世界最大のプロレス団体WWEで、一夜にしてスーパースターの座を勝ち取った女性プロレスラーの実話を映画化
ドウェイン・ジョンソンが惚れ込んだ脚本は、破天荒なプロレス一家に生まれ育ったマイノリティな女性プロレスラーのシンデレラストーリー映画『ファイティング・ファミリー』。
世界最大のプロレスリング団体WWEに彗星のごとく現れ、チャンピオンへとなった女性サラヤ・ベヴィスと、その一家の心温まる伝記作品。
監督は本作が初監督となるスティーヴン・マーチャント監督。彼は『LOGAN』のキャリバン役、2019年のトロント映画祭で観客賞を獲得した『ジョジョ・ラビット(原題:Jojo Rabbit)』では、ゲシュタポのエージェントのキャプテン・ディアッツ役を演じています。
映画『ファイティング・ファミリー(原題:Fighting with my Family)』をご紹介します。
CONTENTS
映画『ファイティング・ファミリー』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Fighting with my family
【監督】
スティーヴン・マーチャント
【キャスト】
フローレンス・ピュー、ジャック・ロウデン、ニック・フロスト、レナ・ヘディ(『ゲーム・オブ・スローンズ』、ビンス・ボーン、ドウェイン・ジョンソン
【作品概要】
2014年に世界最大のプロレス団体WWEの大舞台で、一夜にしてスーパースターの座を奪い取った女性プロレスラーの実話を基にした映画。
本作の基になったのは、ペイジというリングネームで活躍する若い女性サラヤ・ベヴィスと彼女の家族を描いたドキュメンタリー『The Wrestlers:Fighting with myFamily』(2012)です。
「ワイルド・スピード」シリーズで活躍する元プロレスラーThe Rockことドウェイン・ジョンソンが惚れ込み、自らプロデューサーとして手がけました。
製作は『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)、『女王陛下のお気に入り』(2018)を手がけた実力ある製作会社の「Film 4 Productions」。
また、主人公のペイジ役は『Lady Macbeth』で英国インデペンディエント映画賞主演女優賞ほか、多数の映画賞を受賞し、今ハリウッドで注目されている女優の一人、フローレンス・ピューが演じています。
兄のザック・ベヴィス役には『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』、『ダンケルク』のジャック・ロウデン、父役には『ショーン・オブ・ざ・デッド』のニック・フロスト。
母役には『ゲーム・オブ・スローンズ』のレナ・ヘディ、そしてドウェイン・ジョンソン自らも出演するという強力な俳優陣が集結しています。
映画『ファイティング・ファミリー』のあらすじとネタバレ
2002年のイギリスのノリッジ。サラヤ・ジェイド・ベヴィス(フローレンス・ピュー)と兄のザック・ベヴィス(ジャック・ロウデン)は、両親がプロレスリングを興行しているプロレス一家に生まれ育ちます。
そんな彼らも幼い時から、サラヤは「ブリタニー・ナイト」、ザックは「ザック・ゾディアック」というリングネームでプロレスラーとして手伝っていました。
しかし、なかなか興行収入が稼げず悩んでいたところ、彼らの両親はサラヤとザックをWWEのトライアウトに受けさせます。
トライアウトの際、WWEのコーチ、リクルートをしているモーガンはサラヤに「どうしてプロレスをしているのか」と問います。
サラヤは「現実世界から逃げたかったからだ。」と答えます。モーガンはそこにスター性を見出します。そして、サラヤはトライアウトに受かりましたが、ザックは落ちてしまいます。
サラヤは納得ができず、ザックが「なぜ落ちたのか」とモーガンに聞きますが答えてはくれません。
激情したサラヤは「兄も一緒でないとアメリカへは行かない」とまで言いますが、ザックの家族のためだという説得の末、自身一人のみの合格を受け入れます。
その結果、サラヤは単身でフロリダへ渡ることになります。ブリトニーというリングネームはWWEですでに使われていたため、彼女は好きなテレビ番組から「ペイジ」というリングネームで新しく活動を開始。
WWEでのトレーニングやマイクパフォーマンスの練習などで毎日を送っていたサラヤですが、アメリカのプロレスリングのスタイルにうまく馴染むことが出来ません。
また、一緒にトレーニングをしているチームメイトも元チアリーダー、元モデルといったプロレスリングの素人のため、満足なトレーニングができていませんでした。
その一方で、ザックは自分がトライアウトに落ち、妹だけが受かったという現実を受け入れることが出来ず、彼女との間に子供が生まれるも心ここに在らずといった状況でした。
トライアウトを受けようと、モーガンに何度もアピールしますがうまく行かず、モーガンからも他を探してくれと言われてしまい、アルコールに溺れてしまいます。
そんな中、彼女の両親はサラヤに相談をせず勝手にペイジのグッズを作り、兄ザック・ゾディアックとペイジのクリスマス興行をセッティングし、前売り券を売ってしまいます。
そのことから、唯一の心の拠り所としていた家族と間に、溝ができてしまいます。
サラヤはアメリカで初めての興行となるNXTに出場しますが、周りとかけ離れた外見から観客からは笑われ、気味が悪いとまで言われてしまいます。
そのことで傷ついたサラヤは、外見を周りと合わせ、メイクを落とし、自身の黒髪を金髪に染めます。
そして、ビーチでの特訓では、周りに合わせてトレーニングで力を抜いてしまいます。
モーガンはそのことに気づき、リタイヤするなら自分の手でしろと、サラヤにリタイヤを意味する笛を渡しますが、サラヤは差し出された笛を振り払います。
ビーチからの帰りのバスの中でサラヤは、チームメイトが何かについて話しているのを目にします。自分のことだと勘違いしたサラヤは、「私の話なら私の前で話しなさいよ」とチームメイトに高圧的な態度をしてしまいます。
しかし、実際に彼女たちが話していたのは娘の話でした。サラヤは自分がチームメイトのことを何も知らないことに気づかされてしまいます。
帰り道のガソリンスタンドでモーガンは「最終的な目標はなんだ」とサラヤに話しかけます。サラヤは「もちろん、WWEのロスターであり、ベルトだ」と答えます。
サラヤはモーガンに「なぜ兄のような技術のあるプロレスラーを落としたのか」と聞きます。モーガンは「ザックはヤラレ役だからだ」と答えます。
映画『ファイティング・ファミリー』の感想と評価
プロレスラーの持つコミュケーションの力
本作品『ファイティング・ファミリー』は、女性プロレスラーを扱った稀有な作品です。
女性のスポーツ選手をテーマにした作品は近年だと、『ダンガル きっと、つよくなる』(2016)があります。
ダンガルの場合は、親子の絆、インドの女性差別、国家公務員の汚職などをテーマに物語が展開していきましたが、本作『ファイティング・ファミリー』では、家族愛とマイノリティー、そして意思疎通、選択の柔軟性の大切さということがテーマとして扱われています。
主人公サラヤは、唯一イギリス人としてWWEの世界に足を踏み入れた際、周りに喋り方の違いや、その奇抜な外見からからかわれてしまいます。
そして、傷ついたサラヤは、外見や態度を周りに無理やり合わせようとしますが、失敗してしまいます。
それは一般的な周囲と違うからといって、無理やり周りに合わせる必要はないと投げかけられているのです。
また、サラヤがチームメイトと衝突した際、チームメイトから「あなたは私たちのことを聞こうともしなかったし、私たちにあなたのことを話そうともしなかった。」と言われてしまいます。
人と違うからといって自分から意思疎通をしないと、相手は何も話してくれないし、何も聞いてくれないと厳しく告げられているようでした。
特にプロレスリングは相手がいて、息のあったパフォーマンスによって観客を盛り上げるものなので、コミュニケーションはとても大切だという意味の大きく含まれています。
最も重要な“人生の柔軟な選択”
そして、最も重要なテーマは、人生の柔軟な選択の大切さ。
サラヤは自暴自棄になっているザックに、「WWEはあなたを選んではくれない。そんなWWEよりももっと重要なことは他にある。あなたの可愛い赤ん坊や彼女と接すること、目の見えない少年にプロレスリングをコーチングすること。これはあなたにしか出来ないことであり、WWEに選ばれるよりももっと貴重なことだ」と伝えます。
特に若い時ほどそうですが理想を高く持つと、1度の失敗を、まるでこの世の終わりと感じてしまうものです。
しかし、この作品は失敗してもいい、落ち込むことより次にできることを探す方が有意義だと、優しく教えてくれます。
もちろん、伝記映画、サクセス・ストーリーなのでどこか既視感はありますが、それ以上に人生を豊かにしてくれる、そんな高揚感とともに心を温まめてくれる映画です。
まとめ
サラヤの生き様に惚れ込んだドウェイン・ジョンソンが。どうしても映画化を熱望したことで、プロデューサーからキャストとしても出演し、映画化を成し遂げた『ファイティング・ファミリー』。
本作では初の長編映画を手がけたスティーヴン・マーチャント監督ですが、もともとはコメディ出身の方なので、ベヴィス一家のユーモラスな会話は、とても笑せられるシークエンスになっています。
劇中で「プロレスリングは一人ではできない」とありますが、リングに立つプロレスラーではない一般人にも、他者との関係を紡ぎながら生きています。
あらためて、サラヤの生き方を通して、他者とのコミュニケーションの大切さに気付かされる作品です。
観客に様々な学びを与えながら、肯定してくれる安心さの心地よさとともに心温まる成長物語の作品に仕上がっており、まるでプロレスの試合を見ているかのようです。
映画ファン、プロレスファンともに楽しめるおすすめの作品です。