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Entry 2020/10/03
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映画『あらののはて』あらすじと感想評価レビュー。長谷川朋史監督独自の映像センスが光る痛快作|2020SKIPシティ映画祭3

  • Writer :
  • 西川ちょり

緻密な画作りの中から迸る多様な感情を味わう
2021年11月13日より神戸アートヴィレッジセンターにて上映!12月4日からはシネヌーヴォXにて上映!
その他、全国順次公開

2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、今や映画の新たなスタンダードとなったデジタルシネマにいち早くフォーカスした国際コンペティション映画祭です。

映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指し、これまでに話題の海外作品や、白石和彌監督や中野量太監督、上田慎一郎監督等、第一線で活躍する映画監督を排出してきた映画祭も今年で17回目を迎えます。

今回ご紹介するのは国内コンペティション長編部門にノミネートされた長谷川朋史監督の初単独監督作品『あらののはて』です。

【連載コラム】『2020SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

映画『あらののはて』の作品情報


(C)ルネシネマ

【公開】
2021年公開(日本映画)

【脚本・監督・撮影・編集】
長谷川朋史

【キャスト】
舞木ひと美、髙橋雄祐、眞嶋優、成瀬美希、藤田健彦、しゅはまはるみ、政岡泰志、小林けんいち、山田伊久磨兼尾洋泰、行永浩信、小谷愛美、才藤えみ、佐藤千青、藤井杏朱夏

【作品概要】
フリーの映像ディレクターとして長いキャリアを持つ長谷川朋史の初の単独監督作品。

風子役の舞木ひと美は本作のプロデューサーも務めている。『透明花火』(18)や今後公開予定の『初めての女』で主演を務める髙橋雄祐が荒野を演じる他、風子と火花を散らすキャラクターを眞嶋優、成瀬美希が演じています。

長谷川監督を含む3人で立ち上げた「ルネシネマ」に参加するしゅはまはるみと藤田健彦も出演し、存在感を見せている。

長谷川朋史監督のプロフィール


(C)ルネシネマ

デザイナーとしてTVアニメ『アクティヴレイド』(2016) 、『ハンドレッド』(2016)、『奴隷区』(2018)などの作品に参加。2018年、俳優のしゅはまはるみ、藤田健彦らと「ルネシネマ」を立ち上げ自主映画制作を開始。

2019年、しゅはまはるみと藤田健彦を主演にしたオムニバス映画『かぞくあわせ』の第一部「左腕サイケデリック」の脚本・監督を務め、映画監督デビューを果たす。本作が初の単独監督作となる。

映画『あらののはて』のあらすじ


©ルネシネマ

高校2年の冬、風子は、美術部のクラスメート荒野に頼まれ早朝の教室で人物モデルを引き受けますが、その最中、理由のわからない絶頂感を感じ失神してしまいます。

ちょうどその時、教室に入ってきた担任教師の誤解により荒野は退学となり、以来、2人が顔をあわすことはありませんでした。

8年の月日が流れ、友人の絵画教室でモデルを務めながら、風子はあの日のことを思い出していました。あれほどの絶頂感を感じたことはその後、一度もありませんでした。

荒野の実家に電話して、荒野の居場所をつきとめた風子は、彼を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描いてもらおうとしますが……。

映画『あらののはて』の感想と評価


(C)ルネシネマ

前半の高校時代のパートにあるのは、恋の始まりの気配であり、恋以前の淡いときめきです。

それがいきなりのエクスタシー到来で、精神よりも先に肉体が反応するというエロティシズムを熱らせながら、思春期の説明のつかない複雑な感情が大胆かつ繊細に描かれています。

冒頭、映画『カサブランカ』を題材にした英語教師の快活で興味深い授業が行われている教室。うなずきながら熱心にノートをとる生徒もいる中で、同じフレームにおさまった3人の生徒は別のことに気を取られています。

そのうちの一人、男子生徒の荒野(あらの)は寝ていて、最初は背中の一部が映っているだけで見切れています。

その後ろで授業を聞いているのか、聞いていないのか、下を向いてせわしなくペンを動かしている女子生徒・風子が画面の大半を占めています。

その奥、斜めうしろの女子生徒・前田はフレームの左端ぎりぎりに位置していますが、いつの間にか、彼女は黒板を見ずに、風子と荒野の方をじっと見ています。

カメラは風子のすぐ横手に位置して、彼女を中心に教室のごく一部を切り取り、ほぼ固定の長回しで撮っています。

教室をこんなアングルで撮っている映画はあまり見たことがありません。こうした独特の風景の切り取り方が『あらののはて』の大きな魅力と言ってもよいでしょう。

教室のシーンのあとは廊下の真ん中にどーんと立って微動だにしない前田のショットへと続きます。これもまた珍妙でかつインパクトのあるショットですが、そこには、猛烈な嫉妬という感情が渦巻いています。

廊下にわずかに設けられた隙間を通り過ぎようとした風子はつかまり、ここで取っ組み合いの喧嘩が始まるのですが、実は、風子はその後、別の女性とまたまた取っ組み合いの喧嘩をすることになります。

フレーム内でのファイトが描かれていた前者に比べ、後者はフレーム・イン、フレーム・アウトを繰り返し、ほとんどジャングル・ジムだけが映っているというユニークな闘いが繰り広げられます。

風子よりもずっと荒野のことを好きな彼女たちは、風子に感情を刺激され、嫉妬し、文字通り地団駄を踏み、見境なく醜い自分をさらけ出してしまいます。

本人はまったくその気はないのに、妙に人をいらつかせてしまう風子というキャラクターを舞木ひと美がひょうひょうと演じていて実にいい味を出しています。

過去と現在のパートはどちらにも朝焼けの登校シーンという同じ光景が繰り返されますが、繰り返しはそれだけではありません。

前述の喧嘩もそうですし、あるいは、「カサブランカ」が、黒板に文字を書きつけるのをひどく下の方から撮っているカメラアングルと、並べた机の上に置かれた椅子に座る風子をみあげる荒野の視線の角度は同じものでしょう。こうした映像の反復が映画のリズムを作り上げています。

また、風子が突然立ち上がるシーンも二度繰り返されることで、微妙な肉体的な変化を表現することに成功しています。

過去の想いに囚われているひとりの女性の行動が呼び起こす波紋は、8年という年月の間に変わったものと変わらなかったものを鮮明にし、ほろ苦い青春時代の決着が独特の感性とスタイルで描かれています。

まとめ


(C)ルネシネマ

監督の長谷川朋史、俳優のしゅはまはるみと藤田健彦による「ルネシネマ」が制作した映画『あらののはて』。

映画『カメラを止めるな!』(2017)でブレイクしたしゅはまはるみが.絵画教室の教師役で、藤田健彦が高校の「カサブランカ」こと英語教師役で出演しています。

絵画教室の生徒のクロッキーデッサンを褒める際のしゅはまの「バスキア」という台詞には思わず吹き出しそうになり、カサブランカの授業には、こんな先生に教わりたかったなぁと引き込まれました。両者ともさすがの貫禄を見せています。

一方で風子役の舞木ひと美、荒野役の髙橋雄祐、その恋人役の眞嶋優、前田役の成瀬美希ら若い俳優たちも、緻密に練られた画面構成にもかかわらず、窮屈感をまったく感じさせず、のびのびと動き、様々な感情を顕にしています。

高校時代のいかにももてそうな佇まいの荒野と、冴えないように見えながらも落ち着きを見せる今の荒野を自然体で演じた髙橋雄祐をはじめ、どの俳優も個性は違えど魅力的できらきらしており、長谷川監督が俳優を魅力的に撮れる監督であることを証明しています。

【連載コラム】『2020SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら




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