Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2019/11/11
Update

映画『サラブレッド』ネタバレ感想と評価。結末ラストで秘密と裏切りが思いもよらない展開へ

  • Writer :
  • もりのちこ

無感情のアマンダと感情的なリリーは、
混ぜると危険な関係。

サンダンス映画祭観客賞をはじめ、インディペンデント作品を対象とする数々の映画賞にノミネートされ注目を浴びた映画『サラブレッド』。

強い血は残し、さらに強いものが生み出される、サラブレッド。純血種の馬は、美しく早く走れるが、ケガをしやすくデリケートである。

性格も育ちも正反対な幼なじみが再会したことで、眠らせていた凶悪な心が目を覚ます。映画『サラブレッド』を紹介します。

映画『サラブレッド』の作品情報


(C)2017 Thoroughbred 2017, LLC. All Rights Reserved.
【日本公開】
2019年(アメリカ)

【監督】
コリー・フィンリー

【キャスト】
オリビア・クック、アニヤ・テイラー=ジョイ、アントン・イェルチン、ポール・スパークス、フランシー・スウィフト

【作品概要】
『レディ・プレイヤー1』のオリビア・クックと、『ウィッチ』のアニヤ・テイラー=ジョイの人気若手女優が共演したサスペンス映画『サラブレッド』。

監督・脚本は、舞台演出家として活躍してきたコリー・フィンリー監督。今作が、映画監督初作品となります。

2人の少女の殺人計画に巻き込まれるティムを演じたアントン・イェルチン。2016年事故で亡くなった彼の遺作となりました。

映画『サラブレッド』のあらすじとネタバレ


(C)2017 Thoroughbred 2017, LLC. All Rights Reserved.
馬と向き合う少女。彼女の名前は、アマンダ。アマンダは、ナイフを取り出します。

ここはネティカット州の郊外にある豪邸です。アマンダは、久しぶりに幼なじみのリリーの家に来ていました。壁には白馬に乗った幼いリリーの写真が飾ってあります。

アマンダがこの家を訪ねた理由は、母がお金でリリーに教育係を頼んだからです。すべてをお見通しのアマンダでしたが、大人しく言う通りに出向きました。

上流階級の家に育ち、名門校に通いながら一流企業でのインターンも経験しているリリーは、絵に書いたお嬢様でした。

一方、アマンダは突飛な行動で周りを驚かせ、社会からはのけ者にされ、母親も手に余すほどの問題児でした。

幼なじみの2人は再開に戸惑いながらも、次第に本音で語り合うようになります。それはどこか秘密めいたやり取りでした。

アマンダはすべての感情が欠落していました。喜びや罪の意識もなく、いつでも泣ける演技を身につけています。

そんなアマンダに興味を抱くリリー。リリーは反対に感情的でした。くすぶる感情を持て余し、夜は学生パーティーに顔を出していました。

リリーのもっぱらのイライラの原因は、継父のマークの存在でした。抑圧的なマークは、母とリリーにも厳しくあたり、リリーを邪魔者扱いしていました。

日々のトレーニングを欠かさないマークの、夜な夜な響くトレーニングマシーンの「グゥーングゥーン」という耳障りな音も、リリーを不快にさせていました。

リリーのマークへの殺意に感づいたアマンダは「殺さないの?」と挑発します。最初はそんなアマンダを遠ざけるリリーでしたが、今度は自分からアマンダの家を訪ねます。

アマンダが飼っていた馬を殺したという噂の真相を聞くリリー。リリーの心の潜む凶暴な感情が顔を出していました。

以下、『サラブレッド』ネタバレ・結末の記載がございます。『サラブレッド』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2017 Thoroughbred 2017, LLC. All Rights Reserved.
アマンダが飼っていた馬を殺したのは、両足を骨折し苦しむ馬を楽にしてあげたかったから。

淡々と馬殺しの過程を語るアマンダにリリーは、マークの殺人を相談します。

アマンダとリリーは、ドラッグの売人ティムを雇うことにします。ティムは学生をターゲットに薬を売り、夢ばかり語る小心者です。

アマンダは、ティムから薬を買うふりをし、やり取りを録音。それを脅しにマークの殺人を押し付けます。

いよいよマーク殺害の日です。アマンダとリリーはそれぞれアリバイ作りをしていました。

リリーは母親とスパに来ていました。エステにランチにと満喫しながらも、マークの顔がよぎるリリー。

しかし、スパが終わると、マークが何事もなかったように迎えに来ていたのです。

ティムの裏切りを知ったリリーは、焦ります。包丁を取り出し衝動的にマークを殺そうとします。止めたのはアマンダでした。

アマンダとリリーは、リリーの家で一緒に映画を観ています。夜になるといつものマークのトレーニングマシーンの音が響き渡ります。

ジュースを飲もうとするアマンダを、リリーが止めます。「その飲み物には強い睡眠薬が入っているの。そしてアマンダが眠った後、私は包丁を持って2階へ行き、マークを殺す。そして、寝ているあなたに罪を着せるつもりだった」。

リリーの自責の念に駆られた告白に、アマンダは動揺もせず「乗るわ。私の人生は無意味だから」と言い放ち、一気に飲み干します。眠りに落ちるアマンダ。

震えるリリーでしたが、意を決っしたかのように立ち上がります。2階へあがって行くリリー。アマンダはソファで気持ちよさそうに眠っています。

グゥーン、グゥーン。マークのトレーニングマシーンの音が映画の音を邪魔しています。

しばらくすると、マシーンの音が止み、ドタンガタン!と2階から物凄い音が聞こえ鳴りやみます。心地よく映画の音だけが聞こえます。

そこに血だらけのリリーが戻ってきました。アマンダの腕に血をこすり付けます。こんな状況に中、いびきをかくアマンダ。リリーはアマンダの腕の中に納まり、落ち着きを取り戻します。

それからしばらくして、ホテルの駐車場係として真面目に働くティムの元に、偶然リリーが高級車で現れます。

怯えるティム。「聞いたよ。事件の事」。お悔やみを言うティムに、リリーは涼しい顔でお礼を言います。

「アマンダとは連絡を取ってるの?」ティムはリリーを信じていないようです。「ええ、手紙が届いたの」と報告するリリー。

アマンダはすべての罪を被り、記憶喪失の患者として施設で過ごしていました。「ここの暮らしはまあまあよ。町にはサラブレッドしかいないわ」。

施設の壁には、白馬に乗った幼いリリーと隣で栗毛馬に乗った幼いアマンダが楽しそうに笑い合う写真が飾ってありました。

映画『サラブレッド』の感想と評価


(C)2017 Thoroughbred 2017, LLC. All Rights Reserved.
スタイリッシュ・サスペンスと謳われている通り、今どきの女の子たちによる、スマートな殺人劇という印象です。

劇作家・舞台演出家としても活躍するコリー・フィンリー監督が、元々は舞台劇として書きおろした作品ということです。

確かに、劇中に流れる印象的なドラムの音や、2人の少女のテンポ良い掛け合いが演劇を見ているような感覚に陥ります。

映画『サラブレッド』の魅力として、少女2人のキャラクターが挙げられます。

感情のないアマンダは、何事も論理的です。冷静に自分の分析し、行動にも意味があります。そんなアマンダが、時折みせる不器用な愛情表現に、ただの変わり者ではないことが分かります。

馬を殺した理由もそうです。アマンダはサラブレッドの馬が足を折ってしまった結末を知っていました。安楽死で私が楽にしてあげるという気持ちでした。

リリーから殺人の濡れ衣を着せられることを知った時も、アマンダはそれを受け入れます。リリーの残忍性を知ってもなお、友達だからです。

一方リリーは、上品そうに見えて怒りっぽくて、わがまま。典型的なお嬢さまタイプです。リリーはアマンダに再会したことで、より感情的になっていきます。

嫌いなものを排除したい。その凶暴さは、アマンダよりも激しいものがあります。感情に流されてしまう人の弱さと怖さがリリーを通して見えてきます。

また、アマンダとリリーを演じた、オリビア・クックとアニヤ・テイラー=ジョイのカリスマ性あふれる演技に魅せられます。

残虐な殺人もミニスカートでやっちゃう。秘密の会合はレトロな映画を観ながら。プールで遊び、庭でチェスをし、馬を殺し、殺人計画を練る。

はちゃめちゃなティーンエージャーを、2人の名女優がクールにオシャレに演じます。

そして、アマンダとリリーによって殺人を依頼されるティム。子供相手にドラッグの売人をしている小心者です。

強がったことを言いふらし、滑稽に見える様も、2人の少女の前では一番まともな人間に見えてくるから不思議です。

今作が遺作となってしまった、ティム役のアントン・イェルチン。2人の少女に負けないぐらいの存在感で物語を引き締めます。

まとめ


(C)2017 Thoroughbred 2017, LLC. All Rights Reserved.
性格も育ちも正反対の幼なじみが再会。彼女たちの訳ありな友情は、凶悪な殺人事件を引き起こす。スタイリッシュ・サスペンス『サラブレッド』を紹介しました。

無感情のアマンダと感情的なリリー、そして共犯者のティム。3人の殺人計画は、秘密と裏切りの末、思いもよらない展開へ。

「町にはサラブレッドしかいないわ」。アマンダの最後の言葉通り、町にあふれる美しく気高いサラブレッドの群れ。真の姿は、感情的で凶悪な悪魔なのかもしれません。


関連記事

サスペンス映画

Netflix映画『ローグシティ』ネタバレあらすじと感想。フレンチクライムで描かれたギャングと警察の終わりなき抗争

Netflix映画『ローグ・シティ』 金融危機による不況の影響で、治安の悪化に歯止めがかからないと言われるフランス最大の湾岸都市マルセイユ。 銃を使った犯罪も増加傾向とされているマルセイユの街では、大 …

サスペンス映画

映画『モースト・ビューティフルアイランド』ネタバレ感想と考察評価。実話体験をした監督自身の着想から不法移民たちを描く

スペイン出身の女優アナ・アセンシオが自身の経験を基に描いたサスペンス・スリラー『モースト・ビューティフルアイランド』。 2020年はアメリカで大統領選挙があります。アメリカが抱える目下の課題は「移民問 …

サスペンス映画

【ネタバレ映画感想】『サンセット』ラスト結末まで謎を残したネメシュ・ラースロー監督の意図とは

ネメシュ・ラースロー監督の長編第2作『サンセット』 『サウルの息子』(2015)でカンヌ映画祭グランプリを受賞し、センセーショナルなデビューを果たした若き映画監督ネメシュ・ラースローの長編第2作。 1 …

サスペンス映画

映画『あのこと』ネタバレあらすじ感想と結末評価の解説。原作短編小説「事件」で書かれた望まぬ妊娠をした大学生の目線とは⁈

ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの実体験をもとにした著作を女性監督オドレイ・ディワンが映画化 1960年代、法律で中絶が禁止されていたフランス。 大学生のアンヌは、大事な試験を間近に控え、妊娠 …

サスペンス映画

映画『暗くなるまで待って』あらすじネタバレ感想と結末ラストの解説《オードリー・ヘプバーン代表作おすすめ名作》

オードリー・ヘプバーン代表作にして、サスペンススリラーの名作 オードリー・ヘプバーンが目の不自由な女性を熱演し、アカデミー主演女優賞にノミネートされた、コミカルの妙味が光るサスペンスの名作。 『ローマ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学