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Entry 2019/10/04
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【香港作品『女は女である』監督メイジー・グーシー・シュン×俳優トモ・ケリー インタビュー】LGBTに真摯に向き合い魅せたきらめき|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録16

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  • Cinemarche編集部

映画『女は女である』メイジー・グーシー・シュン(孫明希)監督&俳優トモ・ケリー(黄家恒)インタビュー


(C)OAFF
 
第14回大阪アジアン映画祭で日本初上映された香港映画『女は女である(原題:女人就是女人)』

メイジー・グーシー・シュン(孫明希)監督は当初、LGBTに関するドキュメンタリー作品に着手していましたが、この問題を深く知るうちに、より多くの人たちに届けたと考えるようになりました。

そのためには、フィクションである劇映画がより効果的だと考えるようになり、『女は女である(原題:女人就是女人)』を制作することに決めたそうです。

香港では取り扱うことも難しいテーマであり、映画資金の確保やロケ地など決めることも困難であった作品に挑んだ、メイジー・グーシー・シュン監督と、主演を務めたトモ・ケリー(黄家恒)のインタビューをお届けします。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

非当事者と当事者の対話


(C)OAFF

──メイジー監督が性自認をめぐるストーリーを執筆されたきっかけは何でしょう。

メイジー・グーシー・シュン監督(以下、メイジー):まず2、3年前にプロデューサーのミミ・ウォン(黄欣琴)さんとトランスジェンダーに関するドキュメンタリーフィルムを作る仕事をしました。

20人程にインタビューをしましたが全部入りきらなかったので、長編にしてもっと入れ込もうと思ったのがきっかけです。

そしてLGBTやトランジェンダーとはなんなのかということを一般の人たちはまだあまりわかってくれていませんし、理解が少ない状況です。

ですので色々な境遇の人がいて、性的に違う環境の人がいることを知ってもらうために作るのであれば、実在の人物の背景から作り上げた物語がいいのではと考えました。

──脚本づくりなどで特に苦労したことはありしたか。

メイジー:一番の困難は、私ともう一人の脚本家が二人ともトランスジェンダーではないことです。

そのため、実際にトランスジェンダーの人たちが遭われるような困難や問題に精通しておらず、様々なインタビューをして資料を貯めて書いていかなければなりませんでした。

例えば映画で、生理が来ていることを見せるために、わざわざ自分で血をスポイトで垂らすシーンがあるのですが、そういうことをしなくちゃいけないというのは私たちの想像を超えたところのものでした。

そういうこともインタビューを通じて知り、教えてもらって書いたことです。リサーチにかかった時間はすごく長かったです。

それと、プロデューサーのミミさんと、主演のトモ・ケリーさんは、ご自身がトランスジェンダーなので、この作品を作るために力になってくれたことがたくさんありました。
 
 

香港社会での性認識

──冒頭の逆再生シーンや、それから続く後ろ姿をカメラがトイレまで追っていくシーンは、作品のテーマを表す印象的なシーンでした。実際に香港に生きているトランスジェンダーの方々の思いや意識があの画面で表れていると感じましたが、実際の方々の思いはどのようなものなのでしょうか?

メイジー:20年前くらいにようやくトランスジェンダーやLGBTの単語が出てくるようになりましたが、その時点からあまり進歩していない気がしています。

日本だと「ニューハーフ」という言い方で表に出てきている方もいらっしゃいますが、香港では「人の妖怪」と書いて「ヤンユウ」と言います。

トランスジェンダーとは漢字で「性別を超える」と書くのですが、そのように言ったり書いたりすることがまだまだ少ないのが現状です。

ですので、進歩してないどころか実は後退してるんじゃないかと思うぐらいの状況で、まだまだ保守的だなと感じています。

トランスジェンダーの方たちが実際にぶつかる困難というのは、例えばトモさんが演じた青年が学校でカミングアウトしたいけれど出来なかったことなどがありましたが、実際にあった話として、カミングアウトしたら半年以上停学になってしまい、それからやっと学校に行けるようになったという話もあります。

未成年だけの話ではなくて、大人の場合も自分がカミングアウトすると社会的にどうなるかわかっているので、なかなかカミングアウトできません。

差別偏見を受けたり、正常な人間として認めてもらえないという感覚に陥ってしまうのがわかっているのです。

香港の一般市民の生活の上で、トランスジェンダーの概念やそういう状況が、周りにあまりない人たちの方が大多数なので、そういう新しいものや知らないものに対する恐れがまだまだあって認知度も低いという状況です。
 
 

日本と香港の違い

──日本でもまだまだ同じような事例は多いのですが、香港はより保守的ということでしょうか?

メイジー:私個人としてはまだまだ保守的だと思っていますが、若い人たちはそうでもないかもしれません。

日本の方は香港人より、特に若い人たちは開放的だと思います。香港の若い人もある程度は受け入れていますが、まだまだそこまでいってません。

トモ・ケリー(以下、トモ):《日本語で》日本では普通にテレビで、マツコデラックスさんやはるな愛さんなどが、いろんなジャンルでプロという形で活躍されています。その中で皆さんが尊重されているのは、やっていることや話していることなどの「才能」です。

香港では、テレビやメディアに出ているニューハーフやLGBTが、もしかしたら一人もいないかもしれない状態なんです。

そういうものをいっぱい見て、わからないことを聞いたり、不安や恐怖が減っていくというスタートの土台がまだありません。

それに日本ではLGBT内の全体的な雰囲気が明るく開いていて、とてもポジティブに感じます。香港ではLGBT内であっても、いちいちネガティブな方向にいってしまいます。

グループの中でネガティブの方向を増していくと、外から見る普通の男性や女性には、ネガティブの塊で何か変なことをするかもしれないという誤解も増していって、元々そういう目線を気にしているのにこっちも精神面がやられたり、どんどん負の連鎖のように後退して下がっていってしまいます。

私自身は手術しているのですが、声は男のままで、毎日のように日本語でいえば「おかま」というような差別的なことを言われたり偏見の目に晒されています。

私はあるきっかけがあって一歩前に出ましたが、できれば日本のはるな愛さんのように、もっとたくさんのLGBT関係の芸能人たちが一歩踏み出して、ゴールデンタイムの番組にも出られて、それをいっぱい見て恐怖や無知がなくなりますようにと願いながら頑張っています。
 
 

困難が続いた制作と現場

──撮影でも苦労はありましたか?

メイジー:いろんなトラブルや困難がありすぎて、一晩で話し切れないくらいありました。

自分と脚本家の理解が全然足りてなかったこともそうですが、こういう作品に出資してくれるところはなかなかありません。

こういうテーマは非常に敏感なものです。ロケ地の学校に関しても早い時期からいろんな学校にお願いしました。OKが出たところもあったのですが、撮影の2、3週間前になって急に断られたりもしました。学校自体が宗教系であったりすると、余計に撮れなくなってしまうということがしばしばありました。

撮影の2、3日前になってやっと撮らせてもらえるところを見つけて、それに合わせて脚本を変えたりしたこともあります。

プロデューサーのミミさんはプリプロダクション(撮影前の制作)の頃から様々なことをやって、資金を引っ張って来て下さっています。

ポストプロダクション(撮影完了後の制作)でも宣伝する資金もないということで、先行上映のような時にみんなに舞台挨拶へ出てもらい、それで何とか宣伝していったということもありました。

本当に出演者の方にもクルーにも感謝が尽きません。

元々はクルー全員を女性にしたかったのですが、香港の映画業界では女性の割合がまだまだ多くありません。とにかく全員女性でやろうと思って探したのですが、テーマを見て、受けてもらえないことも結構ありました。
 
 

“トランスジェンダー映画”に対する観客の視線

──香港国内で、実際にトランスジェンダー俳優として出演されたその反応はいかがでしたか。

トモ:香港でいうと、まず情報量が足りていません。これまでに、トランスジェンダーに関する映画は数えられる程度しか上映されてきていません。ですので、初めて見た、知ったという感じの好奇心がメインとしてあると思います。

あとは、トランスジェンダーや同性愛者の方々が家族や信頼できる友達を連れてきて見ることがまだ多いです。

メイジー:まるまるトランスジェンダーについての映画というのは、もしかしたらこの作品が初めてなのかもしれません。

トランスジェンダーの人を実際に撮った作品は2、3本ぐらいはあるかもしれないですが、本当に本当に少ないです。

トモさんが言ったように、トランスジェンダーということで「性に関することがいっぱいあるのかな?」という好奇心と、トランスジェンダーの方が人を連れて「こういうものだよ」って理解を求める観客が多くいました。

見た人たちは、トモさんという本当のトランスジェンダーの人が演じた映画を見たことで、恐れや誤解があった、知らないものに対して「想像していたものと違った」と理解が深まった人が増えたという状況はあると思います。

変化があったのは私たちのクルーもそうです。撮り始める前にはトランスジェンダーに対する認識はそれほどなかったと思うのですが、撮っている間にだんだん認識が高まってきて、とにかく負の印象を払拭できました。

正しい面を皆さんにもさらに伝えていけたらと思っています。
 
 

映画公開は香港にとっても大きな一歩

──本作が香港において新しい一歩になったということですね。

メイジー:やはり非常に大きな一歩だったと思います。以前はもの凄い「男男」した感じのトランスジェンダーの映画は結構ありました。

トランスジェンダーについてあまり知らない人たちというのは、何かの映画の中でトランスジェンダーをちゃんとした男性が演じているものを見て、粗野な荒っぽい印象を受けていた人がすごく多かったんです。

今回、この作品によって、実はトランスジェンダーの人はそんなに「男男」してないんだと、観客の理解が深まったと思っています。

また、2018年はトランスジェンダーに関する映画が本作ともう一本『トレイシー(原題:翠絲)』という映画がありました。

『トレイシー』は商業的な映画なのですが、トランスジェンダーをテーマにした映画が多い年で、それもあって観客の理解が深まった年だったなと感じています。
 
 

香港におけるLGBTの制度と環境

トモ:「男男」している理由として、映画からは少しそれますが、日本と香港では制度の違いがあります。日本では女性ホルモン注射は国民保険が適用されますが、香港ではホルモン注射は主流ではなく、なかなか手に入りません。

日本では成人を迎える、または未成年でも親の許可を得れば、相当早い段階で女の子になっていけるような体を作れます。

しかも日本は香港より広いですから、北海道出身の人たちが東京に行くと一変に環境が変わって、堂々とクリニックに行って女の子の格好に戻って、自分らしく生きていても周りに自分のことを知っている存在がまずいません。

でも香港だと、まずは周りの目を気にしてしまう。そもそもこういうことをやってくれる所がないですし、周りの目がいっぱいありますから行く勇気もありません。

ですから内面からも外見からも女の子になっていくっていうことが相当遅いんです。

20歳後半でも早い方ですが、大体30歳後半とか40歳とか、もしくは、そのまま男性として死ぬまで生きていくことが多いです。

私は日本にいたので、香港人の中では早い段階の20歳から手術やホルモン注射をやり始めていました。

それでも日本の中では、遅くはないですが早い方ではないです。でも香港ではひょっとしたら一番早いかもしれません。

そもそもの環境が違うんです。香港は本当にばったりすぐ知ってる人に会ってしまう「狭さ」もあります。環境や制度も含めて、そもそも「男男」している人が増えるのは仕方がない現状があります。
 
 

今後さらなるコミュニケーションを

──最後に日本の方たちにメッセージをお願いします。

メイジー:まずは、今回大阪に来られたことを嬉しく思っています。そして、日本のお客さんと触れ合えたこともよかったです。

元々、香港人は日本の文化がものすごく好きで影響を受けているので、反応や考え方を香港の観客にも伝えたいと思いますし、お互いに様々な影響を与え合えたらなと思います。

トモ:まずこのインタビューを目に留めていただくことに関して感謝します。

今後も、このような作品やジャンルに対して注意を払っていただけるようにいろいろ見て頂いて、もしかしたら周りにLGBT関係の人たちがいるかもしれないということに少しでもアンテナを張っていただけたら嬉しいです。

特別な扱いは求めていません。たまたま性別の自己認識が違っただけで、実はお互いに、社会に貢献したいことは私たちも同じです。

国は違うかもしれませんが、もっともっと上に、いい環境で平和に過ごせていけたらなという気持ちです。

もしかしたらまだ出辛い環境かもしれませんが、頑張ってカミングアウトしたらゆっくりお話を聞いてあげたりとか、友達になっていただければ感謝です。

映画『女は女である』の作品情報

【日本公開】
2019年 (香港映画)

【監督】
メイジー・グーシー・シュン(孫明希)

【キャスト】
アマンダ・リー(李蕙敏)、トモ・ケリー(黄家恒)、ブベー・マク(麥詠楠)、コイ・マク(麥芷誼)、サニー・タン(鄧汝超)

【作品概要】

第14回 大阪アジアン映画祭で日本初上映。

本作は新人監督メイジー・グーシー・シュンの長編デビュー作。LGBT系団体のサポートやクラウドファンディングなどで資金を集めて制作にこぎつけました。

当初はクルーも全て女性のみで構成しようと考えていたという、題材のみならず制作的にも非常に挑戦的な作品です。

主人公ライケイを軸に、性別適合手術を受ける前の学生と、手術を受け妻となり母となった大人という象徴的な二人を対比させたことで、トランスジェンダーが立場や年齢にかかわらず当たり前に存在する可能性を網羅しています。

映画『女は女である』のあらすじ

女性になりたい気持ちをひた隠しにして高校生活を送っているリンフォン(トモ・ケリー)。

学校が企画した「普段着での登校日」に女子用制服を身に着けて心打ち震える感覚に真の自分を確信し、自分らしく生きることを決意します。

リンフォンのガールフレンドであるライケイ(ブベー・マク)の母ジーユー(アマンダ・リー)は20年前に性別適合手術を受けて女性になっていました。

それを知った夫ジーホンは、事実を受け入れられずライケイと共に家を出ますが…。

映画『女は女である』の上映情報

映画『女は女である』は、第13回 関西クィア映画祭2019にて上映がされます。

日時は10月18日(金)18時20分より、会場は京都大学 西部講堂にて行われます。

詳細については「関西クィア映画祭2019」公式HPをご覧ください。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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