是枝裕和監督と福山雅治がタッグを組んだ映画『三度目の殺人』が話題ですね。
その原点といえる是枝監督の代表作『そして父になる』9月16日にフジテレビ系土曜プレミアムで放送。
病院で子どもを取り違えられてしまった2組の家族の困惑する様子と、そこで気が付きはじめた父親の存在と家族のあり方を描いたホームドラマ。
主演を福山雅治が務めたほか、その妻役に尾野真千子、また一方の家族の夫婦にリリー・フランキーと真木よう子がキャストで共演で贈る感動作です。
1.映画『そして父になる』の作品情報
【公開】
2013年(日本映画)
【脚本・監督】
是枝裕和
【キャスト】
福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー、二宮慶多、黄升げん、風吹ジュン、國村隼、樹木希林、夏八木勲、中村ゆり、ピエール瀧、高橋和也、田中哲司、井浦新
【作品概要】
是枝裕和監督が福山雅治を主演に起用した作品で、病院で自分の息子を出生した際に、別の子と取り違えられた事実を6年後に知らされた父親である夫と、その妻が抱く葛藤を描いたドラマ。
第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され審査員を受賞。福山雅治が初の父親の野々宮良多役を演じ、その妻みどりに尾野真千子、一方の相対する斎木夫婦にリリー・フランキーと真木よう子が演じます。
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2.映画『そして父になる』のあらすじとネタバレ
再開発プロジェクトの事業を押し進めるエリート建築家の野々宮良多。
彼には妻みどりの間に6歳になる一人息子の慶多がいて、何不自由もない幸せな家族との日々を過ごしていました。
その息子の慶多は小学校受験を控え、「どちらに似ていらっしゃいますか?」「夏休みは?」などと聞かれる私立の面接で「キャンプに行って凧揚げをした」と、学習塾で習い覚えた通りの答えで合格します。
ある日、息子の慶多を出産した病院から重要な知らせがあると呼び出されます。
ふとしたことがきっかけで、出生時の取り違えが起きていた事実を知らされます。息子は慶多は実の子どもではなくなく、斎木家の琉晴だというのです。
突如の混乱に良多は、田舎の病院で産むことを反対していたことや、「なんで分からなかったのか」と言いがかりで妻を責め立てます。
慶多と琉晴の2人は同じ7月28日生まれたのだったという事実に、ショックを隠しきれない良多とみどり。
一方の取り違えられたもう一組の家族は、群馬で小さな電気店を営む斎木雄大という男で、その妻はゆかりといい、3人の子持ちでした。
対面した良多とみどりは、「子どもの将来のために結論を急いだ方がいい」という、病院の提案で斎木家と交流を始めます。
また、病院を相手に裁判を起すことも考えるが、経済的に余裕ある良多は慶多と琉晴の2人とも引き取る手段を探ることを考えます。
まず、野々宮と斎木のぞれぞれの家族は、“ミッション”といって息子を交換で泊まらせることを試みます。
スカイツリーの見える野々宮家のマンションと、田舎の小さな電気店の大所帯の斎木家、夕食もすき焼きと餃子と団欒の様子も異なります。
3.映画『そして父になる』の感想と評価
この物語の息子の“取り違いの交換”は、看護婦のふとした妬みがもたらした悪意から始まります。
彼女はその子どもの人生の重さや交換したことからはじまる家族の運命(混乱)など、全く考えるような人物ではないのかも知れません。
しかし、一方の福山雅治演じる父親の良多も、“ミッションという言葉を使い再度の交換”することも、看護婦同様とまでは言いませんが、他人の気持ちが分かってやっている行動とは言い難いものでした。
子どもたち弱者の心境などお構えなしな訳ですから…。
この辺りの普遍的なモチーフは是枝裕和監督の一貫した作品テーマといえます。
映画『誰も知らない』の置き去りにされた子どもたち、映画『空気人形』の空気人形のぞみも、考えようによっては同じように捨てられた子どものようなものかもしれません。
また『海街diary』の腹違いの妹の浅野すずも厄介払いになりました。そして『三度目の殺人』の性的な虐待を受けた山中咲江もあまりに孤独で、捨てられてはいませんが家族の中では孤立していました。
是枝作品の子どもたちは弱者として大人の都合に流されていきます。
しかし、また、その状況でなんとか希望を見出そうと、時に行動を起こすことも是枝裕和監督の求める弱者の光ともいえる生命力です。
『そして父になる』の真の交換とは?
今作『そして父になる』では、寝ている父親の良多をカメラのファインダー越しで覗き込むシーンが印象的でした。
子どものように疲れ果てて眠る父親の良多を、父親愛用のカメラを手にしてファインダーの中で見詰める慶多。
彼がシャッターを切り取った視点は、慶多自ら父親の視点(まなざし)の交換をおこない、子どもの成長を見せた面白い描き方を見せた場面です。
あのシーンは真の意味での交換である関係を結んだ瞬間といえる美しいショットでした。
その一方で、福山雅治が取り違えた子どもを“ミッション”と言いながら、自分こそが父になるという一番の“ミッション”である成長を遂げるきっかけも、その後に良多見つけることとなる愛用カメラに残された画像でが気が付かされます。
誰もが何気なく時間をやり過ごしている日常で、“まなざしという愛情”の時間を留め置いたということ可能にしたのです。
さらには、これも是枝作品の特徴的である、子どものような大人たち(自分本意で身勝手な)が描かれている設定だといえます。
おそらくは是枝監督自身が持つ、“作家としてのある種のピュア”ではないかと、『三度目の殺人』を見た際にも強く感じました。
是枝裕和監督が描く作品には、二極化するような「善と悪」や「大人と子ども』などで分け隔てない演出で人物たちを描きます。
その特性の明らかにするものは、例えば、今作『そして父になる』では、息子の交換ということがポイントになって家族を混ぜ合わせていきます。
“誰が誰の子どもで、誰が誰の親だか見分けがつかない”ということを希望として見出していきます。
“誰が子どもで、誰が親かわからない”という、真の成熟度は年月に比例していないという、是枝裕和監督の“ある種のピュア”さではないでしょうか。
だからこそ、是枝裕和監督は『そして父になる』の結末で、家族という関係性の枠組みをはっきりと解体も、再生もしたようにラストでは解決させては描きませんでした。
遠くから家族の後ろ姿を見つめるロング・ショットで終えています。
この視点こそが「慶多の交換のまなざし」のように、時間の中で忙殺されてしまう家族姿を観客に問いかけるものです。
家族と何か、父親とは何かを想起させるのです。
これは映画『三度目の殺人』の真相は薮の中と同じ構造ですね。
はっきりと回答をさせないことで、観客のあなたに物事を想像することを委ねる。それこそが是枝裕和監督の真骨頂なのです。
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まとめ
今作『そして父になる』のように、是枝裕和監督の作品は弱者がきっかけとなって物語が動き出すます。
それは弱者が弱いからこそ、その状況をつぶさに臆病なほどに観察する者だからに違いありません。
奇しくもリリー・フランキー演じた斎木雄大が、「負けたことのない奴は本当に人の気持ちが分からないんだな」と言います。
弱い者(負けた者)は失うものが何もありません。それ故に逆の意味で強い存在だともいえるのではないでしょうか。
この辺りも是枝裕和監督の特徴ですね。
何かその辺りが気になるあなたは。ぜひ、是枝裕和監督と福山雅治のタッグを組んだ『そして父になる』と『三度目の殺人』を合わせて観ることをお薦めいたします。
この2つの作品は、一見まるで似て非なる作品構成と思われがちですが、2作品は兄弟のような関係性と類似を持ち合わせています。
奇妙な例えかもしれませんが、『三度目の殺人』のタイトルを『そして父になる』と改題しても内容は同じように伝わるはずです。