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映画『ヤング・アダルト・ニューヨーク』作品情報
【公開】
2016年(アメリカ)
【原題】
While We’re Young
【監督】
ノア・バームバック
【キャスト】
ベン・スティラー(ジョッシュ)、ナオミ・ワッツ(コーネリア)、アマンダ・サイフリット(ダービー)、アダム・ドライバー(ジェイミー)
映画『ヤング・アダルト・ニューヨーク』あらすじとネタバレ
若返り症候群
ドキュメンタリー映画監督のジョッシュとその妻コーネリアは40代。子どもに恵まれない寂しさはあるものの夫婦仲はよく、自由な二人の生活を楽しんでいます。
ある日ジョッシュは、ジェイミーとダービーという20代の夫婦と出会います。ジェイミーはジョッシュの作品のファンだと言います。気をよくしたジョッシュは、コーネリアも交えて四人で食事をし、映画の話で盛り上がってすっかり意気投合します。
監督志望のジェイミーとアイスクリーム職人のダービー。二人の家を訪れたジョッシュとコーネリアは、若い夫婦のセンスの良さに感心します。ジェイミーはジョッシュを崇拝の目で見ています。二組の夫婦は年齢差を超え、急速に親密になります。
若い夫婦の影響を受け、ジョッシュは自転車を買い、コーネリアはヒップホップ・ダンスを始めます。同年代の友人夫婦は、二人の若作りを心配します。友人に「子どもを作った方がいい」と言われ傷ついたコーネリアは、ダービーに愚痴をこぼします。
ジョッシュとコーネリアは、ジェイミー達から怪しい儀式に招待されます。幻覚剤で意識が朦朧とする中、ジョッシュはジェイミーの映画を手伝うよと言います。監督として行き詰まっていたジョッシュは、ジェイミーとならうまくいくと感じます。
ジェイミーは、フェイスブックで連絡してきた昔の友人ケントとの再会を、ドキュメンタリー映画にしようと考えていました。ジョッシュと共にケントの家に向かうと、ケントは病院に入院中でした。ジェイミーがSNSでケントを検索すると、ケントがアフガンで兵役を勤めた過去がある事実がわかります。
単なる友人の話が、アフガンを題材にした記録映画になると大喜びのジェイミー。そんなある日、ジョッシュとコーネリアは、友人夫婦が自分達抜きでパーティを開いていたと知りショックを受けます。彼らは、若い夫婦とばかり仲良くしているジョッシュ達とどう接していいかわからず、すっかり気持ちが離れてしまったのです。
ジェイミーの映画制作は好調でした。コーネリアの父ブライトバードはドキュメンタリー映画の監督でしたが、ジェイミーはジョッシュの知らないところでブライトバードに連絡を取り、助言を求めていました。その事実にジョッシュは憤慨します。
ジョッシュは、自分の編集映像をブライトバードに見せます。しかし義父の評価は厳しいものでした。一方、ブライトバードはジェイミーの作品を高く評価しており、そのことに腹を立てたジョッシュは、ブライトバードに近づくためにジェイミーが自分を利用したと、コーネリアに食ってかかります。コーネリアは反論し大ゲンカに。
オトナでいること
なんとかコーネリアと仲直りしたジョッシュは、気を取り直して編集作業にかかろうとします。ジェイミーの作品を見直してみると、ケントの取材映像の中にダービーのアイスクリームが映っています。ジョッシュはこの映像がヤラセだと気がつきます。
ケントに話を聞くと、やはりジェイミーが全て仕組んだことでした。アフガンの件も、最初からわかっていたのです。ダービーもヤラセを認めます。ジョッシュは、ジェイミーの正体をばらすために、ブライトバードの祝賀パーティに向かいます。
パーティにはジェイミーも招待されていました。ジョッシュはブライトバードやコーネリアの前で、ジェイミーのヤラセをぶちまけます。ブライトバードは「演出や偶然性など些細なことだ」と取り合いません。ジョッシュは打ちのめされます。
コーネリアはジョッシュに「ジェイミーは最低だけど作品は最高よ」と言います。ジョッシュは敗北を認めます。「僕は、尊敬してくれる弟子がほしかったんだ。そうすれば、大人になりきれない子どもをやめられたから」。コーネリアは微笑みます。
1年後。新しい人生を始めようと決心したジョッシュとコーネリア。養子にすることが決まった赤ちゃんを迎えに、ハイチに旅立とうとしていました。空港の待合室で雑誌を開くと、そこには有名人になったジェイミーが笑顔で載っていました。
コーネリアは「悪魔が放たれたわ」と皮肉を言いますが、ジョッシュは「若いだけだよ」と言います。笑い合う二人の前の席に、小さな子どもが座っています。その手にはスマートフォンが握られていて、とても慣れた手つきで操作しているのです。
子どもを見つめるジョッシュとコーネリア。二人の笑顔は、だんだん不安に固まっていくのでした。
『ヤング・アダルト・ニューヨーク』の感想と評価
ジョッシュとコーネリアが善人すぎて、なんだか気の毒になりました。はたから見れば、お洒落でクリエイティブなカップル。子どもがいなくて自由気ままに人生を謳歌しているように見えるのですが、内心は二人とも複雑な思いでいっぱいです。
そんな彼らにとって、ジェイミーとダービーのカップルは眩いばかりの存在です。特にジェイミーは、時代の最先端を熟知しながら、LPレコードやVHSビデオなど過去のアイテムにも造詣が深く、ジョッシュの心はわしづかみにされます。
ドキュメンタリー映画監督としてスランプ状態のジョッシュ。ジェイミーの若い感性があれば、自分もランクアップできるかも。そんな下心もあったはずですが、実はジェイミーのしたたかさの方が数段上で、オレは利用されたんだと怒り狂う羽目に。
ジェネレーションギャップというよりは、創作に対する意見の相違というべきか。真実を追求する職人肌のジョッシュと、アピール度にこだわるアーティストタイプのジェイミー。根本の問題は年代の違いではなく、感性の違いのようにも思えます。
成功の階段を上るジェイミーのことを「若いだけだよ」と笑うジョッシュ。大人の対応とも言えるし、負け惜しみと取れないこともありません。いずれにせよ、諦めと達観を身につけた彼のスタンスこそ、若いジェイミーにはできないことです。
そんなジョッシュを、大きな愛情で包むコーネリア。この映画で素晴らしい存在なのが彼女です。謎の儀式や父親の授賞式でのすったもんだでどうなることかと思いましたが、一人で空回りする夫の苦しみに、彼女は最後まで寄り添います。
二組の夫婦の違いは、若さではなく、流行りの店でもなく、アートの感性でもない。お互いの欠点も受けいれて、家族として相手の幸せを思うという、年月を経たからこそ生まれる夫婦の絆があるかないかの違いだと思いました。
まとめ
アカデミー脚本賞にノミネートされた『イカとクジラ』(2005)や、『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(2010)『フランシス・ハ』(2012)などで評価の高いノア・バームバック監督による最新作です。
ジョッシュ役のベン・スティラ―は、もう何をしようがベン・スティラーな安定感。対するジェイミーは、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(2015)のカイロ・レン、アダム・ドライバーです。無邪気に見えて実は野心家という若者を好演しています。
若妻のダービーに感化されたコーネリア。彼女がヒップホップダンスを踊る場面があるのですが、このナオミ・ワッツのダンスかなりスゴイです。見どころの一つです。
サウンド使いの巧さに定評がある、ノア・バームバック監督。『イカとクジラ』ではピンク・フロイドの「Hey You」、『フランシス・ハ』ではデヴィッド・ボウイの「Modern Love」など、’70~’80年代のヒット曲を印象的に使っています。
今作でも同じくボウイの「Golden Years」をはじめ、サバイバーの「Eye Of The Tiger」、ライオネル・リッチーの「All Night Long」を流す一方で、ハイムの「Falling」やジェームス・マーフィ-の「We Used to Dance」など、幅広い世代の音を作品と融合させています。
「大人になれよ」と言われるような真似はしたくないけれど、「守りに入った」と思われるのもなんか寂しい。若くはないが年寄りでもない、そんな微妙な40代夫婦の混乱と再生の物語です。