連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第33回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第33回は、続編の製作も決定したSF映画『第9地区』(2010)です。
激しい差別を題材とし現実でも行われた「アパルトヘイト政策」との共通点も多く発見できる本作は、第82回アカデミー賞において作品賞を含む4部門にノミネートされました。
今回はハリウッドのSF映画としては低い予算で製作された『第9地区』が、なぜ世界からの大絶賛を受ける作品となったのかを紐解いていこうと思います。
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CONTENTS
映画『第9地区』の作品情報
【原題】
District 9
【日本公開】
2010年(アメリカ映画)
【監督】
ニール・ブロムカンプ
【キャスト】
シャールト・コプリー、ジェイソン・コープ、デヴィッド・ジェームズ、ヴァネッサ・ハイウッド、ジョン・ヴァン・スクール、ユージーン・クンバニワ
【作品概要】
3Dアニメーターとして多数の作品に関わり、ショートフィルムの製作も行ってきた映像監督ニール・ブロムカンプが製作した長編作品。
主演を務めたのはニール・ブロムカンプ作品の映画に全て出演し、『ハードコア』(2015)などの意欲的な作品にも参加するシャールト・コプリー。
映画『第9地区』のあらすじとネタバレ
1982年、ヨハネスブルクに宇宙船が出現。
しかし、停泊した宇宙船からは数日経過しても何も音沙汰なく、政府の意向で調査員が宇宙船内に侵入します。
宇宙船の内部には栄養失調のエイリアンが多数生存しておりし、政府はヨハネスブルクに隔離区を設けエイリアンの支援を始めます。
研究者たちは宇宙船内に取り残されたエイリアンは働き蟻のような存在であり、彼らに命令を下す上位のエイリアンは既に病気か何かで死亡したのだと予測していました。
エイリアン隔離区「第9地区」は知能の低いエイリアンによってスラムと化し、近隣の住民によるエイリアン保護区に対する反対の声が広まり始めます。
宇宙船の出現から28年後、政府からエイリアンの管理と支援を任される企業「MNU」は、180万人のエイリアンをヨハネスブルク中心部から200キロ離れた地区に移動させる一大プロジェクトを始動させます。
エイリアンの移動に際し法的部分をクリアするため、「24時間前に文章で移動を通告し、本人のサインを貰う」任務の責任者にエイリアン課のヴィカスが就任。
傭兵を従え第9地区に入ったMNUの職員たちは、エイリアンの好物である猫缶を与え立ち退き書にサインを求めますが、複数の職員が負傷する小競り合いも発生してしまいます。
ヴィカスはエイリアン内に存在するギャングが取り仕切る小屋へと侵入し、研究所のような施設の中に隠されていた液体を保存した容器を開けてしまったことで、保管されていた液体を浴びてしまいます。
任務を継続するヴィカスは、クリストファー・ジョンソンと言う名前の地球名を持ったエイリアンの小屋に向かいます。
彼には子供がおり、ヴィカスは一目でクリストファーが他のエイリアンと違い頭が良いことを悟り、詳しく調査しようとしますが、急に吐き気を催してしまったことから調査を中断。
その日の任務がひと段落したヴィカスでしたが、家に帰ると体内から黒い体液を吐いてしまい気を失ってしまいます。
緊急入院した病院でヴィカスの腕がエイリアン化していることが判明し、ヴィカスは隔離された上でMNUによる調査が始まります。
MNUはヴィカスに非人道的な実験を繰り返し、人間では操作出来ないエイリアンの武器がエイリアン化しているヴィカスなら操作が可能であることを突き止めます。
徐々にヴィカスはエイリアンへと変身し始めており、武器の開発企業という顔を持つMNUの上層部は、彼の症状が金を産む卵だと判断し全臓器の摘出を計画。
MNUに自身を助ける意向がないことを悟ったヴィカスは、臓器摘出の手術時に拘束を解き、施設から脱走します。
ヴィカスの逃走の知らせを受けたMNUの上層部は、彼に対し傭兵のクーバスが率いる特殊部隊を差し向けます。
指名手配されたヴィカスは、ヨハネスブルク市内にいることが困難になり、第9地区へと潜入し一夜を過ごしました。
映画『第9地区』の感想と評価
ニール・ブロムカンプ監督だからこそ描けるリアルな差別
1948年からおよそ50年にも渡り、南アフリカ共和国では人種で人を区別する「アパルトヘイト政策」が国によって推進され、住む場所だけでなく生き方すらも政府によって徹底的に管理されていました。
本作では「アパルトヘイト政策」の影響を苛烈に受けたとされるソフィアタウンの近郊ヨハネスブルクが題材となっています。
劣悪な条件下に追い込まれたがゆえの、治安の悪化の街としても知られるヨハネスブルクはニール・ブロムカンプ監督の出身地でもあり、『第9地区』は「アパルトヘイト政策」の対象を人からエイリアンに置き換えた映画であることは明白です。
エイリアンの移動プロジェクトに責任者として取り掛かるヴィカスは、エイリアンの卵を悪戯半分に破壊したり、高圧的かつ侮蔑的な態度でエイリアンに接します。
ヴィカスが特別に性格が悪い訳ではなく、「人間として当然の態度」と言う政府による政策の意向が末端の人間にまで広まると言う、差別の形成までの工程をリアルに描いた本作。
ニール・ブロムカンプ監督は本作以降も『エリジウム』(2013)のように圧倒的な貧困格差を描いたSFを製作し、差別が生み出した格差社会に対するメッセージを発信し続けています。
シャールト・コプリーとニール・ブロムカンプ
ヴィカスを演じた俳優シャールト・コプリーはヨハネスブルクでの高校時代にニール・ブロムカンプと出会い、彼の3Dを用いた映画製作に対する気持ちに感化され、高校卒業後に映画制作会社を共同で設立。
本作『第9地区』への出演によって両者共に話題の人となって以降も、『エリジウム』や『チャッピー』(2015)などシャールト・コプリーはニール・ブロムカンプの長編映画に必ず出演しています。
高校からの友人であると同時に同僚でもある2人ですが、ニール・ブロムカンプによるシャールト・コプリーの起用はそのことだけに起因しているものではなく、彼の製作する映画の多くがスラムを題材にしている部分にあります。
ヨハネスブルクに生まれ育ち、少なからず「アパルトヘイト政策」の影響を目の当たりにしてきた2人だからこそ、SFでありながらリアルな差別を描いた世界観を作り上げることの出来たのです。
まとめ
2021年、ニール・ブロムカンプが主演のシャールト・コプリーと『第9地区』で脚本を共同で制作したテリー・タッチェルの3人で続編の脚本執筆に取り組んでいることを発表しました。
『District 10(原題)』と題された続編では、クリストファーがヴィカスに言い残した「約束の3年後」が描かれているのかが大注目となっています。
地球に帰還したクリストファーの取る行動が復讐なのか、それとも救出なのか。
本作を視聴済みの方は次作の展開を予想するために、そして未視聴の方は本作がSFを使って描き出した差別を題材とした世界観をぜひ鑑賞してみてください。
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