英国が生んだ稀代の天才監督・エドガー・ライトの『ベイビー・ドライバー』をご紹介します。
以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『ベイビー・ドライバー』の作品情報をどうぞ!
1.映画『ベイビー・ドライバー』の作品情報
【公開】
2017年(イギリス・アメリカ映画)
【原題】
Baby Driver
【監督】
エドガー・ライト
【キャスト】
アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケビン・スペイシー、ジェイミー・フォックス、ジョン・ハム、エイザ・ゴンザレス、ジョン・バーンサル、CJ・ジョーンズ、フリー、スカイ・フェレイラ、ラニー・ジューン、ビッグ・ボーイ、キラー・マイク、ポール・ウィリアムズ、ジョン・スペンサー、ウォルター・ヒル
【作品概要】
『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』など手掛けた作品はいずれも高い評価を受けるエドガー・ライト。
世界の注目を集める彼が満を持してハリウッドのメジャー作品に進出!
主人公ベイビーを演じるのは『ダイバージェント』シリーズで注目を集め、『きっと、星のせいじゃない。』で大ブレイクを果たした期待の若手アンセル・エルゴート。
ベイビーのロマンスの相手となるデボラを演じるのは実写版『シンデレラ』で主演を務めたリリー・ジェームス。
若い二人を囲むキャストには、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックスなどアカデミー賞常連の実力派が集結。
さらに、本作は全編を通して描かれる音楽とアクションの奇跡の融合が実現!
激しいカーチェイスは言うまでもなく、日常のアクション全てがベイビーが聴いているiPodから流れる音楽とシンクロ。
未だかつて誰も体験したことのない映画がついに完成した。
2.映画『ベイビー・ドライバー』のあらすじとネタバレ
ベイビー(アンセル・エルゴート)。その天才的なドライビング・センスが買われ、組織の運転手として彼に課せられた仕事。
それは、銀行、現金輸送車を襲ったメンバーを確実に「逃がす」こと。
子供の頃の交通事故が原因で耳鳴りに悩まされ続けているベイビー。
しかし、音楽を聴くことで、耳鳴りがかき消され、そのドライビング・テクニックがさらに覚醒する。
そして誰も止めることができない、追いつくことすらできない、イカれたドライバーへと変貌する。
組織のボスで作戦担当のドク(ケヴィン・スペイシー)、すぐにブチ切れ銃をブッ放すバッツ(ジェイミー・フォックス)、凶暴すぎる夫婦、バディ(ジョン・ハム)とダーリン(エイザ・ゴンザレス)。
彼らとの仕事にスリルを覚え、才能を活かしてきたベイビー。
しかし、このクレイジーな環境から抜け出す決意をする。それは、恋人デボラ(リリー・ジェームズ)の存在を組織に嗅ぎつけられたからだ。
自ら決めた“最後の仕事”=“合衆国郵便局の襲撃”がベイビーと恋人と組織を道連れに暴走を始める。
3.監督のエドガー・ライトとは
Have promoted #BabyDriverMovie with this fine gent @AnselElgort in 13 countries now. We both loved meeting you all. What a total pleasure. pic.twitter.com/NkAkM7KdRC
— edgarwright (@edgarwright) August 26, 2017
本作を監督したエドガー・ライトにはサイモン・ペッグとニック・フロストというよく一緒に映画を撮っている仲間がいます。
長編デビュー作の『ショーン・オブ・ザ・デッド』は二人を主演に迎え、イギリスの田舎を舞台にしたゾンビ愛溢れる一本。
続く2作目の『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』も同じく二人を主演にイギリスの田舎を舞台にしたアメリカのポリスアクション愛溢れる一本。
その後も、ゲーム愛溢れる『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』やジョン・カーペンター監督作をはじめとする80年代SF愛溢れた『ワールズ・エンド! 酔っぱらいが世界を救う!』など、いずれもオリジナル作品を監督し続けています。
そのどれもが面白く、とにかく好きなものへの愛が溢れまくっています。
ちなみに同じようにサイモン・ペッグとニック・フロストが主演した『宇宙人ポール』はグレッグ・モットーラというまた別の才人が監督した作品です。
サイモン・ペッグは今や『ミッション・インポッシブル』や『スター・トレック』といった人気シリーズに出演する世界的なスターになりましたね。
そして、5作目としてMCUの一作『アントマン』を監督する予定でした。
というより脚本やストーリーボードなども作っていてかなり制作が進んでいる段階での降板でした。
オリジナル脚本にこだわるエドガー・ライトは、どうしても縛りが多い製作体制と意見が合わなかったそうです。
それでも『アントマン』の脚本にはエドガー・ライトの名前がクレジットされています。
そしてそういった縛りから離れ、昔からそのアイディアを温め続けてきたという本作『ベイビー・ドライバー』をついに完成させました。
4.映画『ベイビー・ドライバー』の感想と評価
音楽とアクションの融合というイメージはすでに昔からあったようで、2002年に監督したMV「Blue Song」は本作の冒頭そのままで、正にセルフオマージュと言えます(ニック・フロストもいる!)。
参考映像:エドガー・ライトが2002年に監督したMV「Blue Song」
そして、本作にも様々な作品に対する愛が溢れ出しています。音楽を効果的に使った監督と言えばマーティン・スコセッシやクエンティン・タランティーノといった名匠。
彼らの『グッドフェローズ』『レザボア・ドッグス』へのオマージュはもちろんのこと、ウォルター・ヒルの名作『ザ・ドライバー』からの影響も感じさせます(ウォルター・ヒルもカメオ出演!)。
そして、本作にはアメリカン・ニューシネマに対する現代版のアップデートが刻まれていると感じました。
アメリカン・ニューシネマは1960年代後半から1970年代に作られた作品群の総称で、その多くが若者を主人公とし、国や権力に対する反体制的なメッセージが込められています。
また、ラストにかなりの確率で主人公たちが命を落とすのもその特徴です。
1967年の『俺たちに明日はない』がその始まりと言われていて、数々の名作映画を生み出してきました。
そして、1976年の『ロッキー』や1977年の『スター・ウォーズ』の登場(いずれもアメリカ公開年)によって終焉を迎え、80年代のハリウッド映画は娯楽大作へとシフトしていくわけです。
個人的にはこのアメリカン・ニューシネマの作品群がいずれも好きで、本当に名作ばかりだと思っています。
当時はベトナム戦争の暗い影がアメリカを覆っており、得てしてそういった暗い時代にはカウンターカルチャーが盛り上がる傾向にあります。
ロックンロールやヒッピー、そしてアメリカン・ニューシネマ。
2017年現在もテロの増加やヘイトクライムをはじめとした差別主義。とにかくここ2,3年は日本も含め世界的に嫌なムードがずっと続いています。
そういった時代にこそ映画といった人々に寄りそう文化が必要だと私は思っています。
そんな時代に生み出された傑作『ベイビー・ドライバー』では、音楽がカーアクションだけでなく日常の動きにまでリンクする最高の映画体験を味わえます!
そして、そのアクションの中にベイビーが大人の男へと成長する物語が非常に巧みに落とし込まれています。
iPodやサングラスで過去のトラウマと現実から目を背け、ベイビーはきちんと向き合おうとしません。
しかし、愛する人と出逢い一緒に音楽を共有する楽しさを知り(コインランドリーのシーンの美しさたるや)、現実と対峙することを決意します。
ベイビーとデボラがあそこまで惹かれあってしまうのは同じ境遇だからです。親がいない、この街に残り続ける理由もない、嫌な現実を音楽によって救われている。
眼の不自由な老女と暮らしていた『デッドプール』も同じ境遇のヴァネッサに惹かれていました(デップーとベイビーは似てると思います)。
お互いでその存在を確かめ合う、そこにそれ以上の理由は必要ないんです。さらに例えを出すならニコラス・ウィンディング・レフンの『ドライヴ』もそうでした。
そしてその逃避行をバッツ(ジョー・ペシ的な何をするかわからない怖さで最高!)とバディ(ダーリンとの夫婦は完全にボニーとクライドですね)、二人の男が邪魔をするわけです。
ベイビーちゃん、そう簡単にはいかないぞと。
劇中のバッツのセリフにもありますが、暴力や金や犯罪や女といった快楽に絡め取られた男がこの二人。
嫌がりながらも、ベイビーがスリルを含んだ運転に興奮していたのは間違いのないことですので、この二人はベイビーの成れの果て的な役割も持ち合わせています。
ちなみにドクもおそらくベイビーのような立場にいた過去があり、その選択をしなかった姿です(だからこそあの急な助け船も感動的)。彼のあのミニカーコレクションはおそらくそういうことでしょう。
その二人を乗り越え(その乗り越え方のひねりも見事としか言いようがありません)、かつてのアメリカン・ニューシネマとは違ったエンディングに向かいます。
しかし、結末がどうしたってあのサム・ペキンパーの傑作『ゲッタウェイ』の始まりと繋がって見えてしまうのは考えすぎでしょうか。
まとめ
大ヒットを記録した本作には早くも続編の話が出ているようで、エドガー・ライトも乗り気のようです。
あの後、二人はどうなったのか非常に気になるところですが、、、
まずは、音楽、アクション、ラブストーリーが詰まった最高の一本をこの夏ぜひとも劇場の音響で楽しみましょう!
そうしたら、後はサウンドトラックを購入して、ベイビーと共に最高のドライヴへ繰り出すだけです。