サスペンスの神様の鼓動39
妻を事故で亡くし、新居で再起を図ろうとした男が、突然消えた娘の行方と、クローゼットに隠された謎に迫るミステリー・エンターテイメント『クローゼット』。
メインとなっているクローゼットの謎には、実は現代の大きな社会問題が隠されており、かなり奥の深い作品となっています。
今回は、映画『クローゼット』の魅力をご紹介します。
2017年公開の「神と共に」シリーズなどで知られる、韓国の名優ハ・ジョンウと、2019年公開の『感染家族』などで知られる、注目俳優キム・ナムギルが初共演を果たしたことでも話題になった映画『クローゼット』。
予測不能な展開が話題を呼び、韓国では初登場1位の大ヒットを記録しています。
CONTENTS
映画『クローゼット』のあらすじとネタバレ
建築家のサンウォンは、交通事故で妻を亡くして以降、娘のイナと2人で暮らしていました。
妻を亡くして以降、イナは心を閉ざしてしまい、一切の感情を表に出さなくなります。
サンウォンも、パニック障害を起こすようになっており、サンウォンは環境を変える為に、郊外にある一軒家を新たに購入します。
新居に引っ越した日の夜、イナは、自分の部屋に置かれているクローゼットから物音がした為、気になってクローゼットの扉を開きます。
そこには、古い人形が置いてあり、イナは人形を抱きかかえます。
すると、イナの背後に不気味な少女の亡霊が現れ、イナは叫び声をあげます。
イナの叫び声を聞いて、サンウォンはイナの部屋に駆け付けますが、イナは人が変わったような笑顔を見せ「何も無い大丈夫」と伝えます。
サンウォンは、イナが抱きかかえている、古い人形が気になりますが、イナは人形を手放す事を拒否します。
建築家として、本来なら現場にも行かないといけないサンウォンですが、イナのベビーシッターが見つからず、家を空ける事ができません。
サンウォンが現場に来ない事を問題視した業者は、サンウォンの契約を一方的に解除しようとしていました。
また、新居に引っ越してから、イナしかいないはずの部屋から、話し声が聞こえてきたり、誰も演奏していないヴァイオリンの音が家中に響いたりと、不気味な現象が相次いで発生します。
また、サンウォンが、仕事で2ヵ月間家を留守にする事をイナに伝えた時から、イナの態度が明らかに反抗的になります。
困り果てたサンウォンは、イナをリハビリを目的にした、2ヵ月間のキャンプに行かせようと考えます。
ですが、そこへ派遣のベビーシッターが来た為、イナをベビーシッターに任せて、サンウォンは現場に向かいます。
現場で仕事を始めたサンウォンですが、イナの不気味な行動に、ベビーシッターがすぐに逃げ出してしまいました。
そして、イナがクローゼットに向かって「私もそっちに行きたい」と呟くと、クローゼットから白い無数の手が出現して、イナはクローゼットの中に引き込まれます。
サスペンスを構築する要素①「新居を襲う怪現象」
突如、消息不明になった娘を探す主人公サンウォンが、恐ろしいクローゼットの秘密に直面するミステリー・エンターテイメント『クローゼット』。
本作は、前半、中盤、後半で、作風が変化していくという特徴があり、まず前半はホラー要素が強く押し出されています。
映画開始冒頭で、霊媒師であるギョンフンの母親が、クローゼットの悪霊に殺されてしまう場面から始まるのですが、この場面はホームビデオで撮影されており、かなり生々しい映像となっています。
その後に、サンウォンがイナと、新居に向かう場面が始まり、2人が新たに住む事になった新居での、怪現象の数々が描かれます。
イナの部屋にある不気味なクローゼットから物音がして、イナがクローゼットを開くと、その中には古い焼けただれた人形が置かれおり、イナがクローゼットを閉めると、背後に少女の霊が立っているという一連の流れは、Jホラーを意識している演出で、かなり怖かったです。
その後、明らかに何かに憑依され、別人になってしまった様子のイナや、誰もいない部屋から、ヴァイオリンの音が聞こえるなどの怪現象が起きた後、イナがクローゼットの中に引き込まれるまでの展開は、1982年の映画『ポルターガイスト』を連想させます。
このように、映画『クローゼット』の前半は、ホラー要素が強いですが、イナは自ら望んで、クローゼットの中へ入っていきます。
この辺りに謎を残し、ただのホラーで終わらない部分が、本作の奥の深い部分です。
サスペンスを構築する要素②「クローゼットの秘密」
ホラー要素の強い前半でしたが、退魔師であるギョンフンが登場して以降、本作は、エンターテイメント要素の強い作品へと変化してきます。
ギョンフンは『ポルターガイスト』でいう所の、霊媒師タンジーナのような役回りですが、静寂を極端に嫌う性格で、とにかく無駄口の多いキャラクターです。
お調子者のギョンフンというキャラクターは、ホラー要素が強かった、前半の重い空気を完全に打ち消してくれます。
ですが、サンウォンはギョンフンとの会話の中で、自分がイナの事を、何も知らなかったと気付かされます。
さらに、前半で少しだけ姿を見せた少女の霊、ミョンジンが現れた事で、これまで、クローゼットにまつわる怪現象を中心に進んでいた物語が「クローゼットの秘密」という核心部分に迫る、ミステリー要素の強い作風へと変化していきます。
そして、イナが姿を消した原因は、サンウォンにある事が判明し、強いメッセージ性を持った後半へと繋がっていきます。
サスペンスを構築する要素③「悪霊になった子供達の悲しい過去」
本作の後半で、サンウォンはイナを救い出す為、霊界へと入って行きます。
霊界のサンウォンを、現世でギョンフンがサポートする事になり、霊界と現世、それぞれの戦いが繰り広げられるのですが、ここから恐怖というより、悲しい物語へと変化していきます。
クローゼットの悪霊ミョンジンは、親に見捨てられ死んでしまった過去があり、同じように親に見捨てられてしまった子供達を、霊界に連れて来ていた事が判明します。
建築家として忙しいサンウォンは、イナに欲しいものは全て買い与えて、不自由の無い暮らしをさせていたつもりでしたが、仕事を優先したい為、どこかイナを邪魔に感じていた部分がありました。
イナはサンウォンの心を感じ取り、自ら望んで霊界へと足を踏み入れたのです。
中盤で、サンウォンがギョンフンとの会話の中で、自身がイナについて何も知らなかったという場面は、ここに繋がってくるんですね。
本作の後半は、悪霊になってしまった子供達の過去を通し、育児放棄や育児怠慢など、近年問題になっている「ネグレクト」に対する、強いテーマが込められた、社会派の作品へと変化していきます。
ラストで、1人で泣いていた子供がクローゼットに引き込まれるのですが「今日もどこかで泣いている、助けを求めている子供がいる」というメッセージを感じ「ネグレクト」が、いかに大きな問題であるかを考えさせられる内容です。
全体的に『ポルターガイスト』を連想させる内容ではあるのですが、「ネグレクト」という社会問題を扱い、クローゼットの謎を主軸に物語を展開させた本作は、かなり独自性の強い作品に仕上がっています。
映画『クローゼット』まとめ
ホラーとミステリーの要素を合わせ、「ネグレクト」という社会問題を描いた本作。
もう1つの魅力として、サンウォンとギョンフンのバディ映画としても楽しめます。
イナがいなくなって以降、無口で感情を出さなくなったサンウォンと、静寂を嫌い、とにかく無駄口が多く、サンウォンの事を「おじさん」と呼ぶギョンフンのキャラクターは、とにかく対照的です。
本作の前半は、ホラー要素が強い事は前述しましたが、それ母親を亡くし、心を閉ざしてしまったイナを気遣う、サンウォンの心情を表現しており、嫌な空気をあえて作品に漂わせたのではないでしょうか?
ギョンフンが登場して以降、前半の嫌な空気は消え去りますが、1人でイナを捜索し、不安を抱えていたサンウォンが、ギョンフンと出会い気持ち的に明るくなったという心情と、作品の空気がリンクします。
また、本作のラストは、サンウォンとギョンフンの支払いをめぐるコメディのようなやりとりとなっています。
ホラーから始まり、ミステリー的な展開を見せて、社会への強いメッセージを発信し、コメディで終わる映画『クローゼット』。
かなりサービス精神が旺盛な、エンターテイメント作品と感じました。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!