渋谷直角のサブカルマンガを大根仁監督により、キャスト妻夫木聡&水原希子主演で映画化!
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』をご紹介します。
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映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督】
大根仁
【キャスト】
妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、江口のりこ、天海祐希、リリー・フランキー、松尾スズキ
【作品概要】
ミュージシャン、奥田民生の「力まないかっこいい生き方」に憧れるコーロキ・ユウジは雑誌編集者。新しく異動してきたインテリア雑誌の取材で知り合った天海あかりとまさかの相思相愛となります。しかし、感情のころころ変わるあかりにユウジは振り回されっぱなし。彼女は出逢う男全てを狂わせる女性だったのです。
映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』あらすじとネタバレ
15歳の頃から奥田民生に憧れてきたコーロキ・ユウジは今、30歳を過ぎたばかり。
彼が初めて民生を認識したのは「ミュージック・ステーション」でした。他のミュージシャンがみんな豪華に着飾っている中、ジーパンはいて堂々として、タモさんにジーパン汚れているよと指摘されると「さっきラーメンの汁こぼしたんで」と答えていた民生。
彼のような「力まないカッコいい大人」になりたい! 民生にすっかりはまったユウジは、彼の楽曲群は勿論、彼が掲載されている雑誌を買い漁り、気づけば自身も編集者になっていました。
最近、家電雑誌からライフスタイル雑誌「マレ」に異動になったユウジは、編集長の自宅でのお洒落な歓迎会で、好きなミュージシャンを尋ねられます。
他のメンバーから出てくる名前は最新の洋楽アーティストばかり。ユウジが「奥田民生」と答えると、一瞬、空気が凍り付きます。
しかし、編集長の木下が助け舟を出してくれ、民生のレコードをかけてくれました。編集部の異次元レベルのお洒落さに少し気後れしていたユウジは、これならやっていけるかも、と少し安心するのでした。
ある日、ユウジは先輩編集者、吉住に同行し、女性ブランドのプレスをしている天海あかりを紹介されます。あまりのきらびやかな容姿に魅せられ、ユウジは一目惚れしてしまいます。
「社長の江藤美希子が、最後のページにエッセイが欲しいと言っており、それも村上春樹や又吉クラスに頼みたいらしいんです」と話すあかりに、いいところを見せたいユウジは、ダメもとであたってみましょう、と請け合います。
あとで吉住に「あれ?大丈夫なの?」と突っ込まれますが、これまで築いてきた人脈をあたってなんとかやってみます、と答えました。
しかし、フリーライターの倖田シュウのところに別の原稿依頼を持っていった時、彼は最後のページのエッセイも自分が書くと言い出しました。
それはちょっと…と言葉を濁していると、社長には俺から言っとくからと言われ、つい、承諾してしまいます。
再びあかりの会社に出向いた時、あのエッセイ、どうなりましたかと聞かれ、ありのままを答えると、あかりは何も聞いていません、と真顔になりました。
プレスを通さないで勝手に話しをすすめるなんてありえないとご立腹。ユウジは激しく落ち込みます。
そんな時、倖田シュウから電話が入ります。「メール見て、早く。早速あのエッセイ書いたから」。
見てみると、ページの趣旨とはまったくかけ離れた手描きのエッセイのファイルが届いていました。ユウジは彼の強引さにかっとなって、激しくダメ出しします。すると後日、倖田はネットでユウジと「マレ」を罵倒し、それらがまとめサイトにまとめられていました。
落ち込むユウジを編集者が慰めます。こんなこと珍しくないようで、編集長も「全然気にしなくてよいよ」と言ってくれました。
おまけにあかりが「失礼なこと言ってごめんなさい」と謝ってきました。二人は一緒に食事に出かけました。
途中、何度もスマホがなるので、ユウジが問うと、「彼氏からの連絡」と答えるあかり。なんと彼氏はDVで、束縛が激しく、少しでも連絡が取れないと、しつこく何度も何度もラインや電話をしてくるのだそうです。
「男好き」だとか「男を誘惑する目をしている」などと言って、彼女をなじることもしばしばだとか。彼女の告白を聞いていたユウジは「そんな彼氏許せない!」という気持ちが高まり、「あなたの全てを守りたいから 俺とつきあってください!」と叫んでいました。
二人は激しくキスを交わし、その夜、結ばれました。
幸せいっぱいのウキウキ気分で出社したユウジ。海外に取材に行っていた吉住が戻ってきたので「一応、報告しておいたほうがいいと思いますので」とあかりと付き合い始めたことを伝えると、吉住は無言で立ち去りました。
なんと、彼女のDV彼氏は吉住だったのです。ユウジはあかりにラインを送り続けますが、既読にもなりません。勝手に良くない方向にあれこれ妄想し、心配したユウジはさらに長文のラインを送ります。しかしやはり返事がありません。
あかりがiPhoneを忘れてきて手元になかったせいだということが後で判明しました。でも「今度やったら嫌いになる」と言われてしまいます。
吉住は会社をしばらく休むことになり、吉住が担当していたコラムニストの美上ゆうをユウジが担当することになりました。他の編集者が言うには、彼女は原稿がなかなか出ないので有名だそうで、ただ、最高に素晴らしいものを書くので、毎回、苦労も報われるのだそうです。
美上ゆうの家に挨拶に行くと、部屋は猫だらけ。かなり個性的な人のようです。
その夜は、あかりと買い物をして、ユウジの家でご飯を食べる約束をしていました。高級スーパーで買い物をしている時、産地にこだわるというあかりに自分は値段重視だと軽く言うと、彼女は急に不機嫌になり「私たち気があわない」と帰ってしまいました。
ばったり編集長に会って、ご飯に連れて行ってもらったユウジは編集長から「猫特集」の担当を任せると言われます。
編集長は自分の昔の恋話しを聞かせてくれました。その彼女を最近、久しぶりに見かけたといいます。セルジュ・ゲンズブール似の男と歩いていて、男は自分が吸っていた煙草を彼女にくわえさせ、また歩いていったと。
その時、あかりから「さっきはごめんね。家に行くからご飯食べよ」とラインが入りました。喜び勇んで帰宅するユウジ。
猫特集の担当になったことを伝えると、「ついにやるんだ」とあかりは言いました。妙な言い方だと思って聞き返したユウジにあかりは「うちの商品も猫ものは完売するよ。前からやったらいいのにって思っていたの」と答えるのでした。
「今度の土曜日、京都に行くの」とあかりが言いました。新規店がオープンするのだそうです。じゃぁ一緒に行こうかと盛り上がる二人。仕事の方も金曜日までには全て入稿できるはずですから、余裕で行けるでしょう。
念のため、美上さんに電話を入れてみました。過去最高の速さで出来上がりそうとのこと。金曜日の朝には間違いなく、お届けできると調子がよさそうです。
金曜日。待てども、待てども原稿が来ません。電話してみると、飼い猫の一匹が脱走したとかで原稿どころではないとの返事が帰ってきました。
夜、ひっそりした編集部に残り、届かない原稿にイライラしていると、編集長から雷が落ちました。「締め切りは作家の責任ではない。締め切りを守るのは編集者の仕事だ! 作家が締め切りぎりぎりまで作品に命を注ぐのは当然のことだ。じっとしてないで取ってこい!」
ユウジはツイッターで美上が公園で猫を探しているとの情報を得て、一緒に猫を探しにかかります。顔をひっかかれながらも、なんとか捕獲することに成功しました。
美上のマンションに一緒に戻り、一晩中、美上の側で、叱咤激励し、やっと原稿が出来上がりました。原稿はとても面白いコラムに仕上がっていました。
清々しい達成感を覚えながらも、あわてて会社に戻ります。iPhoneを会社に忘れてきてしまったのです。あかりから何通もラインが来ていました。
必ず、今日の夜には行くからと伝えると、彼女は不機嫌そうに電話を切りました。校了を終えてあとはデザイナーに納品すれば終わりというところまで持っていき、ほっと一安心しているところにふいに吉住が現れました。
彼はユウジの机に広げられた原稿をチラっとみて、「あのイラストあれで大丈夫?」とだけ言うと立ち去りました。
イラストを見て、愕然とするユウジ。美上に電話をかけ、帽子に書かれたアルファベットが間違っているので書き直しお願いしますと告げると、美上はなんだかんだ理由をつけて仕事を引き延ばそうとします。
「プロならプロらしくちゃんと仕事しろよ!」ユウジは思わず怒鳴っていました。
ようやく仕事を終え、東京駅に急ぐも、京都行きの最終新幹線に間に合いませんでした。泣きながらあかりに電話をしますが、もう別れようと言われ、切られてしまいました。
切られたとわかっていても、ユウジは喋り続けていました。泣きながら。「頑張ったんだよ、俺。なんとか原稿あげてもらってさ…。」
映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』の感想と評価
大根仁監督の2011年の作品『モテキ』では恋に浮かれた主人公が、突如路上でPerfumeと踊り出すという『(500)日のサマー』のオマージュシーンがありましたが、今回は、ミュージカルシーンはないものの、妻夫木聡がスラップスティックに恋の喜怒哀楽を表現しています。
なんとも漫画的な表現方法なのですが、大根監督は、そうした表現をさらっと映画の画面に乗せるのに長けているという印象があります。
等身大の大きなペンを抱えた主人公たちを画面で動かし、漫画制作の過程を描いた『バクマン。』しかり。
水原希子扮するあかりとの恋は頂上に駆け上がったかと思えば、奈落の底に突き落とされる、ジェットコースターのような展開。
知らぬ間にユウジがストーカーに成り下がっていて(本人はまったくその自覚なし)思わず笑ってしまいます。
キッス、キッスのオンパレードですが、フォトジェニックな二人なので、まぁ絵になること!!
本作はまた、恋愛物語にプラスしてお仕事ものとしても、見どころたっぷりです。編集者泣かせの遅筆コラムニストとの逸話はまさにバトルども呼ぶべき展開。
約束の期日を過ぎても作家はなかなか原稿を書こうとしません。プロの編集者としての手腕が問われます。
悪戦苦闘の末、ついに原稿を手にしますが、彼女とのデートの約束という締め切りには間に合わない!
新感線に乗りそびれ、別れを告げられ、電話を切られても、まだ受話器に向かって喋っているユウジをカメラは固定の引きの画面でとらえています。
目の前の道をバイクが轟音を立て通り過ぎ、そして画面の上の方では電車がゆっくり走って行く。実に泣ける場面です。
しかし、悲しいだけでなく、ユウジの心にある種の高揚感が生まれているのがこの場面の憎いところです。プロとプロの仕事ぶりを魅せてもらったという満足感を観客も受けることになります。
ドログバという名前の黒猫との追っかけシーンも楽しい(可愛い!)。おそらく、ここはCGでしょうけれど。
まとめ
鑑賞し終えての第一の感想は「切ない」でした。そしてしばらくしてどんどん悲しくなってきました。
これはなりたい自分になれなかった男の話しなのです。
ユウジの場合は奥田民生ですが、あの人みたいになりたい、生きてみたいという心のヒーローを人はそれぞれ持っているのではないでしょうか。
そしてどのくらいの人がその夢を果たしているのでしょう?
一廉の人間になり、地位も名誉もそれなりに築いた男が、ふと、昔の自分の姿をガラスの向こうに見ます。まだ何ものでもなく、恥を繰り返してばかりいたけれど、奥田民生のような人間になりたいと夢みていたあの頃の自分。男はふいに涙ぐみます。
そこに描かれているのは青年期の終焉です。
映画の中で妻夫木聡が泣く姿を見るのは、最早恒例行事のようになった感がしなくもないですが、彼の泣き演技史上、今回の涙は最も身近に感じられるように思えました。
ユウジは人が喜ぶ自分になるという術をあかりから伝授されたのでしょうか?
あかりがユウジに放った「あなたはもう大丈夫」という台詞は、そういうことだったのでしょうか?
渋谷直角の原作とは違い、あかりは謎めいた存在として描かれています。果たして本当に実在した人物だったのでしょうか?
ユウジとの会話の中で「神」についてのやり取りがあったように、彼女こそがファムファタールの衣をまとった「女神」だったのではないでしょうか?
このファンタスティックな改変はとても成功しているといえるでしょう。