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Entry 2020/01/26
Update

映画『風の電話』あらすじネタバレ感想と結末の評価解説。不幸を感じながらも天国にいる3万人と繋がる想いとは

  • Writer :
  • もりのちこ

「もしもし」。
その電話は天国と繋がっていました。

実際に岩手県の大槌町に存在している「風の電話」。電話線が繋がっていないその電話は、天国に繋がる電話として、東日本大震災以降、多くの方が訪れています。

本作は「風の電話」をモチーフに、震災で家族を失った少女が旅をしながら人生を再生してく人間ドラマです。

東日本大震災からもう少しで9年が経とうとしています。大きな消失感を抱えて育った少女ハルが、今こそ現実に向き合い、家族のことそして自分の将来を考えるきっかけの旅が始まります。

ハルは「風の電話」で、家族に何を話すのでしょうか?映画『風の電話』を紹介します。

映画『風の電話』の作品情報


(C)2020 映画「風の電話」製作委員会
【日本公開】
2020年(日本)

【監督】
諏訪敦彦

【キャスト】
モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行、三浦友和、渡辺真起子、山本未來、占部房子、池津祥子、石橋けい、篠原篤、別府康子

【作品概要】
岩手県の大槌町のある「風の電話」をモチーフに、震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた映画『風の電話』。

監督は、日仏合作映画『不完全なふたり』がフランスでロングランヒットを記録、『ユキとニナ』ではカンヌ国際映画祭監督週間に出品されるなど、国内外で活躍の諏訪敦彦監督です。

主人公のハル役は、そんな諏訪監督から絶大なる信頼を受ける、モトーラ世里奈が演じています。

また、旅の途中で出会う人々に、西島秀俊、西田敏行、三浦友和など実力派俳優が登場。彼らとの共演により、さらに輝きだすハル(モトーラ世里奈)の演技に注目です。

映画『風の電話』のあらすじとネタバレ


(C)2020 映画「風の電話」製作委員会
2011年3月11日、東日本大震災。地震による津波は、東北地方の太平洋沿岸部を中心に壊滅的な被害を与え、福島第一原子力発電所事故を巻き起こしました。死者1万5897人、行方不明者2532人を出した未曾有の大震災です。

その日、岩手県の大槌町にいたハルは、9歳でした。津波で両親と弟を亡くし、ハルは広島の叔母・広子の元へ引き取られました。

あれから8年。ハルは喪失感を抱えたまま17歳になっていました。高校では、これからの進路を考える時期です。

叔母の広子は、そんなハルを温かく見守ってきました。「ハル。こんどの連休、大槌に行こうと思うの。一緒に行く?」。

広子の誘いに頷くことが出来ないハル。学校に行く朝は、玄関で広子と抱き合わなければ外へ出られないほど、ハルの心は不安を抱えた状態でした。

ある日、ハルが学校から帰ると、コンロにかけられたやかんが沸騰したまま放置されています。「広子さん?」

広子は、家の中で倒れていました。「広子さん、広子さん」。ハルは顔面蒼白で広子の手をさすり続けます。

広子は、命は取り留めたものの、意識不明の状態です。「どうして全部奪うの」。ハルは、病院を出て、ふらふらと歩きだします。

立ち入り禁止の看板が立つ、土のうが盛られた土砂崩れの山道を、ハルは進んで行きます。

「お母さん、お父さん会いたいよ。嫌だよ、嫌。何で全部奪うの」。悲痛の声を上げ、泣き叫ぶハル。

疲れ果て寝そべるハルの元に、一台の車が通りかかりました。運転手の男・公平は驚き、家に連れ帰ります。

公平は、広島で豪雨災害にあった地区に住んでいました。家は残ったものの被害は相当なものでした。

10年前妹が自殺、父親も亡くなり、妻は子供を連れて出て行ってしまいました。現在は認知症の母親と2人暮らしです。

どこから来たのか言わないハルに、公平は夜ご飯を勧めます。「生きてんだから食わなきゃな」。

公平の母親はハルのことを死んだ妹・あやこと勘違いしているようです。ぼつぼつと広島に原爆が落とされた日のことを語り出す母親。

ハルは、戦争の犠牲者も骨が残らなかったという事実を知りました。

駅までハルを送った公平は、「死ぬなよ」と声をかけます。自殺した妹のあやこと同じ目をしていたハルのことが心配なのでした。袋に入ったミカンを渡します。

「はい」。ハルは、ためらいながらも、やって来た電車に乗り込みます。

夜が明けた道端にヒッチハイクをするハルの姿がありました。制服姿の未成年の女の子に止まる車はいません。

「どう見てもヤバいじゃん。警察連絡する?」「大丈夫よ、まずご飯食べよう」。運転席の男と、助手席に乗った女の声で、ハルは目を覚ましました。

ハルを車に乗せてくれた2人組は、姉弟のようです。姉は見た目にも大きなお腹をしていました。妊婦さんです。「ハルちゃん、ご飯食べようか」。心配する弟を制し、姉は楽観的です。

食堂でご飯を食べながら、「家出なの?制服で女の子ひとりなんて危ないよ」と、ハルに言って聞かせる弟と、「あんまり聞かないの、刑事みたいよ」と笑う姉。

仲良しの姉弟の会話で、ハルもリラックスしてご飯を食べます。途中、お腹が痛み出した姉が、奥の座敷に横にならせてもらいました。

心配で寄り添うハルに姉は、「大丈夫よ。赤ちゃんが動いているの。触ってみる?」と声をかけました。そっとお腹に手を置くハル。「わぁ!」笑顔があふれます。

姉はひとりで産む覚悟であること、高齢で周りから反対されたけど、自分の心に従ったことをハルに話します。命の大切さを伝えるかのように。

別れの時、姉はハルの顔を両手で包み込み、「ハル、大丈夫?また会いに来てね」そう言いました。「はい」。弟はお金を持たせてくれました。「返しに来いよ」。

ハルは、道の駅の公衆トイレで着替えをすませ、買ったパンにかじりつきます。その瞳はいくらか強い光を放ち始めていました。

ハルは一体どこを目指しているのでしょうか?この旅の目的は何なのでしょうか?

以下、『風の電話』ネタバレ・結末の記載がございます。『風の電話』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2020 映画「風の電話」製作委員会
道の駅のベンチで休んでいるハルの元に、ガラの悪い車が近づいてきます。中から出て来た数人の男たちは、嫌がるハルを無理やり車に乗せようとします。

逃げ回るハルを助けてくれたのは、福島ナンバーの車に乗った森尾でした。

初めは、ハルに関わりたくないと拒絶する森尾でしたが、ハルが東日本大震災以来、離れていた岩手の大槌に帰りたいと告げると、埼玉までなら乗せてやると許可してくれます。

福島が故郷の森尾は、東日本大震災後、車を家代わりにあちこち走り回っていました。そして、当時ボランティアに来てくれていたメメットというトルコ人を探している最中でした。

あるケバブ屋でメメットを知っている人物に出会うことが出来ました。しかし、メメットは1年前から入国管理局に捕まり収容されているということでした。

森尾とハルは、メメットの家族を訪ねます。そこには、いつ戻れるのかわからない夫の帰りを待つ妻と、子供たちが寄り添って暮らしていました。

妻は、トルコ料理でもてなしてくれました。ハルと同じ、高校生の少女は将来の夢を語ります。ハルも唯一残った家族写真を見せました。抱き合いお互いの健闘を約束するハル達。

それを見ていた森尾も、震災と向き合う覚悟を決めます。森尾は、元原発作業員でした。ハルを連れ、福島に戻ることを決めます。

福島の森尾の家は、枯れ果てた草木が庭を覆い、家の中は埃だらけでした。しかし、書きかけの子供の絵や洗濯物が生活していたまま残っています。ハルは、そこで家族の面影を見た気がしました。

森尾は父と姉が暮らす実家へとハルを連れて行きます。森尾の父は、「歳を取ると故郷に帰りたくなるもんだ」と、当時の被災の様子を話してくれました。

原発事故で転校を余儀なくされた子供たちの差別を受けた話。福島原発の作業員だった森尾が、いまだに責任を感じ苦しんでいること。何より、森尾もまた妻と子供を津波で亡くしていたこと。

ハルは森尾に聞きます。「森尾は死にたいと思ったことある?」「ああ。でも死ななかった」。

「何で?」「何でかなぁ。ハル、お前が死んだら、誰が家族のこと思い出すんだよ。誰もいなくなっちゃうだろ」。森尾は、ハルを岩手の大槌まで連れて行ってくれました。

大槌町はまだまだ復興の途中です。新しくなった大槌駅で、ハルは友達あすかの母親に偶然会いました。

「ハルちゃん!おっきくなったね」再会を喜ぶ2人。「高校生だよね」と母親は涙を流します。友達のあすかもまた、津波の犠牲者でした。

「おばさん、ごめんなさい。あの日、あすかちゃんとずっと手を繋いでいたのに、避難する途中ではぐれてしまって。どこに行ったのかわかんなくて。ごめんなさい」。

「ハルちゃん、違うの。ありがとう。手を繋いでいてくれたのね。ありがとう」。

町の中心には、新しい家も建ち並んでいます。しかし、至る所に災害の傷痕が残っていました。ハルの家もまた土台がむき出しになり、そこは水溜りになっていました。

「ただいま」。ハルの声が何度も虚しく響きます。玄関があったであろう場所、リビングだったであろう場所。泣きながら歩き回ります。

「何で、誰も返事してくれないの!」。水に足を付けたまま寝ころぶハル。やり場のない悲しみが襲い掛かります。

そんなハルを、起こして立たせてくれたのは森尾でした。森尾とは駅でお別れです。「ハル、ちゃんと帰れよ」。「私の名前は春香」。「春香、大丈夫、大丈夫だ」。森尾は笑顔で見送ってくれました。

大槌駅のホームで電車を待っているハルの所に、ひとりの男の子がやってきます。行先を訪ねると、浪板海岸の丘の上にあるという「風の電話」に向かうと言います。

「風の電話」は、天国と繋がっていて、死んだ人と話ができる場所なのだとか。

ハルは少年と一緒に「風の電話」に向かうことにします。「誰と話したいの?」「僕は、去年交通事故で亡くなったお父さんと話したい」。

2人はようやく「風の電話」にたどり着きました。丘の上の公園のような所に、白い電話BOXがあります。中には、線の繋がっていない黒電話が置かれてありました。

ボックスの中で少年は父親と話しが出来ているのでしょうか。「次は、お姉ちゃんの番だよ」。

ハルは電話BOXの中へと入り、受話器を取ります。「もしもし。ハルだよ。元気?17歳になったよ。広島からここまで旅して来たんだよ」。

ハルは、家族に話しかけます。返事は返ってこなくても聞いていてくれる気がします。「いろんな人に助けてもらったよ。皆生きてるし、ハルも生きてる。生きてるから思い出せるんだよね。」

ハルは旅のことを報告しながら、自分の気持ちを整理しているかのようです。「みんな、海にいるの?空にいるの?いつかハルもみんなに会いに行くよ。会う時は、おばあちゃんになってるね」。

受話器を置き外に出たハル。微笑みの中に希望があふれていました。周りを気持ちよさそうな風が、そよいでいます。

映画『風の電話』の感想と評価


(C)2020 映画「風の電話」製作委員会
2011年、岩手県の大槌町在住、ガーデン・デザイナー佐々木格氏が、死別した義兄弟ともう一度話したいという思いで、自宅の庭に設置した「風の電話」。

その電話は、東日本大震災後、天国に繋がる電話として広がり、3万人を超える人々がこの場所を訪れています。

東日本大震災から9年。岩手県の沿岸では、いまでも復興作業が続いています。物語の舞台にもなる大槌町は、町のシンボルでもある「ひょうたん島」型の新しい駅も誕生しました。

しかし現在の三陸鉄道は、台風19号の影響により、大槌駅を含む一部区間で運転を見合わせています。

新しい建物が建っていく一方で、地盤の緩さや、町の再建、医療や人口問題など、抱える問題も多岐に渡ります。いかに復興と言っても長い年月が必要なのだと、8年経ったいまでも改めて感じます。

度重なる自然災害や、悲惨な事件、思いがけない事故などで辛い経験をし、この映画の主人公ハルのように、やり場のない悲しみに押しつぶされそうに日々生きている方もいるかもしれません。

ハルは、家族や大事な人がいなくなる恐怖から逃げるように旅に出ます。旅を始めた頃のハルは、「生きていても意味がない。家族みんなの所に行きたい」と、ほとんど死んでいる状態でした。

土砂災害の現場で、ふらふらと歩き回り泣き崩れるシーンは、ハルの苦しみが痛いほど伝わってきました。

そんなハルが、広島から岩手までの旅で、出会った人々によって生かされていきます人々の優しさに触れ、苦しいのは自分だけではないことに気付いていきます。

中でも、福島出身の森尾との出会いは、ハルにとって大事な出会いとなりました。ハルと森尾は、幸せな生活が一瞬にして無くなるという同じ悲しみを持つ者同士でした。

そして、大槌町での「風の電話」のラストシーン。青空の見える晴れた日の丘の上。ポツンと佇む白い電話ボックス。中に置かれた黒電話。まるでそこだけファンタジーのような美しい風景が広がっていました。

陽の光が優しく包み込み、そよそよと吹く風が、天国から声を届けてくれるようです。

受話器をとり、「もしもし」と家族に向かって話しかけるモトーラ世里奈の佇まいが、本当にハルが存在しているように感じられ、涙があふれてきます。

死んだような状態で広島を旅立ったハルが、故郷の大槌にたどり着いた時、生きる希望を見出していました。その気持ちの変化がラストシーンには見事に表現されていました。

ハルを演じたモトーラ世里奈の見事な存在感と、ハルになり切った迫真の演技に惹き込まれます。

諏訪敦彦監督も、最後の電話のシーンのセリフは、彼女にすべて委ねたと言っています。10分以上にも及ぶ一方通行の電話を、まるで本当に会話をしているかのように演じています。

そこには、旅の報告と、家族へのメッセージ、今のハルの気持ち、そして将来のことが語られています。希望を見出した者の「生の声」でした。

モトーラ世里奈自身が、実際にこの映画で感じた思いや、出会ったベテラン俳優との演技、そしてハルの気持ちに向き合った結果なのだと感じました。

この映画では、被災だけではなく、病気や事故、人種差別などで苦しむ人の悲しみが描かれています。

そして何より、新しい命の誕生があるということ、あなたの幸せを願う人がいるということ、自分の将来に希望を抱くことの素晴らしさが描かれている映画です。

まとめ


(C)2020 映画「風の電話」製作委員会
岩手県の大槌町に実在する「風の電話」をモチーフに、諏訪敦彦監督がモトーラ世里奈を主演に、震災で家族を失くした少女の再生の旅を描いた映画『風の電話』を紹介しました。

悲しみの中、生きる希望を失った少女が、旅の途中で出会う人々の優しさに触れ、心がどのように変化していくのか?また、少女が「風の電話」にたどり着いた時、何を語るのか?

主人公ハルと、見事にシンクロしたモトーラ世里奈の演技にも、注目です。

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