DVDレンタル開始直前に、映画評論家の町山智浩がラジオで紹介したのをきっかけに、韓国のドキュメンタリー映画が話題になっています。
映画『あなた、その川を渡らないで』は、モスクワ国際映画祭観客賞、ロサンゼルス映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞などを受賞した作品。
あなたは、ご覧になりましたか?年老いた夫婦を見つめたこの作品は、現在各国で注目を集めています。
今回は、『あなた、その川を渡らないで』をご紹介します!
映画『あなた、その川を渡らないで』の作品情報
【公開】
2016年(韓国)
【撮影・監督】
チン・モヨン
【キャスト】
チョ・ビョンマン、カン・ゲヨル
【作品概要】
結婚76年目を迎えた老夫婦の純愛を見つめた作品は、韓国を初め、大ヒット記録したドキュメンタリー作品。
監督は、この作品がデビュー作のチン・モヨン監督、国内外20以上の映画祭に出品され、第21回ロサンゼルス映画祭最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞するなど、多くの映画賞を受賞した心温まる映画です。
映画『あなた、その川を渡らないで』のあらすじとネタバレ
美しい小さな村の川のほとりで暮らす、結婚76年目の98歳のおじいさんと89歳のおばあさん。
秋のある日、庭一面の落ち葉を掃き掃除。おじいさんは集めた落ち葉をふざけておばあさんに投げ、しまいには2人は落ち葉合戦。
すると、おじいさんは黄色い菊の花を摘んでおばあさんにプレゼント。愛するおばあさんの髪に花を飾ってあげるのです。
夜、外のトイレに行くおばあさん。暗がりを怖がるおばあさんのために、外で歌を唄いながら、じっと待っています。
おじいさんとおばあさんはいつも一緒。おそろいの韓服を着て、手をつなぎ出かけて行く…。
ある時は、山に枯れ木を採りに。以前よりも体力の衰えを感じるおじいさんに、おばあさんは寄り添います。
冬、初雪の朝。真っ白になった庭に出て、初雪を食べます。初雪は目の薬なのだ、互いに食べ合うのです。
その後、雪合戦。そして、雪だるまを作ると凍りついた手に息を吹きかけて温め合います。
2人が出会ったのは、おばあさんが14歳の時でした。それからずっと2人は一緒。
正月、互いに晴れ着を着せ合うおじいさんとおばあさん。次々に子どもたちの家族で帰って来ます。家族団欒のひととき。
春、山菜を採りに行くおじいさんとおばあさん。おばあさんはおじいさんナムルを作り、美味しそうに食べるおじいさんの姿を見ることが、おばあさんの幸せです。
2人は、犬を飼っています。ゴンスンとコマの2匹も、おじいさんにぞっこんです。
雪解けの頃、縁側に座る2人。おばあさんは、おじいさんに歌を歌ってとせがみます。やがておじいさんの歌に合わせて2人は踊ります。愉快な笑い声が空に響きます…。
映画『あなた、その川を渡らないで』の感想と評価
2014年に、韓国で『あなた、その川を渡らないで』が公開された際に、この作品を観た観客たちの感動の口コミが広がり、最終的に公開する劇場が800スクリーンまで展開すると。
『インターステラー』など、ハリウッド大作を押さえて大ヒットだったようです。同年の観客動員数1位を記録して、2015年1月には、韓国内では“10人に1人が観た”ことになった韓国のドキュメンタリー映画では、史上最高の480万人の動員を達成しました。
この作品では、おじいさんとおばあさんの2人の姿は、まるで、「昔ばなし」に登場するかのような出で立ちです。
「昔々あるところにおじいさんと、おばあさんがおったそうじゃ」と、いつかどこかで聞いた語り部のナレーションを、誰もが思うのではないでしょうか。
それは、韓服(かんふく:한복:ハンボッ)という、朝鮮半島で着られている民族衣装のペアルックが可愛らしいからでしょう。
おばあさんの着ている女性用のチマチョゴリは、有名なので知る人も多いでしょうが、おじいさんも着ていた、チョゴリ(上衣)とパジ(下衣)が、四季折々を楽しむように、実にカラフルであったからではないでしょうか。
残念ながら私は、この作品に登場するおじいさん、おばあさんのように、愛しい人と仲良くペアルックを着たことがありません。
そのようなことは気恥ずかしい事だと思い込んでいました。でも、スクリーンに映し出された2人の姿を見ていると、愛情の深さが溢れると服装にも出て、素敵なものだと考えを改めました。
もちろん、今は恥ずかしくて着られませんが、いつの日か2人のように一緒に着てみるのも良いかな。
まとめ
韓国を旅行した際に、ホテルなどでテレビ番組をながら見で視聴します。
もちろん、韓国語は理解できませんが、それでも田舎の農村や、年老いた農夫のドキュメンタリー番組に、目を奪われることはよくあることです。
映し出された人生を生き抜いてきた勲章と言える、シワの深い高齢者を見かけると感慨深いものがあります。
現在の日本では、ほとんど見かけることがなくなってしまった老人たちの美しい姿。人の年輪を感じさせてくれシワと表情にいつも驚かされます。
チン監督も、このおじいさんとおばあさんを初めて知ったのは、テレビのドキュメンタリー番組がきっかけで、ネット検索で見つけたそうです。
元のドキュメンタリー番組は、韓国の国営放送の『人間劇場』で紹介された、「白髪の恋人たち」というタイトルの夫婦愛が描かれていたもの。
しかし、テレビ番組では、映画のように四季折々のシーンで、おじいさん、おばあさんの一緒のシーンは取り上げられてはいなかったそうです。
チン監督は、そこに着目して、より深く仲の良い老夫婦を見つめたかったのでしょう。
そこで、おじいさん、おばあさんが、韓国という価値観の枠だけで収まらない、異国的な雰囲気やユニークさ、そして、普遍的なテーマを持っていることに気がついたのではないでしょうか。
例えば、日本にも、小説家で詩人の武者小路実篤の有名な「仲良き事は美しき哉」という言葉はご存知でしょう。
武者小路実篤が、花や野菜などに添えて書いた讃文(仏や菩薩の慈悲や高僧の徳を讃える文)にあるものです。
国や民族という枠を超えて、老夫婦チョ・ビョンマンとカン・ゲヨルの姿は、誰の目にも美しく見えるのではないでしょうか。
愛しい人や、夫婦について思いを馳せる映画として、見過ごしことのできない秀作な1本です。
現在、地方の映画館では今なお順次公開中。また、DVDレンタルも開始されています。夫婦愛のオススメ映画、ぜひご覧ください。