初公開から50年、多くの日本人に愛された不朽の名作が鮮明によみがえる
多くの映画ファンの心をつかんだ名作メロドラマが、初公開から50年経った今年2020年に、『ひまわり 50周年HDレストア版』として6月1日より全国順次公開されます。
イタリアン・ネオ・レアリズモの名匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督による、戦争によって引き裂かれた夫婦の悲哀を描いた1970年製作の映画『ひまわり』。
現時点で世界最高の状態となってスクリーンに帰ってくる、本作の見どころをご紹介しましょう。
CONTENTS
映画『ひまわり 50周年HDレストア版』の作品情報
【日本公開】
1970年(イタリア映画)
※50周年HDレストア版は2020年公開
【原題】
I Girasoli
【監督・脚本】
ヴィットリオ・デ・シーカ
【製作】
カルロ・ポンティ
【撮影】
ジュゼッペ・ロトゥンノ
【音楽】
ヘンリー・マンシーニ
【キャスト】
ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ、リュドミラ・サベーリエワ
【作品概要】
ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ主演による、1970年製作のイタリア映画。
第二次世界大戦で引き裂かれた男女の悲しい愛を描いたこの作品は、映画史上初めて、外国映画が旧ソ連のウクライナで撮影を敢行したことも話題になりました。
日本では1970年の洋画興行ランキング5位を記録するヒットとなり、以来何度もリバイバル公開されるなど、長らく親しまれてきました。
初公開から50周年にあたる2020年に、最新技術を駆使して修正を施したHDレストア版が公開となります。
映画『ひまわり 50周年HDレストア版』のあらすじ
第二次世界大戦下のイタリア・ナポリ。陽気な性格のアントニオは、情熱的な性格の女性ジョバンナと恋に落ちます。
徴兵され、戦地に赴くことになっていたアントニオは、結婚すれば12日間の休暇が取れると知り、すぐさま式を挙げます。
夢のような新婚旅行を瞬く間に終えてしまった2人は、どうしても離れがたく、アントニオが精神病であると偽り、兵役を逃れる策に。
でも、その嘘がバレてまったことで、アントニオは極寒のソ連戦線に送られてしまいます。
数年経ち、終戦を迎えるも、アントニオは帰還しません。やがて彼が行方不明になったと知らされるジョバンナですが、必ず生きていると信じるあまり、ついに単身ソ連へ向かいます。
アントニオの写真一枚を手に、ひたすら探し続けるジョバンナは、やがて、モスクワ郊外の住宅地で少女のように可憐なロシア人女性マーシャと出会います。
写真を見て動揺するマーシャは、瀕死の状態だったアントニオを救い、後に彼と結婚して子どもをもうけていたのです。
傷心のジョバンナは、追い求めていたアントニオを目にした途端、衝動的に1人イタリアへと帰国。
それから空虚な日々を送るジョバンナの前に、一人の男が姿を現します…。
イタリア映画界のスーパートリオによる不朽の名作が復刻
1910年代に俳優としてイタリア映画界に入り、1940年の『赤い薔薇』で監督デビューしたヴィットリオ・デ・シーカ。
ファシスト体制時は正当に評価されなかったものの、第二次大戦後に発表した『靴みがき』(1946)『自転車泥棒』(1948)で、敗戦で荒廃したイタリア庶民の生活をリアルに描いた”イタリアン・ネオレアリズモ”を代表する監督として、世界的に知られることとなります。
やがて、イタリア国内が復興を遂げていくにつれ、映画も陽気なコメディやメロドラマが製作されるように。
デ・シーカもその流れに乗り、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニを迎えて製作したコメディ『昨日・今日・明日』(1963)『あゝ結婚』(1964)を連続ヒットさせます。
ローレンとマストロヤンニが共演し、デ・シーカも俳優として参加したコメディ『バストで勝負』(1955)で開花した、イタリア映画界のスーパートリオ。この3人が集大成的に放ったのが本作『ひまわり』です。
世界でも、とりわけ日本での人気が高い本作が、1970年の初公開から50年目にあたる2020年に、日本のイマジカにより、フィルムにあった細かい傷の修復、画像処理、ノイズの除去、さらに経年劣化に伴う色味調整を施したHDレストア版として公開となります。
陽気なユーモアと哀愁ネオレアリズモの融合
作品序盤、アントニオがジョバンナのイヤリングを飲み込んで大慌てするシーンや、新婚旅行で巨大オムレツを作って食べるシーンといった、陽気でユーモアなやり取りは、スーパートリオによる過去作『昨日・今日・明日』や『あゝ結婚』を思わせます。
しかしながら、アントニオがソ連に出兵していく中盤以降は、デ・シーカの源流とも言えるネオレアリズモな展開へと、作品のトーンが変わっていきます。
あんなにも楽しく、熱烈に愛し合っていたのに、戦争によって引き裂かれてしまう2人。
そんな彼らの哀愁を誘うのが、『ティファニーで朝食を』(1961)や「ピンク・パンサー」シリーズ(1963~93)のテーマ曲を手がけた、ヘンリー・マンシーニのメロディです。
本作自体を観ていなくても、どこかで一度は耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
デ・シーカはこの後も、『悲しみの青春』(1970)や『旅路』(1974)といった映画史に残る作品を発表していきますが、本作は、彼のキャリアの到達点と言っても過言ではありません。
劇中を彩るさまざまな「ひまわり」
ソフィア・ローレン演じるジョバンナは、人目を惹く美貌を持つ女性。
性格も情熱的でバイタリティにあふれており、夫アントニオを戦地に行かせたくないばかりに、狂言芝居を打ったりもします。
さらに、行方不明となったアントニオの生存を信じて、ロシア語も分からないのに単身でソ連に向かうたくましさも。
その姿はまさしく、本作タイトルでもある花の「ひまわり」のようでもあります。
かたや、リュドミラ・サベーリエワ演じるロシア人のマーシャは、可憐で繊細な雰囲気を持つ、一見はジョバンナとは正反対な女性です。
しかし、雪原で瀕死状態のアントニオをたった一人で救い出した上に、ジョバンナとの再会で心が揺れる彼の背中を押すかのように、イタリア行きを勧めます。
芯が強くて気丈さを持ち合わせているという点では、マーシャもやはり「ひまわり」。
花言葉である「あなただけを見つめる」を体現するかのように、2人の女性は、1人の男を見つめます。
そして何よりも、「ひまわり」はロシアの国花です。にもかかわらず、本作では、悲しい歴史を土台に咲いていることが明らかとなります。
劇中を彩るさまざまな「ひまわり」が、時代を超えて観る者の心を揺さぶることでしょう。
“マエストロ”デ・シーカの魅力に迫る特典DVD『ヴィットリオ・D』も必見
なお、映画『ひまわり 50周年HDレストア版』の公開を記念して、デ・シーカ監督のパーソナルな面に迫った日本未公開のドキュメンタリー映画『ヴィットリオ・D』のDVDが、劇場入場者先着1,000名にプレゼントされます。
ソフィア・ローレン、クリント・イーストウッド、ウディ・アレン、ケン・ローチといった著名な映画人たちがデ・シーカの功績について語りつつ、デ・シーカ作品の名場面や貴重映像が満載となっています。
「偉大」「特別な人物」「ナポリの劇場のような大きな存在」「優れた調教師」……『ヴィットリオ・D』で、デ・シーカを称える言葉は十人十色です。
15歳の頃からデ・シーカに自らを売り込み、『昨日・今日・明日』でメインキャストに初起用されて以降、国際的名声を得ていくマルチェロ・マストロヤンニは、自伝でこう振り返ります。
ああ、デ・シーカ!すばらしい人物でした。そりゃもういい男で、まるで教皇のように見えましたね。一緒にいさせてもらって、どれほど楽しい時を過ごしたことか。なんと機知にあふれる人だったことか。まさに巨匠(マエストロ)でしたね。
――『マルチェロ・マストロヤンニ自伝 わが映画人生を語る』(小学館)
マエストロが手がけた珠玉の一作『ひまわり』と、マエストロの魅力が詰まった『ヴィットリオ・D』を、この機会にぜひ。
映画『ひまわり 50周年HDレストア版』は、2020年6月1日より全国順次公開。