2世俳優のマイルズ・ロビンスがシッチェス・カタロニア国際映画祭にて男優賞作『ダニエル』。
映画『ダニエル』は、自らをジャンル映画マニアと自任する新鋭アダム・エジプト·モーティマー監督の作品。
善と悪、理性と衝動で遊離した人間の内面の崩壊をホラージャンルのアプローチで解き、内気で繊細な青年と、圧倒的カリスマ性を持つ空想上の親友の恐ろしくも美しい関係を描いています。
この映画は、2019年にアメリカのSXSW映画祭で初めて公開され、世界の各種映画祭を始め、韓国では富川国際ファンタスティック映画祭に出品されました。
『ターミネーター』のアーノルド・シュワルツェネッガーと『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスという大物俳優の2世達が活躍。パトリック・シュワルツェネッガーがマイルズ・ロビンスを耽美と狂乱の世界へ誘います。
映画『ダニエル』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Daniel Isn’t Real
【監督】
アダム・エジプト・モーティマー
【キャスト】
マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガー、サッシャ・レイン、ハンナ・マークス、メアリー・スチュアート・マスターソン、チュク・イウジ、ピーター・マクロビー、マイケル・クオモ、アンドリュー・ブリッジス、ケイティ・チャン
【作品概要】
精神を攪乱する心理恐怖映画『ダニエル』。暴力的な家族に対するトラウマを持つ大学新入生ルークは、自分の手に負えない事によって解決する適切な正解を見つけようと、仮想の友達ダニエルを呼び出していく様を描いています。
この映画は、作家ブライアン·ドリーの小説“IN THIS WAY I WAS SAVED”をベースに、監督と作家の初対面から7年半経って、この映画を完成したそうです。
その長い準備期間に相応しく『ダニエル』は、相当の低予算で完成した新鋭監督の作品としては、驚くべきレベルの視覚的ディテールと完成度を見せてくれています。
長期間ミュージックビデオ作業を扱ってきたアダム・エジプト・モーティマー監督の感覚を、映画全般の視覚効果で確認する事が出来ます。身体毀損を通じた人間深淵の恐怖を表現するのに、最大に有用したビジュアル再現に注目です。
映画『ダニエル』のあらすじとネタバレ
赤くて暗いブラックホールと、あるカフェで起きた銃撃事件で始まります。
小心な幼い少年ルークは、精神病の母親・クレアと家を離れようとする父親の争いを避けて外に出ますが、衝撃的な殺人現場を目撃します。
おぞましい事故現場に衝撃を受けたルークは、そこで自信に満ちた想像上の友人、ダニエルに出会います。家にいなくなったルークを捜しに急ぎながら外へ出て来た母親は、公園でダニエルと一緒のルークを見つけます。
連れて帰ろうとした瞬間、ルークはクレアにダニエルも一緒に連れて帰って良いか尋ねます。クレアは、ダニエルの立ち位置よりずれた方向へ「一緒に夕食しましょう」と話します。つまり、ダニエルは他の人には見えないのです。
その日から、ルークには実際に存在するかのように感じられるダニエルと、一緒に遊ぶようになります。両親が離婚した後にも、ルークの大きな助けにもなったダニエル。兄弟のように、毎日仲良く遊んだり笑い合ったりします。
ある日、ルークは「クレアが超能力者になれるようにしてあげる」というダニエルの言葉を信じ、大量の精神科薬をミキサーの中のスムージーに入れてしまい、クレアは死ぬ危機に直面します。
クレアにダニエルとの仲を止めるよう言われたルークは、想像の中の友人ダニエルを人形の家に閉じ込めて、門に鍵をかけて封印します。人形の家のドアでは、ダニエルが開けろと激しくドアを叩いています。
それから、数年後。大学に通っているルークは、大学の寮でルームメイトと暮らしています。クレアと電話したルークは、久しぶりにクレアの住む家を訪問します。
しかし、彼が去ってから精神病がさらに酷くなった彼女の心理状態は不安定です。クレアは、ルークが買って来た母親の大好物のハンバーガーを、受け取ろうとしません。
その日の夜に、一人でナイトクラブに出掛けたルークは、そこである一人の女性に出会います。その女性の場所へ行こうとした途端、気を失ったかのように倒れてしまいました。その時に、3人の得体の知れない物体が見え、驚いたルークは飛び起きて逃げます。
久しぶりに会った母親の無惨な幻影を見たルークは、自分も母親のようになる事を恐れてカウンセラーのブラウンを訪ねます。
話をしていく中、幼い頃の想像上の友達であるダニエルの事を話すと、「恐怖を抑えずに、再び本人の一部として、受け入れるように努力しろ」とブラウンは言います。
その帰り道に、疲れたように歩くルークとスケボーしていた女性がぶつかります。「大丈夫だ」と言って去っていくルークの姿を、女性は見ています。
夜になりました。家では、ルークはクレアとおやつを食べながら、テレビを見ています。そして、ベッドで、自分が幼い頃抱いていたぬいぐるみに再会したルークは、再び抱いては何かを思い出したように起き上がります。ゆっくりと、人形の家へ近付いて行き、鍵を探して見つけます。
その時、大きな音にルークは目覚めます。すると、クレアが夜中に一人で叫びながら、ハサミで自傷行為をしようとします。
浴室にこもったクレアを心配したルークは、力一杯に浴室のドアを開けます。その場で、クレアは鏡に向かって話しながら叩き壊しています。クレアを止めようとするルークは、浴槽に目を向けます。そこには、成人になったダニエルがいました。
ダニエルの助けによって、ルークは暴走するクレアを止められました。
数年ぶりに再会したルークとダニエルは、お互いに嬉しそうな表情です。そして、ルークに「君は僕の助けが必要だ」とダニエルは言います。
翌日、クレアが散らかしたであろうリビングを掃除しているルークと昔のように剣術しようと誘うダニエル。
そのタイミングで、前日、道端でぶつかった女性が訪ねて来ます。当時に財布を落としたルークの為に、届けに来てくれたのです。彼女はキャシーと言い、ダニエルはルークとキャシーとの関係が進展するようにも助けてくれます。
何処にでもダニエルと一緒にいて、ルークはますます大胆になり、社交性も増していきます。ダニエルの助言によって、キャシーに会いに行ったルークは、キャシーの家で色々と語り合います。
大学での試験の際には、教壇で服を脱いだダニエルは、数字の解答を身体中にタトゥーのように入れてあり、ルークは喜びながら写していきました。更に、寝ているルームメイトに悪戯をしていったりと子供心に戻ったように遊びを楽しんでいます。
ある日のナイトクラブに出掛けたルークとダニエル。その場に、以前に一度同じくナイトクラブで見かけた女性がいました。ダニエルのアドバイス通りにするルークは、その女性にアタックして、ソフィーという名の彼女の連絡先をGETします。
直後、お酒の呑み過ぎたルークは、トイレで吐いてそのまま眠ってしまいました。そんなルークが眠っているかどうか確認したダニエルは、ルークの体を操って傷付けようとします。
そして、ルークに急激に近付いたキャシーは、危険とミステリーが潜んでいるルークの自我を絵に描いています。出来上がった絵画には、ルークの顔と、その後ろに黒くぼやけているような物が描かれていました。
お互いに意識し合ったキャシーとルークの情事を見下ろすダニエルに、ブラックホールのような赤い世界が映ります。
映画『ダニエル』の感想と評価
この映画は、ホラーながら心理スリラーの面貌を遺憾なく発揮しています。ダニエルを封印し、成人してから再び登場したダニエルの存在は、色々な面で映画の存在感を与えているのです。
ダニエルは、多彩な表情演技とトーンを持っている上に、都市男の魅力を思う存分漂わせているので、主人公よりもっと目立つ悪役キャラクターになっています。ドキドキしながらも読み取れない表情を見せつつ、ストーリーの緊張感を維持するのに最大限に貢献しています。
主人公のルークが混乱して、経験する中盤までは没入度もかなりありました。毎シーン何処にどう飛んで変わっていくか分からない面白さがあるとでも表せます。そのような面で、心理的な部分をよく持っていったと言えます。
映画の中で、赤いマンホールやマンホールのような現象が多く見受けられました。そのような面については、潜在的な正常の自分に対して、心理性の病に侵されている自分から抜け出せという意味として、表現されたように感じます。
決して他人事ではない現代の心の病、闇。心の拠り所、逃げ場所、そして現実。幻覚と現実との違和感は全く感じさせない、素晴らしい演出、脚本、構成。
心の内面に訴えかけてくる二重人格的な怖さに、ダニエルの問いかけ、登場するタイミング、これに効果音、音楽、カメラワークが非常に秀逸でした。
徐々に明かされていくダニエルの正体。伏線を一気に回収し、衝撃的な展開とラストに絶句します。
本作は、ホラー映画の独創的で成功的な先例を誠実に受け継いでおり、テーマの面で、現代人の心理的危機と自我分裂に関する警告を送るダニエルには、恐怖を感じるけれど、決して誰でも無視出来ない囁かを聞かせる価値のある作品です。
恐怖で気持ち悪い雰囲気に包まれつつも、トラウマと多重人格、統合失調症といった演技勝負を競ったツートップ。優れた各自の潜在力を発揮した2人の苦労があちこちからにじみ出ている要所も、最高に印象深いです。
ダニエル役のパトリック・シュワルツェネッガーは、何年経っても色褪せない最強SF名作『ターミネーター』(1984)で知られるアーノルド・シュワルツェネッガーの息子として注目され、『ミッドナイト・サン』(2018)などで次第に国内に顔を広め始めました。
ルーク役のマイルズ·ロビンスも、観る者に感動と勇気を与えたアカデミー賞の名作『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンス、そして、彼と夫婦共同で映画化された『デッドマン・ウォーキング』の演技派女優のスーザン·サランドンの息子として、『ハロウィン』(2018) に出演しています。
特に、マイルズ・ロビンスはこの役で第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭男優賞を受賞しましたが、受賞するに値する演技力でした。
何よりも、いつまでも謎めいた神秘を出しながら、華美な雰囲気を感じるパトリック・シュワルツェネッガーの表情と目つきが、永遠に記憶に残りそうです。
本作は、暗くて恐ろしい雰囲気で流れながら刺激的な画面、色感、サウンドで見る人のメンタルを揺らしながら進行します。
ホラーよりも恐ろしくゾッとするのに、何故か美しい映像美。理屈を越えた演出を上手に創造された本作は、印象的だけでなく、心に残る余韻に浸りることが出来ます。
まとめ
超自然的な存在のダニエルが数百年間、人々の精神に寄生して暴力と自殺に導いたのか、それともルークの統合失調症と多重人格による幻想だったのか……。
これが精神分裂症であり、統合失調症なのか、統合失調症にかかると、このような経験と症状を感じるというメッセージになっています。
この映画のポイントは、ルークの心理的崩壊が加速化する過程を身体強奪及び破壊というホラージャンルの不可欠な下位的特性に基づいて、視覚化している事象にあります。
トラウマに苦しむルークに比べて、ダニエルは落ち着いた冷静の上に、平常心を維持して混乱する現実の自我を容易に掌握しています。
そんなダニエルがルークの身体の中に自分を押し入れたり、2人の肉体が垂れ下がるように入り混じる姿は、身体の正常性を当然の事と考える民衆に気味悪い感覚を呼び起こし、その不便な谷間を軽く越えて恐怖を誘発します。
無意識に内在されたこのような不便さはホラー映画の定番素材になっており、注目すべき点なのです。