Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2020/03/31
Update

実写映画『白雪姫(2020年版)』感想とレビュー評価【あなたが知らないグリム童話】として、英原題に込められた意味とは⁈

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『白雪姫 あなたが知らないグリム童話』は2020年6月5日(金)よりヒューマントラスト渋谷にて公開予定。

若く美しい女性と、その継母。一見仲睦まじきその二人の間には、寓話を越えた欲望や恐ろしき念が渦巻いていました……。

グリム童話などで知られる昔話『白雪姫』をモチーフに繰り広げられるエロティックスリラー映画『白雪姫 あなたが知らないグリム童話』

アンヌ・フォンテーヌ監督が、女優のルー・ドゥ・ラージュとイザベル・ユペール演じる「白雪姫」と「継母」を、妖艶に美しく映し出しました。

映画『白雪姫 あなたが知らないグリム童話』の作品情報


(C)2019 Mandarin Production – Gaumont

【日本公開】
2020年(フランス・ベルギー合作映画)

【英題】
Pure as Snow(原題:Blanche comme Neige)

【監督】
アンヌ・フォンテーヌ

【キャスト】
ルー・ドゥ・ラージュ、イザベル・ユペール、シャルル・ベルリング、ダミアン・ボナール、ジョナタン・コエン、リシャール・フレシェット、バンサン・マケーニュ、パブロ・ポーリー、ブノワ・ポールブールド

【作品概要】
グリム童話などで知られる物語『白雪姫』をモチーフに、現代に生きる女性たちの性と生を描き出します。監督は『恍惚』(2003)『ココ・アヴァン・シャネル』(2009)『夜明けの祈り』(2016)など数多くの作品で脚光を浴び、現代のフランス映画界を牽引する一人であるアンヌ・フォンテーヌ。監督はつねに女性の生き方や愛の目覚めを描いてきました。

そして命の危機を感じて逃げ、隠れて生活していく中で次々と男を翻弄してゆく娘・クレアをフランス映画界の女神と呼ばれる、ルー・ドゥ・ラージュが妖艶に演じます。

日本で開催された「フランス映画祭2017」で一般の観客によりエールフランス観客賞に選ばれた『夜明けの祈り』にて主人公の医師・マチルドを演じ注目を集めたラージュ。今回、同作で監督を務めたフォンテーヌと再びタッグを組みます。また恋人を義理の娘に奪われかけ、嫉妬に狂う義母・モード役に、フランスを代表する国際派女優イザベル・ユペールが担当、圧倒的な演技力で存在感をアピールしました。

映画『白雪姫 あなたが知らないグリム童話』のあらすじ


(C)2019 Mandarin Production – Gaumont

美しく若い女性クレア(ラージュ)は、亡くなった父親が経営していたホテルで働いていました。

現在ホテルは義理の母親のモード(ユペール)が運営。一見仲睦まじい様子を見せながら、クレアはモードに対して抑えがたい嫉妬心を抱えていました。そんな中、モードの若い恋人はクレアに恋をしてしまいます。

そのことを知り、クレアを永遠に葬ろうとするモード。しかし、クレアは間一髪、見知らぬ男に助けられ、彼の双子の兄弟とチェリストが住む牧場で一緒に暮らすことに。

クレアと生活を共にしていくうちに、一人、また一人と彼女の魅力に引き付けられ恋に落ちていく男たち。そして次第にクレア自身も、自分の中でなにかが解放されていくことを感じ始めていきます…。

映画『白雪姫 あなたが知らないグリム童話』の感想と評価


(C)2019 Mandarin Production – Gaumont

ディズニー映画などのアニメ化でも知られた『白雪姫』。日本でもグリム童話の一つとして伝えられてきたこの物語ですが、現在一般的に伝えられているそのポジティブなイメージでこの映画を見ると、随分と大胆にアレンジされたなという印象を覚えるかもしれません。

しかし別の視点から見ると、この作品はグリム童話で描かれた物語の真相、真意を改めて見つめ直させてくれます。

たとえば日本で、前述のディズニー映画などのイメージで伝えられた『白雪姫』の主人公は、美しくかつ清らかな印象をもつキャラクターと推測されるでしょう。

しかしこの物語は昔から言い伝えられたドイツの民謡が元となっており、グリム童話をはじめさまざまな解釈、表現が今日まで伝えられています。

そしてグリム童話、そしてその元となったドイツの民話では、物語の最後に「白雪姫の継母は白雪姫と王子の挙式の席で、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされた」と書かれています。その内容は、日本でよく聞かれる物語では、恐らくこの部分はほとんど描かれていないでしょう。

これは継母の罪の重さを示しているものと考えられるもので、それまで継母が白雪姫に与えた仕打ちを考えると、この継母が受けた罰はそれほどに値するとも考えられるのかもしれません。しかしなんとも残酷だともいえるでしょう。


(C)2019 Mandarin Production – Gaumont

その一方でこうしたエンディングとなる展開を考えると、白雪姫という人物は物語中で美しい人物であるという表現はされていながら、日本などで受け継がれている「美しく清らかな人物」であるというイメージとはなにか違う一面が見えてきます。

この作品ではその揺らぎをクレアという女性の妖艶な姿、そしてその彼女に惹かれる7人の小人、すなわち7人の男性たちとの、戯れの姿をもって描かれており、物語のクライマックス前に繰り広げられる「白雪姫と7人の小人の、楽しい暮らし」を、楽しくも生々しい印象としています。

またユニークなのはそういった主人公のイメージを描いたことで、物語を見るポイントが「白雪姫」から「継母」に移ったような印象になることであります。

『白雪姫』では主人公の白雪姫の目線で物事の善悪が見えてきますが、本作ではクレアが7人の男性たち、そしてモードの恋人までも引き付けたという展開から、ある意味クレアが悪役にも見えてきたりするわけです。

そしてルー・ドゥ・ラージュ、イザベル・ユペールは見事にその「白雪姫」と「継母」を演じきり、キャラクターとしても対照的で独特の『白雪姫』的世界観を作り上げています。

この2人の女性それぞれの性質、加えて2人の対立の描き方は、自身も女性でこれまでの作品でもさまざまな女性を描いてきたアンヌ・フォンテーヌ監督ならではといえます。

またサスペンス作品としながら鬼気迫る緊張のシーンを、敢えて一瞬の出来事として人物に緊張の表情を見せない演出など、映像全体を美しく描いているのも見どころの一つといえるでしょう。

まとめ


(C)2019 Mandarin Production – Gaumont

フランス語の原題となる『Blanche comme Neige』は、『白雪姫』と訳されますが、直訳すると「雪のように白い」となります。英題はこの『Blanche comme Neige』の直訳となる『Pure as Snow』となっていますが、英語で『白雪姫』の物語のタイトルは『Snow White』であります。その意味では作品で描かれる意図としては、あくまで『白雪姫』よりその語源にこだわっているとも考えられます。

語源からストレートに考えるとまさに「白雪姫」という女性に対し清らかなイメージをもてるわけですが、作品からは果たして「雪のように白い」ものとは一体なのだろうか、そんな問いを投げかけられたような気持ちにもなります

確かにクレアという女性は、劇中で誰か他人を殺めることはありませんが、その奔放な性格に翻弄される人々の姿からは、「雪のように白い」ものが残酷な面をもっているのではないかと思わせるのです。

この作品は『白雪姫』がモチーフなだけに、大きなポイントとなる「毒リンゴ」「王子のキス」といったアイテムもまた一味違った形で登場、物語に深みを与えています。そんな面からも幼いころから伝えられた美しき童話を改めて見つめ直したくなるような興味も得られる作品であります。

映画『白雪姫 あなたが知らないグリム童話』は2020年6月5日(金)よりヒューマントラスト渋谷にて公開されます!


関連記事

サスペンス映画

映画『ノクターナルアニマルズ』あらすじネタバレと感想!原作紹介も

世界的ファッションデザイナーとして著名なトム・フォードが、2009年の『シングルマン』以来7年ぶりに手がけた映画監督第2作『ノクターナル・アニマルズ』をご紹介します。 米作家オースティン・ライトが19 …

サスペンス映画

『インフォーマー』あらすじネタバレ感想と結末考察。映画のラストまで緊迫感ある“THE INFORMER 三秒間の死角”のサスペンスとは⁈

『THE INFORMER/三秒間の死角』は2019年11月29日よりロードショー。 クライム、スリラー映画の中でもとくに人気が強い作品といえばいわゆる“脱獄もの”。 今回は、欧州の文学賞に輝いてきた …

サスペンス映画

映画『聖なる鹿殺し』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【ヨルゴス・ランティモス監督作品】

映画『聖なる鹿殺し』は、ヨルゴス・ランティモス監督が観客のあなたに見せる“死のメタファー”。究極の選択を前に、あなたならどうしますか? 自尊心の強い心臓外科医のスティーブンは幸せに家庭とともに暮らして …

サスペンス映画

映画『十二人の死にたい子どもたち』9番ノブオ役は北村匠海。演技力とプロフィール紹介

『天地明察』で知られるベストセラー作家の冲方丁(うぶかた・とう)の小説を原作とした映画『十二人の死にたい子どもたち』が2019年1月25日に公開されます。 演出は『イニシエーション・ラブ』『トリック』 …

サスペンス映画

韓国映画ザ・メイヤー 特別市民|あらすじとキャスト!ミンシク紹介も

日本映画では忖度ばかりをしていまい、映画として娯楽性の高さや魅力的な人物描写が不得意なジャンルがあります。 それポリティカルものです。逆にメディアのひとつとして得意とも言える手法で政治の裏側を描く韓国 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学