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映画『カゾクデッサン』感想評価と考察レビュー。“真の家族とは何か、どんな姿か”を今井文寛監督が描く|映画という星空を知るひとよ6

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第6回

映画『カゾクデッサン』は、事故にあい意識を無くした女の夫と元夫、そしてその息子が織りなす物語を描いた人間ドラマ。初夏の大気の中、東京の下町と郊外で紡がれる物語を潤いある光と影の映像で描き出します。

映画『カゾクデッサン』は、2020年秋全国順次公開。

主演は映画『殺人鬼を飼う女』(2019)ほかTV、CM、声優(『秒速5センチメートル』)など幅広く活躍する実力派の水橋研二。その恋人役を『彼女の人生は間違いじゃない』(2015)『火口のふたり』(2012)など、話題作への出演が続く瀧内公美が演じます。

監督・脚本は初長編となる新鋭・今井文寛です。日本映画の際立つ才能が交ざり合い、人生をさまよう全ての人に贈るビタースイート・ストーリーが展開。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『カゾクデッサン』の作品情報

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
今井文寛

【キャスト】
水橋研二、瀧内公美、大友一生、中村映里子、大西信満、SHIN、萩原護、岩﨑愛、ナガセケイ、山田諭、髙野春樹、河屋秀俊、坪内守、逢坂由委子

【作品概要】
映画『カゾクデッサン』は、監督・脚本は初長編となる新鋭・今井文寛。主演は、映画『殺人鬼を飼う女』(2019)ほかTV、CM、声優(『秒速5センチメートル』)など幅広く活躍する実力派・水橋研二が務めます。

主人公の恋人役には、『彼女の人生は間違いじゃない』(2015)『火口のふたり』(2012)など話題作への出演が続く瀧内公美。少年役に『ミスミソウ』(2017)ほか注目必至の新たな才能を持つ、大友一生。ほかにも、大西信満、中村映里子らが確かな演技で脇を固めています。日本映画の際立つ才能が交ざり合い、人生をさまよう全ての人に贈るビタースイート・ストーリーが展開します。

映画『カゾクデッサン』のあらすじ


(C)「カゾクデッサン」製作委員会

元ヤクザの水元剛太は、ある日、携帯にかかってきた一本の電話を受けます。「あいつ死んだんだって」という電話の声で、過ぎ去った過去のワンシーンを思い出します……。

現在、飲んだくれの剛太は、恋人の坂口美里が営むバーで働いていました。

剛太がビールを飲みながら出勤したある日、勤務先のバーに元妻・貴美の息子・光貴が現れました。

「母が交通事故にあって入院しています。怪我とかはもういいのですが、意識が戻らないのです。よかったら声をかけてみてもらえませんか」と頼みに来たのです。

こうして、剛太は光貴と10数年ぶりの再会を果たしました。

剛太はすぐに光貴と貴美の病院へ行きます。貴美の今の夫である池山義治が病室にいたので、ぎこちない挨拶をかわしました。

それから、寝たままの貴美に何回も声をかけますが、意識は戻りません。

仕方なくその日は帰りますが、過去への思いにとらわれ、剛太はまだ心の傷は癒やされていなかったことに気づきます。

剛太のことを心よく思っていない光貴の父・義治は、剛太にもう会うなと光貴に言い聞かせます。

しかし光貴は、陰に力強さを秘めている剛太に魅力を感じ始めていました。

翌日、光貴と義治は些細なことから親子ゲンカをします。そのことが引き金となり光貴は自分の出生の秘密を知ってしまいました。

動揺する光貴はふとしたきっかけから友人を殴り、暴力の魅力に取り憑かれてしまいます。

貴美の入院する病院で義治とまた言い争いになり、光貴は止めにはいった病院スタッフをなぐって騒動を起こし、荒んだ気持ちで剛太のいるバーに行きました。

「僕の父は剛太さんでしょう?」と詰め寄る光貴に、剛太は知らん顔をします。

けれども、暴力が楽しいと言い出した光貴に、ついに「本当の暴力を教えてやる」と剛太は言いました。

そして、2人は近くの神社に向かいます……。

映画『カゾクデッサン』の感想と評価

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

“デッサン”とは、絵画用語で“素描”といわれる言葉です。ほとんど彩色を施さない絵画表現をさし、下絵などによく使われる手法です。自身の制作の大元のバックボーンになるものといえるでしょう。

映画『カゾクデッサン』でも、デッサンというタイトルが示す通り、カゾクって何だろう?と、家族の根本的な意味を問いかけています。

「母が事故に遭い、意識を失ったままだから、声をかけて起こしてあげてください」。

ある日、悲痛な思いで、裏社会でひっそり生きる剛太の元へやってきた15歳の少年光貴。この2人はどういう関係だろうと不思議に思うところから、物語は始まっています。

光貴はサラリーマンの父と母の3人暮らし。家庭的にも恵まれていて何の不自由もないのですが、母の知人の剛太と触れ合ったことで、自分の出生の秘密を知ってしまいます。

優しい両親がいる家庭。自分は普通の家族を持っていると思っていた光貴にとって、今の父と血が繋がっていないという事実はショックでした。

それなら本当の父は誰? やっぱりあの人か。光貴はそんな思いで剛太の元を訪れますが、それがかえって剛太を苦しめることに……。

自分の本当の家族を求める15歳の光貴のキャスティングは、繊細な外見の大友一生です。

複雑な家族関係に驚きながらも、逞しく事実を受け入れて成長する少年光貴。この役どころは、大友にとって等身大であり当たり役ともいえるでしょう。

本当の家族を持っていない“父”は、ドラマや舞台に数多く出演している水橋研二が好演。

酒におぼれ、真の人生から逃れようとしている男・剛太は、光貴の出現で自分の周りの自分を必要としている人の存在に気が付きます。

水橋は、人生のアンダーグラウンドを彷徨う剛太の孤独やプライドの欠片がじっくりと滲み出るように演じていました。

そしてこの2人を陰ながら見つめているのは、現在の剛太の恋人の美里。

光貴が剛太の子供であろうとなかろうと、剛太は剛太で変わりはないと、きっぱり割り切っている感があります。とても懐が深く、物分かりの良い女性です。

美里を演じた瀧内公美は、こんなデキの良い美里に扮することに苦心したそうです。

主要キャストも役にかけるそれぞれの決意を胸に、カゾクの基礎を思い描いて演じた本作。一つの家族が誕生するに至るまでの道のりと思惑が、登場人物のほろ苦い思いとともに、共感できることでしょう。

まとめ

(C)「カゾクデッサン」製作委員会

映画『カゾクデッサン』は、ある平凡な家族の秘密を描き出し、血の繋がらない親子は果たしてカゾクと呼べるのかどうかと、究極の問題を突き付けています。

法律的には一番求められるのは血縁関係でしょうが、本当にそうでしょうか。血は繋がっている親でも、子どもにとってはどうしようもない親である場合もあります。

カゾクとしての一個人のことを大切に思っていれば、血の繋がりなど気にしなくてもいいのではないかと、そんな気がします。

一口に「カゾク」といっても、ケースバイケースで、その形態はいろいろです。カゾクって、広い世界に星の数ほど数え切れなく点在しているのですから。

他のカゾクと自分のカゾクを比べても仕方がないと思えます。自分を必要とする人を大事にするのが一番大切なことではないでしょうか。

主人公の剛太はその思いに至るまで、ずっとほろ苦い思いをしてきました。そしてやっとわかった本当のカゾクの姿に、心が温まります。

映画『カゾクデッサン』は、2020年秋全国順次公開。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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