Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2020/11/22
Update

映画『Away』あらすじと感想評価レビュー。宮崎駿アニメなど影響を受けつつも全く異なる方向を見出した意欲作

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『Away』は2020年12月11日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

アヌシー国際アニメーション映画祭、ストラスブール・ヨーロッパ・ファンタスティック映画祭、インターナショナル・アニメーション・コンペティション部門、・アニメスト、新千歳空港国際アニメーション映画祭など世界の名だたるアニメーション映画祭で絶大な評価を受けた革新的アニメーション作品『Away』。

飛行機事故に遭遇し、たった一人生き延びた少年が、森で見つけた地図を頼りにオートバイで島を駆け抜け目的地にたどり着くという物語を、シンプルながら想像力豊かに描きます。

本作をたった一人で手掛けたギンツ・ジルバロディス監督は、ヨーロッパのラトビア出身。8歳からアニメーションを作り始めた当時25歳の青年が、休むことなく3年半の歳月をかけて全てを作り上げた渾身の作品です。

映画『Away』の作品情報


(C) 2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

【日本公開】
2020年(ラトビア映画)

【英題】
AWAY

【製作・監督・編集・音楽】
ギンツ・ジルバロディス

【作品概要】
台詞を一切介せず、飛行機事故により未知の島に不時着した少年がオートバイで島を駆け巡る冒険の旅を描いたアニメーション作品で、ラトビアのクリエイター、ギンツ・ジルバロディスが製作・監督・編集など、全てを手掛けて約3年半の月日を経て完成させました。

第43回アヌシー国際アニメーション映画祭でコントルシャン賞に輝くなど、世界各地の映画祭で高い評価を得ています。

映画『Away』のあらすじ


(C) 2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.
飛行機事故に遭い、ただ一人脱出に成功、生き残った一人の少年。気が付くと彼は一本の木にパラシュートが引っかかりぶら下がった状態でした。

外に目をやると、そこには巨大な謎の黒い影が。少年は慌ててその影から荒野を越え、森の中に逃げます。

森の美しさに見とれていた彼は、ふと一つのリュックサックを発見、その中に見つけた地図から島の端に港があることを知ります。

そして荒野に近い場所に合ったバイクを見つけた彼は、その漂流生活の間に出会った飛べない小鳥と共に港を目指す決意をしました。

度々遭遇する黒い影から逃れ、様々な動物と出会いながら、少年は希望を求めてバイクを走らせますが…。

映画『Away』の感想と評価


(C) 2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

故意による“不自然と不完全”という魅力

シンプルなデッサンで構成されたアニメーション作品であり、鑑賞しているとどこか違和感を感じさせるアニメーションです。それはキャラクターの動きを細かく見ていくと、近年の3Dアニメーション技術には一歩及ばない、どこかぎこちない雰囲気があります。

また、多くの鳥や猫といった複数の動物が登場する場面がありますが、その集団性を表す不規則性が足らず、どうしても一部に配列の規則性が見えてしまったりと、映像の完成度に今一歩及んでいない感じが見受けられます。

ところがこういったそれぞれのシーンを、映像ではまるで手持ちのカメラで覗いているようなアングルで映し出します。アニメーションなのに、何か現実を見ているような雰囲気があるのです。

この現実感、非現実感のギャップが、アニメーションの不完全性を逆に物語の枠へと、意図的に引き込んでいるかのようです。

例えば、果たして現実の一場面を描いているのか、あるいは何か現実ではない無意識の中にあるような世界なのか。そういった世界観を巧みにあいまいな形として見せているようでもあります。

こういった作りを監督自身が意図的に狙ったかどうかは定かではありませんが、不自然さを意図して作り上げているようにも感じられ、リアリティを追究する近年のアニメーション傾向とは一線を画した、斬新な手法と見ることもできるでしょう。

塗り絵のように自分なりの物語を楽しむ


(C) 2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

物語の主人公には、どこにもバックグラウンドが描かれません。パラシュートで降りてきた一人の青年が、道端で見つけたある手掛かりをもとに旅に出る。また主人公の描き方としても顔には目しかない、表情の全く分からない描き方をしており、台詞すらない。容易に彼の身上を推し量ることはできません

さらに、要所で使われている音楽の使い方も独特で、非常に緊張感を煽る音使いは時にあれど、そこに例えばキーがメジャーなのかマイナーなのか、つまりは悲観的な場所なのかそうではないのかといった、音楽を手掛かりとした状況、心理の読み取りをも困難にしています

それは逆に主人公の実態を無くして、見る人の誰もが彼に感情移入できる、「この場面で私だったらこう思うだろう」「こう感じるだろう」という感覚を自発的に生み出すような仕掛けすら感じられるものです。

映像を見るだけであればそのシンプルさのインパクトに終始してしまう作品でありますが、例えば塗り絵のように、人々それぞれの境遇を色として当てはめて、自身の様々な人生に思いをはせる、そんな楽しみ方ができるイマジネーション性の高い作品であります。

また、この物語には様々な動物と、巨大な謎の黒い影というアクセントがあり、様々な解釈ができる象徴的なものとして現れ、非常に見る人自身の人生に『Away』と名付けられたタイトルから、様々なイマジネーションを与えてくれる作品といえるでしょう。

まとめ


(C) 2019 DREAM WELL STUDIO. All Rights Reserved.

本作を制作したギンツ・ジルバロディス監督は、本作のインスピレーションを得た作品に、『未来少年コナン』『キートンの大列車追跡』『ワンダと巨像』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『モーターサイクル・ダイアリーズ』などの映画作品やゲームなどの影響があると語っています。

特にオープニングの孤島のたたずまいは、『未来少年コナン』に登場した「のこされ島」の美しくも少し寂しげなたたずまいの影響を感じるところであります。

また主人公が荒野をオートバイで駆け抜ける姿は、『モーターサイクル・ダイアリーズ』のエルネスト・チェ・ゲバラ・デ・ラ・セルナの姿そのものでもあり、少年に付きまとう黒い影は、何か宮崎駿アニメーションに登場する象徴的なキャラクターをも彷彿させます。

場面一つ一つになるほど言われればという箇所も見られながらも、この作品が独自のカラーを発しているのは、そういった作品から得たインスピレーションが単なる画のインパクトではなく、それぞれの作品の物語が持つテーマにインスパイアされた部分を、本作で綺麗に統合し表しているからにほかなりません。

斬新な作風が見られる一方で、「映画である」「映像による物語である」ということをしっかりとフォローできた詩的な作品といえるでしょう。

映画『Away』は2020年12月11日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーされます!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『弱虫ペダル』ネタバレあらすじと感想。キンプリ・永瀬廉が過酷なロードレースに挑むスポーツ青春ドラマ

人気コミックを映画した『弱虫ペダル』。千葉からママチャリで毎週のようにアキバに通い続ける高校生がロードレースと出会い、自身を深め、仲間との絆を強めていく物語です。 映画『弱虫ペダル』は、2020年8月 …

ヒューマンドラマ映画

『影の軍隊』ネタバレあらすじ結末と感想評価の解説。巨匠メルヴィルがリノ・ヴァンチュラ主演で描く“レジスタンス映画”

ナチス・ドイツに反抗したフランスのレジスタンスを描いた戦争ドラマ。 ジャン=ピエール・メルヴィルが脚本・監督を務めた、1969年製作のフランス・イタリア合作の戦争ドラマ映画『影の軍隊』。 第二次世界大 …

ヒューマンドラマ映画

映画『ラジオデイズ』ネタバレ結末あらすじと感想評価。ウディアレン代表作にミア・ファローとダイアン・キートンが集結!懐かしく美しき日々と“戦争の愚かさ”

何気ない日々の貴さを歌い上げる名作 『アニー・ホール』(1978)で知られる名匠ウディ・アレンによるノスタルジックなコメディ映画。 第二次世界大戦開始直後のアメリカに暮らす少年・ジョーの目を通して描か …

ヒューマンドラマ映画

映画『ディアハンター』ネタバレあらすじ感想と結末の考察解説。デ・ニーロ代表作のタイトルに込められた意味とは

第51回アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞など5部門に輝く名作『ディア・ハンター』。 作品賞を始め、アカデミー賞5部門に輝いた不朽の名作映画『ディア・ハンター』。 ベトナム戦争映画の金字塔が製作 …

ヒューマンドラマ映画

映画『アメリカン・バーニング』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ユアン・マクレガーが主演兼監督として動乱の60年代に翻弄された罪なき夫婦を描く

ユアン・マクレガー初長編監督作『アメリカン・バーニング』考察解説! 1996年から60年代を振り返り、順風満帆な人生を送っていたはずの家族が崩壊していく様を描いた映画『アメリカン・バーニング』。 主演 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学