Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

『引っ越し大名』映画と小説の違いをネタバレ比較解説。野村萬斎振り付けミュージカルは逃げ恥を彷彿とさせる!

  • Writer :
  • もりのちこ

引っ越しは戦でござる!
カタツムリ侍が角を出す!?

原作は、「超高速!参勤交代」シリーズ、『サムライマラソン』など時代小説が次々映画化される土橋章宏の小説『引っ越し大名 三千里』。

監督は、『のぼうの城』の時代劇も手掛ける犬童一心監督。

今回は「参勤交代」よりも超難関!?国替えの引っ越し物語です。人数1万人、距離600km、予算ナシ。総責任者は、書庫番の引きこもり侍。あだ名は「カタツムリ」。果たして引っ越しは無事成功するのでしょうか?

痛快コメディ時代劇『引っ越し大名』を原作と映画を比較しながら紹介します。

映画『引っ越し大名』の作品情報


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

【公開】
2019年(日本)

【原作】
土橋章宏『引っ越し大名 三千里』

【監督】
犬童一心

【キャスト】
星野源、高橋一生、高畑充希、及川光博、小澤征悦、濱田岳、松重豊、西村まさ彦、山内圭哉、飯尾和樹、正名僕蔵、富田靖子、丘みどり、向井理、岡山天音、ピエール瀧、和田聰宏、松岡広大、中村靖日、矢野聖人、斉藤暁、鳥越壮真

【作品概要】
時代劇小説「超高速!参勤交代」シリーズでもお馴染み、土橋章宏の『引っ越し大名 三千里』を、犬童一心監督が映画化。

主演は星野源、脇を固める共演者には高橋一生、高畑充希、及川光博、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊など豪華キャストが勢揃いです。

映画『引っ越し大名』のあらすじとネタバレ


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
時は江戸時代。幕府が大名の領地を移し替える「国替え」が行われていました。

国替えは、すべての藩士とその家族全員が引っ越しとなるため、桁外れの費用と労力がかかる超難関プロジェクトでした。

姫路藩主・松平直矩は、幼少の頃からすでに4度の国替えを経験していました。引っ越しの途中で父親を亡くす不運にも見舞われています。

播磨姫路藩となり姫路城に入って、およそ15年。もうさすがに国替えもないだろうと思っていた矢先、ご沙汰が下ります。しかも、十五万石が七万石へ減封というではありませんか。

「して、どこに行けというのだ?」。「行先は豊後日田でございます」。「なに、海を渡れとな?」。

お国最大のピンチ。この引っ越しを成し遂げられるか否かは、引っ越し奉行の手腕に賭けられました。

長年、藩の引っ越しを任されてきた下士の板倉重蔵は亡くなったばかりでした。そこで、名前が挙がったのが、姫路藩書庫番の片桐春之介。春之介を推薦したのは、幼なじみで武芸の達人・鷹村源右衛門でした。

春之介は、書庫にこもりっきりで人と話すのが苦手な引きこもり侍。あだ名はカタツムリです。

いつも本ばかり読んでいるから引っ越しの知識もあるだろうと、半ば強制的に引っ越し奉行に祭り上げられます。

突然の大役に怖気づく春之介とは打って変わって、母の波津は息子の出世に大喜びです。

さっそく行き詰った春之介は、亡くなった板倉の一人娘・於蘭を訪ねます。於蘭は息子の音松と2人、貧しい暮らしをしていました。

下士のまま出世も叶わず引っ越しのことばかり押し付けられてきた於蘭の父。そんな父の生涯に於蘭は藩を恨んでいました。

始めは春之介のことを相手にしなかった於蘭でしたが、春之介の人柄に触れ放っておけなくなります。

また、春之介の真剣さに胸を打たれた姫路藩勘定頭の中西が、お金を工面してくれそうな商家をピックアップしてくれます。

こうして春之介は、鷹村と於蘭、そして中西の頼もしい協力者を得て、引っ越しという戦に乗り出します。

以下、『引っ越し大名』ネタバレ・結末の記載がございます。『引っ越し大名』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
引っ越しの準備はそれはそれは大変なものでした。金の工面に商家で頭を下げ、人足を減らすため武士たちに変装させ、自ら筋トレに励みます。

また、家財半減を掲げ、上司の家にも見切御免状を持参し、知恵比べ。大事な書物まで焼き捨てねばなりませんでした。

そして、最もつらい決断は、家臣の数を減らすことでした。そうです、リストラです。長年、藩に仕えた者ばかり。春之介は悩みます。

「そうだ、以前、武田の甲陽軍鑑で読んだ帰農の策がある」。それは、家臣を百姓へとジョブチェンジさせ、石高加増となり姫路に戻った際は再び家臣として取り立てるという策でした。

刀を鍬に持ち替え田畑を耕せ。武士にとっては何と酷な相談でしょう。春之介は必ず迎えに来ることを約束し、一人一人に誠心誠意で対応します。

春之介は痛みに耐えきれず、於蘭の元を訪ねます。於蘭の胸で泣く春之介。2人はようやく結婚の約束をしました。これで於蘭と音松も一緒に引っ越しです。

いよいよ引っ越し当日。姫路藩主・松平直矩と家臣、家族、総勢10000人、600kmの大移動です。

引っ越し道中は順調のように見えました。しかし、海が見えてきたその時。漁師に変装していた隠密たちが姫路藩一行に襲い掛かります。

「きたーーーーーっ」。歓喜の声を上げたのは、武芸の達人・鷹村です。敵をバタバタ倒していきます。

鷹村の活躍で、ピンチを乗り切った春之介たち。船で海を渡り、目的地の永山城へ到着します。すっかり皆ぼろぼろです。しかし、引っ越しは無事終わったのです。

その後、春之介は姫路に残してきた家臣たちに手紙を送り続けます。金の工面をしてくれた商家との船貿易で資金を作り、引っ越しの指南書も作成しました。

7年後の出羽山形への国替えでは加増とならずも、無事引っ越しを成し遂げます。

そしてさらに8年後。念願の加増、元の十五万石に戻る時がきました。国替え先は陸奥白河藩です。

姫路への帰還は叶いませんでしたが、春之介は姫路に残してきた家臣たちを迎えに行きます。

「さぁ、皆で帰りましょう」。この日を信じて百姓となり懸命に暮らしてきた家臣たち。感動の再会です。

白河城では帰ってきた家臣たちを殿が迎えます。「皆、良く帰ってきた」。

春之介は国家老へと昇格。「あのカタツムリがのう…」。仲間たちも嬉しそうです。

『引っ越し大名』映画と原作の違い


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
土橋章宏の『引っ越し大名 三千里』を、犬童一心監督が映画化。時代劇でありながら現代にも通ずる、引きこもり侍の成長物語です。

超難関プロジェクト国替えを、皆が力を合わせて成し遂げる様に感動します。また、軽快なテンポの良さと、登場人物のキャラクターの面白さが魅力のひとつでもあります。

主人公の春之介に星野源、幼なじみの武芸の達人鷹村に高橋一生、片付けのプロ於蘭に高畑充希を迎え、映画化された『引っ越し大名』。原作との違いを見て行きましょう。

春之介のプロポーズ


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

映画では於蘭に音松という息子がいますが、原作では於蘭に子どもはいません。映画化で音松が入ったことで場面が和み、春之介とのやり取りも可愛らしくてほっこりします。

女性に奥手な春之介は、なかなか於蘭に結婚を申し込むことが出来ません。原作でも映画でも於蘭の方から逆プロポーズされてしまいます。ただし、その様子が少し違います。

原作では、言い出せない春之介に於蘭は最後の風呂を用意します。湯に浸かりながら春之介は悩んでいました。そんな春之介の背中を流しながら於蘭は、自ら「連れて行ってください」。と申し出ます。

映画では、誰にでも優しい於蘭の姿に嫉妬したり、泣き付いたりと、春之介の於蘭への「こじらせ愛」が強く見られます。

引っ越し前日の夜も、於蘭の元を訪ね、もじもじする春之介に、於蘭は策を講じます。誘導尋問が如く「於蘭のことが好き」と言わされた春之介は、気付くと結婚することになっていました。

勘定頭・中西のキャラ


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

春之介の熱意に胸を打たれ共に引っ越しの準備を手伝う、勘定頭の中西監物。映画では、コメディには欠かせない濱田岳が演じています。

この中西、原作ではそんなに協力的ではありません。春之介に「引っ越しは戦でござります」。と怒鳴られ、しぶしぶ商家訪問に付き合います。

映画では、その後も春之介と共に筋トレをしたり、人足の変装を進んでかって出たりと良き友となります。

真面目で素直な春之介と、豪快で体育会系の鷹村の突っ込み役を中西がやる。役を超えてこの3人だからこそ生まれたコンビネーションに笑いが止まりません

引っ越しの理由


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

引っ越し大名と呼ばれた姫路藩主の松平直矩。なぜこんなにも引っ越しさせられたのか?

その理由のひとつとして、江戸幕府小納戸役柳沢吉保のちょっとしたイザコザが原因とされています。江戸の男色事情です。

原作では、徳川綱吉の寵愛を受けている柳沢が、直矩に色目を使われたことに怒り、国替えを仕向けたとされています。

映画では、柳沢の方が直矩に言い寄り、足蹴にされたことで、後々まで根にもたれ国替えとなった設定です。しかも、直矩も満更じゃなかったのに一旦断っただけという茶番劇。

それに巻き込まれ引っ越しさせられる藩の者ども。可哀そうだけど笑えます。

直矩役のミッチーこと及川光博と、柳沢役の向井理の「おっさんずラブ」にも注目です。

また、原作ではその後の直矩の逆襲により、国替えが収まったところまで描かれています。

映画はミュージカルに!?


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

時代劇とミュージカルの融合。原作では全くない発想でした。

「歌こそ人々の心をひとつにする」。於蘭の父の引っ越し指南書に書かれていました。

「軽い荷物は ほいさっさ 重い荷物は よっこらせ えいえいやっとな よっこらっせ」。歌いながら引っ越しの準備を進めていく春之介たち。なんとも愉快なシーンです。

それもそのはず、振り付けは野村萬斎が担当しています。くせになるメロディーと真似したくなる踊り。星野源出演のヒットドラマ「逃げ恥」を彷彿させます。

鷹村源右衛門の見せ場


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会

引っ越しの最中、姫路藩一行が隠密に襲われるシーンは、原作には登場しません。これは、無芸の達人・鷹村源右衛門、いや、演じる高橋一生のためのシーンと言っても過言ではありません。

原作では、船に乗る前に嵐となり遠回りをすることになりますが、刀を抜くことにはなりません。

映画では、道中に家老の藤原の謀反で隠密が潜んでいます。それを、待ってましたと言わんばかりに暴れる鷹村。

徳川家に代々受け継がれる天下三槍のひとつ、御手杵(おてぎね)を使うことを許された鷹村は、嬉しそうにブンブン振り回します。

巨大な槍を軽々持ち上げ、敵をなぎ倒していく姿は、武将好きにはたまらないシーンとなりました。高橋一生の筋肉隆々、豪快な男らしい姿が新鮮です。
 

まとめ


(C)2019「引っ越し大名!」製作委員会
土橋章宏の「引っ越し大名 三千里」を、犬童一心監督が映画化。痛快コメディ時代劇『引っ越し大名』を原作と映画を比較しながら紹介しました。

主人公・春之介を星野源が演じたことで、原作よりもいっそう、ゆるくて楽しい映画となっています。

カタツムリと呼ばれた引きこもり侍・春之介が、書物から得た知識を活かし、仲間と一緒にみごと引っ越しを成功させ、頼もしく成長していく姿は、まさに爽快です。

みごとなキャスティングで、原作の面白さをさらに上回る映画『引っ越し大名』。

さらに、映画でしか味わえない野村萬斎振り付けのミュージカルに、立川志らくのみごとなナレーションをお楽しみ下さい。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】ケイコ 目を澄ませて|あらすじ結末感想と考察評価。実話を原作に聴覚障害の女性ボクサーの生き様を岸井ゆきのが演じる

生まれつきの聴覚障がいがある女性プロボクサーを岸井ゆきのが演じる! 『Playback』(2012)、『君の鳥はうたえる』(2018)などの三宅唱が、聴覚障がいがありながらプロボクサーとしてリングに立 …

ヒューマンドラマ映画

実写映画『約束のネバーランド』ネタバレあらすじと感想評価レビュー。浜辺美波の演技力で原作をドラマ化した異色のファンタジー

映画『約束のネバーランド』は、2020年12月18日(金)全国ロードショー。 テレビアニメ化もされた「週刊少年ジャンプ」連載の人気コミック『約束のネバーランド』。原作の第一部ともいえるGFハウス脱獄編 …

ヒューマンドラマ映画

映画『ブレスレス』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。フィンランドのSM世界に生の意味を見出した男の悲喜劇

再生とも堕落とも受け取れる男の人生を描く『ブレスレス』 妻を喪って以降、生きる目的を失っていた男が、人を痛めつける事だけに喜びを感じる女と出会った事で始まる、危険な物語を描いた映画『ブレスレス』。 人 …

ヒューマンドラマ映画

日本映画『鉄道員』ネタバレ感想とあらすじ結末の評価解説。高倉健・志村けん共演の“ぽっぽや”の奇跡の物語

名優・高倉健が演じる、 孤独な鉄道員(ぽっぽや)のもとに訪れた「奇跡」とは? 作家・浅田次郎が直木賞を受賞した短編小説を映画化した『鉄道員(ぽっぽや)』。 鉄道員として鉄道一筋で生き続け、定年を間近に …

ヒューマンドラマ映画

映画『顔のないヒトラーたち』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

戦後70年を過ぎ、外国映画の中には、アドルフ・ヒトラーやアウシュヴィッツを題材にした作品が多く製作され、次々に日本でも公開されています。 その中でも、『顔のないヒトラー』は、ちょっと物々しい邦題からは …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学