事実に基づく「悪魔祓い」の儀式、エクソシストの存在に迫る!
今もなお行われている「悪魔祓い」と呼ばれるバチカンの正式な職業「エクソシスト」をあなたはご存知でしょうか?
これまでも悪魔祓いといわれる「エクソシスト」を扱った映画はいくつもありますが、今回ご紹介する『ザ・ライト-エクソシストの真実-』(2011)は、事実に基づき描かれたエクソシストの全貌に迫った衝撃作です。
昨今のアメリカでは悪魔の存在を信じる人の割合が多くなり、1990年には50%台だったのが、2007年には70%に達していると言われ、それに伴い悪魔に憑依されたという案件が増え、悪魔祓いを行う「エクソシスト」の役割が求められました。本作中にもそれを裏付けるシーンが登場します。
映画『ザ・ライト -エクソシストの真実-』の作品情報
【公開】
2011年公開(アメリカ映画)
【原作】
「The Rite」/マット・バグリオ
【監督】
ミカエル・ハフストローム
【キャスト】
アンソニー・ホプキンス、コリン・オドナヒュー、アリシー・ブラガ、キアラン・ハインズ、トビー・ジョーンズ、ルトガー・ハウアー、マルタ・ガスティーニ、マリア・グラツィア・クチノッタ、クリス・マークエット
【作品概要】
原作者のマット・バグリオ氏が実際に2005年から3年間、アメリカの神父や悪魔祓いに関する取材を続け、現実の出来事をもとに描かれた物語です。
日本での公開は2011年3月19日の予定でしたが、東日本大震災の影響により4月9日に延期されました。本作は悪魔払いの儀式をする「エクソシスト」をテーマとしたホラー映画ですが、事実に基づいたドキュメンタリー的要素も含んだストーリー。
監督は『1408号室』(2007)のミカエル・ハフストローム、神学生マイケル・コヴァック役にはテレビシリーズの「THE TUDORS〜背徳の王冠〜」に出演したコリン・オドナヒュー、ルーカス神父役には、『羊たちの沈黙』(1991)でハンニバル・レクター博士の役でアカデミー主演男優賞を受賞している、アンソニー・ホプキンスが迫力の怪演をし、「ハリーポッター」でお馴染みのドビーの声役トビー・ジョーンズ、『アイ・アム・レジェンド』(2007)のアリシー・ブラガが共演しました。
映画『ザ・ライト -エクソシストの真実-』のあらすじとネタバレ
主人公のマイケル・コヴァックは幼い頃に母親を亡くし、葬儀屋を営む父を手伝いながら二人で暮らしていました。
マイケルは神父や葬儀屋である家系に育ちましたが、信仰心は薄く逆に神の存在について強い猜疑心を抱いていました。
自分の将来についても明るい希望はもっておらず、経済的な事情と家系が神父か葬儀屋だという理由で大学には行かず、学位が取れるという理由と奨学金で神学校に進学しました。
マイケルの司祭になるべく最終査定の成績は優秀でしたが、「神学」の成績だけ極端に悪く恩師のマシュー神父は「わざとか?」と、問います。
マイケルには司祭になる資質「信仰心」が欠落していました。それを理由に「終生誓願」をするに気持ちが至らないと司祭への道を辞退しようとするのです。そして、「辞退届」を出した晩にマイケルの運命を動かす事件が起こります。
外出をするマイケルの姿を見つけたマシュー神父が追いかけ呼び止めます。マイケルの目の前でマシュー神父は歩道で転倒し、それを避けようとした自転車に乗った少年がトラックにはねられてしまいます。
マイケルは少年に駆け寄り無言で見守りますが、瀕死の少年は薄れゆく意識の中で、マイケルに祈りを乞うのです。
「神父様、お祈りを……このまま死にたくない」と、訴える少年にマイケルは知っている限りのキリストの言葉を少年に捧げ、少年はそのまま安らかに亡くなりました。
その一部始終を見ていたマシュー神父は翌日、司祭を辞退したマイケルに「終生誓願」を行わない学生は奨学金を返還しなければならないと伝え、年間50万件以上の「悪魔に憑依された」という報告がバチカンにあり、「エクソシスト養成講座」が設立したと話しを切りだします。
つまり、マシュー神父は司祭になることを辞退する以前に、単に実家から「逃避」するだけのために、神学校を選んだのか? その意味についてバチカンへ行き「悪魔祓いの方法講座」を学びながらもう一度、よく考えることを薦めます。
映画『ザ・ライト -エクソシストの真実-』の感想と考察
本作のプロローグにヨハネ・パウロ2世の言葉として、信じる者など誰もいない……「大天使聖ミカエルによる、悪魔との戦いは今も続いている。悪魔は今も存在するからである」と、出てきます。
作者の意図は悪魔祓いをする「エクソシスト」の存在を、絵空事ではなく実在するということを描いています。
作中にでてくるアンジェリーナがその役割といえるでしょう。そして「信じる者など誰もいない」は、悪魔の存在など信じない現代の若者として、マイケルを仕立てたのです。
マイケルは心理学など科学的根拠、説明のつく事実しか信じていませんでした。そこまでマイケルを「無神論者」にしたのには、幼い頃に亡くした母の死や葬儀屋に運ばれる遺体の死因にあったようです。
なぜ母親は死なねばならなかったのか? 人の死は病気や事故だけではなく、生きていることへの苦しみや絶望が関わっていることもあり、そこに神の救いはないと思うようになったのでしょう。
母の死を受け入れられないまま、マイケルは精神心理学で説明がつくものと考えるようになったのです。
しかし、マイケルに信仰心が戻らなければ、悪魔に憑りつかれてしまう危険もはらんでいるようでした。それは作品の冒頭から布石がありました。
ストーリーの序盤にで葬儀屋に運び込まれた女性の遺品にブレスレットがあります。そこには“カエル”と“青い瞳”を模したチャームが付いていますが、このブレスレットは中盤に登場するロザリアも身に着けており、ストーリーのキーワードになります。
ルーカスに憑りついた「悪魔バール」はヒキガエル、猫、または人間に似た姿をしていると言われていて、ルーカスの家に住み着く猫や池のカエルなどがその象徴だったと考えられます。
つまりブレスレットは悪魔バールと、青い瞳のマイケルを表わするものだったのではないでしょうか。
善と悪の表裏性や嘘や都合のいい解釈などを、名俳優で知られるアンソニー・ホプキンスの狂気な演技とビジュアルで表現したのは、映画として受け入れやすかったと言えます。
また、日本にも「虫の知らせ」「三途の川」という言葉があるように、第六感的な精神世界が存在することも否めず、偶然ではかたずけられない経験をしたことのある人は多いでしょう。
それらをビジュアル的に説明したのが、本作品『ザ・ライト -エクソシストの真実-』なのです。
まとめ
『ザ・ライト -エクソシストの真実-』は、実際にアメリカで起こっている、悪魔に憑依されていると訴える人と真っ向から対処する「エクソシスト」の存在を知らしめています。
また、それは現代人の生き難さや、価値観の相違が起こす対立関係を、事実に基づいたドキュメンタリーに脚色を加えて制作されています。
単純に悪魔の存在を否定したり、精神疾患の疑いを排除しているのではなく、心に巣くう闇には多数の理由があり、その闇から救い出す方法論として専門医もいれば、それでも解決できなければ「エクソシスト」の存在もいるという「証拠」を示しているのです。
つまり、現代社会は疑心暗鬼にまみれ、様々な悩みを抱える人には、多様な解決の糸口があるということです。
本作は強い意志に従うわけでもなく、打算的に神学校へ行ったアメリカ人の青年が、導きなのか温情なのか恩師の助言でローマに行くこととなり、異端と呼ばれる一流のエクソシストの神父と関わり、悪魔ばらいを目の当たりにしながら、信仰心を取り戻し司教になっていく姿を描いた作品でした。