連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第17回
大晦日の年越しパーティーを舞台に、参加した若者達が直面した悲劇を描いた、ポーランドのダークコメディ映画『みんな死んだ』。
パーティーに参加した若者達の、それぞれのドラマを、毒のある笑いを盛り込みながら、群像劇で展開していきます。
酒と薬でハイテンション状態になった若者達に、一体何が起きたのでしょうか? 物語を深掘りすると、ある哲学的なテーマが見えてきました。
ジュリア・ヴィエニアヴァ・ナルキェヴィッチ他、ポーランドの若手俳優が揃いました。
【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら
映画『みんな死んだ』の作品情報
【公開】
2020年公開(ポーランド映画)
【原題】
Wszyscy moi przyjaciele nie zyja
【監督・脚本】
ヤン・ベルツル
【キャスト】
ジュリア・ヴィエニアヴァ・ナルキェヴィッチ、マテウシュ・ヴィエンツワヴェク、アダム・グラフ・トゥルチュク、モニカ・クジュフコフスカ、ニコデム・ロズビツキ
【作品概要】
大晦日の年越しパーティーに参加した若者達の、さまざまなトラブルが重なり、大惨事が巻き起こる様子を描いたダークコメディ。
Netflix映画『誰も眠らない森』(2020年)のジュリア・ヴィエニアヴァ・ナルキェヴィッチ他、ポーランドの若手俳優が集結しています。
映画『みんな死んだ』のあらすじとネタバレ
大晦日に若者が集まったパーティーで、参加者全員が死亡するという悲惨な事件が起きます。
事件を担当した刑事2人は、死亡の原因がそれぞれ違うことに疑問を抱きます。
ですが、この日が初現場となった新人刑事は、事件現場の悲惨さに気分が悪くなり、トイレで嘔吐します。
新人刑事は、自分が口を拭いた際に使用したトイレットペーパーに、何かの文字が書かれていたことに気付き、証拠品を消してしまったと、焦りを感じます。
ですがベテラン刑事は、そんな事は全く気にしていないようでした。
時は遡り、大晦日のパーティー当日。
ダニエルは恋人のアンジェリカを連れて、友人のマレクが開催したパーティーへ参加しました。
ですが、そこに呼んでもいないダニエルの姉が現れ、ダニエルは困惑します。
パーティーに参加した1人、アナスタシアは、恋人でラッパーのジョルダンが、自分にかまってくれないことに不満を感じていました。
アナスタシアは、パーティーのカメラマンを担当していたフィリップが、自分の写真ばかり撮影していたのに気付き、暇つぶしにフィリップを誘惑して、マレクの父親の書斎に連れて行きます。
パラヴェウは、20歳近く年上の女性グロリアとパーティーに参加していました。
パラヴェウは、グロリアに夢中ですが、グロリアはパラヴェウを子供扱いしており、1人でパーティーを楽しんでいます。
そんなグロリアに、女性に全く相手にされていない2人の男、ラファウとロバートが近付きます。
グロリアは遊び半分で、ラファウとロバートを2階の寝室に連れて行きます。
パーティー会場に大量のピザが届きます。
ピザを受け取ったマレクは、配達員に渡す現金が足りない事に気付き、先にピザだけ受け取って、配達員を外で待たせます。
一方、書斎ではフィリップがアナスタシアに言い寄っていました。
スピリチュアルにハマっているアナスタシアは「宇宙の真理」を語り、フィリップを拒否しようとします。
アナスタシアは、話を逸らすように、書斎でマレクの父親が収集している銃のコレクションを見つけ、一発外に向けて撃とうとします。
ですが、アナスタシアは銃の扱い方が分かりません。
フィリップは、アナスタシアに体を密着させながら、銃の扱い方を教えます。
すると、興奮したアナスタシアがフィリップにキスをしてきた為、フィリップは、そのままアナスタシアを押し倒します。
押し倒されたアナスタシアは銃を持ったままで、さらに銃の撃鉄が起こされた状態です。
アナスタシアは絶頂に達した瞬間、引き金を引いてしまい、銃が発砲されます。
書斎の外を歩いていたマレクに、アナスタシアが発砲した弾丸が当たり、マレクは死亡します。
映画『みんな死んだ』感想と評価
大晦日の夜に開催された、若者が集まるパーティーで起きた、あまりにも酷い悲劇を描いた映画『みんな死んだ』。
本作の物語の軸は、タイトルにもある通り「何故、参加者全員が死んでしまったのか?」という部分ですが、サスペンスのような仕掛けなどがある訳でなく、ラストの20分ぐらいで、いきなり皆が死んでいきます。
薬やアルコールでハイテンションになった若者達が、本能の赴くままに行動した結果、参加者全員が銃で撃たれたり、感電死しながら倒れていく光景は、本当に酷いのですが、本作を楽しむには、常識のハードルを下げる必要があります。
常識のハードルを下げると言うのは、人が死ぬのは悲しいし、良くない事であるというのは前提として理解したうえで、あえてモラルを捨てて本作を楽しむという事です。
そうすれば、実は本作にはユニークなメッセージが込められており、かなり真面目に作られている事が分かります。
本作の魅力は、多彩な登場人物が織りなす群像劇であるという点です。
恋人に相手にされなくなり、スピリチュアルにハマってしまったアナスタシア。
アナスタシアの恋人で、普段はアナスタシアの事を気にもしてないのに、裏切られた時だけ激怒するラッパーのジョルダン。
母親ほどの年齢差があるグロリアを好きになったパラヴェウと、そのグロリアの息子で、パラヴェウとグロリアの関係が受け入れられないフィリップ。
清純そうに見えて、激しい性交を求めていたアンジェリカと、その期待に応える為に、極端に性格が変化したダニエルなど、登場人物は本当に個性的で、それぞれのキャラクターが、現実世界にいそうなリアリティを持っており、極端にぶっ飛んでいないという、必ず誰かに親近感を抱いてしまうような設定になっています。
そんな個性的な人達が、パーティー会場で出会い、交わってしまったことで、前半では語られていなかった、意外な関係性が続々と明らかになります。
そこから、参加者全員が死んでいく怒涛のクライマックスに持ち込む展開は、かなり捻りがきいていて面白かったですね。
では、映画『みんな死んだ』に込められたメッセージは何かと言うと、それは配達員が遺した文書から読み解けます。
ピザの配達員は、医学を勉強している学生で、アルツハイマーの母親を救う為、治療の為の仮説を立てており、その仮説をトイレットペーパーに残しました。
そのトイレットペーパーに残した仮説も、新人刑事がトイレに流してしまうので、本当に酷い話ですが、この仮説には「化学反応」の定義が記されています。
「全ての生物は原子で構成され、それぞれの原子は性質ごとに分類される」「原子は相互に反応して化学反応を起こす」という内容です。
つまり、本作に登場する個性的な人物達が原子とするならば、さまざまな性質が集まったパーティー会場で、最悪の化学反応を起こしてしまった為、みんな死んでしまったという事です。
では、違う出会いを方をしていれば、幸せになる未来もあったのでしょうか?
本作のラストでは、唐突にアンジェリカとダニエルの結婚式が始まります。
パーティー会場にいた参加者たちは、参列者となり、全員が純白の衣装に身を包み、アンジェリカとダニエルを祝福します。
この世界では、全員が成功し、全員が愛に溢れている事が分かります。
この世界が何なのかと言うと、作中でアナスタシアとフィリップの会話に登場する「並行世界」です。
「並行世界」とは、現実とは違う結果が起きた、もう1つの世界という事で、パラレルワールドとも呼びますね。
人と出会い知り合うという、普段当たり前のようにやっている事は、実は「化学反応」のようなもので、結果的に最悪の事態に繋がるかもしれませんが、人と人が通じ合うという事で、大きな「化学反応」が起き、人生そのものを変える可能性があるのです。
映画『みんな死んだ』は、後半は本当に酷い展開が続きますし、こちらの常識のハードルを下げる必要がありますが、語られているテーマは非常に哲学的と言う、かなり不思議な作品です。
まとめ
映画『みんな死んだ』は、毒の強い笑いが印象的なダークコメディです。
ですが、群像劇として、かなり練り込まれた作品で、メインとなる全ての登場人物が、最初と最後では、印象が大きく変わる辺り、本当に丁寧に作り込まれている事が分かります。
作品のテーマを語るのが、脇役だと思っていたピザの配達員ですからね。
哲学的なテーマも併せて、制作スタッフは、真面目に作品へ向き合ったという姿勢が伝わってきます。
いろいろと酷い事が起きる作品ですが、その酷さを受け入れれば、笑えてしまう内容ですので、是非常識のハードルを下げて楽しんでほしいです。