映画『エキストロ』は、2020年3月13日から全国順次公開。
映像作品に欠かせない存在でありながら、普段は注目される事は無いエキストラの世界を、エキストラに情熱を燃やす、1人の男を軸に描く映画『エキストロ』。
モキュメンタリースタイルのコメディという、風変りな作風の、本作の魅力をご紹介します。
エキストラとして時代劇に参加した63歳の初老・萩野谷幸三の姿を描くモキュメンタリー・コメディ。映画初出演となる新人の萩野谷幸三が本人役を演じ、山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文、藤波辰爾、黒沢かずこ、三秋里歩、石井竜也、荒俣宏、大林宣彦らさまざまなジャンルで活躍する異色キャストが集結。
映画『パコと魔法の絵本』などの劇作家・後藤ひろひとが脚本を担当。演出はNHK大河ドラマ『おんな城主直虎』などの演出を務めた村橋直樹監督。「島ぜんぶでおーきな祭 第11回沖縄国際映画祭」(2019年4月18~21日)の「TV DIRECTOR’S MOVIE」上映作品。
映画『エキストロ』の作品情報
【公開】
2020年公開(日本映画)
【監督】
村橋直樹
【脚本】
後藤ひろひと
【主題歌】
トリプルファイヤー、松崎しげる
【キャスト】
萩野谷幸三、山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文、藤波辰爾、黒沢かずこ、加藤諒、高木稟、猪股俊明、芹澤興人、明星真由美、小田川浩、阿部祐二、後藤ひろひと、三秋里歩、師岡広明、中野英樹、村上かず、吉田靖直、島田桃依、姫野洋志、榎木薗郁也、設楽馴、石井竜也、荒俣宏、大林宣彦
【作品概要】
エキストラに情熱を燃やす男、萩野谷幸三を中心に、エキストラの世界に密着取材を行った、ドキュメンタリー風の作品。新人の萩野谷幸三が、本作の主役に起用されている他、山本耕史、斉藤由貴、寺脇康文などの有名俳優が、本人役で出演しています。
監督は、大河ドラマ『おんな城主直虎』などを演出した村橋直樹。脚本は、2008年の映画『パコと魔法の絵本』の原作で知られ、『青春トライ’97』などのモキュメンタリー作品も手掛けた、後藤ひろひとが担当しており、本作にも、厳しいワークショップを行う、演技の先生役で出演しています。
映画『エキストロ』あらすじ
映画やドラマで、通行人や群衆を演じる出演者を意味する言葉「エキストラ」。
物語に関わるどころか、台詞さえも与えられない事が多い、エキストラですが、映画監督の大林宣彦は「彼らのリアリティーで、演者の嘘が成り立つ」と、エキストラの重要性を語っています。
映画では、1人のエキストラに密着します。
萩野谷幸三、64歳。
萩野谷は、歯科技工士として働きながら、息子を男手一つで育ててきた苦労人で、米米CLUBのボーカル「カールスモーキー石井」として知られる、石井竜也にも、若い頃に影響を与えた人物です。
萩野谷は、息子が一人立ちした事をキッカケに、大好きな映画『タワーリング・インフェルノ』のスティーブ・マックイーンに憧れ、エキストラの道を歩み始めました。
萩野谷が所属する、エキストラ派遣事務所「ラーク」は、お笑い芸人の、黒沢かずこも過去に所属していた事務所で、現在も多くのエキストラが所属しています。
「ラーク」は、茨城県つくばみらい市にある、巨大ロケ施設「ワープステーション江戸」に多くのエキストラを派遣しており、萩野谷は、山本耕史が主演する時代劇作品『江戸の爪』に参加する事になりますが、トラブルが続出します。
また、他の作品に映り込んだ、ある人物がキッカケで、エキストラの世界を取材していたスタッフ達は、とんでもないものを映し出しす事になります。
普段は決して、光が当たる事の無い存在であるエキストラ。
彼らを追いかけた先には、さまざまな人間ドラマが待っていました。
「エキストラ」をテーマにした、モキュメンタリー作品
映像作品において、無くてはならない存在でありながら、絶対に目立つ事は無い存在「エキストラ」。
エキストラに、情熱を燃やす萩野谷幸三という男を軸に、さまざまな人間ドラマを映し出した映画『エキストロ』。
本作は、ドキュメンタリー風の表現手法となっている「モキュメンタリー」となっています。
「モキュメンタリー」とは、疑似を意味する「モック」と「ドキュメンタリー」を合わせた言葉で、「フェイクドキュメンタリー」とも言いますね。
この手法の作品は、ホラー映画などに多い印象ですが、『エキストロ』は、徹底して笑える演出にこだわった、コメディ作品です。
コメディ作品ですが、あからさまに笑える場面を作り出している訳では無く、カメラの取材を受けている人達は本気なのですが、本気だからこそ、逆に笑えてしまうという場面が数多く出て来ます。
例えば前半で、NGを連発する萩野谷と監督のやりとりは、ボケとツッコミのようですが、そこに真剣な表情の山本耕史が絡んでくる事で、緊迫した空気が生まれます。
リアルな、緊迫した雰囲気だからこそ、逆に笑えてしまうという状況が作り出されており、山本耕史が連呼する「胃袋が」という言葉が、何故か笑いのツボにハマってしまいました。
基本的に本筋の無い作品に見えますが、巧みに伏線が張られており、全てが1つにまとまるラストは、謎の感動を生み出しています。
豪華出演者が本人を演じる
本作は、前述した山本耕史の他に、斉藤由貴や寺脇康文、藤波辰爾など、各界の著名人が多数出演しており、全員が自分自身を演じています。
決して素のままで出演している訳では無く、それぞれが、違う自分を演じているのです。
特に、怒りのあまり、プロレスファンにはお馴染みの、ある名場面を彷彿とさせる行動に出る藤波辰爾や、コンプライアンス的にアウトな松崎しげるなどは必見です。
本作の主演は、萩野谷幸三という謎に包まれた新人俳優で、作風がモキュメンタリーと言う性質上、萩野谷幸三について、どこまでが真実で、どこまでがフィクションか?が全く分かりません。
脇を固める著名人たちも、フィクションの自分を演じている為、本作は、嘘と現実が交差する、不思議な世界を作り出しています。
そして、そんな不思議な世界だからこそ成り立つ、後半以降の意外な展開も、是非お楽しみください。
タイトルである『エキストロ』の意味は?
本作は「エキストラ」という存在に密着した、人間ドラマです。
では、本作のタイトル『エキストロ』とは、どういう意味なのでしょうか?
それは、本作のラストで、映画監督の大林宣彦が、独自のエキストラ論を語っている中で、「エキストロ」という言葉の意味が分かるようになっています。
本作に登場する著名人は、架空の自分を演じていますが、大林宣彦だけは、偽りのないメッセージを発しています。
そして、このメッセージにより、虚実入り混じる、架空のドキュメンタリー映画『エキストロ』の世界は完成するのです。
ラストには、誰もが当てはまる、力強いメッセージが込められていますよ。
まとめ
映像作品には無くてはならない存在でありながら、あまり語られる事は少ない、エキストラという世界を描いた映画『エキストロ』。
本作を見て感じた事は、エキストラは、決して目立つ事が許されない存在でありながら、確実に、そこにはドラマが存在するという事です。
本作の監督である、村橋直樹は「名もなきエキストラと、名のある役。その境界線を曖昧にした作品を作った」と語っています。
実際の人生においては、全員が自分の人生を生きる主役で、脇役だと思って生きている人などいないはずです。
エキストラと、名のある役者との境界線を曖昧にした本作は、モキュメンタリーと言う作風も含め、映像作品と実際の人生を生きる人達との、境界線も曖昧にした、不思議で実験的な作品と言えます。
これまで、映像作品を鑑賞した際に何気なく見ていた、通行人や群衆などのエキストラを、本作をキッカケに見る目が変わるかもしれません。
映画『エキストロ』は、2020年3月13日から、全国順次公開となっています。