているのに、誰もあみ子の話を真剣に聞いてくれず、一人で空回りをしているようなところがあります。それは、助けを求めてトランシーバーで話しかけているのに、応答がないのとよく似ています。
「トランシーバーに応答がないこと」は、そのまま「コミュニケーションから離れること」だと言えるのではないでしょうか。
あみ子目線で語られる本作で、あみ子が感じる家族の愛と学校の友人関係は、やはりちょっと歪です。
あみ子が特別な子どもだったから、普通では考えられない状況で起こる出来事が、切なくもありユニークでもありました。
流産した母を気遣おうとしてかえって古傷を悪化させてしまったあみ子。血の繋がらない母は、彼女をこれからどう扱って行けばよいのかわからなくなったことでしょう。
また、ストーカーのように自分の感情だけを押し付けるあみ子は、のり君にとっては脅威の的に違いありません。
確かにあみ子のような子どもはいることでしょう。こういう子たちは、人に迷惑をかけているとは全く思わず、浮いた存在になっていることすら、気がついていないのかも知れません。
暗くなりがちなストーリーですが、作者独特のユーモアセンスで、明るくめげないあみ子に描かれ、あみ子を応援したくなりました。
中学校を卒業したあみ子を祖母の家に預けたのは、せめてもの両親の愛情だったのでしょう。
誰を恨むでもなく、自分の置かれた境遇で自分なりの人生を生きる真っ直ぐなあみ子に、いつしか惹かれていきました。
映画『こちらあみ子』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
今村夏子
【監督】
森井勇佑
【キャスト】
井浦新、尾野真千子ほか
映画『こちらあみ子』の見どころ
小説『こちらあみ子』が映画化されます。
なんといっても気になるのは、風変わりなあみ子のキャスティングでしょう。あみ子をはじめ、あみ子の憧れるのり君や兄などの子役は、すべてオーディションで選ばれるそうです。
皆と同じでなければ距離が生まれる、ある意味残酷な子どもたちの世界観を、等身大のルーキーたちがどう表してくれるのかと、期待は高まります。
また原作にはない、ひとりぼっちのあみ子を優しく包み込むシーンがあるといいますから、世界には優しい人もいるという現実味が増します。
あみ子の両親には、滅多に怒らない優しい父に井浦新、書道教室を営むお腹に赤ちゃんがいる母に尾野真千子と、実力派のキャストが扮します。
優しく力強く生きる母親役をこなしてきた尾野真千子が、原作通りのあみ子から遠ざかる母を演じるのか、それともあみ子を元気づける母となるのか、興味深いところです。
まとめ
今村夏子原作の映画『こちらあみ子』は、あみ子役をはじめ、子供たちの主要キャストは純粋さや素直さをなるべく自然体で表現するべく、演技経験の有無を問わずオーディションにて選考されます。
監督は同じ原作者である今村夏子さんの映画『星の子』(2020)で助監督を務めていた森井勇佑。
あみ子を面白いヤツと思う監督ですから、あみ子への温かな想いが込められた映画作品となることでしょう。
本作は、2022年7月8日(金)新宿武蔵野館他全国順次公開です。