新しい年の初めに観る映画をお探しなら、この『MERU メルー』をお勧めします。
誰もが抱く新年の抱負。例えば「何か新しいことにチャレンジしたい」、「あきらめていた夢をもう一度追いかけたい」、「今までと違う自分になりたい」などなど。
あなたの抱負がどれかに当てはまるなら、この映画がきっと後押しをしてくれるはず。
なぜなら、あきらめかけた夢に再挑戦し、見事に叶えた男たちの物語だからです。
映画『MERU メルー』の作品情報
【公開】
2015年(アメリカ)
【監督】
ジミー・チン/エリザベス・C・バサヒリティ
【キャスト】
コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズターク、ジョン・クラカワー、ジェニー・ロウ・アンカー、ジェレミー・ジョーンズ
【作品概要】
ナショナル・ジオグラフィックの山岳カメラマンで、自らもトップクライマーであるジミー・チンによる監督作品。2人のクライマーと共に完登した、ヒマラヤ・メルー中央峰のドキュメント映画です。サンダンス映画祭で観客賞、ナッシュビル映画祭で審査員賞に輝きました。
映画『MERU メルー』のあらすじとネタバレ
2008年10月。インド北部。ガンジス川の源にあるガンゴトリに、コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズタークという、3人のロッククライマーの姿がありました。
世界有数のトップクライマー、コンラッド。一流クライマーであり、山岳カメラマンでもあるジミー。そしてコンラッドの紹介で今回の参戦となったレナン・オズターク。
彼らが目指すのは、高度6500mにそびえるメル―峰。その山頂部は、サメのヒレに似た形状から「シャークス・フィン」と呼ばれ、ヒマラヤで最も困難なルートと言われています。
かかる日数はおよそ1週間。登山具に食料・水、さらに撮影機材など、全部で100キロ近い荷物を自分たちで担いで登るという過酷な旅が今、幕を開けました。
「山に登る理由?それは景色が見たいからさ」と、コンラッドは言います。昼間はひたすら頂上を目指し、夜の闇が迫ると岸壁にテントをぶら下げ、その中で暖をとり体を休めます。
星を眺めて「今にも落ちてきそうな空だ」と、ジミー。3日目までは順調でしたが、激しい雪崩がテントをかすめ、全員はずぶ濡れに。嵐のため4日間、テントの中に缶詰状態です。
太陽も見えない空。食料はあと7日分。頂上はずっと先です。3人はテントの中で途方にくれました。この時のことを回想してレナンは言います。「これ以上はもう無理だと思った」。
ところが嵐が去った後、ジミーとコンラッドは再び登り始めます。コンラッドは言います。「いいパートナーとは、危険を教えてくれる人間のことだ」。ジミーにとってコンラッドはクライミングのメンター(師匠)であり、また信頼できる特別な相棒でもありました。
コンラッドにとってのメンターは、同じくトップクライマー、マグス・スタンプです。しかし、コンラッドの「大切な人生の一部」だというマグスは、1992年アラスカ・デナリで遭難事故により亡くなっていました。
登山10日目。標高5500m。零下29度。寒さと空腹による体力の衰弱。わずかなチーズを切り分ける3人。こんな状況下でも、ジミーは笑って言います。「来週は靴を食べるかな」。
17日目が過ぎ、彼らは決断を迫られます。尾根まであと100mのところですが、すでに燃料は底をつき、手足の感覚はありません。テントがダメになり、もはや続行は不可能でした。
メル―征服が失敗に終わり、3人はそれぞれの生活に戻っていきます。しかし彼らの心はすでにメル―に憑りつかれていました。コンラッドの説得で、3人は再挑戦を決心します。
2011年。雪山で撮影の仕事をしていたレナンが大事故にあい、危険な状態で病院へ搬送されます。頭蓋骨骨折に頸椎損傷。一生歩けなくなるかもしれないと医者は言います。
しかし、レナンはメル―を諦めていませんでした。そんなレナンの情熱は理解できても、あまりにも危険な賭けです。ジミーとコンラッドは、再び重大な決断を迫られます。
映画『MERU メルー』の感想と評価
雪崩にのみこまれて何十メートルも転がり落ち、体がバラバラになるかというほどの恐怖を体験しながら、それでも生き残ったという奇跡をメル―再挑戦への原動力にするジミー。
愛する妻と子どもたちのために、絶対に危険な真似はできない。頭ではそう考えながらも、今は亡きクライマーの相棒が果たせなかった夢を、自分が叶えようとするコンラッド。
大事故にあった後ですら、メル―への夢を捨てない。ジミーとコンラッドと共に登るため、人間離れした回復力で再びチームの一員となったレナン。
どう考えても、正気とは思えない人たちです。この映画に感動こそすれ、真似をしようなどと思う人はほとんどいないのではないでしょうか。
「なぜ、登る?」という不毛な質問は放置するしかないのですが、この作品で知ったのは、クライマーにとって命を左右する最も重要なものが「決断」であるという事実です。
彼らにとって登山は、危険を見極めるゲームだといいます。山は、ただ登ればいいというものではない。危険を軽視せず、全てをコントロールしなければならない。
ひとつ判断を誤れば、二度と取り返しがつかない。それが登山です。まだ行けるか、それとも引き返すべきか。判断力に優れた者だけが、トップクライマーになれるというのです。
命を失うことすら惜しまない、狂気にとらわれた男たちとも思えますが、一方では現場を冷静に俯瞰する、リアリストな面があってこその一流だともいえるでしょう。
そんな彼らを見つめる女性たちの視線がとても優しいのです。コンラッドやレナンの妻やジミーの姉など、信頼関係という言葉すら超えた絆。彼女たちは、逆に男たちよりも強いのかもしれません。いや、強くならなければ共に生きていけないのだと思います。
まとめ
ドキュメンタリー映画とはいえ、美しい画像、巧みな編集、印象的な音楽で、まるでドラマのような印象も受けます。あまりにもスタイリッシュなのです。その理由を考えました。
まず撮影です。ジミー・チンによる2台の小型カメラだそうですが、映し出す自然の脅威と美しさは圧巻です。どうやって撮ったのかと思うようなアングルも数多くあります。
さらに、3人のインタビューと家族の証言の合間に、独特の視線から解説を加えていくジャーナリスト作家で登山家のジョン・クラカワーの役割です。
『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007)の原作者でもあり『エベレスト3D』(2015)にも出演している、登山のエキスパートである彼の考察が非常にわかりやすく、ストーリーと観客の距離をぐっと近づけてくれています。
さらに、ジミー、コンラッド、レナン、3人の人間的魅力も大きく作用しています。彼らは、どんな過酷な状況下でもユーモアを忘れません。零下29度で笑顔でいられるのは驚異です。
彼らの真似をしたいと思わなくても、リスクを恐れず夢に向かって突き進む、そんな彼らのような生き方をしたいと思う人は、きっと多いはずですよね。