父との最期の日々を過ごすために集った3人の子どもたちを描くヒューマンドラマ
〈フランスのケン・ローチ〉と称えられる名匠ロベール・ゲディギャン監督の最新作『海辺の家族たち』が、2021年5月14日(金)より、キノシネマほかで全国順次公開されます。
マルセイユ近郊の海辺の家に、父との最期の日々を過ごすために集まった3人の子どもたちが、それぞれ胸に秘めた過去と向き合う様を、丹念にドラマ化しました。
映画『海辺の家族たち』の作品情報
【日本公開】
2021年(フランス映画)
【原題】
La Villa(英題:The House by the Sea)
【監督・脚本】
ロベール・ゲディギャン
【撮影】
ピエール・ミロン
【編集】
ベルナール・サシャ
【キャスト】
アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、ジャック・ブーデ、アナイス・ドゥムースティエ、ロバンソン・ステヴナン
【作品概要】
『マルセイユの恋』(1996)、『幼なじみ』(1998)、『キリマンジャロの雪』(2011)などが高く評価され、ベルリン国際映画祭や、ヴェネチア国際映画祭で審査員も務めたカンヌ国際映画祭の常連でもある名匠ロベール・ゲディギャン監督最新作。
自身が生まれ育ったマルセイユを舞台に、父との最期の日々を過ごすために集まった3人の子供たちと、漂着した難民の子供たちとの出会いを描き、「ゲディギャン監督の映画人生40年の集大成の傑作」として、さらに名声を高めました。
主なキャストは、ゲディギャン監督作の常連にして実生活での妻でもあるアリアンヌ・アスカリッドに、やはりゲディギャン作品の常連であるジャン=ピエール・ダルッサンとジェラール・メイラン。
そのほか、『ニキータ』(1990)のジャック・ブーデ、『タイム・オブ・ウルフ』(2003)のアナイス・ドゥムースティエに、『デルフィーヌの場合』(1998)のロバンソン・ステヴナンといった面々が脇を固めます。
映画『海辺の家族たち』のあらすじ
パリに暮らす人気女優のアンジェルは、20年ぶりにマルセイユ近郊の故郷へと帰って来ます。
彼女を迎えたのは、家業である小さなレストランを継いだ上の兄のアルマンと、最近リストラされて若い婚約者のヴェランジェールに捨てられそうな下の兄のジョゼフ。
3人が集まったのは、父が突然の病に倒れ、意識はあるもののコミュニケーションが取れなくなってしまったから。
家族の思い出の詰まった海辺の家をどうするのか、話し合うべきことはたくさんあったはずなのに、それぞれが胸に秘めた過去が、ひとつひとつ露わになっていきます。
昔なじみの隣人も巻き込み、家族の絆が崩れそうになったその時、兄妹たちにある事態が…。
映画『海辺の家族たち』の感想と評価
〈フランスのケン・ローチ〉と称えられるロベール・ゲディギャン監督は、出世作ともいえる『マルセイユの恋』や『幼なじみ』、『キリマンジャロの雪』などで、自身が生まれ育ったマルセイユ近郊を舞台とした作品を手がけてきました。
以前、「細い路地のひとつひとつまで知り尽くした町の方がやりやすいから」と、マルセイユで撮る理由を語っていたゲディギャンですが、本作『海辺の家族たち』では、マルセイユ近くのメジャン入江をメイン舞台に選んでいます。
「山腹に建つ、まるで外観しかないように見える色とりどりの小さな家々。それらを見渡す高架橋があり、そこを走る列車はまるで子どものおもちゃのようだ。海に向かって開けた光景が、水平線を背景…彩色されたキャンバスのように変えてしまう。冬の光の中、誰もいなくなったときには特にそう見える。メランコリックで美しい、使われていない舞台セットになるのだ」
ゲディギャンにとって「劇場のようだ」というこの入江で、とある家族と隣人や恋人も交えたドラマが綴られます。
主要人物となるアンジェル、アルマン、ジョゼフの3人兄妹は、突然の病に倒れた父の身を案じ、久々に顔を合わせるも、彼らは忌まわしき過去の出来事と、それぞれ抱える現在の問題が重なり、素直に再会を喜ぶことが出来ずにいます。
そんな寂れてしまった入江の町に、3人の難民の子どもたちが漂着します。
ゲディギャン作品においては、マルセイユという町も主役。
マルセイユは南フランス最大の港町ということもあり、地中海を通って各地の難民が集まってきます。
民族間の紛争から逃れるため、命がけで海を渡ってくる人々の中には、幼き子どもも含まれており、彼らは逃亡時に親と離れてしまったり、または大人からの迫害を避けて自ら国を離れるなど、理由もさまざまです。
難民・移民事情が絡むのもゲディギャン作品の特徴で、これは、彼の父親がアルメニア出身であることが関係しているでしょう。
旧ソ連から独立したアルメニアとアゼルバイジャンの2国は、カスピ海と黒海に挟まれたカフカス地方の南部にある地区ナゴルノ・カラバフの独立をめぐり、1980年代末期から長い紛争が続きました。
昨年11月10日に4回目の停戦合意となるも、累計で100万人以上の難民を生んだとされるこの紛争がもたらした人々の分断を、ゲディギャンは『Le voyage en Arménie(アルメニアへの旅)』(2006、日本未公開)や『Une histoire de fou(狂気の歴史)』(2015、日本未公開)で、父の故郷アルメニアを絡めて映像化しています。
人口の3割をイスラム系移民が占め、難民にとっては安住の地となりつつあるマルセイユの今を、ゲディギャンは映します。
まとめ
辛い過去と厳しい現在を抱える3人の兄妹は、難民の子どもたちとの出会いにより、思わぬ化学反応を生みます。
『マルセイユの恋』、『キリマンジャロの雪』などで、社会的に弱い立場の人々の人生を温かな眼差しで見つめ続けてきたゲディギャン。
本作が、彼の集大成と銘打たれている理由が分かることでしょう。
市井の人々の絆が生む未来の道しるべを、ご自身の目で確かめてください。
映画『海辺の家族たち』は、2021年5月14日(金)より、キノシネマほかで全国順次公開。