謎の美女を救うため、騙し騙される演技合戦が展開!
日本アカデミー賞、ブルーリボン賞など数々の映画賞を総なめにした『百円の恋』の武正晴監督が手掛けたコメディシリーズ第2弾『嘘八百 京町ロワイヤル』。
中井貴一と佐々木蔵之介の確かな演技力に裏付けられた絶妙な掛け合いもさることながら、ヒロインを務める広末涼子はもちろん、脇を固める友近、山田裕貴、前野朋哉、木下ほうか、塚地武雅など、名バイプレイヤーたちが、まさに騙し騙されるための演技による”演技合戦”を繰り広げます。
CONTENTS
映画『嘘八百 京町ロワイヤル』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
武正晴
【キャスト】
中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子、友近、森川葵、山田裕貴、坂田利夫、前野朋哉、木下ほうか、宇野祥平、塚地武雅、桂雀々、田中孝史、貝辻信子、吹越満、坂田聡、ブレイク・クロフォード、冨手麻妙、山田雅人、浜村淳、国広富之、竜雷太、加藤雅也
【作品概要】
2018年に公開された『嘘八百』の続編として、2020年に公開された日本のコメディ作品。演出は前作に引き続き、『百円の恋』『銃2020』などの武正晴監督が務めています。
鑑定士としての深い知識と高い鑑定眼を詐欺に使う小池則夫を中井貴一が、高いスキルを贋作作りに使ってしまっていた陶芸家、野田佐輔を佐々木蔵之介が演じます。
映画『嘘八百 京町ロワイヤル』のあらすじとネタバレ
古物商 小池則夫が営む「古美術 獺」の元に、テレビの取材が入ります。
アイドル陶芸家の陶芸王子がレポーターとなり、鑑定家である億野万蔵と、古美術店“嵐山堂”の二代目当主嵐山直矢が、お宝を鑑定して回る番組です。
小池は、お宝として陶芸家野田佐輔が作った茶碗を出しますが、鑑定結果は「5000円」。さらに、同じく野田佐輔が作った名作“緑らく名大海原”についても「樋渡開花堂が、1億で偽物をつかまされたやつですね、これも偽物でしょう」と言われてしまいました。
当の陶芸家である野田佐輔は、個展での商談の場でこのテレビを見てしまいます。商談相手は「偽物を掴まされては」と逃げてしまいました。
さらに個展のオーナーからは、テレビでケチがついたから、と個展の終了を言い渡されてしまいます。野田の妻、康子は「この人、口は立たないんですけど、腕は立つんです」とフォローするも、オーナーは去ってしまいました。
その後も、せっかくお客だと思った人からは贋作制作を依頼されてしまい、康子は追い出してしまいます。
野田は以前、その腕を買われ贋作を作っていたのですが、ある事件をきっかけにもう贋作は作らないと心に誓っていたのでした。
ある日、めっきりお客様がいなくなってしまった「古美術 獺」に、着物美人の志野がやってきます。
「母が美術商に騙されて、父の形見の茶碗が取られてしまい探しているが、名前もわからない」とのこと。差し出された写真を見て、古田織部の“はたかけ”ではないか、という小池。美人に弱い小池は、「良い方法を考えてみます」と安請け合いをしてしまいました。
野田のいきつけの居酒屋では、かつての贋作仲間がいまだ集っています。
野田に加え、警察の筆跡鑑定をもくぐり抜ける達筆のマスター、紙に詳しい表具屋のよっちゃん、どんな箱でも作ってみせる材木屋たちが、着物美人の依頼について話す小池の話に耳を寄せています。
小池は、野田に織部のはたかけの贋作を依頼しますが、やはり断られました。
しかし野田は小池のところに、ある茶碗を持ち込みます。
それは、野田が20年前、樋渡開花堂に依頼され作成した織部のはたかけの贋作の補欠だった茶碗だというのです。
ちょうどやってきた志野に、「お母様に、茶碗が戻ってきたといえるように」と贋作の茶碗を渡し、「お礼はその涙で」と恰好を付ける小池なのでした。
映画『嘘八百 京町ロワイヤル』の感想と評価
中井貴一と佐々木蔵之介の演じたキャラクター
本作『嘘八百 京町ロワイヤル』では、大金をかけた派手で豪快な騙しあいはなく、悪い事をしている奴らを騙して反省させると、中心になるストーリーはシンプルです。
地味でつまらない話だろうかという不安に反して、登場人物1人1人が魅力にあふれていて、どんどん話を面白く変化させていきます。
中井貴一演じる小池は、すっきりさっぱりとしたかっこ良さがあります。
娘に奢ってもらうようなだらしない男なのに、知識や鑑定眼は文句なしで、いざ“騙しあい”が始まったときの自信溢れる立ち振る舞いと機転はカッコ良い。美女に弱いという設定すら、小池というキャラクターの魅力になっています。
佐々木蔵之介演じる野田は、口下手で、陶芸に真摯に向き合う姿を見せつつも、奥さんが志野に焼きもちを焼いて出ていってしまった場面で「いやや、いやや」と情けなく叫ぶ姿は、なんともいえない可愛らしさでした。
そんなチャーミングな2人の掛け合いは、方言のテンポも良く、楽しませてくれます。
共演者たちも魅力
木下ほうかを始めとする詐欺仲間たちも、いつも集まる居酒屋ではまとまりがなさ過ぎるのに、いざ作戦を開始すると大変身。
作戦を始めた時のスペシャリスト感と作戦成功後のシーンでは、達成感に満ち溢れた顔つきになり「さすが仲間」という印象に変わってしまいます。
それぞれのキャラクターが、“演技をすること”を“演じる”ことができる、確かな演技力のある役者によって、定番ともいえるストーリーを彩り豊かにしているのです。
さらに、ストーリーの背景にあるのは、キャラクターたちが人生をかけて何を成し遂げていくのか、どうやって生きるのか、という思いと闘いです。
登場人物たちが成し遂げるもの
小池や野田、陶芸王子たち男性陣は、自分のスキルやプライドによって葛藤を抱えています。
また、野田の妻である康子や市野、小池の娘であるいまりたち女性陣は、他者との関わりの中で悩み考えている、という対比も面白いポイントです。
最後の船内でのシーンで行われる市野と市野の息子のやり取りが、何とも言えない後味を生み出しています。
それは、「偽物」でもお母さんと楽しく金儲けをしたい自分をさらけ出す息子と、息子との関わりを「本物」と演じた志野を映し出していて、男女の対比が浮き彫りになっているからと思われます。
まとめ
『嘘八百 京町ロワイヤル』は、日本のエンターテインメント界が昔から提供してきた、愛すべき“予定調和”もまた映画の醍醐味なのかもしれない、と思わせてくれます。
もちろん、定番なように見えて、その周りにある独特のスパイスによって、最後まで目が離せない作品になっていることには変わりはありません。
けれども、106分という上映時間が鑑賞にはちょうど良く、心を落ち着かせてくれます。観終わった後に、にっこりと日常に笑顔で戻っていける、そんな映画です。
シリーズ第1弾は2週間で撮影、本作の第2弾は3週間で撮影された、とのこと。非常にコスパの良い作品のため、長期シリーズも可能ではないでしょうか。
演技派俳優たちの魅力を引き出し続ける「嘘八百」が、広く長く愛されるシリーズとなってくれることを期待しています。