連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第10回
世界の東西各地様々な映画が大集合の「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催しています。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今回も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第10回で紹介するのは、アドベンチャー映画『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』。
日常の世界と異なる、胸躍る秘境は、誰もが訪れたいと想像するもの。映画草創期から秘境を舞台にしたドキュメンタリーや探検映画が作られれてきました。一方劇映画の分野でも、異国や異なる時代を舞台にした様々な映画が作られます。
この2つが結び付くのは当然の流れ。冒険アドベンチャー映画が誕生すると、時代と共によりスケールの大きな、より斬新な秘境を描いた娯楽作が求められ、現在に至ります。その冒険アドベンチャーの世界を、中国がより大きなスケールで映画化した作品です。
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CONTENTS
映画『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』の作品情報
【日本公開】
2020年(中国映画)
【原題】
云南虫谷 / Mojin: The Worm Valley
【監督】
フェイ・シン(非行)
【キャスト】
ツァイ・ハン(蔡珩)、グゥ・シュアン(顾璇)、ユ・ハン(于恒)、チェン・タイシェン(成泰燊)、マ・ユケ(马浴柯)、チェン・ユシ(陈雨锶)
【作品概要】
人々を苦しめる大古の女王の呪いを解く宝物を求め、中国奥地の秘境を冒険する勇者一行の活躍を描く、アトラクション・アドベンチャー大作。主人公のヒーローを演じるのは、中国でドラマに出演し人気上昇中のツァイ・ハン。ヒロインは2018年の映画『抵达之谜』で注目を集めたグゥ・シュアンです。
注目株の若手俳優が集まる中、チェン・カイコー監督作品『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』に出演のベテラン、チェン・タイシェンが脇を固める、作り込まれた美術や高度なVFXを駆使した冒険活劇映画です。ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』のあらすじとネタバレ
千年前、魔力を持つ精絶国の女王は、民を服従させるために呪いの印を付けました。呪いは子々孫々にまで引き継がれ、呪いの印を持って生まれた者は40歳で死んでしまいます。
女王の秘宝、龍骨天書(ロングー)と雮塵玉(ムーチェン)の2つを揃えることが出来れば、女王の呪いから人々を解放することが出来ます。その秘宝の探索に、今まで数多くの勇者や冒険家が挑んでいました。
秘宝の1つロングーは、今はソン教授(チェン・タイシェン)の手にありました。教授は古文書を読み解きもう1つの宝、ムーチェンが雲南省奥地の、“光る雲”と“龍の山”が示す場所にあると突き止めます。
それを聞いて、必ずムーチェンを手に入れようと誓うバーイー(ツァイ・ハン)。彼は伝説の盗掘師の子孫で、トレジャーハンターとして数々の冒険に挑み、古代の秘宝を手に入れてきました。ロングーも彼と教授と、その仲間たちの力で手に入れたものです。
その頃街ではオークション会場で、バーイーの仲間“金歯”(マ・ユケ)と“太っちょ”(ユ・ハン)が骨董の売買を行っていました。しかし大した売り物も無く、客は目当てのロングーを出せと騒ぎ出し、乱闘が始まります。
2人の仲間の娘リンロン(チェン・ユシ)も加勢し、騒ぎは大きくなりますが、皆から信頼されているリンロンの父、ジウェイが現れると、皆争いを止め姿勢を正します。彼の指示で金歯”と“太っちょ”は肩を見せます。そこには呪いの印が刻まれていました。
バーイーとここにいる若者たちは、人喰い蜘蛛や紅い眼の狼の襲撃をかわし、苦難の果てにロングーを手に入れた。精絶女王の呪いから解放されたい思いは皆同じだ、ロングーは売り物ではない。ジウェイの言葉に静まり返る一同。
バーイーとソン教授の前に、シャーリー(グゥ・シュアン)がムーチェンの手がかりを持って現れます。かつてムーチェンを求め、遺跡に向かった探検隊の生き残りがいたのです。その人物チェンは両目を失明し、精神に異常をきたし1人帰ってきました。
バーイーとシャーリーと教授は、チェンが入院する精神病院に向かいます。チェンは美しいシャーリーに関心を示し、彼女にだけ話すと要求します。シャーリーを愚弄するものの、肝心な事は話さぬチェン。しかしムーチェンについて訊ねられると、血相を変え叫びます。
あの山に行ってはならぬ。人の人生は80年、山の一生は10万年。山のひと眠りは2千年、寝返りを打つのに8百年。凡人に計り知れるものではない。そう語ってからシャーリーに立ち去るよう指示するチェン。
その態度に怒ったシャーリーは、あなたは臆病で逃げ帰ったから、ムーチェンを手に入れられなかったと言い捨てます。するとチェンは、そんなに私の目が見たいかと言い放ち、サングラスを外します。
彼の目は不気味な色に光っていました。そして、決して“山の主”の目を見てはならない、とだけ呟きます…。
バーイーとシャーリーとソン教授、“金歯”に“太っちょ”とリンロンの6人は、秘境の山を目指し雲南省をバスで奥地へと進みます。
山道でがけ崩れに会いバスは停車しますが、一行はがけ崩れの中に異様な蟲がうごめく、繭に包まれたミイラを発見します。この場所は献王の墓に近い、と仲間に告げるソン教授。
6人が先を進むと、花畑に包まれた建物が現れ、その宿の女主人ツァインがバーイーを出迎えます。バーイーは軍人時代この地に赴任しており、彼女と顔なじみでした。
ツァインに“龍の山”に至る水路を訊ねたバーイー。彼女は明日、娘のコンチェに案内させると言います。軍人時代、幼いコンチェに懐かれたバーイーですが、現れたコンチェは年頃の娘に成長していました。
バーイーとの久々の再会を喜び、はしゃぐコンチェの姿が馴れ馴れしく見えたのか、どうやらシャーリーの心中は穏やかでない様子です。
夜になると、宿の周りに蛍が現れます。通常より美しい輝きを放つ蛍を“太っちょ”が捕まえると、突然燃え上がります。コンチェはこの蛍は、掴むと燃えて死ぬと注意します。
コンチェは瓶に入れた、巨大な蛍を見せます。この“蛍の王”にひかれて他の蛍が集まってくる、そう言って瓶のふたを開けると、無数の蛍が集まります。リンロンと“太っちょ”が瓶を持ち走ると、銀河のように集まった蛍が後を追い、その光景に皆魅了されます。
バーイーはシャーリーに、この地の“蛇盘山”こそ“龍の山”だと語ります。高くそびえ王の冠を守る上山、立ち入った者は妖魔に襲われる。そんな伝承を持つ山に入れば、無事では済まないかもしれない…。
言葉を続けるバーイーの想いを知ったシャーリーは、彼と口づけを交わそうとしますが、“金歯”と“太っちょ”とリンロンに冷やかされ止めました。
翌日は晴天でした。コンチェの案内で険しい山道を進む6人。山中の池に到着すると、彼らはイカダを用意します。湖にある洞窟が、“蛇盘山”へ進む道の入口でした。6人はコンチェと別れ、2つのイカダで池へ漕ぎだします。
最後に、この先の峡谷は夜になると有毒のガスが発生するので、高い場所である“小島”に逃れるよう伝えるコンチェ。
イカダは暗い洞窟の中の水路を進みます。すると“太っちょ”が、リンロンに瓶に入れた“蛍の王”を見せます。コンチェに黙って持ち出した彼をリンロンは注意しますが、彼は盗んではいない、借りただけで後で返すと釈明します。
魚に気付いた“金歯”が触れようとして噛まれます。それはピラニアのように獰猛な肉食魚でした。獲物に気付いた魚は、群れをなして襲ってきます。男たちは刃物で、シャーリーは弓矢で、リンロンはパチンコを放ち応戦します。
洞窟の天井に鎖で吊り下げられた、無数の繭状のミイラがあり、侵入者に反応し次々と落ちてきます。水中に落ちたミイラからはい出た蟲は、羽化して群れをなし襲ってきます。シャーリーを鉄傘で守るバーイー。ソン教授の用意した火炎放射器で抵抗します。
追い詰められた一同ですが、2つのイカダは急流に呑まれ別々に洞窟から出ると、その先の巨大な滝に流され落下していきます。
一同は無事でしたが、2組に別れてしまします。バーイーとシャーリーと“金歯”は密林に上陸し、教授とリンロンと“太っちょ”は、巨大な甕の並ぶ場所に出ます。甕にはミイラ化した遺体が入っていました。
甕を見たソン教授は、これは献王の遺跡で、王の墓を作るのに駆り出された民の遺体だと説明します。甕に刻まれた文字から、献王は精絶女王を信仰していたと悟った教授。
この地ではバーイーの持つ古来より伝わるコンパスも、教授の探知機も働きません。バーイーは巨大な獣の足跡に気付きます。
峡谷は巨大で敏捷なワニの住みかでした。一同はワニから逃れようと、必死に走ります。教授たちは居場所を知らせようと信号弾を打ち上げます。逃げまどいながらも、バーイーらは教授たちと合流出来ました。
ワニの群れから逃れるために、崖を転がり落ちた6人。しかしそこもワニの棲みかでした。無数のワニが迫ってきますが、雷が鳴ると怯んで動きを止めます。教授の推測通り、ワニは視力が弱く聴覚を頼りに獲物に襲いかかりますが、大きな音が苦手でした。
夜の闇が近づき、毒ガスが広がりつつあります。教授は空に浮かぶ不思議な島を発見します。これがコンチェの語った“小島”でした。
バーイーは稲妻を確認した後、雷鳴が到達するタイミングを計り、その音でワニが怯んだ隙に島まで駆け抜けようと一同に語り、行動に移します。
しかし教授が蔓に絡まり動けなくなります。バーイーとシャーリーが囮になり、ワニを崖に落とすことで危機を脱し、一同は宙に浮かぶ不思議な島に到着します。
島は岩石が発する磁力で浮き、それを巨木が支える奇跡が生んだ場所でした。そこは美しい花が咲き1日で四季が巡る、楽園のような場所でした。シャーリーとリンロン、“金歯”と“太っちょ”は池に飛び込み戯れます。
冒険を通じ、リンロンと“太っちょ”は信頼し愛し合う仲になっていました。しかしソン教授はこの余りにも危険な旅が、将来ある若い仲間の命を奪う事にならないかと悩んでいました。
それを聞いたバーイーは、人々を救う可能性が少しでもある限り、旅を続ける意味はあると語り、仲間に誘われ池に飛び込みます。彼らは今ある生を楽しみます。
朝日が晴れ渡る中、6人の冒険家は花が咲きほこる道を“龍の山”へと進んで行きます。
映画『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』の感想と評価
中国の大人気冒険小説を映画化
開始前にも冒険があり、ラストはまだまだ冒険は続く、で閉じる物語。この展開に驚いた方もいるでしょう。この作品は中国の作家、天下霸唱(テンカバシン)の大人気小説、「鬼吹灯」シリーズ全8巻の、第3巻を映画化した作品です。
2006年にオンライン小説として発表された「鬼吹灯」は瞬く間に読者数が600万を越え、出版されるやベストセラー小説となります。その後次々と続編が誕生、コミック化、ゲーム化されました。コミックは日本語版も出版されています。
2007年にはハリウッドで映画化の話も持ち上がりましたが、まず中国で2016年にTVドラマ化されました。後に映画化権も中国の製作会社に移り、ドラマとは別のスタッフ・キャストで完成したのがこの作品です。
古代の墓を探検するトレジャーハンターという、将に中国版「インディー・ジョーンズ」と言うべき大人気小説です。本作がスケール大きなアドベンチャー映画として誕生した背景が、お判り頂けたでしょうか。
中華テイストの「インディー・ジョーンズ」誕生
中国の古代文明と遺跡をファンタジー化、それを追う冒険家たち。将に「インディ・ジョーンズ」や「ロマンシング・ストーン」、「キング・ソロモンの秘宝」シリーズを彷彿とさせる作品です。
これら冒険アドベンチャー映画は1980年代にブームとなりました。しかし製作費がかかる事もあり衰退します。その後CGなどの技術進歩により、日常を離れた世界を描く映画も、SFや歴史物・ゲーム原作など様々なジャンルが発展し、現在に至ります。
そんな中、中国で正攻法で製作した冒険アドベンチャー映画が『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』です。大きく発展した中国映画界の勢いが感じられる作品です。
ハリウッドに匹敵するスケールを持ちながら、伝統のアクション、そしてあだ名で呼ばれる登場人物に、香港映画全盛期以来のノリが感じられます。また登場人物の死生感やその描き方が実に東洋的。我々には馴染みある世界です。
80年代アドベンチャー映画に挑戦した結果でしょうか、あるいは大作中国映画ならではなのか、全編に家族で楽しめる安心感があります。これを物足りないと感じるか、王道のエンタメ映画と受け取るかの判断は、ご覧の方自身に委ねます。
まとめ
現在中国映画界が持つ、スケール大きさを感じさせてくれる映画『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』。原作小説の人気が広まる姿も、日本以上にネット文化が盛んな中国の現状を感じさせてくれます。
ヒーロー・ヒロインを演じたツァイ・ハンと、グゥ・シュアン、チェン・ユシは、アジア系の俳優が好きな方が気に入る美男美女。先物買いをしたい方は要注目です。
ところでハリソン・フォードなら、本作の冒険家よりもっとスマートに、仲間も犠牲者にせず秘宝を手に入れたと思った方。良く考えて下さい。この映画はインディアナ・ジョーンズ博士が大の苦手の、蛇が出てきます。…きっとあの人、腰を抜かしますよ。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第11回はインドネシアの近未来アクション映画『フォックストロット・シックス』を紹介いたします。
お楽しみに。