連載コラム「蟹江まりの映画ともしび研究部」第3回
こんにちは、蟹江まりです。
連載コラム「蟹江まりの映画ともしび研究部」の第3回目に取り上げるのは、2019年11月29日公開予定の『羊とオオカミの恋と殺人』です。
原作は、自殺志願の男の子と殺人鬼の美少女とのスリリングかつキュートな恋模様を描いた『穴殺人』。同作は漫画アプリ「漫画ボックス」で閲覧数1位を独走し、待望の映画化がなされました。
誰も見たことがない奇想天外のラブストーリがいま始まります…。
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CONTENTS
映画『羊とオオカミの恋と殺人』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【原作】
裸村『穴殺人』
【脚本】
髙橋泉
【監督】
朝倉加葉子
【キャスト】
杉野遥亮、福原遥、江野沢愛美、笠松将、清水尚弥、一ノ瀬ワタル、江口のりこ
【作品概要】
“え?僕、殺されるんですか?大好きな彼女に!?”ハッと目を引くキャッチフレーズ、思わず気になってしまうのがこの『羊とオオカミの恋と殺人』。
裸村による大人気スプラッター・ラブコメディ漫画『穴殺人』を待望の映像化。
黒須役には、『花にけだもの』『L・DK 一つ屋根の下「スキ」がふたつ。』など、ドラマや映画やCMで活躍中の杉野遙亮が抜擢され、映画初主演を果たしました。
宮市役は、『4月の君、スピカ。』『3年A組 今から皆さんは人質です』などで話題となった福原遙が勤めます。
また、『クソ素晴らしいこの世界』や『女の子よ死体と踊れ』を手掛けた朝倉加葉子。原作漫画のパワフルなエネルギーはそのままに、恋と殺人という異常な状況が交錯するなかで生まれる究極の愛の形を描いています。
映画『羊とオオカミの恋と殺人』のあらすじ
大学二浪中で引きこもり、電気や水道などライフラインを絶たれた黒須越郎(杉野遙亮)は、自死を図るもあえなく失敗。しかし、その弾みで偶然にも壁に穴が開いてしまいます。
いけないと思いつつ穴を覗くと、美人で優しい隣人の宮市梨央(福原遙)の私生活が丸見えになっていました。
これをきっかけに穴から隣の部屋を覗くことが黒須の毎日の日課。そしてささやかな生き甲斐となり、日に日に彼女の虜になっていきます。
ところが、ある日彼女が行う凄惨な殺人行為を目撃します。
その場は見間違いだと信じ込み、その一方で宮市とも仲良くなっていくが、再び殺人を目撃。さらに今回は宮市にもばれてしまいます。
元から自死願望があった黒須は宮市に殺されることを覚悟し、ついに愛を告白するが、そんな黒須に宮市は興味を持ち、「私を覗いてほしい」と2人は付き合い始めます。
付き合い始めてから黒須は、アルバイトを見つけライフラインも復活し、幸せ絶頂な生活を送ります。
しかし、交際している間も宮市の殺人は止まりません。あまりの殺人の量に黒須は事件にならないことを怪しむが、実は延命寺玲子(江口のりこ)が死体回収を行っていたのです。
次は黒須が殺されるのか‥?そして2人の恋の行方は‥‥?
映画『羊とオオカミの恋と殺人』の感想と評価
斬新な世界観に隠された深い問いかけ
殺人鬼の女の子に恋してしまう自死志願の男の子。かつて。こんなに斬新なラブストーリーは存在したのでしょうか。
「恋」と「殺人」という2つの事象は、普通対極に位置するものです。それを1つのスクリーンに映し出すという前代未聞の作品となっています。
物語が進行していく中でも、黒須と宮市の幸せなデートシーンと、惨殺な殺人シーンが交互に展開されます。
この異常な空間に、誰もがドキドキハラハラしながらもいつの間にか取り込まれていく、そんな映画になっています。
また、この映画に隠されたテーマは、愛の究極かつ本来の姿です。
恋愛というものは、もともと見ず知らずの他人だった2人が出会い、惹かれあって形成されます。だからこそ2人の間に価値観などの違いが生じるのも当たり前です。
その中でどうやって相手に歩み寄っていくか。恋愛というものがどういうものかを感じさせてくれます。
プロデューサーの久保田修は「他者の異和をどれだけ取り込めるのか、そして最終的には殺されても愛せるのか、という問いかけが通底しているように感じました」と語っています。
また、朝倉加葉子監督は「どんなに近しい関係でも、自分と他人にはとてつもなく深い溝がある。だから他の人とどの程度同じかなんて一時的な状態でしかないし、違いを気に病むようなことでもない。そもそも皆あまりにも違うんですから」「私は今までもよく怖いものとそれを乗り越えようとする人を映画にしてきました。今回の怖いものは幽霊でも殺人鬼でもなく、理解できない他人、です。果たしてどう乗り越えるのか、このちょっと変わっているけれどピュアな2人のラブストーリーをぜひ見届けてください。」と語っています。
とにもかくも可愛すぎる宮市という殺人鬼
本作の見どころは、福原遙演じる殺人鬼・宮市がキュートだということが1番大きいと言い切っても過言ではありません。
部屋でリラックスしてる様子も、普段の何気ない日常も、さらには派手なアクションや殺人シーンまでも。でも、最も可愛いのは、黒須とともにご飯を食べている時に見せる笑顔。とても柔らかくその時だけは「普通」な女の子なのです。
ただ、そのまぶしい笑顔も黒須の前以外では、多くは見せません。
黒須にとって宮市がかけがえのない愛する人だったのと同様に、宮市にとっても黒須はなくてはならない大切な人だったのでしょう。朝倉監督の言葉を借りるならば、「どこかゆるっとした天然カップルの可愛いラブストーリー」であることを、それらのシーンを通して実感できます。
春子役の江野沢愛美も、「終始遙がかわいい!と感じていただけると思います。殺すよ?でこんなにキュンとしたのは初めてです。笑」と語っています。
作品を彩るオリジナル主題歌
参考映像:ロイ-RöE- 「VIOLATION* 」Music Video(Live ver.)
フジテレビ系ドラマ「ストロベリーナイト・サーガ」オープニングテーマ
主題歌は、ロイ-RoE-によるセカンドデジタルシングル『癒えないキスをして*』。ゲスの極み乙女。ちゃん MARIがサウンドプロデュースを担当した、アップテンポな恋愛ソングとなっています。
頭から離れないメロディーと、個性的な歌詞を紡ぎだすシンガーソングライターとして知られる彼女は、中学卒業後から独学で作曲活動を開始。
2018年10月には、ファーストシングル『ウガ*』をリリースし、ワーナーミュージック内のレーベルからデビューを果たします。
そして、2019年4月スタートのフジテレビ系ドラマ『ストロベリーナイト・サーガ』のオープニングテーマに抜擢。同年5月にファーストデジタルシングル『VIOLATION*』としてリリース。またMVの再生回数が1000000回を超えるなど、今もっとも目が離せないアーティストです。
彼女の可愛らしく、透き通っているのに力強い歌声は、物語にマッチするだけでなく、宮市というキャラクターを上手く表しています。
ちなみにすべての曲にアスタリスク(*)がつけられているのは、「タイトルの解説を曲中でしている」という脚注の意味があるそうです。
まとめ
映画『羊とオオカミの恋と殺人』は、若手注目俳優の2人が織りなす、誰にも予測できない奇想天外のラブストーリー。
制作陣がこだわり抜いたという殺人シーンは必見であり、アクション場面では「いかに美しく殺すか」ということを追求し、宮市役の福原遙とともに練習に練習を重ねました。
どんな事情を抱えていても宮市を想い続ける黒須の一途さ、またその一途さに少しずつペースを乱されていく宮市の掛け合いは、宮市が犯している殺人という罪を忘れるほど微笑ましく、また、そんな2人の不器用すぎる歩み寄りは、さらに微笑ましいです。
ホラーあり、サスペンスあり、恋愛あり、そして人間ドラマでもある『羊とオオカミの恋と殺人』を、ぜひ、劇場でご覧ください。
次回の「蟹江まりの映画ともしび研究部」は‥
次回の『蟹江まりの映画ともしび研究部では、2019年11月1日公開の『閉鎖病棟 それぞれの朝』を取り上げます。
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