連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第23回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは人気小説家・原田マハの小説『キネマの神様』です。松竹映画の100周年を記念し、山田洋次監督が実写映画化。近日公開予定です。
人生の岐路に立った39歳の歩(あゆみ)。会社を辞めたその日に、趣味はギャンブルと映画鑑賞というダメ親父・ゴウが倒れ、多額の借金が発覚。
そんな時、ゴウの映画好きが高じて思わぬ仕事が舞い込む。「キネマ=映画」の神様が、壊れかけた家族に奇跡をもたらす物語。
父親ゴウ役は当初、志村けんが演じる予定でしたが、新型コロナウィルス感染症の肺炎により逝去されたことで叶いませんでした。代役には、志村けんとの交流もあった沢田研二が、その意思を受け継ぎゴウを演じます。
映画公開に先駆け、原作『キネマの神様』のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
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CONTENTS
映画『キネマの神様』の作品情報
【公開】
2021年(日本)
【原作】
原田マハ
【監督】
山田洋次
【キャスト】
沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子、リリー・フランキー、志尊淳、前田旺志郎
小説『キネマの神様』のあらすじとネタバレ
円山歩(あゆみ)の所属する会社は、オフィスと商業施設の複合開発に取り組む、国内有数の再開発企業です。
もともと映画好きだった歩は、シネマコンプレックスを中心とした文化施設の一大プロジェクトを任されるまでになっていました。
しかし40歳を目前に、歩は17年間務めた会社を辞める決意をします。根も葉もない噂で、プロジェクトが失敗し、左遷を言いつけられた歩は、自らキャリアも地位もいっさいがっさい捨てて、好きなように生きてみようと思ったからです。
歩が辞表を出した同日、一大事は一生に一回で十分なところ、父が倒れて入院することに。おまけに多額の借金が発覚します。
父親のゴウは、近所の雀荘で丸二日倒れるまでぶっ通しで麻雀をしていました。趣味はギャンブルと映画鑑賞。家族も見放すダメ親父です。
アパートの管理人をしていた父に変わり留守番を頼まれた歩は、ゴウが書いた管理人日記を見つけます。
そこには日々の仕事の内容と、その日観た映画の感想がびっしり書き綴られていました。ゴウは、一日3本ペースで映画を観ては、友達のテラシンが経営する映画館「テアトル銀幕」にも通っていました。
歩は、入院した父を心配をするテラシンを訪ねます。雑居ビルのあいだに小さく縮こまるように佇む「テアトル銀幕」は、旧作映画を主体に上映する名画座です。
看板には「ニュー・シネマパラダイス/ライフ・イズ・ビューティフルのイタリア感動名画、豪華二本立て!」と書いてあります。「良い組み合わせ。すごく、いい」。
歩は館内へと足を運びます。ぽつぽつと埋まる座席の中、真ん中の席が空いていました。テラシンが、ゴウのために空けて置いてくれる特等席です。
テラシンは言います。「ゴウちゃんは、映画館にはキネマの神様がいるって信じているんだ。早くゴウちゃんが帰ってくるよう、キネマの神様に祈っているからね」。
無事に退院したゴウでしたが、ギャンブルを禁止され気力を失くします。教えてもらったパソコンで、映画好きが集まるサイトに不器用ながらもメッセージを送り暇をつぶしていました。
ある日ゴウは、管理人日記に歩の書いた文書があるのを発見します。それは、歩の映画愛を綴った文章でした。感動したゴウは、その文章を映画サイトに投稿します。
そのサイトは映画雑誌「映友社」のウェブサイトでした。これがきっかけで、歩のもとに映友社の高峰社長から連絡が入ります。「うちの専属ライターになりませんか」。
映友社で働くことになった歩は、ゴウがウェブサイトに寄せた映画評論が評判になっていることを知ります。ウェブ担当から、ゴウのブログを開設したいと頼まれます。
ダメ親父にそんなことが務まるはずはないと反対する歩でしたが、仲間の協力を得て始めてみることにしました。
サイトの名前は「キネマの神様」。ハンドルネーム「ゴウ」が、キネマの神様に映画鑑賞の報告をするという形で進んでいきます。報告映画その1は、『フィールド・オブ・ドリームス』。
「キネマの神様」の評判はすこぶる良く、海外向けに翻訳したいという仲間も加わりました。英語版「キネマの神様」は日本版の10倍ものPV数を叩き出します。
そんな時、英語版「キネマの神様」のウェブサイトに、ゴウを挑発するようなコメントを寄せる人物が現れます。彼のハンドルネームは、「ローズ・バット」。
ローズ・バット(ばらのつぼみ)は、1941年公開のオーソン・ウェルズ監督作「市民ケーン」の冒頭に出てくる謎のキーワードです。ただ者じゃない。
ローズ・バットの評論は、誰をも唸らせる威力に満ち溢れていました。サイトは盛り上がり、ゴウとの今後のやり取りに期待が集まります。
映画『キネマの神様』ここに注目!
人気小説家・原田マハが、映画をテーマに描いた感動作『キネマの神様』を、『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』など松竹の看板映画を手掛けてきた巨匠・山田監督が映画化ということで、楽しみにしている方も多いと思います。
主人公でもあるゴウは、ギャンブル好きで家族にも迷惑をかけるダメ親父ですが、お茶目でユーモアがあり、情に熱く、無類の映画好きでもあります。
自由奔放でドジだけど、どこか憎めない愛されキャラ。「寅さん」や「浜ちゃん」に続く、新たなヒーロー誕生の予感です。
原作では、「キネマの神様」という映画ブログを通して、ゴウとローズ・バットの友情に重点を置いていますが、映画化ではどうやらローズ・バットは登場しないようです。
その代わり、ゴウと映画仲間であり、「テアトル銀幕」オーナーのテラシンとの、若かりし頃の物語が中心になります。
ゴウとローズ・バットとのやり取りが見られないのは少し残念ですが、映画ならではのもうひとつのストーリーに期待します。
映画が繋ぐ絆
原作『キネマの神様』は、実に映画愛にあふれた作品です。ゴウの無類の映画好きに始まり、ゴウと歩の親子の絆を繋いだ映画、シネコンと名画座の共存問題。そして、映画鑑賞の醍醐味をゴウとローズ・バットのやり取りで伝えてくれます。
病院のうるさい婦長には『カッコーの巣の上で』のラチェッド婦長を思い出すと悪態をついたり、キャリアウーマンだと思っていた娘に『ワーキング・ガール』『テルマ&ルイーズ』など女性主人公が活躍する映画を用意したりと、ゴウの引き出しの多さに笑いがもれます。
ゴウは、映画館で観る映画を大事にしていました。『ゴジラ』で暗い海からゴジラが出てくる手に汗握るシーンで、お母さんがお茶菓子を運んできたり、和むCMに切り替わったらゲンナリするではないかと。
また、原作ではゴウとローズ・バットの映画評論のやり取りが、本当に素晴らしく感銘します。
朴訥で真っ直ぐに好きなところを褒めたたえる文章は、ゴウの人柄がにじみ出ていました。そのゴウの評論に対し、茶化すように応戦するローズ・バット。こちらは映画評論のプロですから、時代背景や監督の想いを交え作品の裏側に迫ろうとします。
なかでも、『フィールド・オブ・ドリームス』のやりとりは、実に痛快で楽しい場面です。ゴウが「父と息子の絆」を語ると、「それは憧れに過ぎない。和解出来なかった親子の現実の物語」だとローズ・バット。それに対してゴウは「父とのキャッチボールを羨んでいるのは貴君ではないか」と応戦。
ローズ・バットは「ハゲ頭では無理かな?」などと攻撃的ですが、ゴウは「なんで小生がハゲているのを知っているのか!」と、素直に驚く始末です。
ゴウとローズ・バットは、映画談議を通して、かけがえのない友情を育みます。好きな映画を語り合える友がいる。そのことは、老いてからも人生に潤いを与えてくれました。
そして、ゴウの人生を楽しむ姿は周りの人たちにも伝染し、壊れかけていた家族の絆を再び修復させました。映画化では、どんな絆が描かれているのか注目です。
映画オリジナルストーリー
映画化では、ゴウ(沢田研二)とテラシン(小林稔侍)の若かりし頃をそれぞれ、菅田将暉と野田洋次郎が演じています。
また、ゴウの妻・淑子(宮本信子)の若かりし頃に、永野芽郁がキャスティングされています。淑子をめぐり、ゴウとテラシンが恋のライバルに!?。
原作ではゴウ、テラシン、淑子の若かりし頃のエピソードは登場しません。また映画では、ゴウは映画を撮ることが夢だったという設定になっていますが、原作では違います。
原作の世界観をそのままに、映画で盛り込まれた主人公たちの若かりし頃のエピソード。山田洋次監督だからこそ描き出せる、古き良き日本映画全盛期の様子が蘇ることでしょう。
まとめ
松竹映画100周年記念作品として山田洋次監督により映画化された、原田マハの小説『キネマの神様』を紹介しました。
「キネマ=映画の神様」が壊れかけた家族を救う、奇跡の物語。「人生に遅すぎることはない」と教えてくれます。
映画公開の際は、ぜひ映画館のスクリーンでお楽しみ下さい。隣の席にはキネマの神様が微笑んでいるかもしれません。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は、垣谷美雨のベストセラー小説『老後の資金がありません!』です。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲監督が、天海祐希を主演に迎え、豪華キャストで実写映画化。
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しかし、次から次へと降りかかる予期せぬ出費地獄。家計はあっという間に窮地に陥ります。「老後の資金がありません!」。
映画公開の前に、原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。
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