「“恩”に報いることがそんなに罪なのか?」少女が掟を破ってまで守り抜いた少年の魂が、精霊と人間を繋ぐ伝説の物語となる
『紅き大魚の伝説』は、2016年に公開された中国のファンタジーアニメ映画作品。不思議な世界に住む少女が赤いイルカに姿を変えて人間界をさまい、そこでの男の子との出会いが、運命を決する旅路に少女を駆り立てます。
「私達は何者で、どこから来てどこへ向かうのか?」……考え出すときりがなくて、日々生活することで精一杯でそんなことを考える人はあまりいません。
かつての地球と人が自然界の精霊たちによって司られていたとしたら、大昔は自然と人間が絶妙なバランスで保たれて共存していました。
この映画はその精霊達が16歳になると迎える「成人の儀式」から始まります。16歳という好奇心旺盛な少年少女が見る「人間界」とはどんな世界なのでしょう。
映画『紅き大魚の伝説』の作品情報
【配信】
2018年(中国映画)
【監督】
リャン・シュエン、チャン・チュン
【原題】
大魚海棠 Big Fish & Begonia
【キャスト】
ステファニー・シェー、チー・グァンリン、ジョニー・ヨング・ボシュ、スー・シャンチン、JB・ブラン、トッド・ヘイバーコーン、ティミー・シュー
【作品概要】
リャン・シュエンとチャン・チュンの初監督作品。本作は当初、短編アニメ動画としてインターネット上で公開されましたが、その作品を基に長編映画化への企画が始動。資金難などにも見舞われながらも製作資金の一部をクラウドファンディングで調達したことでも話題となり、12年もの年月を経て完成に至りました。
本国では2016年に上映され、日本では2017年に開催された第16回東京アニメアワードにおいて『ビッグフィッシュ アンド ベゴニア』の題名で初上映。以後Netflixにて独占配信されています。
映画『紅き大魚の伝説』のあらすじとネタバレ
45億年前の地球は海と巨大な魚たちしか存在していませんでした。魚は人間の魂とされ、誕生した瞬間は嘘や偽りのない状態で海という人生を旅して渡ります。
地球上の自然の摂理を保つ精霊たちの世界では、16歳になると「成人の儀式」と称し紅い魚の姿になり、海面から人間界にある自然の法則を学ぶために1週間の旅に出るのです。
しかし「成人の儀式」では人間と関わることが一切禁止とされています。その掟を破った時に何がおこるのか、それは海底の長達にしかわかりません。
主人公のチュンも前の年に16歳となり「成人の儀式」を迎えます。人間の生活や文化を巡り6日目にチュンは運命の出会いをしました。
魚の形をした笛を吹き美しい音楽を奏でる青年にチュンは心を奪われます。人と関わってはいけないと知りながら、チュンはその青年を距離を保ちつつ観察していました。
チュンは青年の奏でる笛の音に名残惜しみつつ、最後の日を迎えました。
人間界最後の日にチュンはイルカ漁をする人間と遭遇します。網にかかったイルカを助けようとしますが、非力故に叶うことはありませんでした。そうこうするうちに天候に変化が現れ嵐が起こります。
チュンは荒波に巻き込まれ海底に戻る渦を目の前にして、仕掛けてあった置き網に引っかかってしまいました。
海崖に暮らす青年はチュンの悲痛な鳴き声を聞き、外に出ます。そして、網にかかったチュンをみつけると助けに向かうため荒れた海に飛び込みました。
青年はチュンを助けることはできましたが、パニックで暴れたチュンの尾にはじかれて渦の中に巻き込まれ、海底でそのまま息絶えてしまいます。
チュンは海底に帰ったあとも自分のせいで青年を死なせてしまい、幼い妹を独りにしてしまったことで自責の念を背負い、苦しみながら日々を過ごします。
映画『紅き大魚の伝説』の感想と評価
本作は中国のアニメーション業界が新たな段階へと至ったことを実感させられるほどに、映像技術の高い美しい作品でした。
また、16歳くらいの多感な頃にある親への反発や知らない世界への好奇心、誰にも言えない秘密を持つこと……これらには、多くの人が共感し理解をしたのではないでしょうか?
しかし、未熟さゆえに熱意だけで突き進みます。それで壁にぶつかりいざという時に守ってくれるのは両親であり仲間です。
もし、自らで判断し決着しなければならないことがあれば、その時に未熟さや甘さを思い知り、1人では生きられぬことを悟り、人として成長をしていくのです。
この作品は大陸ならではの思想と哲学が壮大なストーリーを生み、それらを伝えているのです。
また、この作品を妥協せずこだわりぬき、12年がかりで制作した監督らの熱意がそのまま、ストーリーにも直結していたともいえます。
まとめ
本作は自然に逆らわず、ありのままに生きることを説いた『荘子』の中に記述された、「鯤」(こん)とよばれる大魚の物語がベースになっています。
自然の法則を司るモノがその掟を破ると、その法則が壊れ天変地異が起こるという戒めや、一度決めたことをやりとげるには困難がつきものであり、それを乗り越えた先に新しい道が開かれていくということを伝えています。
好奇心旺盛で正義感の強い少女が絶体絶命になった時に、命を犠牲にしてまで救ってくれた恩人に報いるための勇気は、両親や仲間を危険にさらし苦しめることでした。
自分の選んだ道が正しいのか間違っているのかを自問自答しながら、その答えを少女が人間界で生きて見届けるというのが結論でした。
奇しくも環境問題がおきている現代において人類に突きつけられた課題がこの作品にはあり、この作品を通し私たちがどのように自然と向き合うべきかを考える機会をくれた映画といえるでしょう。