連載コラム「邦画特撮大全」第74章
今回の邦画特撮大全は「血を吸う」シリーズを紹介します。
「血を吸う」シリーズは1970年代に東宝が製作した怪奇映画シリーズで、『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』(1970)、『呪いの館 血を吸う眼』(1971)、『血を吸う薔薇』(1974)の全3作品。火葬の多い日本の風土に西洋の吸血鬼を持ち込んだ意欲的な作品で、現在Amazon Prime Videoで配信中です。
CONTENTS
映画『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』の作品情報
【公開】
1970年(日本映画)
【監督】
山本迪夫
【脚本】
長野洋、小川英
【出演】
松尾嘉代、小林夕岐子、中尾彬、南風洋子、中村敦夫、高品格、浜村純、二見忠男、堺佐千夫、宇佐美淳也
和洋折衷の怪奇世界とヒッチコック風ショック描写
東宝が世に放った怪奇映画「血を吸う」シリーズの第1作目『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』。
本作に吸血鬼は登場せず、恐怖の対象となるのは殺人鬼となって蘇えった死体です。タイトルに「血を吸う」という言葉がありますが、これは血を求める殺人者の比喩表現でしょう。
製作を務めたのは『ゴジラ』シリーズの生みの親・田中友幸と田中文雄。田中文雄は早稲田大学の出身で在学中はワセダミステリクラブに参加。
ミステリー、SF、幻想文学に造詣が深く、自身もホラーや伝奇ものなどを執筆する小説家として活躍していました。
西欧のゴシックホラーを日本の風土に移植するという試みが成功したのは、田中文雄の手腕によるものが大きいと言えるでしょう。71分という短い時間に恐怖を凝縮させた山本迪夫監督の手腕も見事です。
白いネグリジェ姿の殺人鬼や催眠術による死体蘇生など西洋風な恐怖のモチーフと、20年前の一家惨殺事件という横溝正史作品など日本的な怪談を思わせる「因果」を巡る物語の背景が絡む、旧来の怪奇映画とは一線を画す和洋折衷な作品に仕上がっています。
冒頭で恋人の元を訪ねた佐川和彦が消息を絶ち、その妹・佐川圭子と恋人の高木浩が行方知れずになった和彦を探しに行く構成や、ナイフを持った殺人鬼のビジュアル、ラストのショック描写はアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(1960)の影響を強く感じます。
また時おり挿入される鳥の死体や羽ばたく鳥による恐怖描写も、同じくヒッチコックの『鳥』(1963)を思わせるものです。
映画『呪いの館 血を吸う眼』の作品情報
【公開】
1971年(日本映画)
【監督】
山本迪夫
【脚本】
小川英、武末勝
【出演】
高橋長英、江見早苗、藤田みどり、高品格、二見忠男、岸田森、大滝秀治
吸血鬼俳優・岸田森の誕生
前作で好感触を得た製作陣は本作『呪いの館 血を吸う眼』で、ついに吸血鬼を登場させます。
天知茂が吸血鬼を演じた新東宝の怪奇映画『女吸血鬼』(1959)などの前例がありましたが、本格的な吸血鬼映画は本作が最初と言えるでしょう。
ちなみに『女吸血鬼』に登場した吸血鬼は、天草四郎時貞の血を引く吸血鬼で、満月になると吸血鬼として正体を現すという狼男のような独自の設定でした。
本作の吸血鬼は、海外から日本にやって来た吸血鬼の血筋を引く存在という設定。プロデューサーの田中文雄は本作の吸血鬼役に岡田眞澄を推薦しました。
海外からやって来たという設定上、デンマーク人の母を持ちバタ臭い風貌の岡田眞澄の起用は必然的な流れと思います。しかし結果として岡田眞澄のスケジュールを押さえることは出来ませんでした。
代わりに山本監督が吸血鬼役に強く推薦したのが岸田森です。岸田森は岡本喜八監督作品の常連俳優で、TVドラマ『怪奇大作戦』や『傷だらけの天使』、などで知られる個性派俳優。
岸田森の青白い顔と痩せたスタイルという幽鬼のような雰囲気と対照的な凶暴性を帯びた演技は、吸血鬼役と見事マッチしたはまり役でした。岸田森の個性が本作の中で大きな求心力を持っていたことは間違いないでしょう。
岸田森は大林宣彦監督の『金田一耕助の冒険』(1979)で本作のパロディを演じたり、TV番組でルーマニアへ吸血鬼伝説を取材に行ったり、晩年『もんもんドラエティ』(1981~1982)でも吸血鬼役を演じたりと、和製ドラキュラ像を確立しました。
一方、吸血鬼役の候補だった岡田眞澄も、土曜ワイド劇場で放送された『吸血鬼ドラキュラ神戸に現わる』(1979)の主演や、ジョン・バダムの映画『ドラキュラ』(1979)の日本語吹替版(1982年TV放映)でフランク・ランジェラ演じるドラキュラの声を担当するなど、吸血鬼となにかと縁のある俳優でした。
映画『血を吸う薔薇』の作品情報
【公開】
1974年(日本映画)
【監督】
山本迪夫
【脚本】
小川英、武末勝
【出演】
黒沢年雄、田中邦衛、望月真理子、佐々木勝彦、桂木美加、岸田森、二見忠男、伊藤雄之助
エロチシズムの強くなったシリーズ最終作
前作『呪いの館 血を吸う眼』から3年後に製作されたシリーズ最終作『血を吸う薔薇』。
前年にウィリアム・フリードキン監督のホラー映画『エクソシスト』(1973)が米国で公開され大ヒットし、オカルト映画ブームが来ると見込まれて製作が決まりました。
伝説の刑事ドラマ『太陽にほえろ!』への参加で忙殺されていた山本迪夫監督が本作にも続投しています。
舞台は八ヶ岳の人里離れた全寮制の女学園。そのため襲われるのは若い女性で、血を吸われる箇所は首筋ではなく胸元と、前2作に比べエロチシズムが全面に押し出されています。
さらに前作以上に流血描写やアクションにも力が入っています。またバラの棘でターゲットとなる若い女性をマーキングするのも、作品の耽美性を強くさせます。
前々作では母と娘、前作では父と息子の関係性を軸に「吸血鬼」像が造型されましたが、それに代る形で本作『血を吸う薔薇』に登場する吸血鬼は「夫婦」という設定となりました。
吸血鬼役には前作『血を吸う眼』で強い存在感を放った岸田森が続投。その妻の吸血鬼役の桂木美加は前作で岸田演じる吸血鬼に襲われた娘を演じていました。
また旧来のような代々続く「血筋」ではなく、他人の肉体を奪い生き永らえるという本作の吸血鬼の設定も斬新です。
まとめ
日本独自の怪談的空気と、「吸血鬼」という西洋的な恐怖の存在を見事に絡みあわせた「血を吸う」シリーズ。
90年代に勃興した「Jホラー」とはまた一線を画す独特の魅力を放つ怪奇映画でした。
次回の『邦画特撮大全』は…
次回の邦画特撮大全はゴジラシリーズの内閣総理大臣たちを紹介します。お楽しみに。