Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/11/24
Update

映画『ライフ・イット・セルフ』ネタバレあらすじと感想。ダンフォーゲルマン監督の緻密な構成は観客の心へと力技で迫る

  • Writer :
  • 西川ちょり

立ち上がって前に進めば愛をみつけられる

大ヒットTVドラマシリーズ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」のダン・フォーゲルマンが脚本・監督を手掛けた『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』が2019年11月22日より日本公開されました。

ニューヨークとスペインを舞台に、人々を翻弄する人生の過酷さを描きながら、それでも前に進めば愛を見つけられると謳い上げる感動のヒューマンドラマ。

「スター・ウォーズ」シリーズのオスカー・アイザック、『her 世界でひとつの彼女』のオリビア・ワイルド、『ペインアンドグローリー』のアントニオ・バンデラス、『20センチュリー・ウーマン』のアネット・ベニングが共演で、ある1つの事故をきっかけに翻弄されていく2つの家族の様を描いています。

映画『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』の作品情報


(C)2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. and LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.

【公開】
2019年公開(アメリカ映画)

【原題】
Life itself

【監督】
ダン・フォーゲルマン

【キャスト】
オスカー・アイザック、オリヴィア・ワイルド、マンディ・パティンキン、オリヴィア・クック、ライア・コスタ、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラス

【作品概要】
テレビドラマシリーズ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」(2016~2019)の企画・脚本・製作総指揮を手掛けたダン・フォーゲルマンが脚本・監督を務めたヒューマンドラマ。

ニューヨークとアンダルシアを舞台に2組の家族の運命が交錯し、空間、時間を越えてつながる壮大な物語で、ボブ・ディランの曲が大きなモチーフになっています。

映画『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』あらすじとネタバレ


(C)2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. and LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.

【第一章 ヒーロー】
学生時代に出会い、大恋愛の末に結ばれたウイリーとアビーは、第一子の誕生を間近にし、幸福の絶頂にいました。

アビーはボブ・ディランが1997年に発表したアルバム「タイム・アウト・オブ・マイン」について熱く語り、そんなアビーをウイリーは満面の笑みを浮かべて愛しそうに見つめていました。

しかし今、ウイルはやつれ果て、セラビストのドクター・モリスに定期的にセラピーを受けているのです。

その日はいつになくアビーの話をたくさんしたウイル。幼い頃に両親を交通事故で亡くして、たちの悪い叔父に引き取られたこと、虐待を受けて育ったがある日銃を手に入れ叔父の両膝を撃ったこと、猛勉強して大学に入りそこでウィルという友人を得たこと、「信頼できない語り手」について書くと卒論のテーマを興奮した調子で報告に来た時のことなどを。

「今日は随分アビーのことを話してくれたわ。これはいい兆候よ」とドクター・モリスは言い、ウイルをみつめました。

ウイルは長い間入院しており、セラピーを受けることを義務付けられていました。実はアビーをウイルの両親に紹介し、一緒に食事をした帰り、話に夢中になっていたアビーは道路に飛び出しバスに轢かれて亡くなってしまったのです。

お腹のあかちゃんは奇跡的に助かったのですが、アビーを失ったという現実を受け止められないウイルは、その子にも頑なに会おうとしませんでした。

そして彼はドクター・モリスの目の前で拳銃自殺してしまいます。

【第二章 ディラン・デンプシー】

(C)2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. and LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.

奇跡的に生まれてきたウイルとアビーの娘は、ディランと名付けられ、ウイルの両親に育てられました。

6歳のときに祖母が亡くなり、7歳のときに大切な友だち(愛犬)を失います。祖父が一人で育て上げ、ディランはその日21歳になりました。

ロック少女に成長した彼女はバンドを組んでライブハウスで歌っていました。

ライブ終了後、ディランは自身を盗撮した女の携帯を奪ってたたきつけ、弁償しろとせまる女にパンチを食らわしました。

誕生日の夜、彼女はひとり、街のバス停の椅子に座っていました。

【第三章 ゴンザレス一家】
スペイン・アンダルシアのオリーブ農園で働くハビエル・ゴンザレスは、実直な働き者です。雇い主のサチオーネは、他の者が熊手で収獲しているのにひとり丁寧に素手で収穫し、2倍働く彼の勤勉さを認め、彼を畑の作業長に抜擢しました。

彼にはレストランで働いているイザベルという恋人がいました。昇給したハビエルは「君を養える」と彼女に求婚します。

息子のロドリゴをさずかり、幸せに暮らす3人でしたが、ハビエルが仕事で出ている時を見計らい、度々サチオーネが家を訪れるようになりました。

ロドリゴは彼にすっかりなつき、地球儀をお土産にもらって大喜びです。

サチオーネの父親は、大金持ちでしたが、妻や息子に冷たくあたり、サチオーネが16歳のときに母親がなくなると、彼をあっさり見捨てたのでした。そんな父が急逝し、莫大な財産がサチオーネに残されました。父はまさか自分が死ぬとは思わず遺書も何も残していなかったのです。

複雑な生い立ちのため、孤独に生きてきたサチオーネはゴンザレス家の暖かさとイザベルの優しさに惹かれたのでした。

しかし、いつもより早く帰ってきたハビエルは彼に地球儀を返し、家に来るなと追い返します。

サチオーネからアメリカ・ニューヨークの話をたっぷり聞かされていたロドリゴは、サチオーネとニューヨークに行きたいと言い出します。

ハビエルは家族でニューヨークに旅行することにしました。セントラルパークやタイムズスクエアなどを訪れた彼らは興奮した面持ちでバスに乗っていました。

ロドリゴはバスの前の方に行きたがり、乗客にかわいらしく挨拶をしながら父とともに移動してきました。

運転手が愛らしいロドリゴに一瞬気をとられた時、バスは女性を轢いてしまいます。お腹の大きな女性が倒れて血を流しており、男性が取りすがっていました。ロドリゴはその様子を全てフロントガラス越しに見てしまいました。

ロドリゴはそれから何年も苦しむこととなります。

ロドリゴの状態は次第にひどくなっていき、心配したイザベルは専門医にみせようと夫に相談します。ハビエルは金がかかると応えますが、2人はサチオーネに治療費を出してくれるよう頼むことにしました。

原因はやはり事故のトラウマでした。しかし、時間をかければ必ず治りますと医師は話してくれました。

治療のおかげで次第に元気を取り戻すロドリゴ。ハビエルは何もできない自分にいらつき、妻の制止も振り切り、家を出ていってしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』ネタバレ・結末の記載がございます。『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

【第4章 ロドリゴ・ゴンザレス】
母の愛とサチオーネの支援のおかげでロドリゴはすくすくと成長し、ある日ニューヨーク大学から合格通知を受け取ります。

しかし、母の体調が悪いことを知り、彼は入学を延期することにしました。母は重い病気を患っていて、様々な治療を受けましたが、一向に回復しません。

母はロドリゴを呼びました。「もう十分、支えてくれた」そう伝えると、彼を大学に送り出すのでした。

ニューヨーク大学に入学したロドリゴはスポーツに勉学にと目標を達成し続け、年上の彼女もできました。

ある日、彼女から妊娠したと聞かされ、呆然とします。ところが、それはエイプリルフールのジョークでした。種明かしされてもエイプリルフールというもの自体を知らない彼は呆然としたままです。うそだと悟った時にはもう彼は彼女と分かれる決心をしていました。

その頃、ハビエルはサチオーネからイザベルはもう長くないという手紙を受け取っていました。彼は出ていく際、サチオーネに二人を託し、近況を手紙で伝えてくれと頼んでいたのです。

ハビエルは病室を訪ね、イザベルと久しぶりの再会を果たしました。二人の男に見守られてイザベルは息を引き取りました。

まもなくロドリゴも悲しい知らせを受け取りました。

誕生日の夜、母アビーに思いを馳せていたディランはベンチで一人泣いていました。

ジョギングで通りかかったロドリゴは心配して彼女に声をかけました。「大丈夫?」

以来、2人は数十年、離れることなくずっと共にいることとなります。

【第五章 エレーナ・デンプシー・ゴンザレス】
ロドリゴとディランの間に生まれた娘エレーナ・デンプシー・ゴンザレスは、作家となり自著である自伝的作品『人生そのもの』を書店のイベントで朗読していました。

父ロドリゴが最後に母から聞かされた言葉の部分を彼女は読み上げました。

「よく聞いて。私達は人生の荒波を乗り越えてきた。これからもそう。それが人生、“生きる”ってことよ。想像以上に過酷な試練。それに立ち向かい、前に進めば愛をみつけられる。私の人生、物語は、私が消えても続いていく。あなたと共に」

映画『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』の感想と評価


(C)2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. and LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.

冒頭、「信頼できない語り手」という概念を、実際に映像としてたたみかけてくるダン・フォーゲルマンの容易ならざる語り口にすっかり驚かされます

と同時に、彼が企画・脚本・製作総指揮を担当した大ヒットテレビドラマシリーズ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」(日本ではNHKで放映)の特に第一話のラストを思い出し、いかにも彼らしいと納得した方も少なくないでしょう

ある意味トリッキーでエキセントリックな表現方法でもありますが、それはまた作家として“物語を語る”ことへの真摯な態度だともいえます。

物語を語ること、主人公を設けること、人々の人生を想像し作り上げ奈落の底に落としたり、あるいは幸せの絶頂に置くこと、そうしたものを書く、描く、作り上げることの意味を問うたメタフィクション的な一面を持った作品でもあるのです。

「THIS IS US/ディス・イズ・アス」でダン・フォーゲルマンは、第一話を成功させるために、決してネタバレをしてはいけないとマスコミに釘をさしたそうですが、本作に関しては、そういうことはなく、物語の展開はだいたい想像のつくものとなっています。

それでも、時間や国境を越えて、二組の家族が交錯し、結びついていく展開は圧巻で、5章に分かれたストーリーの構成の見事さ、旨さにうならされることになります。

これでもか、というほどの過酷な試練を与えられる人々。その描写は時にサディスティックでさえありますが、人生のもうひとつの局面である“愛”が描かれる時、エモーショナルに心をうち震わさずにはいられません。“緻密な構成とともに恐ろしいほどの力技を持って、映画は観るものの心へ、心へと侵入してくるのです。

まとめ


(C)2018 FULL CIRCLE PRODUCTIONS, LLC, NOSTROMO PICTURES, S.L. and LIFE ITSELF AIE. ALL RIGHTS RESERVED.

オリヴィア・ワイルドが演じたアビーは「信頼できない語り手」をテーマにした卒論を書きますが、教師からは低評価を受けます。

また、オリヴィア・クック演じるところのディランとアレックス・モネールが演じたロドリゴが出会うちょっと前のシーンで、アビーが好んだボブ・ディランの「メイク・ユー・フィール・マイ・ラブ」が、当時、批評家から一般大衆向けでアルバムに不似合いだと酷評されたという事実を説明するナレーションが入ります。

そしてこの『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』は、アメリカ公開時、批評家からは酷評を受けました。

しかし、アビーの論文をオスカー・アイザック演じる夫が愛したように、「メイク・ユー・フィール・マイ・ラブ」を今でも多くの人が愛しているように、ダン・フォーゲルマンの『ライフ・イット・セルフ 未来に続く物語』は一般の観客から圧倒的な支持を得たのです。



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『希望の灯り』あらすじネタバレと感想。旧東ドイツで描かれる悲哀と希望

2019年4月5日より公開の映画『希望の灯り』 旧東ドイツにある巨大なスーパーマーケットを舞台に、そこで働く従業員たちの悲哀に満ちた日常と微かな希望を描いた映画『希望の灯り』。 悲しみという苦痛に喘ぎ …

ヒューマンドラマ映画

『東京ランドマーク』あらすじ感想と評価解説。藤原季節の初主演作は東京の片隅で懸命に生きる“若者たちの心の揺れ”

映画『東京ランドマーク』が2024年5月18日(土)から新宿K’sシネマにて全国順次公開 藤原季節の初主演映画『東京ランドマーク』が、2024年5月18日(土)から新宿K’sシ …

ヒューマンドラマ映画

映画『星に語りて』あらすじ感想評価と解説レビュー。障害者支援の視点で東日本大震災の知られざる実像を探る

被災地で障害者が消えた!? 東日本大震災から10年。私たちは、その理由を知る。 障害のある人たちが地域で働く・活動する・生活することを応援する全国組織「きょうされん」が、結成40周年を記念して製作した …

ヒューマンドラマ映画

『冗談じゃないよ』あらすじ感想と評価考察。俳優・海老沢七海自身の体験が生んだ“がむしゃらで応援したい主人公”

映画『冗談じゃないよ』が2024年5月24日(金)よりテアトル新宿他で全国順次公開! 夢を追う全ての人、かつて夢を追い求めていた人に送る映画『冗談じゃないよ』。 俳優・海老沢七海が30歳を迎える節目に …

ヒューマンドラマ映画

映画『凪待ち』感想。被災地「石巻」を撮影ロケ地にした理由を母・亜弓が望んだ「新たな家族つくり」から読み解く

映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー! 『彼女がその名を知らない鳥たち』や『虎狼の血』で知られる白石和彌監督と、俳優にしてアーティストの香取慎吾が …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学