周防正行監督が描く相撲の世界
元シブガキ隊の本木雅弘が華麗なシコを踏む
『ファンシイダンス』(1989)で商業映画デビューした周防正行監督の2作目となる『シコふんじゃった。』。
廃部寸前の大学相撲部に卒業のための単位と引き換えに入部する主人公を本木雅弘が演じ、マドンナ役を清水美沙が演じ、脇を固める柄本明や竹中直人、田口浩正らの演技にも注目です。
主人公が入部した相撲部は部員ただ一人というありさま。新入部員をかき集め、夏のリーグ戦に出場して一勝でも上げるために奮闘する大学生たちをコミカルに描いた異色相撲コメディ。
映画『シコふんじゃった。』の作品情報
【公開】
日本映画(1991年)
【脚本・監督】
周防正行
【キャスト】
本木雅弘、清水美沙、柄本明、竹中直人、田口浩正、松田勝、ロバート・ホフマン、梅本律子、宝井誠
【作品概要】
脚本・監督は『ファンシイダンス』の周防正行。ひょんな事から大学の相撲部に入ることになった大学生の奮闘をコミカルに描いた異色相撲コメディ。主演は元シブガキ隊の本木雅弘。肉体美をさらけ出してのまわし姿で、体当たりの相撲を取っています。
第35回ブルーリボン賞作品賞並びに第16回 日本アカデミー賞(1993年)最優秀作品賞受賞。そのアカデミー賞では監督・脚本賞を周防正行が受賞。主演男優賞は本木雅弘、助演男優賞は竹中直人がそれぞれ受賞。
映画『シコふんじゃった。』のあらすじとネタバレ
キリスト教系の教立大学4年の山本秋平。ピアスをし、おしゃれで女子にモテる秋平は、父親のコネで就職も決まり、残りわずかな大学生活を思いっきりエンジョイしていたところ、卒論指導教授の穴山冬吉に呼び出されました。
穴山の授業に一度も出席したことのなかった秋平。穴山から「授業の単位はゼロ」と言われ、単位を与えるのと引き換えに、彼が顧問をしている相撲部の試合に出るよう頼まれます。
穴山はこの大学の学生相撲の横綱だったのです。単位欲しさに、相撲も良く知らない秋平は仕方なく引き受けてしまいました。
実際に相撲部へ行ってみてビックリ。現在の部員は8年生の青木富夫と、名誉マネージャーとして大学院生の川村夏子がいるのみ。青木は相撲を心から愛しているものの一度も試合に勝ったことがありません。
やがて秋平と同じようにひょんな理由で、恰幅いいクリスチャン田中と、秋平の弟・春雄が入部することになりました。
このメンバーで何とか団体戦に出場しましたがみごとに惨敗。
「相撲をバカにしているのか。こんな奴らに相撲なんか出来るはずがない」と怒り狂うOBたちと、一生懸命に部員たちを庇う穴山を見て、秋平は思わず「今度こそ勝ってやる!」と宣言します。こうして、一度きりの相撲試合のはずが、3カ月後のリーグ戦を目指すことになってしまいました。
夏子の采配でテレビ局がリーグ戦までの間の密着取材をすることになり、にわかに相撲部の周りが活気づいてきます。
メンバー集めのため、イギリスからの留学生スマイリーも加わりました。貧乏で下宿代にもことかく彼を相撲部の練習小屋に住まわせることで、スマイリーの入部を確保したのです。
けれども、人前でお尻をさらけ出すことを拒むスマイリーは、まわしの下にタイツをはく始末で先が思いやられます。さらに春雄に思いを寄せる体格の良過ぎる間宮正子がマネージャーとして入部し、相撲部は名門相撲部復活をかけて厳しい練習の毎日が続きます。
映画『シコふんじゃった。』感想と評価
この映画は、学生相撲を描いています。しかもどこかユニークなコメディタッチ。もとアイドルの本木を脱がせ、まわし一つの姿でスクリーンに登場させたのも驚きでした。意外と筋肉質な本木の体はさすがはスポーツ派としかいいようがありません。
本木のわきはベテランの俳優陣が固めていました。目立ったのは、竹中直人と榎本明。
相撲部一番の古株なのにここ一番の大勝負のときになると、緊張から決まって下痢になり、まわしの上からお尻を押さえて苦しそうにトイレに駆け込む青木。個性豊かに演じているのは竹中直人で、ベテランの味たっぷりのコミカルな演技が光ります。
そんな青木を仕方がない奴と温かなまなざしで見守るのは、顧問の穴山です。相撲部を残したいと考える穴山はあの手この手を尽くして、相撲部存続にかけます。一癖も二癖もありそうですが、実はとても優しいのです。こんな穴山を、榎本明がさらりと演じています。
さらに注目したのは、相撲取りのような体格の女子マネージャー、間宮正子です。代理の相撲部員としてひと肌脱ぎ、女性禁止の土俵へ男性として上がって相撲をとります。
女性なら力士の恰好をするのは恥ずかしいでしょうに、頑張って対戦相手を苦しめました。演じているのは梅本律子。肌と肌がぶつかり合い、どっぷりと組みあっても男性に一歩も引けを取らない試合っぷりに惚れ惚れします。
こんなにもバラエティに富んだメンバーの弱小相撲部が強くなっていく物語……。若い女性が相撲に興味を持ち始めた時代に合うように、周防正行監督が作った映画といえるでしょう。
まとめ
映画『シコふんじゃった。』は今では周防正行監督の出世作ともいわれています。この作品でブルーリボン賞や日本アカデミー賞の作品賞を受賞したからかもしれません。
作品中には相撲を愛するがあまり、弱い相撲部員を罵倒する怖いOBが出てきたりと、先輩後輩のケジメがはっきりしたスポーツ界の姿も描かれていて、一見スポーツ根性もののようです。
しかし、登場人物の名前に春、夏、秋、冬を入れてみたり、意外などんでん返しもストーリーに含めたりと、周防監督ならではの遊び心がいっぱいの楽しい映画となっています。
相撲のルールや技の名前、楽しさまでも映画に盛り込んだ手法に、新たな周防ファンを得た作品といえるでしょう。