映画『ホテルニュームーン』は2020年9月18日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー。
映画『ホテルニュームーン』は、綾野剛出演映画『孤独な惑星』の筒井武文監督によるヒューマンサスペンス映画。イランと日本を舞台に秘密を抱えた母娘の謎と絆を描いた作品です。
撮影監督は「アウトレイジ」シリーズほか北野武作品で常連の柳島克己。
出演者は日本の実力派俳優である永瀬正敏、小林綾子。イランからは国民的な女優マーナズ・アフシャル、気鋭の新人女優ラレ・マルズバンらが名を連ねています。
CONTENTS
映画『ホテルニュームーン』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本・イラン合作映画)
【原題】
Mehmankhane Mahe No
【英題】
Hotel New Moon
【監督】
筒井武文
【脚本】
ナグメ・サミニ
【キャスト】
ラレ・マルズバン、マーナズ・アフシャル、永瀬正敏、アリ・シャドマン、小林綾子、ナシム・アダビ、マルヤム・ブーバニ
【作品概要】
日本人監督の筒井武文が、イランの風景やそこに住む人々の魅力を作品にしたいという思いから製作された映画です。
筒井監督は、長編一作目『レディメイド』(1982)を手掛けたのち、フリーの助監督、フィルム編集者を経て独立。篠崎誠監督『おかえり』(1996)で製作、編集を。塩田明彦監督『どこまでもいこう』(1999)では編集を担当しています。イメージフォーラム、映画美学校、東京藝術大学大学院映像研究科などで教鞭をとるほか、映画批評、映画批評、海外映画人へのインタビューなども多数手がけているマルチな映画人のひとりです。
主な監督作は『オーバードライヴ』(2004)や、綾野剛出演作の映画『孤独な惑星』(2010)、『自由なファンシィ』(2015)、『映像の発見=松本俊夫の時代』5部作(2015)があります。
イランのリアルを映し出すために、脚本家に起用されたのはイラン出身の人気脚本家ナグメ・サミニ。10本以上の劇映画の脚本および20本以上の公演で劇作を手がけ、数々の賞を受賞しています。イランで視聴率90%超えのヒットドラマ『Shahrzad』の脚本も手掛けている人気脚本家です。
また、テヘラン大学で演劇の台本指導、そして東京藝術大学大学院映像研究科では脚本ワークショップを務めており、その指導力が決め手になり監督からのオファーがあったようです。
撮影監督を務めたのは柳島克己。「アウトレイジ」シリーズをはじめとする北野武作品や、深作欣二監督『バトルロワイアル』、アッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』などを手掛けるベテランカメラマンです。
映画『ホテルニュームーン』のあらすじ
女子大生のモナ(ラレ・マルズマン)と母親のヌシン(マーナズ・アフシャル)は、イランのテヘランにふたりで暮らしていました。
モナの父親は昔、登山中に友人を助けようとして死んでしまったため、母娘は長い間ふたりきりでまるで友達のように仲良く支え合っていました。
しかし、門限が厳しく男性との交友関係に口出ししてくる厳しいヌシンに対して、モナは不満を持っていました。
彼氏と共にカナダへの留学試験に合格していたのですが、そのことをヌシンに打ち明けられずにいたのです。
ある夜、こそこそと出かけていくヌシンに気づいたモナはとっさに後を着けます。とあるホテルのロビーで日本人男性に会っていたヌシン。
幼少期のモナとヌシンがその男性と並んで映っていた写真を見つけたモナは、自分の出生の秘密や母親の過去について疑惑を持ち始めます。
映画『ホテルニュームーン』の感想と評価
日本とイランの実力派役者のコラボレーション
母親のヌシン役を務めたマーナズ・アフシャルは、イランでは知らない人がいないほどの国民的大女優。
1998年にテレビドラマ『Lost』で役者デビューのち、約50本の作品に出演しています。イラン映画祭(ファジル国際映画祭)で度々主演女優賞にノミネート、受賞している実力派女優です。
彼女のキャリアの中で、母親役は今回が初めてだったようで、引き受けることに対して葛藤があったそうです。
そんな不安は微塵も感じられないほど、自然かつ説得力のある演技で母ヌシン役を見事に演じ切っていました。
娘を想う母の一途な姿はもちろん、永瀬正敏との会話シーンでは日本語を披露し幅広い演技力を見せています。
娘のモナ役を演じたのはオーディションで監督の心を掴んだ気鋭の新人女優ラレ・マルズバン。
実は彼女のオーディション前日にモナ役は別の女優に決まっていたのですが、ラレの気品溢れる魅力と演技論に心奪われた監督が起用を決めたそうです。
彼女の若さと将来への期待ではじけそうな魅力や、憤りを爆発させるシーンの演技は鬼気迫るものがありました。
このふたりの掛け合いと自然なじゃれ合いが見事で、まるで友達のように仲の良い様子からふたりでどんな時も支え合ってきた母娘の過去が伝わってきます。
日本からは、ジム・ジャームッシュ監督『ミステリートレイン』(1989)『パターソン』(2016)、山田洋二監督『息子』(1991)、河瀨直美監督『あん』(2015)など数々の映画で活躍している俳優の永瀬正敏。
そして、イランでも大ヒットした日本ドラマ『おしん』(1983)で一躍脚光を浴びた小林綾子が、イラン側の希望があってキャスティングされました。
日本を誇るふたりの役者の演技が作品の重厚感をさらに引き立てています。
イラン国内で上映されるための作品作り
監督が意識したのは、イランの人が観たとき違和感をもつようなシーンを作らないということでした。
撮影の柳島克己以外ほぼイラン人スタッフでの現地撮影は、日本との違いが多く苦戦したこともあったようです。
イスラーム教が国教であるイランは女性の肌の露出は頭髪も含めて禁じられています。それは映画、写真撮影においても同様です。
室内、しかも就寝時ですらスカーフを巻いていなければならないという厳しい制約の中撮影されたとか。
ほかにも、男女の接触シーンは厳禁。そんな中でも、モナと彼氏の恋人らしいやりとりはナチュラルで微笑ましいものでした。
また、本作ではモスクやバザールなどイスラームをイメージする場所であえて撮影をしていません。
イランの若い撮影スタッフによる意向だったそうですが、かえってそのことでテヘランの普通の暮らしを垣間見ることができたと思います。
そこに住む人々がどう生きているのか、より身近に感じられる作品です。
まとめ
テヘランと日本を舞台に、母の秘密が明かされるとき娘は愛に辿り着く。
母として、一人の女性として生きることの困難と、それでも貫いた愛を感じられる作品になっています。
『ホテルニュームーン』は2020年9月18日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開です。