2019年、第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品『マリッジ・ストーリー』
Netflix映画『マリッジ・ストーリー』は、知り合って10年になる30代半ばの夫婦が離婚するまでを描いた物語。
監督と脚本を兼務したのは、『イカとクジラ』(2006) やA24配給の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(2016)等、人間関係の綾を巧みに脚本化し演出するノア・バームバック。
主演のアダム・ドライヴァーがノックアウト級の演技を披露する本作は、2019年ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞にノミネート。何度も見たくなる味わい深い大人のラブ・ストーリーです。
映画『マリッジ・ストーリー』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Marriage Story
【監督】
ノア・バームバック
【キャスト】
アダム・ドライヴァー、スカーレット・ヨハンソン、ローラ・ダーン、レイ・リオッタ、メリット・ウェヴァ―、アラン・アルダ
【作品概要】
監督を務めたノア・バームバックが脚本を執筆。夫婦の愛情を離婚を通じて描こうと思い立ち、様々な知り合いにインタビューして脚本を書いたと創出の経緯を説明。
本作で4回目のタッグを組む主演のアダム・ドライヴァーを製作の早い段階で召集。
2019年のゴッサム・インディペンデント映画賞では、作品賞、主演男優賞、観客賞、そして脚本賞の4冠を果たし、ロサンゼルス映画批評家協会賞の脚本賞も受賞。2020年度ゴールデングローブ賞の主要部門にノミネートされています。
映画『マリッジ・ストーリー』のあらすじネタバレ
「僕がニコールの好きな所は、人の話に耳を傾けること。家族全員の散髪もしてくれる。お茶を入れたカップを飲まないままあちこちに置きっぱなし、食器戸棚も開けっ放しでお皿も流しにそのままだけど、僕の為に努力してくれる」
「ロサンゼルスで俳優業をしていたニコールは、母親や姉のキャシーとは凄く仲が良い。プレゼント選びが凄く上手で、子供と真剣に遊ぶ。負けず嫌い。車の5速だって運転できる」
「ロサンゼルスでキャリアを積んでいればスターになれたのに、僕の為にニューヨークへ移り劇団の旗揚げを手伝ってくれた。知ったかぶりをしない性格で、僕のお気に入りの俳優だ」
「私がチャーリーの好きな所は、くじけないこと。ネガティブな意見を聞いても自分の信念は曲げない。食べ方が豪快でまめ。電気の無駄使いを嫌がり、映画を観て直ぐ泣いちゃう。料理や家事を上手にこなせる自己充足型」
「私がつい感情的になっても批判したりしない。着る服にセンスがあって負けず嫌い。父親であることが好きで息子の為に夜中起きることも厭わない。自分の世界に没頭する性格」
「歯や顔に何かついているのを見つけると相手に恥ずかしい思いをさせずに伝えるのが上手。チャーリーは恵まれない家庭で育ちながら成功した人。ツテが無いまま移ったニューヨークに溶け込み、立ち上げた劇団の団員を家族の様に扱う。凄くクリエイティブ」
調停委員は別居から離婚へ円満に運ぶ為2人にお互いの好きな所を書くよう指示していましたが、ニコールはメモを読みたくないと言い、退席してしまいます。
舞台終了後、団員はチャーリーとニコールの仲が本当に終わるらしいと噂話。チャーリー率いる劇団の舞台がブロードウェイで上演されることと、主役のニコールがロサンゼルスへ引っ越すことが発表されます。
裏方のマリアンがチャーリーに話し掛けるのを見たニコールは、急いで帰宅。後に続いて帰路に着いたチャーリーは、ニコールから距離を空けて電車に乗ります。
家に帰ると、チャーリーは所有物は分配し話し合いで手続きを進めようと提案。ニコールは同意します。
ベッドに横になったニコールは、チャーリーに聞こえないようむせび泣き。
程無くしてニコールは1人息子のヘンリーを連れてロサンゼルスに住む母親の家へ引っ越します。
テレビドラマのパイロット出演が決まったニコールは、離婚経験者のスタッフから精神的ケアも上手な弁護士のノラ・ファンショーを紹介して貰います。
チャーリーとは話し合いで解決することになっていたニコールですが、取りあえずノラに会ってみることに。
ノラも離婚した過去があり自分の気持ちを理解していると感じたニコールは、チャーリーとの友情は失いたくないと前置きし、押さえていた気持ちを話します。
ハリウッド映画に出演して自信を持っていたニコールは、ニューヨークでチャーリーと夫婦生活を送るうちに段々自分がしぼんでいくような気分に陥りました。
ヘンリーが生まれ夫婦の関係は暫く良好に進みましたが、チャーリーだけが輝ける世界で日々を過ごして行くだけで、自分の意見が尊重されない生活に対しニコールは不満を募らせます。
「アパートや家具もチャーリーの好みだし、ロサンゼルスへ引っ越すことを何度訴えても話だけで実現しようとしてくれなかった」
「テレビドラマのパイロット出演が決まりギャラも凄く良いのに、チャーリーはからかったの。応援してくれてたら離婚にならなかったかも。しかも、そのギャラを劇団に使えって言ったのよ」
「スタッフのマリアンと浮気したと思う」
ノラを雇ったニコールは、ヘンリーに会いに来るチャーリーにノラが準備した離婚届を渡すことに。
姉のキャシーに書類を渡すよう頼むと、キャシーはリハーサルをしたいと緊張。ニコールの母親は、キャシーの元夫とも交流を続けていることを白状し、チャーリーが大好きなのでやり直せないのかと水を差すコメント。
そこへチャーリーが到着し、マッカーサー・フェローを受賞したと報告。ニコールは自分のことのように喜びます。
ふとした拍子に離婚届の入った封筒を見つけたチャーリーは暫し呆然と立ち尽くし、弁護士など通さずにニコールがテレビの仕事を終えてニューヨークの自宅へ戻った時に話し合おうと言います。
ニコールは、そういう考えは自分にとってフェアじゃないとノラに忠告されたと伝え、チャーリーも弁護士を雇うよう促します。
チャーリーとニコールは、ヘンリーを挟んでベッドに横になり、チャーリーが息子に絵本を読み聞かせるのを聞きながら、ニコールは思わず涙目に。
部屋から出たチャーリーは、ニコールの母親が壁にたくさん飾った夫婦の写真を眺めます。
弁護士のジェイ・マロッタを訪ねたチャーリーですが、依頼料2万5千ドル、1時間950ドルだと聞き、とても払えないと青ざめます。
ジェイは、ニコールにヘンリーをニューヨークから連れ出させたのが不利になり、裁判ではチャーリーが駄目な父親だと証明する手法をノラが取ると警告。
チャーリーは、ニコールはそんな嘘はつかないと言い返しますが、ジェイは、犯罪人を弁護する時は長所に注目し、離婚裁判では相手の短所を強調するものだと説明。
ニューヨークに戻ったチャーリーは、ブロードウェイの舞台を準備。早速言い寄るマリアンに対し、チャーリーは、まだ離婚していないとやんわり断ります。
そこへノラから連絡が入り、離婚届けを受領してから30日経っても対応しないチャーリーに対し、親権も含め全てを失うと警告。
チャーリーは舞台の準備を進めなければないないものの、手続きがロサンゼルスで始まっている為ニューヨークの弁護士に依頼できないことを知り、窮地に立たされます。
ロサンゼルスへ来たチャーリーは、ジェイのほぼ半額で雇える弁護士バート・スピッツをニコールの母親から紹介して貰います。
自身も3度離婚しているバートは、ホテル滞在は止めてヘンリーが住むニコールの家の近くにアパートを借りて裁判官の心証を良くするよう助言。
ハロウィーンを息子と一緒に過ごすチャーリーですが、ヘンリーは、ロサンゼルスが気に入っていると打ち明けます。
ニコールに電話したチャーリーは、ヘンリーをロサンゼルスへ住まわせるつもりかと切り口上。
ニコールは、弁護士を通せとつれない口調。腹が立ったチャーリーは、2人で話し合って解決するはずだったと言葉を荒げます。
するとニコールは、チャーリーのメールを盗み見ていたことを告げ、マリアンとの関係を糾弾。
バートとノラを交え、チャーリーとニコールは話し合いを持ちます。
ランチで一時中断した時、何を頼んで良いのか分からないチャーリーがメニューを睨んでいると、ニコールは、グリークサラダとドレッシングの代わりにレモン汁とオリーブオイルを注文してあげます。
その内容に満足そうな表情のチャーリー。ニューヨークにこだわるチャーリーですが、ノラだけでなくバートもロサンゼルスの方が住みやすいと水を向けます。
更に、会合はノラが主導権を握り、チャーリーは劣勢に立たされます。
映画『マリッジ・ストーリー』の感想と評価
離婚を望む妻・ニコールに対し、夫・チャーリーは当惑しながらも話し合いに応じるという設定で始まり、お互い抱えた不満が夫婦関係を終焉させても相手への愛情は存続していく経過を繊細で濃厚に描いています。
本作の見所はずばり俳優陣の演技力。特に、監督・脚本を務めたノア・バームバックが過去に3度タッグを組み信頼を置くアダム・ドライヴァーの演技が圧巻。
大変緻密な演出が施された物語の佳境とも言える2人の口論場面。
あまりに生々しい感情のやり取りがある為、全くそうとは見えませんが、バームバックはチャーリー役のアダム・ドライヴァーとニコール役のスカーレット・ヨハンソンに一言一句の台詞に対して演出。
2日間に渡った撮影で、演者の2人は異なるアプローチをバームバックと話し合いながら何度も最初からテイクを重ねて創出したシーンであり、まるで舞台の様な流れの中、台詞ごとの動きまで精密に振りつけられ、即興はゼロ。
ドライヴァーは、うねる様な感情の起伏に重層的で細かい変化を見事に表現しており、息を飲むほどリアルです。
また、弁護士役で登場するローラ・ダーンとレイ・リオッタの鍛え上げられたスキル溢れる演技力も本作には大切なエッセンス。
そして、これまで時代劇からスーパーヒーロー映画と様々な役柄をこなしてきたヨハンソンにとって、キャリア最高の演技を披露した作品だと言えます。
バームバックと共に製作を担当したのは「ハリー・ポッター」シリーズを手掛けたデヴィッド・ハイマン。
2019年は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』もプロデュースしているハイマンは、バームバックがマイケル・ニコルズとエリア・カザンの様なスタイルを持つ監督だと賞賛しています。
ニコールがチャーリーの靴紐がほどけていることに気づき結んであげるエンディングは、夫婦ではなくなったチャーリーとニコールの互いに対する変わらない愛情をシンプルに描写し印象的。
2人のこの先をまだ見ていたいと感じさせる作品であり、良質な映画が多かった2019年の中でも際立つ秀作です。
まとめ
チャーリーとニコールはニューヨークで暮らす夫婦。ロサンゼルスで自分のキャリアをもう一度築きたいニコールは、理解を示さないチャーリーに離婚を申し出ます。
1人息子の親権を巡って裁判になり、長年胸にしまっていた互いへの不満が爆発しますが、愛のある2人には離婚で失うものだけではなく修復できるものがあることも描写されます。
『マリッジ・ストーリー』は、主演のアダム・ドライヴァーとスカーレット・ヨハンセンを中心に圧巻の演技を見せる俳優陣と人の心模様を見事な演出で映像化したノア・バームバックが贈る大人のラブ・ストーリー。