映画『アルプススタンドのはしの方』は2020年7月24日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開
2019年6月に浅草九劇で上演され、同年度内に上演された演劇から選出される‟浅草ニューフェイス賞”を受賞した舞台の映画化した『アルプススタンドのはしの方』。
原作は兵庫県・東播磨高校演劇部が上演し、第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた名作戯曲。また映画版の脚本を、舞台版にて演出を務めた奥村徹也が担当しています。
本作を手がけたのは、『新宿パンチ』『恋の豚』をはじめとして、映画・Vシネマの名作を100本以上手掛けている業界注目の城定秀夫監督。今回は城定監督に『アルプススタンドのはしの方』にかける想いなどについてお話いただきました。
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「舞台版の魅力」と「映画版ならでは」を
──はじめに、戯曲『アルプススタンドのはしの方』に対する城定監督のご感想をお聞きしてもよろしいでしょうか?
城定秀夫監督(以下、城定):映画化のお誘いを最初に受けた際、当初は「高校演劇」という言葉に対して先入観を抱いていた部分がありました。ところが実際に舞台版を観てみると、その物語へ非常に引き込まれていきました。4人の高校生による会話劇によって展開されるのですが、それぞれの登場人物たちに多くの方は感情移入ができるのではないでしょうか。
──今回の映画化にあたって、城定監督がこだわられた点とは何でしょう?
城定:原作戯曲における登場人物は本当に4人のみで、物語自体も現在も舞台版・映画版より短いものでした。そこで映画化を進めるにあたって「吹奏楽部を登場させよう」という話になりました。
それは物語により広がりを生み出すためのアイディアでしたが、その一方で、原作戯曲や舞台版の魅力が損なってしまうほどに世界が広がり過ぎてしまうのを危惧していました。その点は脚本の奥村徹也さんと話し合い、「映画で描くことで生じる世界の広がり」と「観客それぞれが想像することで生まれる面白さ」のバランスを保つように心がけました。
安心感のあったキャスト陣
──主要キャストである、小野莉奈さん、西本まりんさん、中村守里さん、そして先生役の目次立樹さんは舞台からの続投となり、平井亜門さんは映画からの参加となります。5人の印象はいかがですか?
城定:舞台版から引っ張っている人たちが多くいたことで、最初はむしろ僕のほうが部外者みたいな感じでした。演劇を何カ月も稽古してきた中、それを映画用の芝居に転換するということで、少し心配はあったんです。そこで前もって1日立ち稽古をしたのですが、やっぱり達者だし、ストーリーが体に入っているので、何の心配もないと感じることができたのですごくありがたかったです。
演劇部員の安田あすはを演じた小野さんは、たぶん天才肌だと思います。急にふっと黙り込んだかと思うと、スタートがかかった瞬間にしっかり役に入ってビシッときめます。元野球部員の藤野を演じた平井くんは舞台版に出演はしていませんが、舞台版にはない「新しい藤野」を作ってくれたと思いました。
田宮ひかる役の西本さんと宮下恵役の中村さんは、漫画みたいにすごくキャラが立っているわけではないのに、ものすごく自然にキャラが立っているような感じを演じ分けてくれました。
厚木先生を演じた目次さんに関しては、最初、舞台版で演じていた雰囲気が映画でぬけるのかどうか、ご本人が不安がっていました。舞台版と同じように演じるとすべるということと、そのうえでどうやってリアルに落とし込んでいくか、きちんと話をしました。具体的には、厚木先生がのどをつぶしてしまうシーンがあるのですが、実際にのどをつぶしてもらおうかと考えましたが、さすがにそれは無理だろうということになり、なしにしました。結果としてそのあたりの不安は杞憂で、素敵なキャラクターに落とし込んでくれたと思います。
同じ画は撮りたくない
──映画ならではの面白さが出ていて、クスッと笑える場面も多々ありました。城定監督ご自身はどのように工夫されたのでしょうか?
城定:実は動きがない会話劇は苦手意識があって、いつもは自分で脚本を書くので、なるべくそういうシチュエーションがないようにしていました。でも今回は原作がありますから、そうはいかなかったですからね。
この作品は廊下でのシーンや吹奏楽部の演奏などアクセントはありますが、基本的に4人が座って話しているだけという状況がすごく多いので、カット割りに関してはあっという間にやることがなくなってしまいました。もともと僕はカットバックがあまり好きじゃないので、同じ画は撮りたくないという思いがあり、時間がない中で、ものすごくワンカットは大切にしました。
撮影期間は5日しかなく、しかも昼しか使えないので、実質3日撮りくらいのスピード感で行いました。エキストラも多めにお願いしていたのですが、集まってもらえる日が限られていて、エキストラがたくさんうつるカットだけ残してまとめて撮ったりしましたが、天気がつながらなかったりして、そのあたりのバランスをとるのが大変でした。
「天気を撮るか」「大勢の人々の姿を撮るのか」などを現場で選択していかなければいけませんでしたから、臨機応変にやっていきました。ただ今回は、移動が全然なかったので、そういう意味で楽でしたね。
現実が大きく変わる中で
──2020年は、新型コロナウイルスでエンタメ業界が大きな打撃を受けています。自粛期間に城定監督はどのようなことを考えていらっしゃいましたか?
城定:2020年の高校野球界は春・夏と甲子園大会が中止となり、現実では大きな変化が起きているため「映画で描かれている世界にリアリティがなくなってしまうのではないか」と強く感じています。今回の映画はコロナの流行以前に完成させてしまったのでしょうがないですが、観客の皆さんが作品を観てどう感じるかのは、本当に分からないと思っています。
例えばこの作品に対して「甲子園ってこうだよな」と思うのか、或いはとても不自然に感じてしまうのか。少なくとも新型コロナ対策という意味でいえば、応援団の中にいるよりは、アルプススタンドのはしの方に少人数でいた方がいいわけですからね(笑)。少しでも早く映画で描かれているような、お客さんがいっぱい入っている世界に戻るといいなと思いつつ、そうならなかった場合、映画も変わっていかなければいけないと思っています。
──今後、どのような作品を撮っていきたいと考えていらっしゃいますか?
城定:本当にまだ分からないですね。時代劇やコメディーのように現実世界とあまりリンクしていない映画であれば、最低限のリアリティーについてそんなに考えなくていいのかもしれませんが、普通の日常を描くのであれば、今の世の中に合わせていかなければいけない。そうしたところを今後どうしていこうかな……と考えています。
現実世界に合わせた映画が新しい映画として面白がってもらえるのか、それとも気が滅入るからそういうのはあまり観たくないと思うのか、その辺の感覚がまだ自分でも分からないので、探りながら作っていかなければいけないのかもしれません。
城定秀夫監督プロフィール
東京都八王子市出身。武蔵野美術大学在学中より8ミリ映画を制作。同大学を卒業したのち、ピンク映画やオリジナルビデオで助監督を務める。
2003年に『味見したい人妻たち』で映画監督デビュー。同作品で2003年度ピンク大賞の新人監督賞を受賞した。代表作は『恋の豚』(2019)『新宿パンチ』(2018)など。
映画『アルプススタンドのはしの方』作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
籔博晶、東播磨高校演劇部
【監督】
城定秀夫
【脚本】
奥村徹也
【キャスト】
小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、目次立樹
【作品概要】
2019年6月に浅草九劇で上演され、同年度内に上演された演劇から選出される「浅草ニューフェイス賞」を受賞した舞台『アルプススタンドのはしの方』の映画版となります。
原作は兵庫県東播磨高校演劇部が上演し、第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた名作戯曲。監督は映画・Vシネマの名作を100本以上手がける業界注目の名匠・城定秀夫が務めます。小野莉奈、西本まりん、中村守里、目次立樹が舞台に引き続き出演、平井亜門、黒木ひかりが新たに参加し、青春時代を謳歌し損ねた大人たちのための青春映画の傑作が誕生しました。
映画『アルプススタンドのはしの方』のあらすじ
高校野球夏の甲子園大会一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめる冴えない4人。
夢破れた演劇部員・安田と田宮、遅れてやってきた元野球部・藤野、帰宅部の成績優秀女子・宮下。安田と田宮はお互い妙に気を使っており、宮下はテストで吹奏楽部部長・久住に学年一位を明け渡してしまったばかりです。
藤野は野球に未練があるのかふてくされながらもグラウンドの戦況を見守っています。
口癖のように「しょうがない」を連発し、最初から諦めていた4人でしたが、それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開とともに、いつしか応援に熱を帯びていきます。
映画『アルプススタンドのはしの方』は2020年7月24日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開