連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第62回
ロシアの忠犬パルマを描いた『ハチとパルマの物語』は、2021年5月28日(金)より、新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、MOVIX堺、MOVIX八尾、MOVIXあまがさき、MOVIX京都ほか、全国順次ロードショー予定です。
ロシアの空港で置き去りにされた犬のパルマは飼い主を待ち続けていました。
同じ頃、母を亡くし顔もろくに知らないパイロットの父親に引き取られた9歳の少年コーリャは、空港でパルマと出会います。寂しい心を持った者同士の犬と少年は、次第に絆を深めていきます。
ロシアの「忠犬ハチ公」といえるパルマの物語は、秋田県大館市の秋田犬保存会などの協力も得て、アレクサンドル・ドモガロフJr.監督が手掛けました。
主役となるコーリャ少年には映画初主演となるレオニド・バーソフが抜擢され、共演に『ソローキンの見た桜』のアレクサンドル・ドモガロフ、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』のビクトル・ドブロヌラボフ。
五輪金メダリストのフィギュアスケーター、アリーナ・ザギトワも本人役で出演し、日本からは渡辺裕之、藤田朋子らが参加しています。
1970年代の旧ソ連に実在した「忠犬パルマ」のエピソードを基に、犬と人間の関わりや親子の葛藤を描いた日露合作によるヒューマンドラマ『ハチとパルマの物語』をご紹介します。
映画『ハチとパルマの物語』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本、ロシア合作映画)
【監督】
アレクサンドル・ドモガロフJr.
【脚本】
アレクサンドル・ドモガロフJr.、村上かのん
【プロデューサー】
益田祐美子
【主題歌】
『愛の待ちぼうけ』堂珍嘉邦(AGレーベル)
【キャスト】
渡辺裕之、藤田朋子、アナスタシア、壇蜜、高松潤、山本修夢、早咲、アレクサンドル・ドモガロフ、レオニド・バーソフ、ヴィクトル・ドブロヌラヴォフ、阿部純子(友情出演)、堂珍嘉邦(友情出演)、アリーナ・ザギトワ(友情出演)
【作品情報】
1977年の旧ソ連時代。モスクワ国際空港で実際にあった「忠犬パルマ」のエピソードを基に、少年と犬の感動的な触れ合いを描いた日露共同製作作品『ハチとパルマの物語』。
脚本・監督はアレクサンドル・ドモガロフJr.が務め、『ソローキンの見た桜』(2019)を製作した益田祐美子がプロデュースしています。
主役のコーリャ少年には、映画初主演となるレオニド・バーソフ。そして、ロシアを代表する名優アレクサンドル・ドモガロフ、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2019)のヴィクトル・ドブロヌラヴォフをはじめとする熟練のキャストが脇を固めています。
さらに日本からは渡辺裕之、藤田朋子、壇蜜、阿部純子らが参加。また、フィギュアスケーターのアリーナ・ザギトワも本人役で出演します。
映画『ハチとパルマの物語』のあらすじ
秋田県大館市で、秋田犬の里オープニングセレモニーが開催されました。ロシアからコーリャという男性が、セレモニーに参加するために孫娘とやって来ました。
コーリャはテレビで流れる秋田犬の話題に目が留まり、自分の小さな頃の犬との忘れられない記憶を思い出し、孫娘に秋田犬を引き合わせに来たのです。
1977年、旧ソ連の空港。飼い主とともにプラハに行く予定だったジャーマンシェパードのパルマは、搭乗のための書類不備で乗機を拒否されました。
どうしてもプラハへ行かなければならない飼い主は仕方なく、こっそりパルマを滑走路に放ちます。
パルマは飼い主の乗った飛行機の後を追いますが、飛行機はそのまま大空へ飛び立って行きました。
その頃、9歳のコーリャ少年が飛行機で空港に到着。
彼は母親を亡くし、顔をよく知らないパイロットの父親・ラザレフに引き取られたのですが、母を失った悲しみとこれから始まろうとしている良い思い出のない父親との生活が嫌でたまりません。
ふてくされて空港に降りた時、空港のスタッフがパルマを捉えようとする騒動に気がつき、パルマを助けます。
コーリャとパルマの様子を知り、彼らに理解を示した飛行機整備士のセルゲイが、彼らを保護する形でとりあえずその場は治まりました。
それからパルマは空港に住み着きます。コーリャとパルマはお互いの寂しい気持ちが分かりあえ、すぐに仲良しになりました。
パルマは毎日滑走路で飛行機を見ています。飼い主が乗った飛行機イリューシン18機の到着だけを正確に察知し、タラップまで出迎えに行きます。
ある日、空港に日本人に連れられた秋田犬が現れました。
飛行機への搭乗を待つ秋田犬にパルマは仲間を見つけたかのように走り寄りますが、その傍らには優しい主人がいました。
2人を見送るパルマの眼に、この上ない寂しさが宿っていることにコーリャは気付きます。
「飼い主のもとへ戻してあげたい」と、コーリャは行動を起こし始めます。
その熱意はいつしか父親との距離も縮めることになり、ついにマスコミにパルマのことを報道してもらえるようになりました。
多くの人の協力と理解を得て、パルマが飼い主の帰りを待ち続ける姿はやがて空港のシンボルとなり、人々の心を打つようになったのですが……。
映画『ハチとパルマの物語』の感想と評価
パルマが築く人と人との絆
空港に置き去りにされた犬がひたすら飼い主を待つ物語の本作。言葉を話せない犬が、どうしようもない寂しさを眼差しや動作で表現するのを観ると胸が締め付けられます。
また、愛する人から置いて行かれたという境遇は、コーリャ少年も同じでした。少年の母親は死に、それまでほとんど会ったことのない父親と暮らすのはとても苦痛でした。
求める人は違っていても、コーリャとパルマの寂しさを抱えた胸の内は誰よりもお互いがよくわかったのです。
犬であるパルマは飛行機が着くと出迎えに行くことしかできません。コーリャはパルマを飼い主に会わせてあげたい一心で、自分の気持ちを素直に父親にぶつけます。
父親もそれまでは自分の夢しか頭にありませんでしたが、パルマとコーリャの姿を見て次第に考えを変えていきます。
自分のことしか考えられない大人たちに人間の本質が見えて辛くなりますが、コーリャの必死の思いが通じて、周囲の協力も得られるようになっていく展開に胸をなでおろします。
そして何よりも心に響くのは、コーリャがパルマの飼い主にあてた手紙です。飼い主を慕うパルマの気持ちを切実に訴えた内容に、誰もが心を動かされることでしょう。
置き去りにされたたった一匹の犬が、周囲の人々を優しい気持ちにさせ、その絆を深めていきます。
物語の背景
日本の「ハチ」物語は1925年のこと。東京の渋谷には、急死した飼い主が忘れられずに毎日のように駅まで迎えに行く秋田犬・ハチの姿がありました。
忠義心を尊ぶ人々は、これぞ忠犬だとばかりに、渋谷駅前に「ハチ公」像を建てて、ハチの飼い主を慕う心を称えました。
ハチの種族である秋田犬は天然記念物にも認定されている大型の日本犬。もともと、秋田犬は、忠誠心が強く温厚で、命令にも素直に従うことで知られていました。
本作に登場するパルマはシェパードですから種類が異なりますが、それでも飼い主を一途に慕い続ける心は同じでした。
作中で日本から来た乗客が、コーリャ少年にハチの話をする場面があります。
コーリャもパルマとハチに共通する飼い主への忠誠心に感動し、このことが後に秋田犬との絆を求めて日本にやって来るきっかけとなったのです。
また主題歌は、ソロ・アーティストとしても活躍中のCHEMISTRYの堂珍嘉邦が手掛けました。
偶然の成り行きにしろパルマの置かれた状況を見事に表した歌が、この物語を一層味わい深いものにしています。
まとめ
日本の「ハチ」同様、ロシアにも「パルマ」という忠犬が実際にいました。
モスクワのヴヌーコヴォ国際空港の滑走路で、飼い主を忠実に待っていた犬・パルマ。映画『ハチとパルマの物語』は、パルマについて4度目の映像化になる作品と言います。
本作のプロデューサーは、日露戦争時代の捕虜と看護婦との恋愛を描いた日露共同制作映画『ソローキンの見た桜』を製作した益田祐美子。
日露をつなぐ第2弾として、奇しくも日露の両国に存在した「忠犬」を描いたそうです。
忠犬ハチといえば秋田犬。そしてロシアと秋田犬とワードが揃えば、頭に浮かぶのは、フィギュアスケートのアリーナ・ザギトワでしょう。
「マサル」と名付けた秋田犬を家族の一員として可愛がっている彼女が、本人役で出演しているのも見どころの一つです。
犬は飼い主を選べませんが、慕うべき人はわかります。
動物を責任を持って飼うことの大切さや慕われることの喜びが伝わって来る本作は、人間が犬と関わり、犬を通じて成長していく心温まるヒューマンドラマとなっています。
映画『ハチとパルマの物語』は、2021年5月28日(金)より、新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、MOVIX堺、MOVIX八尾、MOVIXあまがさき、MOVIX京都ほか、全国順次ロードショー予定です。